プロローグ 1
ドイツにニュルブルクリンクという、とても長いサーキットがある。
全長、25.38km。
このコースは近代的なGPコースと、広大な森の中を縫うように造られた北コースこと、ノルトシュライフェとで分かれており。
GPコースは5.15km。ノルトシュライフェは20.83kmという長さである。
このふたつのコースを合わせたのを、フルコースという。
このニュルブルクリンクは、またの名を緑の地獄、グリーンヘルともいった。
サーキットが緑あふれる森の中を駆け抜ける造りであるとともに、屈指の難コースでもあるからだ。
サーキットとはいっても、ノルトシュライフェの道幅は狭く、エスケープゾーンもまた狭い。まるでラリーのターマックコースのようなくねくね道であるが。サーキットであるから、平均速度はラリー以上。
終盤には長いストレートもあり、GTなどハイパワーマシンなら時速300キロ近くにまで達する。
とにかく、難しく長い、地獄とも形容されるほどのサーキットだ。
そして、多くのドライバーから恐れられるとともに、挑戦心を刺激し、愛されてもいた。
水原龍一はレースゲームこと"Sim racing"のプロプレイヤー。
Sim racingとは、Simulation racingの略称であり、グローバルシーンにおいてはレースゲームの一般的な呼称となっていた。
プレイヤーは、"Sim racer"と呼ばれる。
アパートの自室に設置したハンドルコントローラ―やシート一式、シムリグに身を置き。ディスプレイを鋭い眼差しで見据えていた。
ディスプレイには、ニュルブルクリンク・フルコースのコース図が映し出されていた。
しばらくして、ステアリングを握り、ディスプレイに映し出される路面を見据え、ニュルブルクリンク・フルコースをひた走っていた。
視界はボンネット視点。
黒のTシャツにジーパンの服装ながら、手にはグローブをはめ、足にはレーシングシューズを履く。
マシンはホンダ・シビックタイプR、ツーリングカー。リアのGTウィングが勇ましい。
走行前のマシンチョイス画面で見ると、白地に、青と赤の2本のラインが左の運転席側に、ノーズからテールにまで伸び。ルーフやドアにはメインスポンサーであるAVP Gamingなどのロゴがデザインされ。
ボンネットの空いた助手席側には、所属チームであるウィングタイガーの、赤く、翼を持つ虎が後ろ足で立つ勇ましい姿のエンブレムがデザインされていた。