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第7話 マル得セット

 さて、イレギュラーの急性腹症の診察で時間を取られたが、病棟も回って祝日の一人回診を終えて部屋に戻った。


 部屋に戻ると佳子はすっかり準備ができていた。


「遅いわよ、亮ちゃん。お腹空いたわ」

「ごめんごめん。何食べよう。何でもいいよ」

「夜はシャラン鴨だから、軽くがいいわね」

「じゃあ、中華にしようか。チャーハンが食べたいな」

「結構がっつりね、もう1時よ」

「そうか、でも、夜は8時くらいにしたらお腹減るんじゃないかな」

「いいわよ、じゃあ、チャーハン食べましょう」


行きつけの中華屋さんに着いた。

ここは夜中の2時まで空いているから、実験で遅くなった時にもよく利用している。


「佳子は何にする。俺はマル特セット」

「あたしはレディース飲茶セットにするわ」

「じゃあ、それをお願いします」


店員さんに伝えた。


俺はカウンターから見える厨房を眺めながらスマホを触っていた。

すると、突然佳子が言い出した。


「お話しましょうよ。スマホはいや」

「そうだな。じゃあ、今日、お腹が痛いって救急外来を受診した小児科の患者さんを診察したよ」

「子供って小児科が診るんじゃないの」

「急に痛くなった腹痛は急性腹症っていって、そういう場合、小児科や内科はすぐに外科にまわすんだよ」

「亮ちゃん、内科じゃないの。なんで外科の患者さんを診たの」

「救急外科が全員手術に入ったから、困った救急外来の婦長さんが通りがかった俺を見つけてしつこく頼むから診察したんだよ」

「へえ、変なの。亮ちゃん、お人好しだから断れなかったのよね」


「はい、お待たせしました。レデュース飲茶セットとマル得セットです」

「ありがとうございます」

佳子が言った。

佳子は誰にでも丁寧で、愛想がいい。よく言えば人当たりが良いが、悪く言えば八方美人だ。

しかし、嫌いじゃないな、そんな人柄は。


「さあ、食べよう食べよう」

「亮ちゃん、チャーハン好きよね。ラーメン屋さんに行って、ラーメン注文しない時でもチャーハンは絶対注文するわね」

「このマル特セットって、チャーハンと餃子と鶏の唐揚げの無敵のセットだから、外せないんだよな。でも、実験で遅くなったときこればっかり食べてたら、体重が90㎏を超えてしまって」

「亮ちゃん、184センチもあるし筋肉質だから90キロでもいいんじゃない。でも、このチャーハン、2人前よ」

「えっ、マジで。何でわかるの」

「さっき厨房を見てたの。普通チャーハンって、炒めて最後に中華お玉一杯分をすくって盛るでしょ。お玉一杯分すくった残りは全部捨てるのよ。マル得セットって、炒めたチャーハンをお玉で2回盛ってたわよ。だから、チャーハンが2倍の二人分よ、多分」

「なるほど、たしかお得だな。それに太るわけだな」

「食べ過ぎよ、夜にフレンチ行くんでしょ」

「すまんこって。しかし残すのは忍びないな」

「そうね、じゃあ、夜を少し遅らせるほうがいいかしら。一応電話しておくわね、お店に」


 お腹いっぱいで、帰りにコンビニに寄った。

「カフェラテのR、ホットで」

「あたしもカフェラテのRをホットで」


 空のカップを二つ渡された。


「亮ちゃん、何してるの」

「いや、コレ、慣れてないから」

「ここに置いてボタンを押すだけよ」

「ああ、ありがとう」

「何を緊張してるの」

「いや、後ろに人に並ばれると緊張するんだよ」

「そんな巨体で緊張しないでよ。しかも空手の有段者、指導員でしょ」

「そうなんだけど、気が小さいんだよ。緊張するのは仕方がないんだよ」

「あたしがやってあげるから、車で待ってて」

 

 確かに俺は185センチあるし、細マッチョというより、どちらかというとゴリマッチョ気味だし、オドオドするのも変だが、気が小さいからしかたがない。

 それに、佳子は美人の上に170センチあって、容赦なく高いヒールを履くから、二人で歩くと目立つのもなんかいつも気になって仕方がない。


 カフェラテをゲットして佳子が愛車に乗り込んできて、俺の分をドリンクホルダーに置いてくれた。

 愛車のドリンクホルダーはシフトノブの前方にあるので、けっこう取りにくい。

 というか、どちみち走行中には振動でドリンクを手に取れない。


 部屋に戻って二人でゴロゴロしながら、ネットで映画を見た。

 正確に言うと映画ではなく、アニメ、佳子のおすすめのアニメだ。異世界ファンタジーというジャンルだそうだ。

 学生の頃は毎週週刊誌のマンガを読んでいたが、社会人になってからは漫画からも遠ざかったし、アニメを見る機会もほぼ皆無だった。

 しかし、見始めると今のアニメって意外とおもしろい。意外とどころか、たまらなく面白い。もう止まらない。


 気がついたら8時を過ぎてしまった。

 フレンチの予約時間を部屋でむかえてしまって、少々めんどくさくなってしまったが、佳子は絶対にフレンチを食べると言い張るので、重い腰を上げて出かけた。


「マスター、こんばんは。遅れてごめんなさい」

「いやあ、いらっしゃい。構いませんよ。まずはちょい吞みセットでよいですか」

「はい、お願いします。あと、鴨もお願いします。シャラン鴨」

「わはは、シャラン鴨はありませんが、良い鴨が入っていますよ。」

「ありがとうございます。亮ちゃん、羊も食べるわよね」

「ああ、羊はぜひ」

「マスター、羊もお願いします」

「はい、まずはちょい吞みをお持ちします」


 ちょい呑みセットは前菜とワインかシャンパンが一杯のセットで、もちろんお酒は一杯では済まないから、追加して飲む。

 ちょい呑みセットの前菜は三種のはずだが、オマケだろか、五種盛ってあって、これだったら、二人で一つでも良かったかな。

 メインはまず鴨が来た。佳子は満足げだったが、それほどは食べないので、ほとんどは俺が食べた。

 次に羊が来た。

 羊にはゴルゴンゾーラが添えてある。添えてあるだけだが、乗っけて食べると非常にうまいので、いつも頼む。佳子も羊は結構食べていた。それほどうまいのだろう。


 二人で前菜、鴨、羊とシャンパン1本を平らげて店を出た。


 帰って二人で紅茶を飲もう。今日は早くに床に就いて明日の仕事に備えよう。


 ところで、佳子は明日も仕事が休みなのだろうか。うらやましい身分だ。

お読みいただきありがとうございます。


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