第2章 Touring car qualifying 8
シムレーサーからリアルレーサーに転向する、あるいは掛け持ちをする選手も今や珍しくなく、映画にもなったほどだ。
リアルレーサーを目指す選手のために、ポーズボタンで終わるのではなく、ピットインをするルールをもうけ、習慣づけさせるのだ。
ただ龍一たちのように、シムレーシング一本でゆく選手もいる。
道はひとつではない。様々にある道の中で、自分の道を見つけて歩んでゆく。
龍一やフィチたちも、リアルレースに関心はないかと問われたことがあるが。
「ゲームは、ゲームというリアルなんですね。僕はゲームの中にゲームのリアルを見出して。これが僕のゆく道だと思うようになりました」
と答えた。
龍一の愛車は軽四、それもホイール交換(しかも某ABで販売される廉価の)のみのノーマルのミライース。これはアマチュア時代から乗り続けている。
フィチは自転車、ジャイアントのロードバイクがお気に入りで。
ふたりしてスポーツカーにも乗らない。買おうと思えば買えるのに。
余計なことだと承知で、
「もったいない」
と言う人もあった。
ラリーやラリークロスで活躍し、eスポーツに転向し、Forza E World GPで競い合ったカール・カイサもそう言ったひとりだった。
そういえば、あるイベントで来日した時、龍一も招待されて。カールのドライブするスバル・WRX STIの助手席に乗せてもらったこともあった。
龍一は大興奮で、うおーすげー、最高! を連発していたのだが。触発されてリアルレースに行こうとしなかった。
「本当に、ゲームを愛しているんだな」
と、感心されたものだった。
話を戻して……。
気を張って走って、一息入れるためにピットインして、シムリグを離れ。ドリンクホルダーのペットボトルを持ってチーム控室に降りる。
部屋に入れば、笑顔のソキョンたち。龍一は現在4番手。決勝レースを戦うにも不安ない順位だ。
まだ予選とはいえ好順位にチームの雰囲気はいい。
「予選なんて通ればいい、なんて考えはなしで。ポールポジション獲るのよ!」
ソキョンはふたりとも好調なのを見て、敢えて厳しい注文をする。
「はい!」
龍一は溌剌と返事をした。
少し遅れたタイミングでフィチも来て。ふたりでミネラルウォーターで喉を潤し、クッキーをつまみ。
「あ、そうそう」
と、マネージャーの優佳は冷蔵庫からエナジードリンクのゾンネエナジーを取って、差し出す。
「レッドブレイドさんからの差し入れですよ。これ飲んでいいレースしようって」




