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⑧初仕事だよ! 同僚の意外な一面!

 ナイトクランに就職した翌日の昼。


 わたしはとある街へと来ていた。磯の香りが風に乗ってくる、海辺の綺麗な街である。通りを歩くわたしの横には巨漢オカマのブルーと、仮面をつけた美少女のヒヅキ。


 こんな奇怪な格好をした二人が白昼堂々と歩いていたら目立つ。いや、夜だと不審者なんだけどさ……ってそういうことが言いたいんじゃなくて、こんな奇抜な格好をした人が歩いているというのに、不思議なことに周囲から奇異の目を向けられることがほとんどない。


 というか、


「そこそこ大きな街なのに、ぜんぜん人がいないね」

「そうねぇ~。なにかキナ臭いわよねぇ」

「…ん。依頼の内容と関係がある可能性が高い」


 そう。わたしたちはとある依頼に応じてこの街まで来たのだ。内容は詳しく聞いていないのだが、それは二人も同じらしい。


「まあとにかく、ちゃっちゃと依頼主に会いに行きましょうか」


 ブルーの言葉に頷くわたしとヒヅキ。


 それから数分後。


 わたしたちはお屋敷の前にいた。巨大な鉄柵の門、視界に収まりきらないほど広大な緑の庭園。その奥には真白な外壁を持つ巨大な屋敷があった。


 わたしがポカンと見上げていると、門が開いて一人のメイドさんが美しい所作で一礼する。そんなメイドに同じように頭を下げるブルー。


「どうもぉ~。ナイトクランのブルーですぅ。依頼を受けて参上しましたぁ」

「お待ちしておりました。どうぞお入りください。ご案内いたします」


 そうしてメイドに案内されるがまま、わたしたちは応接室へと通される。


 部屋には一人の男がソファーに腰かけて待っていた。茶髪でちょび髭を生やし、パリッとした服を着たなかなかダンディーなおじ様である。


 男が立ち上がり、わたしたちを歓迎する。


「お待ちしておりました。わたしは街の長を任されています、ガンデルといいます」

「どうも初めまして。わたしはカエデといいます」

「…ヒヅキ」

「ブルーですぅ。なかなかのイケオジね。ちょっとタイプかも~」


 ブルーの言葉に困った表情をするガンデル。ヒヅキがブルーを蹴りつけているのが目の端に映るが無視だ。


 というかヒヅキ。あんたの挨拶も大概だけどね?


 そんなこんなでソファーに座り、わたしたちは依頼主と相対する。


 紅茶を淹れたメイドさんが退室すると、ガンデルが話を切り出した。


「この街、随分と人が少ないと思いませんでしたか?」

「そうですね。雑貨店や飲食店もほとんどが閉まってましたし」

「そうなんですよ……数か月前まで、この街はそこそこ繁栄していたんですけどね」

「なにかあったんですか?」


 数か月でここまで人がいなくなるのは異常事態だろう。わたしが疑問を口にすると、ガンデルが深刻な表情で事情を話し出した。


 曰くこうだ。


 始まりは夜の街をふらふらと歩く不審者の目撃情報。最初は酔っ払いかなんかだろうと放っておいたが、その目撃情報は日が経つにつれて次第に増えていき、住民たちは不安に駆られた。そこで街は対策に乗り出したものの詳しい原因は特定できず、手をこまねいている間に状況は悪化。


 家のドアや窓をノックされるも、外を見ても誰もいない。

 夜通し屋根や壁を這う音が響く。

 夜、道を歩いていると追いかけてくる足音が聞こえ、けれど振り返っても誰もいない。だけど足音はずっとついて来る。

 物が浮遊するポルターガイストや、窓に赤い手形が付くといった物理的な被害。


 といった怪奇現象に襲われ、住民たちの不安は得体の知れないものに対する恐怖に変貌。耐え切れなくなった多くの者は土地を売り払い、街から逃げ出していったのだという。


 そこまで話し、大きく息を吐くガンデル。膝の上に乗せた手を震えさせながら、話を続ける。


「実はわたしも逃げ出したいというのが本音なんですよ。不動産の方からもいい値を提示されていますし……しかしこの街の長として、問題を放置はしておけません。そこで最後の頼みの綱としてラファエル様にご相談したところ……」

「調査のためにあたしたちが来たってわけね」

「左様でございます」


 ブルーの言葉をガンデルが肯定する。わたしは首を傾げ、ヒヅキの耳に口を寄せる。


「ラファエル様って?」

「…この国を治める四大天使の一人。わたしたちが暮らす、大陸の南方の責任者。ナイトクランの創始者でもある」

「へぇ……そんな人たちがいるんだ……」

 

 わたしたちがコソコソとそんな話をしていると、にわかに扉の外が騒がしくなる。どうしたのだろう?


「お、お待ちください。いまはお客様が……」

「うるさいなぁ。少しくらい構わんだろう」


 メイドに止められながらも、強引に押しのけて部屋に入ってきたのは小太りで背の低い、中年の男。側頭部と後頭部にだけ残ったチリチリの髪。ちょび髭をいじりながら、ニヤニヤと満面の笑みを浮かべている。一目見て、わたしはその男が嫌いだと感じた。なんかこう、得も言えぬ不快感。絶対に交友は持ちたくないタイプだ。


 その男の斜め後ろには、灰色の髪を角刈りにしたイカツイ男性の姿。ブルーに負けず劣らずのガタイに背広を纏い、手は後ろに組んで直立不動。なんだか犬のドーベルマンを連想させる風貌だ。前の男の護衛だろうか?


 2人の乱入者を観察していると、わたしたちの方をちらりと見る小太りの男。しかし何も言わず、わたしたちの存在を無視するかのように視線を外す。にちゃにちゃと嫌な笑みをガンデルに向けるハゲ男。


「土地を売る決心はつきましたかな? ガンデル殿?」


 ふむ……どうやらこの男がガンデルさんが言っていた不動産屋らしい。この男がこの街の土地を買い占めようとしているわけか。でもなんで?


 わたしが思考に耽っていると、ガンデルさんが席を立ち、男たちに向き合った。


「ご覧のように、いまは取り込み中です。せっかくご足労いただいたにも関わらず申し訳ないですが、また別の機会にしていただきたい」

「つれないことを仰られる。こちらは相当、譲歩しているんですよ? 化け物騒ぎで誰も住まない土地を、破格の値段で買い取ると申しているのです。既に地価はかなり下がっていますが……騒ぎが続くようなら、もっと下がることになりかねない。わたしとしては、お早い決断をお勧めしますが……」


 耳に絡みつくような、不快なハゲ男の声。態度、表情、声、すべてがこちらを見下すような不快感を醸し出している。しかしそんな中年男に対し、姿勢を正すガンデルさん。


「お話はまた別の機会にと申し上げたはず。そもそも、わたしはこの土地を手放す気はありません。お引き取り下さい」


 惚れ惚れとするほど毅然と、乱入者の誘いを断るガンデルさん。すっごいイケオジである。ブルーなど目をハートにしている。


 一方、取り付くのない町長に業を煮やす不動産屋。


「あとで後悔しても知らんからな!」


 まん丸の顔を茹でダコのように真っ赤にしながら捨て台詞を吐き、部屋をあとにする。「バタン!」と乱暴に閉められた扉の方を呆然と見つめるわたしたち。ガンデルがそんなわたしたちの方に向き直る。


「お騒がせして申し訳ない」


 頭を下げるイケオジに、わたしは慌てて首を横に振る。


「い、いえ。大丈夫です。それよりも、今の人が不動産屋さん……?」

「左様です。彼はエゼルという名の不動産屋。いま御覧になれたように、わたしは彼に土地を売るように要求されています。しかしわたしはこの街を任された者として、逃げるわけにはいかない。この街を見捨てるわけにはいかない。いま街で起こっている異常の原因を特定し、解決に全力を注ぐ所存です。そのために、あなた方のお力をお貸しいただきたい。どうか、この通りです」


 深々と頭を下げるガンデルさん。わたしたちは顔を見合わせる。全員、気持ちは一緒だった。代表して、ブルーが一歩前に出る。


「もちろんよ! そういうことならあたしたちに任せてちょうだい! あたしたちはその手のことのプロだからね!」

「あ、ありがとうございます! 本当に、本当に……くれぐれも、よろしくお願いいたします」

「うんうん! 大船に乗った気でいるといいわ! そして見事、問題を解決できた暁には一晩のアバ……んー! んー!」

「…ブルーは黙って。引き受けたならさっさと仕事に行く」


 ヒヅキの生成した蜘蛛の糸が、いらんことを言おうとしたブルーの口を封じる。そしてそのまま仮面少女の手でずるずる引きずられていくオカマ。


 プロレスラーと子供くらい体格差があるはずなのに、いったいヒヅキの小さな身体のどこにそんなパワーがあるのだろうか? てかフェイカーの存在を知らないガンデルさんの前で能力使っていいの?


 そんな疑問を抱きつつ、呆けているガンデルさんに一礼すると、わたしは二人を追って部屋をあとにするのだった。




 それからわたしたちは街を隈なく探索した。しかし特に怪しいところはないように見受けられ、大した成果は上げられない。


 まあ幽霊って言うくらいだから夜に出るのだろう。そう判断し、わたしたちは日が落ちるまで時間を潰すことに決めた。


 というわけで、休憩も兼ねて公園の芝に腰を下ろす。するとブルーが風呂敷に包まれた箱を取り出した。


「ブルー。それはなに?」

「ふっふっっふ。これはね~……」


 そう言ってブルーが箱を取り出す。それは重箱のように見え、そしてその中身は、


「お弁当!?」


 おにぎりや野菜の肉巻き、ポテトサラダなど、色とりどりの料理が箱の中には詰められていた。それもただの料理じゃない。タコさんウィンナーなど可愛らしくデコレーションされたものばかりだ。


 それを見てわたしは目を見開いた。


「もしかしてこれブルーが作ったの!?」

「そうよ~。たくさん食べてね」

「す、すごい!」


 ただのオカマと侮っていた。このオカマ、めちゃくちゃ女子力が高い! なんだか少し悔しさを感じる。わたしだってこんなに綺麗なお弁当は作れないのに!


 とそこで、わたしはとある料理の存在に気が付く。それは黒々としたパスタ。日本での記憶ではこれはイカ墨パスタだった気がするのだが……


 わたしは頬を引く攣らせながらブルーに尋ねる。


「このパスタ……まさかと思うけど……」

「あら、違うわよ? さすがにあたしのタコ墨は使ってないわよ」

「よ、良かった~」

「でもあたしの乳首から出る墨を使うことも考えたんだけどね~。だって牛乳を飲むみたいなもんでしょ?」

「全然違うよ! 死んでも御免だよ!」


 なにを言い出すんだこのオカマは。


 そんな風にわたしが憤慨していると、ブルーが三段からなる重箱を取り分けてくれる。


 わたしとブルーの間に一段。ヒヅキの前に二段。


「ちょっと待て。配分がおかしくない?」

「え? そうかしら? ……あ! あたしは少食だし、いまダイエット中だからカエデちゃんがほとんど食べてくれていいわよ!」

「…カエデは食いしん坊」

「重箱二段持ってるおまえに言われたくないわ!」


 すでに重箱一段をさらえているヒヅキがこちらにジト目を向けてくる。極めて心外だ。そんな食いしん坊ちゃうわ!


「それにヒヅキが持ってる弁当、肉に揚げ物って茶色一色じゃない! 成長期なんだからもっとバランスよく食べなさいよ!」

「…小言ばっかりうるさい。ハゲのくせに」

「んんん───!? ハゲは関係ないよね!? よね!?」


 そこでヒヅキに詰め寄るわたしをブルーが押し留める。


「カエデちゃん、ちょっと落ち着いて。ヒヅキちゃんはちょっと特別なの。それにこう見えてナイトクランじゃ一番の年長者なのよ」


 ブルーに諫められ、わたしも少し大人げなかったと大きく息を吐く。わたしが落ち着いたことを確認したオカマ。今度はヒヅキに向き直る。


「ヒヅキちゃんもダメよ! 人の容姿をとやかく言ったら。そんなの人それぞれ。個性の一つなんだから。カエデちゃんに謝りなさい?」


 ヒヅキがちらりとこちらを窺う。わたしは仁王立ちして彼女を見下ろした。


 ほら謝れ! さっさと謝れ! 土下座しなさい!


 しかし弁当を食べ終わったヒヅキはわたしからスイッと視線を逸らすと、


「…だが断る」


 ぼそりと呟いてそのまま姿を眩ましてしまった。


 あとには怒りで「ふーふー」と息を荒げるわたしと、困ったように微笑むブルーだけが残される。


 あいつ! ……あいつ! ……あのクソガキがぁ!


 わたしが苛立ちのあまり地団太を踏もうとした───その瞬間だった。

 遠くから物の割れる音が響く。同時に、


「きゃあああああ」


 響き渡る女性の悲鳴。


 ……なんだか尋常じゃない様子だ。なにかあったのだろうか?


 顔を見合わせて一拍。わたしとブルーは声の下へと駆け出すのだった。


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 初任務に来たヨ


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