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四十二話:巫女の従者2

 六台は北に魔王の城があり、直線状の南にも一つ。

 さらに東西に二つずつある。


 シオンたちは西の六台の北から南へ移動し、さらにそこから東へ横断した。

 東の六台二つの内、北にある六台へと向かうために。


「えへへ、汽車に乗れるなんて思わなった」

「楽しそうだね、メイ」

「シオンは思いのほか驚かなかったな」


 微笑ましそうに言うシオンに、ホオリが残念さを交えて言った。


「いや、驚いてはいたけど、逆に知らなさ過ぎて、そういうものなのだと」

「そう言えば、駅前の馬車もあれ何って聞いてたもんね。まぁ、実は私も見たの初めてだったんだけど」


 今さらなもの知らずに嬉しそうなメイに、ホオリはさらに肩を落とした。


「鉄の塊動くっていう驚きほしかったなぁ。都はもっと発展してるんだぞ」


 お嬢さまと従者二人のふりをしての旅は、あえて汽車に乗るということをした。

 汽車は魔王軍が占有することもある移動手段であるため、露見の可能性が高い。

 しかし結果はなんの問題もなくし果せた。

 少々騒ぐ客を制圧することもあったが、それで魔王軍に目をつけられることはないまま。


 汽車に乗せて移動させた馬も連れて、三人は徒歩で人目を忍びつつ六台へとたどり着く。


「…………おかしいな? 夕暮れ近いのに、竈の火を入れてない?」


 ホオリが言うのは、六台を見張るように置かれた拠点。

 そこにはジンダユウに従う者がいるはずだった。


「何処か出かけてるのかな?」

「いや、何か動いたみたいだ。音がした」


 ひっそりとした拠点に不在を疑うメイだが、シオンが身じろぎの音を聞く。

 慎重に近づくと、そこには床をはいずり呻くしかない人々が横たわっていた。


 手わけして調べると、揃って風邪か貧血のような症状を訴える。

 体調不良者を屋内に寝かせて、シオンたちは拠点に火を熾した。


「風邪がうつって動けなくなったのかな?」

「いや、喋れる奴が言うには、昼になって急激に体調が崩れたそうだ」


 心配するメイに、ホオリが不穏な情報を告げる。


「毒を含まされたなら腹下しだろうと思うけど。どうする?」


 シオンは言って、物の少ない拠点内を見回した。

 調べても毒らしいものはなく、さらに六台の様子見も必要となる。

 シオンたちの目的はあくまで六台の下見であり、予言探しだ。


 ホオリは動けないだけで外傷のない者たちを見て、告げた。


「虫刺されみたいなのがあるくらいだな。ともかく六台に一度登って様子見だ。明日戻ってこいつらが大丈夫そうなら、俺たちは予言を探しに行こう」


 応じて、動ける三人で六台へと登った。

 高い壁のような建造物には、年月を経て草木が根を張る。

 しかし垂直にそそり立つ壁面は風雨にさらされても堅牢で、最初に彫り込まれただろう壁面の階段はしっかりしていた。


「…………待て、音がする?」


 天頂へ上ろうと言うところで、ホオリが手を挙げて止める。

 シオンも耳を澄まし、誰かが身じろぐ音を聞いて頷いた。

 メイは合図をされて、二人に顕現の領巾による強化を施す。


 そうしてそっと窺えば、少女が一人六台の上で帰り支度をしていた。


「って、何してるの? カガヤ」

「は!? な、なんで! お前ら!?」


 メイに声をかけられ飛び上がるほど驚くカガヤ。

 派手な装いを変えて、かつてのメイに似た何処にでもいそうな少女の装いでいる。


 メイが声を上げたことで、シオンもホオリも姿を現し、カガヤの前へ。

 そうして揃ってカガヤの今までにない装いに目を瞠った。


「な、何見てんだ!」

「いや、珍しいものを見た。しかし本当に何を?」


 大人しいカガヤの装いに、ホオリが笑って聞く。

 ただカガヤは慌てるばかりでまともには答えない。


「そ、そんなのどうでもいいだろ! そ、そそ、そっちこそ何やってんだ!?」


 聞かれて、シオンたちも答えられない。

 魔王軍と戦った後で、今さら魔王軍と敵対していないとは言えないのだ。

 そんな所に魔王軍三傑のカガヤに、新たな拠点の下見、ましてや予言を探してるなどとは言えない。


 ただカガヤも良からぬこととみて、表情を険しくした。


(これは、このままでは言えなくなりそうだ)


 シオンは一つの懸念に頷くと、カガヤに声をかける。


「お互い立場もある。言えない話よりも伝えたいことがあるんだが、聞いてくれないか?」

「そんなんで誤魔化されるか」

「誤魔化すほどではない。ひと言、礼が言いたかった」


 予想外のシオンの言葉に、カガヤは固まった。

 ただ気にせずシオンは続ける。


「この外套はとてもいい。思わぬ移動があったんだが、朝夕の冷えに耐えられた。水干姿のままでは難儀しただろう。ありがとう」

「「確かに」」


 賛同したのは、同じくカガヤから外套をもらったメイとホオリ。

 二人もどう助かったかという話を聞かせる。

 すると、カガヤは肩を震わせた末に大きく顔を背けた。


「ふ、ふん! 我が君の良さはわからないのに、わかりやすく自分の利益になることには素直だなんて! いい性格してるな!?」

「うん、そこはわかんない」

「あ?」


 メイが素直に返事をすると、カガヤは声を低めて威嚇する。

 それにシオンは手を挙げた。


「だったら教えてほしい。もう暗くなるならカガヤも移動は難しいだろう。ここで夜を明かして話をしないか?」


 シオンの言葉は半分本気。

 それと同時に、下で弱ってる者たちに気づかれないようにという配慮だった。

 カガヤが魔王軍であることは変わらず、応戦できるシオンたちならともかく、火を熾すこともできない状態の者たちでは、対処など無理だ。


 察したホオリがシオンに乗って指示を出した。


「それなら、薪を集めよう。軽く生えてる木もあるし何かあるだろ。寝るには向かないが、せめて座っていて楽な場所を整えようじゃないか」

「だったらそこになんか段差あるし、そこに座ればいいんじゃない?」


 メイは知ってか知らずか応じて動き出す。

 その上で断ろうとするカガヤに、挑発的に笑って見せた。


「ま、魔王のいいところ、話す内容がないならいいけど」

「なんだと!? 朝まで話せるに決まってる! いいか、よく聞け。我が君は世界を守っておられるんだ」

「えー、嘘だー。カガヤが枯れ専なだけでしょ」

「黙って聞け。我が君は枯れてない、いつでも素晴らしい。成熟した艶だ」

「は、はい」


 メイは軽口に真剣に返され、カガヤの圧に負ける。

 それぞれ近くで薪拾いをしつつ、座って動かないカガヤの話を聞くことになった。


「この世界の始まりは、燃える巨人。それが大地となり、世界となった。けどその火が消えた時から、この世界は崩壊に向かってる」

「うん? 昔いた巫女が火を消すために海を作ったとか聞いたのだが」


 シオンがミツクリに聞いた話をすると、カガヤは片手を振って見せる。


「まず、巨人の火は世界の悪しきものを燃やし尽くして白い灰にして天へと昇らせる。それがなくなったことで、この世界は白い灰にもなれない黒い煤という悪性が溜まったんだ。海はその悪性を底に沈めて出てこないようにするため。火とは関係ない」

「さて、そんな説は聞いたことがないな」


 ホオリは顕現で火をつけて、薪をくべながら聞き返した。


「ふん、混同してんだよ。巨人の火は消えた。だから原初の巨人の火はすでにない。けど、巨人から別たれた残り火は、意思を持って世界を燃やそうと活動し続けてる。我が君はそれに世界を燃やされないよう守っていらっしゃるんだ」

「そんなの聞いたことないってば」

「当たり前だ。千年守り通してるんだから、誰もその危険を知りもしない。知ってるのなんて魔王さまと残り火だけだ」


 知らないというメイに、カガヤはいっそ誇らしげに胸を張る。


「そもそもこの世界は燃える巨人を落とし込んだ穴の中。表の世界って言うところからは、そっちの世界でいらなくなった悪性を捨てる屑籠だ。だからかつての巫女は天を作って大地を覆い、これ以上汚されないようにしたんだよ」

「穴…………?」

「巫女は、上から降って来る、悪性ではない者と言われてる。そこんとこどうなの?」


 呟いて振り返ったメイは、カガヤの問いに答えられずただ瞳を揺らした。

 巫女は空から降って来る白い星であり、死して生まれた女児に宿るという。


 何も知らないシオンだが、巫女であるメイには心当たりがあることは窺えた。


毎日更新

次回:巫女の従者3

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