第4章 Touring car final 1
少し早めの夕食を終えて。
チャーターバスでビル入りし、控え室でクルーたちは円卓を囲み、決勝レースに向けてミーティング。
決勝レース向け、緊張感を保つことは大事だった。が、緊張感を張るばかりではぷっつり切れてしまうかもしれないので、チームによっては、ゆっくりくつろいでいるところもあった。
それぞれ思い思いに、決勝レースまでの時間を過ごすのだった。
ウィングタイガーは難しい話はせず、ビル入りしてすぐにミーティングはしたが、すぐに終わり。決勝レースまで、おのおのリラックスしていた。
この中で一番年長のマルタは、さりげにチームをまとめ、おのおのリラックスをしてもまとまりが欠くことがなかった。
ソキョンは内心、マルタに感謝していた。
クルーや4人の選手たちは、他愛もない雑談をしながらも、目は真剣そのものだった。心は決勝レースをロックオンしていた。
(本当に、この世界こそ我が人生)
マルタはしみじみ思った。PRID-eを通じ、ウィングタイガーからアイリーンへの耐久助っ人のオファーがあったとき、アイリーンはすぐに快諾した。その時に、マルタや、アイリーンの家族であるアレクサンドラとショーンを招待する旨も伝えられ。これも快諾した。
子供のころ、ニンテンドーでひたすら遊んだ日々は忘れられなかった。長じてもゲームに夢中で、ついにプロのeスポーツ選手となり、チームを設立するに至った。
ある人はそこまで夢中になるのを、悪い意味での依存だと言ったが。マルタは、違う! と言う。
「私は自立したひとりの人間として、自分の足で立ち、自分の足で歩んでいます。ゲームは、共に歩みを進める人生の友なのです」
と、あるインタビューで答えたこともあった。
チームでゲーム教室を開くこともあった。そこで特に教えるのは、ゲーム攻略だけでなく、終わるときはすぱっと終わることだった。
始めるのはわりかしすぱっと始められるが、人は未練の心を起こすもの、その未練を抑えて終わる時はすぱっと終わることも、きっちり教えていた。
マルタはこの場にいて、思わず人生を振り返り。そんな年になったのだと、しみじみ思った。それだけにショーンがいとおしかった。チームを設立していなければ、ショーンは生まれることはなかったのだから。
次いで、4人の選手を見やった。
4人はショーンを交え、雑談に花を咲かす。
優佳はその様子をタブレットに撮り、SNSにアップする。
時間になった。
さあ、行くぞ。と、龍一とフィチは部屋を出る。その時に、クルーたちと、気持ちを注入するタッチをした。




