⑦自己紹介だよ! みんなフェイカー!
「彼女はカエデ。鋼鉄の獣……外傷を受けない、防御に特化したスキルを持つ期待の新人だ。戸惑いも多いだろうから、みんな色々と教えてやってくれ」
ビャクヤがわたしのことを紹介してくれる。ちなみに傲慢の王のことは秘密だ。わたしが七つの大罪の一人だとバレれば、同僚たちから疑惑の目を向けられることは必至。それに配慮したビャクヤが、黙っていてくれることになったのだ。
「初めまして。カエデといいます。不束者ですが、皆さんの力になれるよう頑張ります。よろしくお願いします!」
そしてわたしが頭を下げると、周囲から拍手が起こった。
その拍手に「どーもどーも」と、わたしは頭をペコペコする。
「では、さっそく一つ芸を披露させて……」
「カエデ。それはいいから座れ」
「はい……」
芸人魂を刺激されて思わず大道芸を披露しようとするが、ビャクヤに止められてしまった。わたしは項垂れながら素直に着席する。
円形のテーブルの周囲に均等に並べられた椅子。それらに同僚たちが座っている。わたしの左隣に座るヒヅキを示すビャクヤ。
「さて、じゃあ時計回りに自己紹介をしてもらおうか。まずヒヅキ」
「…ん。わたしはヒヅキ。スキルは蜘蛛の女王。だから目が四つある」
相変わらず人形のように感情の希薄なヒヅキ。その美貌も相まって少しとっつきにくい印象を持つ。
つぎは青いオカマが立ち上がり、こちらにバチンッとウィンクをしてくる。
「あたしはブルーよ! カエデちゃん、よろしくね! ナイトメアスキルは~……ナ・イ・ショ! 乙女に秘密はつきものだからねぇ~」
「ブルーは蛸の悪魔の所持者だ。こう見えて悪いやつじゃないから、カエデもあまり色眼鏡で見ないでやってくれ」
颯爽と補足説明をしてくれるビャクヤ。あっさりとナイトメアスキルをバラされたブルーは「ぷくー」と頬を膨らませる。
ちなみに、決して可愛くはない。
「んもうビャクヤちゃんってば! なんでバラしちゃうのよ~!」
「味方の能力が分からなければ連携にも支障が出るだろう」
「ビャクヤちゃんのイケず~!」
そこであることが気になってわたしは手を挙げる。
「あの、ブルーさん」
「ブルーでいいわよ~」
「あ、はい。じゃあブルー。その、ブルーの代償はその外見なんで……なの?」
「あらぁ。あたしに興味を持ってくれて嬉しいわぁ!」
違います。ブルーに興味があるんじゃなくてどんな代償があるのか気になるだけです。
そんなことを内心で思うが口にはしない。
そしてそんなわたしの質問に首を横に振るブルー。どうやらオカマなのは代償ではないらしい。じゃあなにが代償なのだろうか?
首を傾げるわたしの前でごそごそと服を脱ぎだすブルー。そして上半身裸になると、
「あたしの代償はねぇ……これよ! 乳首から蛸墨が出る!」
「オロロロロロロ」
詳しく描写することはやめておこう。とりあえず言えることは、わたしが即座に嘔吐するほど冒涜的で恐ろしい姿だったということだ。
閑話休題
つぎに立ち上がったのは金髪のイケメン。
「おれの名前はライトだよん! ナイトメアスキルは蛇の王。代償は頬にあるこの鱗! カエディーよろしくね~」
そう言って笑顔で手を振るチャラ男……じゃなくてライト。わたしより少し年上……たぶん大学生くらい。右頬には緑の鱗が一枚ある。飾りかと思ったが、あれが代償だったのか……
ていうかいきなりあだ名を付けられた。まあ別にいいけどさ。
わたしはライトに笑顔で応える。
「ライト。よろしく!」
「なんでおれは最初から呼び捨て!?」
「うーん……なんとなく?」
「なんとなく!? でもおっけー!」
ライトが親指を立てる。呼び捨てでいいらしい。
次はぼさぼさピンク髪の少年。中学生くらいだろうか? たぶんヒヅキと同じくらいの年頃だ。
「ぼくはモモっていうんだ! スキルは病の王! 代償は舌が緑色になってること!」
「マルバスってなに?」
聞き慣れない名前にわたしが首を傾げると、これまたビャクヤが解説をしてくれる。
「マルバスは病気や治療、あとは機械に精通する悪魔のことだ。ソロモン七十二柱の一体で、第五位界に位置している。例えばそうだな……ヒヅキとわたしがやり取りに使っていたトランシーバー。あれはモモが々病の王の力で作ったものだよ」
人狼を倒した後、ヒヅキが使っていた無線機を思い出す。なるほど。モモはあれを作れるのか。他にも医療に通じていると……なかなか便利そうなスキルである。
わたしはモモに笑顔を向ける。
「よろしくね。モモ」
「うん! カエデさん、よろしく!」
そして最期はわたしの隣に座るビャクヤ。
「わたしはビャクヤ。一応ナイトクランのリーダーを務めている。スキルは予知の王。代償は左腕の機械化だ。よろしくな。カエデ」
「よろしくお願いします」
「うん。改めて、歓迎するよカエデ。これから一緒に戦っていこう!」
そんなこんなでわたしはナイトクランに所属することになった。
まあ、世界の平穏のために裏で戦う闇の組織……悪くない設定だ。フェイカーを倒してチュイートすれば、それなりにいいねが稼げるはず! はず……だよね? 髪の毛、もとに戻るよね?(泣)
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ひったくりを追いかけてたら誘拐されて、なぜか就職したよ! ↓の写真が同僚たち! みんなキャラが濃い! だけどよろしく!
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カエデたちが自己紹介をしている頃。とある街。
そこには夜の通りを歩く白髪、白い肌、白のスーツと全身白ずくめの男の姿。その一面の白のなか、赤い目だけが異様に際立つ。
そんな目立つ格好をしているにも関わらず、すれ違う人々はその男には目もくれない。いや、そもそも認識できていないような、そんな様子だ。
白い男が立ち止まる。目の前には重たい荷物を運ぶ一人の老婆。男は愛想良くその老婆に話しかける。
「こんばんは。よろしければぼくがお荷物、お持ちますよ」
「あらそうかい? ありがたいねぇ」
そうして男は荷物を老婆の家に運び込んだ。荷物を置いた男に、老婆は丁寧に頭を下げる。
「ありがとうねぇ」
「いえいえ。これくらい大したことないですよ」
そう言って男は老婆の家を後にする。夜道を歩くその男の口元には不気味な笑みが浮かべられており……
しかしそれに気が付く者はいない。
そうして男が立ち去って数秒後。老婆が荷物を不思議そうに見つめる。
「あら、なんでこれがここにあるんでしょう。わたしは運んだ覚えはないのだけどねぇ」
そう首を傾げながら老婆は台所に向かう。そんな老婆に小さな少年が呼びかけた。
「おばあちゃん、どうしたの?」
「うん? べつになんでもないよ」
そう言った老婆の手には包丁が握られている。そして数秒後。
「ぎゃああああ」
家の中からはそんな子供の絶叫が響き渡った。
翌日、とある街の一軒家で一家の惨殺死体が発見された。
死亡したのはこの家に住む夫婦と子供、そして祖母の四人。
住人への聞き込みの結果、怪しい人物の目撃情報は得られず、結局一家心中と結論付けられることになるのだった。
ちょっと小話。
ナイトメアスキルの代償についてですが、強力なナイトメアスキルは代償が重い、逆に弱いナイトメアスキルは代償が軽い、ということはないです。
あくまで代償はもとになった怪物、悪魔に由来するものなので、スキルの強さとは無関係です。