新聞に踊る元婚約者
新聞に出ちゃったら、もうお終い。SNSがないと、反論する場がないですからね。
新聞を握りしめて、元婚約者がまた女子学生寮にやってきた。
「メアリー・ラフォン! これは一体、どういうことだ?!」
「……授業に遅れますので、お相手しかねます」
あら、そういえばボーモン男爵令息は制服を着ていないわ。
寮生たちが校舎へ向かうために玄関を通り過ぎる。
「メアリー様、ご一緒しましょう」と同室の子がカバンを持ってきてくれたので、お礼を言って一緒に登校することにした。
新聞記事のことで怒られて、親御さんに謹慎でもさせられたのかしらね。
だとしたら、こんなところに来てはいけないのでは……。
いつものように授業を受けて、うっかり普通に寮に帰ってしまったら……まだ、いました。
恐い。暇なの? 授業はどうしたのかしら?
一緒に帰ってきたお友達に、先生を呼びに行ってもらうことにして、仕方なく立ち話をすること。
なにかされそうになったら、鞄をぶつけて逃げられるよう、胸に抱えるように持ち直します。
「……父上に怒られた」
まあ、そうでしょうね。
「裁判官の子として節度を守れぬのか、と」
私に迷惑をかけて……じゃないのですか。残念な親子ですね。
「二週間、自宅謹慎しろと。それに、マルグリットには今後一切近づくなと」
ええ? 私と婚約破棄した後に、接近禁止にされていなかったの?
いえ、私と寄りを戻す気がなくて、かつ、新しい婚約者を捜さないなら……禁止しなくても、いいのかしら。
「何とか言えよ」
いやだわ、乱暴な口調ね。
「え……と、なに……を?」
気弱に見えるように、しゃべる。
いつもバカにされていたから、「私、バカだからわかりません」作戦でいきましょう。
新聞をぐいっと押しつけられた。紙の端が頬に当たって、痛くないけどびくりと体が反応してしまう。
どうしようかな。
どこを読めばいいのかと、知らないふりをする?
名前が書いていないので「これ、あなたのことだったの?」と、とぼける?
「この記事の元婚約者って、お前だろう? ABCどれだ?」
え?
•A嬢「二度と顔を見せないでくださる?」と一蹴。
•B嬢「今の婚約者に誤解されたくない」と門前払い。
•C嬢「それはマナー講師の仕事です」と取り合わず。
ああ、記事のこの部分ですか。
……なんで、これ? 優先順位、低いよね?
それよりも学業とか卒業後の進路とか、父親の評判とか、家の交友関係とか……もっと気にすべき事があるでしょう?
「どれなんだ?」と重ねて訊かれた。
「……Bですけど」
もう、あなたには関係ないことですけどね!
「な……! 浮気していたのか?」
それは、あなたでしょうが! まったく失礼な人だわ。
「婚約破棄したあとに、イザベル・ド・ナミュール様にご紹介いただきました」
マルグリット・シャンブルを取り囲んでいたうちの一人、第五王子の婚約者候補として留学してきていたイザベル様。
隣国の侯爵令嬢。婚約の話は流れたけれど、予定通り留学を楽しむと言って、仲良くしてくださっている。
本当なら爵位の低い男爵令嬢の私とは接点がないお方だけど、浮気され仲間として励まし合った仲だ。
彼が呆然としているところに、学園の先生たちが駆けつけてくれた。
令息は「話していただけだ」と主張するが、私は「恐かったですぅ」と先生たちに泣きついた。
先生たちも学園の評判を落とした彼らのことを苦々しく思っているはずだから、厳重注意をしてくれることを期待しましょう。
……というか、初期の段階で学園が『風紀を乱すな』と指導してくれれば、ここまで大騒ぎにならなかったのですけど?
しゃべるのが面倒くさいというのは、昔の私です。これだと、お話が進みませんね(笑)