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第4話 もうあかん

 今日はなんだか疲れた。


 プログレス、教授の前で研究成果の発表の日だった。

 そもそも、基礎研究の頭脳もない俺のような医局員にまで研究をさせるなんて、教授はどういう思考回路をしてるんだろう。

 俺みたいな凡人には、臨床と雑用だけやらせといて、基礎研究は医局でも頭の良い連中だけにさせておけば、研究費の節約になるだろうに。

 とにかく疲れたが、やっとマンションに帰った。


 立体駐車場に車を入れるのは面倒だが、愛車が小さくてよかった。

 これがGT-Rだったら、疲れて帰って来て、最後の駐車で機械式駐車場のパレットにホイールを擦る擦らないで神経すり減らしそうだが、そもそも非常勤医師の俺にGT-Rを買う財力なんてあるはずもない。


 エレベーターの無いマンションの3階の部屋にたどりついてカギを開けて入ると、眼鏡が曇った。


「あら、亮ちゃん、お帰り。ご飯食べるよね。すぐ作るわ」


 佳子が小さなキッチンに立っていた。

 合鍵を持っているので出入りは自由だが、来るなら来るで、前もって連絡くらい欲しいものだ。


「亮ちゃん、いつ帰ってくるかわからないから、あたしはもう食べちゃったわ。亮ちゃんのだけ作るわね」


 たしかに、いつ帰ってくるかわからない俺を待つよりは、先に食べるほうが合理的だが、ちょっとドライすぎるところが、何か引っかかる。


「それと、はい、これ誕生日プレゼント。財布よ。明日からちゃんと使ってね。以前プレゼントしたら、使わずに2年もとってあったから、そんなのいやよ」

「財布、まだ使えるよ。穴、開いてないし」

「このあいだ、小銭いれのところ、穴が開いて、変なところに500円玉が入り込んじゃってるって言ってたじゃない。もうだめよ、古いのは捨ててちょうだい」

「ありがとう。恋人からのプレゼントって、うれしいよ」

「あら、私たち恋人同士じゃないわよ」

「えっ、付き合ってないの、俺たち」

「だって亮ちゃん、わたしに好きって一度も言ってないじゃない。私は好きってちゃんと言ったわよ。そういうことはちゃんと言わないとダメヨ。だから付き合ってないわよ、あたしたち」

「う~ん、たしかに言ってないな。しかし......」


 なんか、こう、何も言わなくても阿吽(あうん)の呼吸で付き合ってるかと思ってたが、確かに一度も好きって言ってなかったな。

 しかし、もう何年も一緒にいて、こう、週末一緒に飯くって、一緒寝て、付き合ってなかったのか、俺たち。


「ところで佳子、いつ日本に帰ったんだよ。というか、どこ行ってたんだよ、半年も」

「あら、ちゃんと言ったわよ。タイにエステの勉強を兼ねて語学留学に行くって」

「ふ~ん、で、タイで英語の勉強? もともと英語は得意で、ほとんどネイティブだろ。今さら習う必要があるのかい」

「英語って、普段話してないと鈍ってくるのよね。ご飯作るからテレビでも見て待ってて」


 この娘は横山佳子、付き合ってそこそこ長い。

 いいとこのお嬢さんなのは知ってるが、どんだけ金持ちなんだよ、この娘は。

 付き合い始めたころ、実家に迎えに行って、家がわからないからと電話をしたら、山の手のワンブロックのほとんどが家の敷地だったので驚いた。

 デートのとき駅前の立体駐車場に止めようとしたら、その駐車場がお父さんの経営だったし、その後映画を見ようとしたら、映画会社の株主優待券を持っていて無料だったり、とにかく家柄の格差を感じることばかりだな。


 晩メシの支度中に後ろからベタベタ触ったら


「もう、食べてからにしてよ」


 とあきれるように言われたが、結局そのまま床の上で、なだれ込んでしまった。

 ベッドだと軋んで音が迷惑だからいつも床の上だが、床がちょっと冷たかった。


「あっ、もうあかん……」

「もうちょっと頑張りや」


おもわずこっちも関西弁がでた



 事が済んですっかり冷めた晩飯を食べて、狭いバスタブに一緒につかって、眠りに就いた。


「亮ちゃん、壁際で寝てよ。寝相悪いから落ちそうになるから気になるのよ、いつも」


 もちろん寝る前にGoogle Earthを開いて、目標の患者の家の映像を出して眠りに就いた。


「パソコンが明るいから眠れないわ、消してちょうだい」

「ちょっと事情があって、つけっぱなしで寝るよ」

「ふ~ん、へんなの。じゃあ、眩しいから、画面は壁に向けててちょうだい」


二人で寝るには狭いベッドだが、なぜだかすぐに眠りに就いた。



 さて、今日の患者は43歳の女性だ。

 とにかく日ごろからメンタルの訴えが多い。

 メンタルな訴えが多いが、町医者がきっちり紹介状を持たせて送り込んで来るので、診察をしないわけにはゆかない。

 そうすると、総合内科に回されるわけだ。


 午前診で診察した43歳のこの患者、今回で何度目だろうかというほど頻繁に診察に回されているが、今までさっと診察してメンタルヘルス科、つまり精神科に回してきたが、今回はちょっと違う印象を受けた。

 時々心臓の当たりがギュッと痛むらしい。

 痛みはほんの一瞬だけらしく、夜中に救急を受診し、念のため心電図とトロポニンTだけ検査して、全く異常がないと追い返されたらしい。

 診察した感じでは、左肩甲骨のあたり、胸というより肩甲骨あたりの背中という印象で、CTで骨折や転移性骨腫瘍などはなさそうだ。


 さて、いつもの如く、肝鎌状間膜に俺は立っている。

 念のため腹腔内を一通り見回ったのちに、横隔膜を通過して胸腔内に移動した。

 肩甲骨だから肺の背側に回り込んだその瞬間、ひょろっとっろしたヤツが飛びかかってきた。


 妙に背の高い、ヒョロヒョロのヤツだ。

 こいつらも人間と同じで、いろんな体形のやつがいるみたいだが、ひょろっとしてていかにも打たれ弱そうだ。

 いい具合の間合いに近づいてきたからのでローキックを出そうとしたら、殴りかかってきたので驚いた。

 人間と同じ戦闘スタイルということは、こいつらは前世が人間だったとか。

 今回は通販で買ったメリケンサックを持参して、それを装着してひたすら殴った。

 そして倒れこんだので顔面を踏み込んだ時点で、動かなくなった。

 

 とにかく終わった、あっちの世界に帰ろう。


 現世に戻る手立ては、まだハバネロの次の手立を発見できていないので、仕方がない。

 辛いのが苦手な俺は、ハバネロで戻ってもしばらくは寝付けないので、次の抄読会の論文でも読んで時間をつぶそう。


 さあ、帰ってミルクティーを飲もう。

お読みいただきありがとうございます。


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