⑨お化け退治だよ! ゴーストバスター!
街角を曲がると目に飛び込んできたのは、倒れ込んだ若い女性───その目の前には不動産屋のエゼルと護衛の姿。エゼルは手に割れた瓶を持ち、ニヤニヤと女性を見下ろしている。
状況は一目瞭然だった。わたしとブルーは即座に駆け出す。
「大丈夫ですか!? どこかお怪我は……」
「あなたたち! 何をしているの!」
わたしが女性を助け起こし、ブルーがエゼルに詰め寄る。
とオカマの目の前に立ち塞がる護衛。プロレスラー並みの巨漢2人が鼻先数センチで睨み合う。両者の間で火花が散った。あまりの迫力に、わたしは生唾を飲む。
ブルーが静かに、しかし明らかな怒気を孕んで口を開く。
「女性に手を挙げるなんて……! 街から人を追い出したいがために、暴力まで振るうの!?」
護衛の男は無言。感情の見えない瞳でブルーを見つめ返すのみ。
そのとき、不動産屋が「ふっ」と肩を竦めて笑った。
「暴力? いえいえ、まさかまさか。ちょっとした“忠告”ですよ。ここは危険だ、もう住むには不向きだとね。むしろ親切心からの助言だったのですが……」
わたしは震える女性の肩をそっと抱く。ブルーが「ふざけんじゃないわよ!」と吠えた。
「なにが親切心よ! ただの脅しじゃない!」
「ふふ……心外ですね。いまのは、わたしなりにこの街の住民を心配しての行動です。それを脅しだなんて、あなたたちは何様ですか? 街の外から来た部外者の分際で。まさか、この街を救えるとでもお思いで?」
「救いますよ」
わたしは静かな怒りの視線を2人へぶつける。「ほう?」と怪訝そうな視線を向けるエゼル。
「この街の問題はわたしたちが解決してみせます。そのために来たんですから」
「ほほう……それは頼もしい限り。もっとも──あなた方がどれだけ足掻こうと、すべては徒労に終わるでしょうが」
啖呵を切るわたしを、ニヤニヤと不快な笑みで見下ろす不動産屋。
「まあ、精々頑張ることですな」
クルリと背を向け、含み笑いを漏らしながらその場を立ち去っていく。その背中に、わたしは「ぎりっ」と奥歯を噛み締めるのだった。
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それから数時間後。
すっかり日も暮れ、点滅する街灯しか明かりの灯らない街の中。
わたしたち三人は石畳の街道を散策していた。もちろん幽霊探しだ。周囲を注意深く観察しながら、恐怖を払拭するためにわたしは会話をする。
「ほ、本当にお化けなんているのかな?」
「あらぁ、カエデちゃん。お化けが怖いの? 可愛い~」
「そら怖いわ! 逆に二人は怖くないの!?」
その質問に顔を見合わせるヒヅキとブルー。そしてわたしを生温かい目で見つめてにっこり。
「…お化けなんかよりよっぽど怖いものを知ってる。だから余裕」
「そうそう。あたしたちはフェイカーと命がけの戦いをしてるのよ。お化けなんて今更ねぇ」
そうだった。この二人は何度も死線を潜り抜けてきたナイトクランのメンバー。現実的な恐怖に比べればお化けなんて非科学的なもの、なんてことないのかもしれない。
わたしも幽霊だのなんだので手足を小鹿のように震わせている場合ではない。二人のように強くならねば!
そう決心して拳を握る。そうしてわたしが意気込んだときだった。
目の前の暗闇からふらふらとした人影が浮かび上がる。
途端に鼻を突く腐敗臭と卵の腐ったような臭い。顔をしかめながら目を凝らせば、目に映るのは爛れて緑に変色した皮膚にぼろぼろの衣服。眼球を失って暗闇の広がる目に、力なく開いた口元からは舌が垂れて「ああああぁぁ……」と呻き声が漏れる。
それを見たわたしは日本で見た映画を思い出していた。世界的大ヒット映画「バイオ〇ザード」。ずばり、あの映画に出てきたようなゾンビがわたしたちの目の前にはいた。
それを見たわたしはもちろん、
「ぎゃああああぁぁぁ!? ゾンビィィィィ!!!」
悲鳴を上げる。そのわたしの視界の端でヒヅキの姿が霞む。かと思った次の瞬間、ゾンビの首が宙を舞った。ゾンビの背後には小太刀を握るヒヅキの姿。
遅れてヒヅキがゾンビの頭部を切断したのだと理解する。そしてわたしは倒れ伏したゾンビの胴を見つめ、ほっと胸を撫でおろした。
「お、お化けの正体ってこれ? けっこう呆気なかった……」
「いいえ。まだよ」
「え?」
ブルーの緊迫した声がわたしの言葉を遮る。戸惑うわたしの目の前で身構えるヒヅキとブルー。
次の瞬間、無数の人影が暗闇から浮かび上がった。そして響き渡る「ああああぁぁぁぁ」という呻き声。その声はわたしたちの背後からも聞こえてくる。
「…挟み撃ちされた」
「そうみたいねぇ~。じゃあわたしが後ろを担当するわ。二人は前方をお願い~」
「え? え?」
「…ん。了」
困惑するわたしを置いて、二人は地を蹴ってゾンビの群れに突っ込んでいく。わたしはそれを呆然と見送ることしかできない。そして次の瞬間、わたしの前方で数体のゾンビが爆散したかのように纏めて細切れになった。
見ればヒヅキがゾンビの間を縫うように駆けまわっている。そしてヒヅキが通過した次の瞬間、周囲のゾンビが一斉に切り刻まれて塵になる。
みるみるうちに数を減らしていくゾンビの群れを見つめるわたしの口からは思わず「うわぁ」という言葉が漏れる。
腐肉のなかで踊るように剣を振るうヒヅキは美しい。荒廃した世界のなかに咲く一凛の薔薇のように、赤い髪が宙を舞う。
幼くも妖艶な美少女が一切の容赦なく敵を屠っていく。そのギャップに思わずわたしが見惚れていると、背後で「ドゴ――ン!」と轟音が轟いた。
思わず振り返ると、そこには月光の中、ゾンビの体液を浴びて怪しく照り輝くオカマの姿。
「うおおおおおお! プリティ・タックル!」
技名だろうか? そんな言葉を叫びながらゾンビの群れへとツッコむブルー。
ドッゴーン!!!
乙女のタックルを喰らったゾンビがひしゃげる。しかしブルーの勢いは止まらない。そのままゾンビの群れの中を突っ切って十体以上のゾンビを吹き飛ばし、あるいは砕く。
さらに振り返ったブルー。
「プリティ・パンチ! プリティ・キック!」
掛け声と共に拳を、そして足を繰り出す。二体のゾンビの頭部が弾け飛んだ。
そしてそれを見たわたしの口からは思わず「うわぁ……」という言葉が漏れる。もちろんヒヅキの時とは違う意味の。
そうしてわたしが視線を逸らすと、わたしの視界一杯に腐った女の顔が広がった。
「あああぁぁぁ……」
「ぎゃあああぁぁぁ!」
わたしの悲鳴とゾンビの呻き声が綺麗にハモる。そして、
ガブリ
ゾンビがわたしの肩に噛みついた。しかし当然わたしの身体に傷はつかない。ゾンビが戸惑ったように何度も噛みつくが、結果は変わらない。
「ひぃ! 離れてぇ!」
一瞬、意識が飛びかけたがなんとか立て直し、わたしはゾンビを突き飛ばす。そして新しく取得したナイトメアスキル『豊穣の王』を行使する。
豊穣の王は世界中の植物を即座に成長、あるいは自身の持つスキルと掛け合わせることで改良できるナイトメアスキル。そしてわたしの持つキノコ栽培師と新しく取得した初級炎魔法のスキルを合わせれば、
「爆裂キノコ!」
はい。爆発するキノコの出来上がり。
わたしの投擲した赤いキノコは女ゾンビにぶつかる。そして、
ドッゴーン!
爆発した。炎に包まれる女ゾンビを見ながら、想像以上の破壊力にわたしは思わず腰を抜かす。そんなわたしに無数のゾンビが呻き声と共に迫って来た。ヒヅキとブルーの攻撃を掻い潜ってきたやつらだろう。
腐敗臭を放つ歩く死体を見つめながら、わたしは頬を引き攣らせる。こうなりゃやけくそだ。
「おほほほほ! どんどんかかってきなさい!」
いくつもの爆裂キノコをジャグリングの要領でお手玉のように手の中で遊ばせる。そして近づいてくるゾンビに投擲! 投擲! 投擲!
ドッゴーン! ドッゴーン! ドッゴーン!
次々と爆発し、炎に焼かれるゾンビたち。燃え上がる炎が夜の街を照らし、その中央でわたしは高らかに笑う。
「おっほっほ!」
「…その調子」
「カエデちゃん、なかなかやるじゃない!」
こちらを見たヒヅキとブルーが褒めてくれた。それでわたしはさらに調子づき、ジャグリングを加速させる。
「おほほほ! おほほほ!」
そうして数分後。ゾンビの群れはすべて切り刻まれて、あるいは灰になって、あるいは巨漢の乙女に轢かれて全滅したのであった。
その後ガンデルからお礼のVPを受け取り、わたしたちはナイトクラン本部へと帰宅した。ビャクヤに成果を報告する。そして、
「うん。三人ともご苦労様。明日はゆっくりと休むといいよ」
そんな労いの言葉で、わたしの初任務は上々の結果に終わった。そう。終わったはずだった。
翌日、ガンデルから手紙が届いた。その内容は、また街にお化けが出たので助けてくれというものであった。
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初任務完了! 街に発生したゾンビたちを焼き払ってきた! この調子でお仕事頑張るから、応援よろしく!
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残りKP 12999999970
ちょっと小話
カエデが豊穣の王を取った理由は、呪文詠唱による魔法が使えなかったからです。
実はこの世界の言語、日本語じゃないんです(実はクソもない)。
女神の力で住人と意思疎通は取れますが、根本的に使用している言語は別物。そのため日本語では詠唱しても魔法が発動しないのです。
これをどうにか解決しようと紆余曲折した結果……豊穣の王に辿り着いたというわけです。
ちにみにカエデは2つ目のナイトメアスキルを手にしたわけですが、ナイトメアスキルはいくつ取得できるんでしょうね? 答えは……
本編のどこかで!
こんな風に、本編で書ききれなかった裏話や設定は今後、後書きで触れようと思います。
読まなくても本編に影響はないのですが、興味があったらぜひ読んでみてください。




