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黙っていればよかったのに?

一話目の令嬢の話の続きになります。

 元婚約者の裁判官の息子が、寮の玄関先に放心したように突っ立っている。


 もう、お話は終わったということでよいかしら?


 録音機を持ってきてくれたお友達も待たせていることだし、いいわよね?


「では、ボーモン男爵令息、ごきげんよう」


 メアリーが会釈して後ろを向こうとしたら、「待ってくれ」と呼び止められた。


「僕、あんなひどいことを言うつもりはなかったんだ」


 どういうことでしょう? この録音したときだけでなく、似たようなことを何度も言われていますけど。

 首をかしげて見せる。


「あの、傷つけたと思うけど……」

「そうですね」

「悪気があったわけじゃ……」

 あれで悪意がないって……それこそ、ないでしょう。

「僕たちは、話し合うべきだと思うんだ」

「え、イヤですけど」

 反射的に言ってしまいました。



 婚約期間中に「話し合おう」と言っても、聞いてくれなかったくせに。


 一人では勇気が出せなくて、他の方々の婚約者たちと一緒にお願いに行ったこともある。

 徒党を組んで卑怯だと、話も聞いてくれなかった。

 ショックで固まる私たちを嘲りながら、彼女を守るように取り囲んで去って行ったあなたたち。



 私だって、素敵な結婚を夢を見ていたのよ。

 途中からは諦めて、こんな結婚は破談になればいいのにと思ったわ。もう、苦痛で仕方なかった。

 普通に、婚約を白紙にしてくだされば、あなたを憎まずにすんだのに。



 うんざりして黙り込む私と、往生際の悪いオスカー・ボーモン。

 見かねたケイトが録音機をいじりながら、ボーモン令息に質問した。

「まさか、他の殿方たちも、元婚約者にこんなお願いをしに行ったりしていないわよね?」


 オスカーがぎくりと肩をふるわせた。


「あらぁ、新聞王の愛娘にも……ってこと? あなたたち、勇気があるわね」

 もじもじするアメリーにしびれを切らしたようで、ケイトが代わりにしゃべりだした。


「どういう、こと……だい?」


「あの婚約破棄の騒動を記事にしないでくれと、侯爵が彼女の家に頼み込んだのよ。知られたら、家の恥でもあるけれど、ご子息の将来に傷がつくでしょう?

 ご子息は、そんな親心を踏みにじって、また新しいネタを作ったのね。

 見出しは……そうね、『逆ハーレム崩壊の危機! 女王の食べ尽くしに殿方たち右往左往』なんて、どう?」

 思わず、吹き出してしまったわ。


「な……は、ハーレム?」

 目を白黒させて、オロオロしている。人にどう見られているか、自覚していなかったのね。



 遠くから、こちらに向かってくる靴音が聞こえた。ボーモン令息は、はっとして居住まいを正す。


 三人のところに使いの者が来て、すっと手紙を差し出した。

「お話し中、失礼いたします。マルゴ・モントルイユからの手紙をお持ちしました。 お読みいただき、お返事をお願いできますか」



 開封して一読する。

 ケイトが読まないように一歩横にずれていたので、目の前に手紙を持っていく。


「ああ、例のアレ。やるのね。メアリーはどうするの?」


 使者にペンを借り、手紙に丸をつけて、二つとも返した。

「マルゴ様によろしくお伝えして」


 使者は一礼して、去って行った。


 ケイトが私に、親指を立ててニッと笑う。私はしっかりと、うなずいて見せた。



「ボーモン男爵令息、ありがとう存じます」

 先ほどの憂いが吹き飛んで、笑顔でお礼を言ってしまったわ。


「いや、なんてことはないさ」と言われた方は、格好つける。

 何に対してのお礼か確認もせずに……不注意だこと。


「では!」

 と、今度は相手の返事も待たずに、背中を向けた。

 あっけにとられているうちに、寮の中に入ってしまおう。


 余計なことを言わないので「優しい」と勘違いされることが多いけれど、違うのよ。

 大切じゃない相手に丁寧に説明するなんて、面倒くさいことはお断りなのだ。



 ■翌日の王都新聞■


 ――社会欄――


「学園の『女王』、守護の殿方たち窮地に」


 王都のとある学園にて、五人の殿方を侍らせていると噂される令嬢が、話題を呼んでいる。

 彼女は現在貴族の身分であるが、もとは愛人筋の子。正妻の死去に伴い、令嬢として迎え入れられた経歴の持ち主。天真爛漫な振る舞いに、多くの男性が関心を寄せている。

 その生い立ちゆえか、幼少期に飢えを経験したとも伝えられ、現在もなお「並べられた料理を独り占めしてしまう」癖が抜けないという。

 この行為に困り果てたのが、彼女を守護する五人の令息たちである。何度か注意を試みたが、改善は見られず、ついには「元婚約者」たちに救いを求める事態となった。

 しかし、返ってきた答えは冷ややかなものだった。

 A嬢「二度と顔を見せないでくださる?」と一蹴。

 B嬢「今の婚約者に誤解されたくない」と門前払い。

 C嬢「それはマナー講師の仕事です」と取り合わず。

 関係者によれば「女王を優先するあまり婚約破棄されたのに、元婚約者たちに頼むなど反省が足りないのでは」との声もある。

 王都社交界では「殿方五人に囲まれながら、料理はひとり占め。果たして胃袋も殿方も無事でいられるのか」――注目が集まる。


ゴシップとして、新聞に書かれてしまいました。

微妙に悪意を織り交ぜた感じで、困っちゃいますね、きっと。

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