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51 暴食の王の城 バエルvsカエデ&ヒヅキ

 バエルの手から放たれた極光。空間を軋ませ、焦がす、死の光線だ。わたしはヒヅキの手を引きながら、その光線の中から飛び出す。


「へぇ、避けたのか。なかなかやるね」


 バエルの感心したような声。わたしはお返しとばかりに赤、青、黄色、色とりどりのキノコを放つ。


 暴食の王に襲い掛かる魔法のキノコたち。しかし男は糸刀を手に、軽やかな身のこなしで降り注ぐキノコを避け、斬り、捌いていく。


 わたしの攻撃は掠りもしない。その上、合間合間に極光を放ってくる始末。


 わたしとヒヅキはその光線の合間を縫い、空間を駆ける。早鐘を打つ心臓の鼓動が、とてもうるさく感じる。


「…カエデ……」


 なにか言いたげなヒヅキの表情。どうやら気が付いたらしい。しかしわたしは唇に人差し指を当て、小さくウインク。


 その間も、バエルとの戦いは激化の一途を辿る。


 流星の如く降り注ぐキノコを捌きながら、逃げるわたしたちを追う暴食の王。極光が、無数の蜘蛛糸が、わたしたちを襲う。


「ヒヅキ!」

「…ん!」


 こちらも負けじと応戦。極光は爆裂(バースト)キノコ(マッシュルーム)の爆発で逸らし、蜘蛛糸はヒヅキが蜘蛛糸を使って相殺。


 散り散りに霧散した蜘蛛糸が極光の光を反射し、さながら光の粒子のように周囲を舞う。


 一瞬、世界が静止したようだった。


「うーん、鬼ごっこはつまらないなぁ……そうだ!」


 わたしたちを追いかけていたバエルの足が止まる。代わりに屈みこみ、地面に手を触れる。


 なにか仕掛けてくる……!


 わたしとヒヅキが身構えた次の瞬間だった。突如、身体を浮遊感が襲う。


 なっ……! 身体が浮いてる……!? 


 わたしとヒヅキの身体は、空間にふわふわと浮いていた。いや、わたしたちだけじゃない。わたしの放った無数のキノコも、周囲を漂っている。これはいったい……!?


「僕の力の応用さ」


 わたしの疑問に答えるように、宙を舞うバエルが語る。


「ここは僕が創り出した領域。そして暴食の王の能力は認識阻害だ。それはなにも人からだけじゃない。能力の対象は、世界の(ことわり)にも及ぶ!」


 なっ……! つまりこの領域は世界の法則……重力から無視されるようになったということか……!


 くっ、まずい! これでは身動きが取れない……!


「とりあえず、君を殺すときに巻き込まれたら危ないからね。僕の娘を返してもらうよ」


 いつのまにか空間に張り巡らされた蜘蛛の巣。その上に立ち、にこやかに笑うバエルがこちらに手を翳す。


「ヒヅキ!」

「…分かってる!」


 ヒヅキが蜘蛛糸を床目掛けて射出。張りつけ、身体を引き寄せる。次の瞬間、わたしの鼻先を蜘蛛糸の束が通り過ぎていった。


 あ、危ねぇ……! 間一髪だった!


 なんとか蜘蛛糸による拘束を免れたわたしたち。しかし安心もしていられない。蜘蛛糸による移動は初見殺し。2度目は通じない。


「お、まだ避けるか。じゃあ次は逃げる先にも……」


 再びバエルの手から放たれる蜘蛛糸。それは途中で二股に分かれ、1つはわたしたちの方に、もう一方はヒヅキが蜘蛛糸を放った先に突き進む。


 まずい……! 避けきれない!


「…わたしが!」


 すぐさまヒヅキは方針を転換。蜘蛛糸を自身の蜘蛛糸で迎撃する方向へ切り替える。


「あははは! いつまで持ちこたえられるかな?」

「…く……!」


 圧倒的バエルの物量を前に、ヒヅキの表情は苦し気だ。恐らく長くは持たない。


「…カエデ!」


 ヒヅキの悲鳴のような叫びが木霊する。


 分かってる! ヒヅキが作ってくれた時間を無駄にはしない!


 わたしは頭をフル回転させる。この危機を脱する方法……! なにか、なにかないか!? 無重力のなか、自由に移動する方法……!


 そこでふと、どこまでも広がる空間の中を漂う、無数のキノコが目に入った。赤、青、黄色……色とりどりのキノコ……


 そうだ……! この方法なら……!


 自身の閃きに従い、わたしは『回転』のスキルを発動させる。キノコに対してではない。対象はわたしとヒヅキ。


 次の瞬間、わたしたちの身体が宙を滑るように動いた。キノコの周囲を軸にして、回転するように。


 よし! 上手くいった!


 わたしは内心でガッツポーズ。遠心力が生まれ、軌道が生まれる。無重力の空間に、わたしたちだけの“軌道”が刻まれていく。


 回転のスキルを使って自分自身をキノコの周囲で回転させる。そうすることで、身体を動かすことができたのだ。恐らく、無重力だからこそできる芸当。


「…これは……」


 宙を舞いながら、目を丸くするヒヅキ。しかしわたしに答える余裕はない。


 なぜなら襲い来る蜘蛛糸を避けるのに、スキルのオンオフ、『回転』スキルの対象を細かく切り替える必要があるから。おまけにバエルが張った蜘蛛の巣にも気を付けなければならない。


 くぅ……! きっつい!


 限界まで集中力を高め、わたしは空中を不規則に移動する。弧を描いたかと思えば直線運動に、直線運動になったかと思えば急降下。そんな予測の付かない動きで敵を翻弄し、その魔の手を掻い潜っていく。


 そんなわたしたちの姿に、愉快そうに笑うバエル。


「すごいすごい! いったいどんなスキルを使って、そんな自由な軌道を描いてるのかなぁ?」


 くそがっ! 余裕そうな顔をしやがって! あの憎たらしい表情を、どうにかして歪めてやりたい!


 まったく動じないバエルの様子に、わたしは奥歯をギリギリと噛みしめる。その時だった。


「あ……」


 一瞬、バエルに意識を割いたせいだろう。集中が乱れてしまった。身体の制御がきかない。まずい……!


 しかも不運なことに、リカバリーに使おうとしたキノコがバエルの極光で消し飛んでしまう。


「…カエデ!」

「うおおおおおお!」


 気合でなんとかしようとするが、どうにもならない。わたしの足が、バエルの張った蜘蛛糸に取られる。ネバネバとした、獲物を捕らえるための糸。


「あはっ! つーかまーえた!」

「なっ!?」


 背後を振り返ると、いつの間に接近されたのか? 刀を振り上げるバエルの姿。


「じゃあさようなら。傲慢の王(ルシフェル)


 勝ちを確信した笑みと共に、その刀がわたしの首目掛けて振り下ろされる。


 ドゴッ!


 響く鈍い音。バエルの表情に動揺が走る。


「いやいや、それはいくらなんでもおかしい」


 刀を振り下ろされたわたしの首には、掠り傷一つない。わたしは「してやったり!」と、口元をニンマリと歪めた。

ちょっと小話

バエルがKP100億を超えているのにハゲてない理由について。ズラじゃありません。実は、バエルは暴食の王の能力を応用し、KPが100億を超えたらハゲるというルールから忘れられた存在になっています。まあハゲるのは男女問わず嫌ですしね……

以上、バエルのしょうもない能力の使い方でした。

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