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とある神の補佐官が送る日々

元々書く習慣があった訳じゃないが、SNSに投稿するくらいの気軽な気持ちで始める事にしてみたけど……。

日記の書き出しが分からないから、ネット小説の登場人物が語ってるノリの書き方にしてみよう。


俺は段田蘭夫(らふ)……紛う事無きキラキラネームの30代独身。

ネット小説あるあるな、大変疲れ切った社畜だった。

繁忙期恒例の残業ラッシュでヘロヘロになりながら帰宅していた時の事。

歩道橋の天辺(てっぺん)の道から下りの階段へ足を運ぼうとしたその瞬間、知らない声の奴に勢いよく背中を叩かれた。

久しぶりだなとか言ってたから多分、知り合いの背中をド突いたつもりだったんだと思うけど誰だよタクヤ。

すっかり疲れ切ってたのもあったんだろうけど、突き飛ばされる形になった俺はそのまま下までフリーフォール。

死ぬ程痛い(いや実際死んだんだけど)思いをしながら視界がブラックアウトして人生終了〜と思いきや、聞き覚えのない声に話し掛けられて目を覚ました。

俺が居たのは、兎にも角にも真っ白な空間。

和装や洋装、古代っぽい格好と多種多様な服装の、男か女か分かりやすい見た目の奴も中性的なのもケモも揃った面々に囲まれていた。


彼らの説明によると、俺みたいに不幸な死を遂げた人間は魂に付いた傷跡って感じで生前の記憶が残りやすい。

その傷跡を癒さず転生すると、死の原因となった物が「理由は分からないが恐ろしい」と感じたり、前世の人格がそのまま引き継がれたせいで世界のギャップに苦しんだりした挙げ句に自我崩壊を起こしたりするそうで。

同じ世界に転生すると不具合発生率が高いから他の世界に転生させるのが主な解決策で、「適当に振り分けてまた悲劇に見舞われた!」と言われても困るから転生者本人に転生先を選ばせてるそうだ。

自然災害とかで死者が沢山出た場合でもそうしてるのか、その場合は元の世界から相当な数の魂が流出してバランス崩れたりしないのか、と聞いてみたが。

「そういうもんだよ?」と全員からガチできょとんとされた。

神って感覚違えなー……。


で、俺はどんな所に行きたいか聞き取る為に集まってきた、と。

そう言われても、チートで俺TUEEEもスローライフwith「何かやっちゃいました?」もあんま興味無いんだよな。

ハーレムも不遇キャラ救済、性転換も何だし。

素直に伝えたら他の選択肢も教えてもらえた。

記憶を強制的に真っ白くして元々の世界に生まれ直す”普通の転生“や、神の補佐役として働くという選択肢があると言われた。

後者は誰でもなれる訳じゃないらしいが、平凡な社会人の俺でも可という話なら日本人は割となれそうな気もする。

死んでも馬車馬みたいに働かされるとか勘弁、という気持ちがつい声に出てたのか、頭の中を読んだのかは定かでないが「現代日本と違ってブラックにならない為に補佐役を増やしているのですよ」と金ピカ羊人の神様にアルカイックスマイルされた。

本人は至って真面目なだけだからと死ぬ気で笑いを堪えたけど、ああしたらウケると知っててやったと後で知った。おのれよくも。


まあでも静かになったのをよっぽど悩んでると思ってくれたのか、他の神様が「緩い職場もありますよ」と教えてくれて。

例えばと鏡に映し出されたご尊顔に驚嘆したよな。

死ぬ前の俺が心の支えとしていた音声作品のお姉様に似てる美女神様が居たのだから!

白銀のサラサラしっとりロングヘアに積もりたての新雪が如き真っ白で綺麗なお肌。

深窓のお嬢様さながらの儚げな美貌に表情。

白い睫毛に縁取られた瞳の色は違うし、いつも(音声の中で)俺の顔を優しく包んでくれていた豊かなお胸があるかどうかは映った光景からじゃ分からない。

だがこれは行くしかない。

秒でそう判断した俺はそのお方の補佐役へ志願したのだが。


むちむち大爆発天使(エンジェル)お姉様じゃなくて線の細い男だった。

綺麗な声に変わりはないんだが、ソプラノじゃなくてテノールだった。なんてこったい。

だがしかし、イメージと違ったからやっぱ辞めますなんて言うつもりは無かった。

いや確かにさ、そんな感じでスッと辞めていった後輩も居たよ?会社員時代。

それに、俺も沈む船に乗り続けたくないタイプだから、危なくなったらさっさと転職先を探すと思うけどさ。

二、三日働いて微妙だったから辞めまーすってのはこう……受け入れる側の気分を知ってるからか俺はやりたくねーなぁって……。

それでご挨拶してみたら、職場を間違えてるんじゃないかとガチで心配された。

転生先として不人気な所だから人手不足にもなってないし、他に行きたいなら口添えするってさ。

白い睫毛バッサバサな金色の垂れ目を潤ませ八の字眉で「はわわ」と慌てる気弱な顔は然るべき需要もありそうなんだが、男だからなぁー……。


という事で下心0になった俺は、新しい職場で真面目に頑張ると決意した。

ちなみに後で知った話だが、神々の御姿ってマジで多種多様フリーダムなんよな。

人間の見た目なのに舌は蛇とか、鼻先の長い犬種の顔した女神様が「暖かそうだから♡」とライオンのたてがみ生やしてたりもするし。

ちなみに羊人様曰く、ウチの上司の下半身は鳥と同じ穴しか無いらしい。知りとうなかったわ。


閑話休題。今度の仕事は世界運営の補佐。

本来、世界は神様が関わらずともポコポコ生まれて持続する物で、興味を持った(ひと)が気紛れに覗いて楽しむ程度の関係だったそうな。

動物園とかのライブ配信を暇潰しや息抜きに観る様なもんかぁ。

そんな皆様が運営側にジョブチェンジしたのは、一人の神様(アホ)がお気に入りの子に加護を与えたせいだった。

干渉しちゃったからには責任持って管理しろという話になり、第二第三の阿呆が出る前に世界との関わり方をきっちり定めておこうとなったそうだ。


配属先は「引く神にとって最適性な所が選ばれる」仕様のくじ引きで選ばれる。

しかし問題なのが、原作とアニメで設定が違う作品を元に生まれた世界とか、主人公敗北ルートから繋がる続編と主人公勝利ルートから繋がる続編がそれぞれ存在してるゲームの世界とかを引き当てた場合だ。

枝の一本を管理するだけでも手間の掛かる木に、根元は同じ幹でも伸びた枝が複数ある様な状態とでもいうべきか。

担当してる世界の異変はアプリの通知みたいに容易く知れるのもあって複数管理も苦行とまではいかない。

いかないのは確かなんだが、何個もある名無しアイコン無しのアプリが通知してきたらどれの通知なのか分からなくて面倒というのが実情で。

だから補佐役を用意し、神様自身は原作世界を、補佐役にはアニメ世界を、と分業したり、直接統治は補佐役に任せて神様は全体を取り纏めたりするそうだ。

補佐役になった者は神様同様に老けないし定年も無いんだが、辞めようと思えば辞めさせて貰える。

担当する世界について詳しくなくても、ステータスウィンドウみたいな感じで情報をパッと表示して調べられるから大丈夫。


そこまでは知ってるがこの神様、エリケ様の担当してる世界については全くもって事前情報無しだ。

これじゃ仕事にならん。

という事で話を聞いてみたら、日本の国民的アニメ『アケビさん』の世界を担当してるって話で驚いたわ。

いや厳密に言えばエリケ様が担当してるのは『アケビさん』という物語その物で、原作漫画とアニメの二世界を有している。

舞台無かったっけ?と思って情報開示をしてみたら、映画とかあったんだなアレ。

それはさておき、派生作品全部が独立した世界になるという訳では無いらしい。

詳しい条件は神にも分からないんだから俺にも分からん。

小説投稿サイト発の物語なんかに顕著らしいが、別作者ながらよく似た世界観の物語が一つの世界に併合された例もあるそうだ。

ヨーロピアンな世界で婚約者寝盗られる令嬢物とかすっげー流行ってたもんな。

今日びはその手の世界に転生したがる日本人が多いのだが、剣と魔法な世界の人間が現代日本へ転生したがる例もあるので、ウチが過疎ってるのは単なる日本不人気という話でもない。


エリケ様もかつて魔法無しのTHE中世ヨーロッパな世界からの転生希望者を受け入れた事があったそうなのだが、その時の事が原因で圧倒的不評となったとの事で。

その転生者は、政略結婚にしても冷え切っていた夫婦の子で、母親が死んだら家を追い出されて齢5つにしてストリートチルドレン。

厳しい冬を耐えられず6歳にもならぬ内に肺病で孤独死、というだけでも大変お労しいのだが。

実は彼女、本当は自宅でドアマット系ヒロインする筈だったそうなのだ。

その運命を、前世の記憶を得た愛人が捻じ曲げた。

「既に愛人だし子供も産んでいたから、このままでは将来ざまぁされる」と考えたのなら虐めない選択をすれば良かったのに、より酷い仕打ちするとかどうかしてんだろ。

にしても、不幸な死に方してなくても異世界転生するし、人格に難有りでも前世思い出したりするんかぁ。

前世ってあくまでも「過去の自分」だもんな。

前世の記憶はまあ……中古で買ったゲームソフトに売った人のデータが残ってた、みたいな、本来なら削除した上で出回る物が残ってた感じと思えば……いやでもそれ、思い出すパターンの説明にならねえな???

とまあそれはさておき、そうも悲惨な生涯を終えた少女の転生先として現代日本の日常物の世界は良いんじゃないかと神々の皆さん考えたそうで。

医療を含め文明が発展してるし、身分で苦しむ事も無ければ、カスな親から救出される可能性も中世とは段違い。

穏やかな世界で傷付いた魂を癒して欲しいし、本人も転生したいと願ったからそうしたものの──



「ふぇぇ……。びぇぇん……」

「辛い思いをさせてしまって本当にごめんなさい。気の済むまで私を恨んで、怒って下さい」

「悪いのはあたしだよぅ…。ママは悪くないよぅ……」


エリケ様が優しく抱き締めているのは、担当の世界で死んで戻ってきた転生者の魂だ。

アケビさん時空の無限ループにやられてすっかり幼児退行し、エリケ様を母親呼ばわりしている。

まあ、本人が発言の訂正を求めてないし放っておいて良かろう。


それはさておき、今のウチで扱う魂は……便宜上、ドブ本カス江と呼ぼう。今回が女の子だからな。

元々は現代日本の女子高生で、自分に振り向かなかった男子が気に掛けていた女子を「ムカつくから痛い目遭わせてやる」と階段から突き落とそうとしたら自分が落ちて死んだ、との事。

完全に自業自得なんだが(結構確率の高い)偶然を引き当てて異世界の人間へ転生したカス江は、またやらかした。

一回死んでもドブカスな人間性が治らなかった事例はたまにあるらしいのだが、二回死んだら治るという保証も無いから再転生先でも要監視。

カス江もそういう扱いになった訳だ。


本来、死者の魂は白い核を透明なゼリー的な物で包んだ見た目をしている。

しかし、深い悲しみを背負って死んだ者は核がほんのり青く、激しい怒りを抱いたまま死んだ者は核が濃い赤に、と多少変化する。

そして要監視対象の魂は何色の核かと言うとだ。

ドブみてぇな色なのである。

しかも困った事に、一回死んだ段階では平常の範囲内な色をしているから事前に危険因子を除け難い。

まあ、二度もやらかしてドブ色になった魂へ注目するのは簡単だ。明らかに酷い色だから。

だが監視し続けるというのは、蟻の巣観察キットで目印を付けた一匹に注目し続けるくらいしんどい。

神々でさえ根を上げるのだから、俺らみたいな補佐役だって御免蒙りたい事案なのだ。


ドブカスな人間性が抜ければ魂は人並みの白さになって監視終了となるのだが、問題は漂白方法だ。

服の染みじゃないんだから漂白剤漬けなんて無理だし、核が真っ白くなるまで記憶消去したら魂その物が崩壊したというデータもある。

核だけにして処理出来たら話は変わる可能性もあるけど、無理矢理バラした場合99.9%元に戻れなくなる。

本人の意思無しでバラバラにするなら相当な負荷を掛けないといかんからだ。

となれば自ら変わってもらわんといかんのだが、簡単に治る訳が無くってなぁ。

神々の中でもちょっとした社会問題らしくって、補佐役になる為の手続き中に雑談で聞いてたんだ。

その時は「遊戯皇で星馬(せいば)にやったみたいなバーンって奴出来たら便利そうですね〜。ジャッジメント!ってやって心砕いてたんですよぉ〜」なんて呑気に返してた俺だった訳ですが。

エリケ様から「かつて送り出した転生者を無限ループで精神崩壊させかけたのがトラウマ(要約)」と聞いた時に閃いたのよ。

今回のカス江みたいなヤベー奴をウチの無限ループに叩き込んだら魂をバラバラに出来るんじゃないかってさ。


………非人道的だなぁ。

でも物は試しだよな、と思って他の神々にも話を通してドブカス魂を受け入れてみた。

魂を篭める先はタラちゃん固定。

俺もこの仕事始めてから知ったんだけど、原作漫画のタラちゃんって「病気から守るおまじないで”数え年の5歳になるまで女の子として育てられている”男の子」らしいんだわ。

でもそれって作中じゃ当たり前になってるからそうそう語られてなくてアニメスタッフも知らなかったらしい。

雛祭りの回を観たアケビさんマニアから指摘されて大慌てで原作者へ土下座しに行ったら「嫌な改変じゃないから許す。ただし政治主張を捩じ込み始めたら即刻権利引き上げるからな(要約)」と笑顔で言われたって書いてあった。

なのでドブカス魂が男なら原作漫画の世界、女ならアニメの世界のタラちゃんに転生させているのだ。

チート持ちを希望されても「魂が持つ記憶により年齢以上の学力を有してる」のは充分そうよって事で条件クリア。

他の登場人物よりも年少過ぎるから活動範囲もまだまだ狭いし、ハーレムなんて夢のまた夢。

成長したら目に物見せてやるという熱意が沸こうとも、アケビさん時空のせいで歳を取らないと気が付いたら虚しくなるだけ。

山野家は昭和過ぎてスマホもPCも無いからネットへの書き込みとかで世界を揺らがせる事も不可能。

本当に昭和ならトラックに轢かれる子供も多かったから「いっそ事故死してリセット」も可能だったかもしれんが、山野家周辺が昭和フィールドになってるだけで世界は21世紀。

親もドライバーも事故死を防ぐべく必死だし、対策も昭和とは段違いである。

他の死に方でのリセット対策も現代並みな上に、峰さんもアケビさんも専業主婦で基本在宅してるから衆人環視みたいなもんで妙な真似をし辛い。

家の中の事故などを装って死のうとしても死ぬ気で防がれるだろう。

どれだけ精神が歪んだクズ太郎もカス江も、そんな精神的軟禁状態に置かれ続けたらいずれはメンタルがやられる事間違い無し。

そうして精神が限界を迎える頃になったら幼児あるある(らしい)謎の高熱で少しずつ弱らせて魂を剥がす仕様で、今回のカス江もそれを経験してきたのよ。


「ふわぁ……。何だか眠いの……。生まれ変わるのは起きてからでも良い?」

「ええ、勿論ですよ。お休みなさい」


エリケ様の腕が離れた直後、色が抜けてオフホワイトになったカス江の核を、組み立て直された透明の外装が優しく包み込んだ。

ここまで来ればもうこの魂は真っ当になったと言えるし、俺達もお役御免だ。

彼女の魂全部が透け始め、世界に溶け込む様にそのまま消え去った。

少し休んでから転生したい魂が集う揺り篭へ送られたのだ。


「エリケ様、お疲れ様です」

「いえいえ。私がしたのは出迎えだけです。ラフこそ、あの子のモニタリングお疲れ様でした。──あっ」


崩れかけた身体を咄嗟に抱き留めた。

見た目の華奢さに違わず軽いんだよな、この(ひと)


「放っておけば自分で嵌め直すじゃないですか。身体がふらつく程の大仕事してまで貴方が修復する必要無いでしょう」

「でも…あんな苦労をしてきたのに魂の組み立て直しまでするというのは……」

「苦労ってねぇ。自業自得じゃないですか、ウチで受け入れる魂の場合は」


流石に、魂を崩壊させるのが確定事項では神々だって難色を示した。

それでああだこうだと交渉した結果、「転生前のヒアリングで反省が見られたら転生保留とする」「改心する可能性を作る為に、過去の所業への後悔を無意識下に植え付けておく」「魂の色から心底改心したと判断出来た場合、即時回収して漂白処分もしない」という条項が付け加えられた上での稼働となった。

潜在意識に特定の思想を埋め込むのもそれはそれで人道に悖るのではないかと思うのだが、良いんかそれは。


まあ結局のところ、核の色が変わらないまま砕ける場合と改心する場合は五分五分。

変わらなかったら変わらなかったでエリケ様落ち込むんだよな、自分が不甲斐無いせいだって。

そんな事は無いと思うけどなぁ……。

何処までも他責思考な人間って居るし……。

かつて縁を切った知り合いがそうだった、と思い出そうとしたが、顔も名前も出てこない。

二度と会わないだろうし、まあ良いや。

ちなみに改心した場合でも、今際の際にやっとという感じなせいなのか、結局魂はバラバラになる。


「いちいちそうしてたら身体が持たないでしょう。あの子と入れ替わりで入った魂が居るくらい、ウチも忙しくなったんですから」


提案してから初の転生者を受け入れ、無事……無事?に更正させたらその後はオファーが引切り無し。

他のアケビさん時空な作品でも受け入れる試みが進む程になったとはいえ、ウチは人員を増やさないと管理がという話になったくらい多忙になった。


「どうして皆そんなにやらかすのかしらね……」


待機リストを見て金髪の少女、ノーラちゃんが溜め息をついた。

その眼差しには呆れしか籠ってないが、それくらいドライな方が仕事しやすいだろうと思うので俺は特に指摘しない。

まあ流石に、かつての自分を死に追いやった者達が凄惨な末路を遂げたと知っても「ふーん」と相槌を打っただけだったのは驚いたけども。


「何でってそりゃあ……自分は上手くやれると思い込んでるからとか、深い事考えてなくてその場のノリで生きてるからとか…かなぁ……?」

「それはそうかもしれないわね。あの人達だって、上手く誤魔化しきれると思ったから私を追い出したくらいだもの」

「ほっ…本当に他人事だねぇノーラちゃん……」


それにしても、よくここまでドライな性格になったもんだ。

悪辣な転生者による運命の捻じ曲げで早逝し、穏やかな世界へ転生して前世で得た魂の傷を癒そうと思ったら無限ループのせいで成長出来なくて「今度こそ大人になれると思ったのに」と嘆いた彼女。

再転生して魂の傷を癒し切ったら「自身の発言で傷付けてしまった神様の事が心底心配になりまして誠に申し訳ございませんでした!!!」とスライディング土下座した彼女。

それが今やすっかり、淡々と屑を処理するシゴデキクールレディよ。


「そうだ、ラフさん。救世の乙女の身体を乗っ取ってざまぁされた女の引き取り依頼が来てるんですけど、転生した世界で敵に回したとんでもない大物が気付かない内になる早で処理して欲しいって話で」

「ええーっ!?仕方無いな、シメジちゃんの枠使うかぁ」

「あの…私の仕事は……?管理してくれるのは有り難いですけど、上司である私の仕事が魂の出迎えだけというのはサボり過ぎな気が……」

「戻ってくるまで時間あるでしょうから、エリケ様は美味しいクッキーでも焼いてて下さい」

「ノーラちゃん好きだもんねぇ、クッキー」


どうしようもない魂が有り続ける限り、輪廻を見届ける俺達の日常は続く。

ある意味ではこの世界も無限ループなのだろうけれど、悪くはないからまだまだ仕事は続けるだろう。

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