最終話 久々の女神! わたしの罪を数えましょう!
目を開けると、そこは見覚えのある空間だった。無限に広がる宇宙のような空間。その空間に浮かぶ白い円形の床。目の前に鎮座するのはアンティーク調のテーブル。そして───
「久しぶりですね。女神様」
目の前で紅茶を啜る女性が微笑む。レースの付いた青いドレスにハイヒール、肩にかかるくらいの白い髪。相変わらず、憎たらしいほどの美人だ。
用意されていた紅茶を啜りながら、わたしは女神に質問をする。
「ここに戻って来たってことは、わたしって死んだの?」
「いいえ」
女性が首を振る。
「あなたが爆発に巻き込まれる寸前、わたしがここに呼び戻したのです。だからあなたは無事ですよ」
どうやら死んではいないらしい。良かった。
しかし……
「しっかしドンピシャのタイミングでわたしを助けたわね。もしかしてあの戦いを見てた?」
「はい、もちろん。先ほどの戦い以外も。あなたのことは庶務に追われてるとき以外、ほぼずっと見守っていましたから」
この女神、庶務に追われてる時があるんだ……なんか社会人みたいだな……
わたしは苦笑い。
まあ、それはいったん置いておこう。それよりも気になるのは、バエルとヒヅキのこと。あのあとバエルを倒すことはできたのか? そしてヒヅキは無事なのか尋ねる。
すると、ニコニコと頷く女性。
「はい、バエルはあの爆発で死にましたし、ヒヅキさんは無事です。これこそまさに、完全勝利というやつですね」
「完全……勝利……」
わたしは言葉を噛みしめる。身体からは、みるみる内に力が抜けていった。椅子の背もたれに身体を預け、天を仰ぎ見る。
「……そっか……勝ったんだ……わたしたち」
それにヒヅキも無事。良かった……本当に良かった。
「あのぅ……」
わたしの思考に女性の声が割って入る。まったく、人が勝利の余韻に浸っているというのに。無粋な女神だ。
「なによ?」
「いえ、浸ってるところ申しわけないのですが、カエデさんのこれからのお話をしたくて」
「これからの話?」
わたしは眉を顰める。女神はニコニコ顔で凄く楽しそう。
「はい。カエデさんは覚えてますか? カエデさんが日本に戻れるのかと聞いた時、わたしがなんと答えたか」
わたしが日本に帰れるか聞いた時……?
首を傾げるわたし。カップに口をつけ、一息入れてから女神は話を続ける。
「わたしはこう答えました。日本に帰れるかどうかは、カエデさん次第であると」
「ああ、確かに。そんなことを言われた覚えが……この女神、めっちゃ雑だなって思った」
「もう! わたしは雑じゃないですぅ! 詳しく言えない事情があったんですぅ!」
ぷくっと頬を膨らませる女神。わたしは胡乱な眼差しを向けた。
「へいへい。そんでなに? その事情って?」
「順を追って、手短に説明します。まずカエデさんが日本に帰る条件について。条件は2つです。1つはバエルを倒すこと」
バエルを倒す……
「なるほど。説明できなかったのはバエルの能力のせいね」
「そういうことです。あの時点で『カエデさんにはバエルを倒して欲しいんです~』なんて言えば、あなたは異世界に降りた瞬間、バエルの手駒になってましたから」
通りで……確かにそれなら説明できなくても仕方がない。
「じゃあ2つ目の帰還条件っていうのは?」
わたしの質問に、女神が微笑む。思わずはっとさせられる、神々しさすら感じさせる笑み。
「それはですね……この旅があなたの贖罪だったからです」
わたしの……贖罪?
居ずまいを正しながら、わたしは再度質問をする。
「どういうこと? わたしの贖罪って、善行を積んでKPを清算することじゃないの?」
「はい、確かにこの旅はKPの清算のためのものです。でもそれだけじゃないんですよ。あなたは弱さ故に過ちを犯した。ただKPの清算をしただけでは、あなたは日本に戻ってからまた同じ過ちを繰り返す。だからこの旅の本当の目的は、自身を省み、弱さに気が付き、向き合い、そして克服すること。それこそがわたしの言う贖罪の本当の意味だったんです。そしてその本当の贖罪の意味にはカエデさん。あなた自身で気が付く必要があった」
「ほら、こう見えてもわたし、女神ですから。人間を正しい道に導くというのも、1つの仕事なんですよ」と笑う女性。
わたし自身の弱さに気が付き、そしてそれと向き合う……それが本当の贖罪……か。
机に視線を落としながら、わたしは言葉を漏らす。まるで自問自答するかのような、小さな呟き。
「……わたしは、自分の弱さを克服できたのかな?」
「はい! もちろんですよ!」
「パンッ!」と胸の前で手を叩く女神。ニコニコと明るい声で、話を続ける。
「異世界に行った当初こそ、その場のノリでナイトクランに加入したり、任務中にフェイカーから隠れようとしたりと、流され、楽な方へ逃げようとする癖が見られました。けれど異世界という全く未知の環境の中、あなたは自分の頭で考え、時には自分の意思を貫く姿勢を徐々に学んでいきました。その最たる例がナイトクランの使命を無視し、リリスに捕らえられた少女を助けたことや、サマエルを倒すために自ら作戦を立案したことですね。そして最後には、友のためにKPを増やすという、髪の毛を取り戻したいという自らの目的から遠ざかる苦難の道を選んだ。正直、わたしの想像の上を行く出来栄えです。満点を超えて、120点をあげますよ」
そっか……わたしはわたしの弱さと向き合い、そして乗り越えることができたのか……
───ん? そうなると、わたしは帰還条件を2つとも満たしたことになるのか。つまり、日本に帰れる……?
そう考えた途端、わたしの心に一気に感情の波が押し寄せた。
日本に帰れるという喜び、期待。同時に、あの世界を離れる寂寥感。ヒヅキにわたしの無事を伝えたいし、ちゃんとお別れの言葉も言えていない。
希望、寂しさ、後悔……様々な感情がごちゃ混ぜになりながら、わたしは女神の顔を見る。
……女神はなぜか、すごく笑顔だった。まるで悪戯っ子のような、楽しくて仕方がないといったような笑み。
……うん、なんだか嫌な予感がする。
「わ、わたしって日本に帰れるんだよね……?」
「実はそのことなんですがね~……」
そこで言葉を切り、含みを持たせる女性。わたしの額には青筋が浮かぶ。
「ええい! もったいぶらずに、さっさと言いなさいよ!」
「え? いいんですか? 本当に言っていいんですか?」
「いいわよ! さっさと吐きなさい!」
掴みかからんばかりの勢いで捲し立てるわたし。しかし女神はのらりくらり。
「じゃあ言っちゃいますね。カエデさんを日本に帰すことは……まだできません!」
「は、はぁ!?」
ある程度の予想はしていたとはいえ、わたしの口からは素っ頓狂な声が飛び出す。
「ど、どうしてよ!?」
「いやぁ、実はカエデさん、まだKPの清算が終わってないんですよ、あなたの罪を数えてみてください」
わたしの罪を数える……?
慌ててわたしは自分のスマホを確認する。
そこに表示されたのはKP:230024519030の文字。
───バエルの討伐によってかなり減ったとは言え、まだ230億以上のKPが残っている。
わたしは慌てふためいた。
「ちょ、ちょっと待ってよ! あなた、一言もKPの清算も帰還条件なんて言ってないじゃない!」
「はい、そうですね。と言うのも、本来はバエルを倒せばKPを全て清算できる予定だったんですよね」
は……?
わたしは改めて自身のKPを確認する。バエルを倒す前のKPは360億。倒した後は230億。減少量は130億。炎上投稿でKPを増やす前の数値と同じだ。つまり……
バエルを倒したら、KPを全部清算できたんじゃない! 髪の毛を取り戻せたのにぃぃぃ!
「きいぃぃぃ!」と発狂するわたしの目の前で、愉快そうに笑う女神。
「という訳で、KPの清算が終わるまでは、カエデさんを帰すわけにはいかなくなりました。いやぁ、まさかバエルを倒すためとは言え、自らKPを増やすとは思ってませんでしたよ。言ったでしょう? 満点を超えて、120点だと。どうやらカエデさんは、まだまだわたしのことを楽しませてくれるみたいですねー。期待しちゃいますぅ」
「こ、こんのクソ女神ぃぃぃっ!」
わたしは女神に飛びかかる。しかしそれより早く、わたしの方へ手を翳す女性。次の瞬間わたしの足元から光の柱が立ち上がり、わたしを閉じ込める。どうやら強制的に、異世界に送り返されるらしい。
拳で光の壁を叩きながら、わたしは女神に向かって吠える。
「覚えてろよ、このクソ女神が!」
「おほほほほ! せいぜいここに帰ってこれるよう、頑張ってくださいね」
高らかに笑う性悪女神。わたしはその姿を目に焼きつけながら、光の渦に飲み込まれていくのだった。
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世界を滅ぼそうとしていた暴食の王を倒したよ!
だけど日本には帰れないみたい!
わたしの贖罪の旅はまだまだ続くみたいなので、みんな、フォロー、いいね、リポストをよろしくぅぅぅ!
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残りKP 230024518217
後書き
完・結です!
ここまで付き合ってくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。楽しんでいただけたでしょうか? 楽しんでいただけてたらいいなー。
さて、筆者の2作目の作品となった今作ですが(1作目はエタってます、すみません)……未回収の伏線(天使とか、未登場の七大罪とか、ビャクヤの真意とか)があることからもお分かりの通り、一応、続編の構想はあります。まあ、あまり煮詰まってはいないのですが(汗)
正直、もとから50話程度で終わらせるつもりの構想で書き始めたので、続編を書くかどうかは未定です。書くかどうかは筆者の気分次第と言いますか、なんと言いますか……
また続編を書くにしても、それはかなり先になると思われます。と言うのも筆者はこの作品を書きながら、新しい小説のプロットを練っており、次はそちらに力を入れるつもりだからです。続編を期待された方には申し訳ありません。代わりに筆者の次回作にご期待ください!
最後に重ね重ね、あなたの時間をカエデの物語に捧げてくださって、本当にありがとうございました。またどこかの物語で、お会いできますように。
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