トラック転生希望者が多すぎる
彼のは「トラック」。
街中を駆け巡るトラックだ。
最近の悩みは自らトラックたちの前に飛び出してくる変わり者が多すぎるということだ。
ある日、トラックは普通に荷物を運んでいた。
運転手は細心の注意を払っていた。しかし、その時――
「うわぁ!」
突然、目の前に人が飛び出してきた。
急ブレーキをかけたが、間に合わなかった。ガッシャーン!衝撃音と共に、その人は倒れ込んだ。
(ああ、俺達トラックネットワークの中で数えると、今年に入ってこの男で10万人目だぞ。俺は悪くねぇ。なんでみんな、横断歩道が赤信号なのに飛び込んでくんだよ……)
「またか……最近、この手の事故が増えているんだよな。不自然にトラックの前に飛び出てくる人」
と、事故現場に呼ばれた警察官が言った。
昨今、トラックは人々が異世界に行くための門なのである。
行くために轢かれて死なねばならない。
皆、ブラック現世より、希望にあふれる(かもしれない)異世界を目指すのだ。
(俺は悪くない! ただのトラックだ!)とトラックたちは心の中で叫ぶ。
翌日も荷物を運び続ける別のトラックの前に、またもや人が飛び出してきた。
(もうやめてくれ! わざわざ飛び込んでくんなよ、なんでトラック転生を選ぶんだよ!)
とトラックは思うが、避けられない。
荷運びの仕事を続けるしかなかった。
トラック転生ものの流行が続く限りトラックの苦悩の日々は続くのだった。