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④無敵の力を手に入れた! だけど街の様子がおかしいぞ?

「ブラーボ! ブラーボ!」

「もっとだ! もっと刺激的な芸を見せてくれぇぇぇ!!!」

「今日もキレッキレだぜ! オッドアイの嬢ちゃん!」

「どーも。どーも。ありがとうございます。ありがとうございます」


 笑顔で観客たちに手を振りながら、今日も今日とてわたしは大道芸を披露していた。毎日朝、昼、夕方の三回、同じ場所でパフォーマンスを行っているからだろう。ある程度の固定客(野郎ばっかり)も付き、最近はそれなりに繁盛するようになっていた。一回当たりの公演で3000~5000VPくらいは稼げている。


 ルシフェルを手にすることで変化した目の色も、最初は気になっていたが最近はもう気にならなくなっていた。むしろオッドアイの大道芸人として、キャラ付けに一役買っているまである。


 それに、片目だけ金色ってなんかかっこよくない?


 そんなこんなで、今日もわたしはホクホク顔でお世話になっている宿への帰路につく。手にはファン(野郎ばっかり)から貰った差し入れの果物やお菓子類の詰まった袋。


 そこでふと、わたしは怪しい男の存在に気が付いた。街灯の灯る通りの少し向こう。小道に入る浮浪者の親子の後を付けるように男が一人、小道へと入っていく。


 この世界は親切な人ばかり。だから男が親子になにかをするとは思えない。けれど、わたしはなにか胸騒ぎがしてその男を追って小道へと入った。


 目の前を歩く男を観察する。特に変わったところはない。庶民らしい服装、茶髪で細身の至って普通の青年だ。


 青年が路地を曲がる。それを見て、わたしは小走りで後を追った。そして路地を曲がると、


「きゃあああああああ!!!!」


 女性の悲鳴が上がる。見れば男が浮浪者の親子が持っていた、なけなしの食料や毛布を奪い取っているではないか。そのまま走り出し、路地の暗がりへと消えていく男。


「待て!」


 わたしは男の背を追った。大道芸のスキルはパフォーマンス技術だけでなく、単純な柔軟性や身体能力も向上させている。


 わたしは建造物の屋根を伝い、逃げた男の先回りをする。


「見つけた!」

「な!?」


 唐突に頭上から現れたわたしに、男は驚いた声を上げて立ち止まった。わたしはその男に向かって手を差し出す。


「それはあの親子のものでしょう。返しなさい!」

「誰ですかあなた!? そこを退いてください!」

「退かない! わたしの髪の毛のために!」

「髪の毛!? いったいなんの話ですか!?」


 ひったくりから荷物を奪い返す。これをチュイッターにポストすればバズること間違いなし! 1000いいねぐらいは……グヘヘ。


 なんて考えながらわたしがゲスイ表情を浮かべていると、どうも男の様子がおかしい。


「あなたが悪いんですよ……ぼくの邪魔をするから……やるしかないじゃないですか……」


 そう言いながらみるみるうちに伸びる体毛、肥大化していく身体。


 な、なによこれ!? まるで……


 ───ワオオオォォォォン……


 見上げるほどの巨体に漆黒の体毛。月光を反射して輝く鋭い爪と牙。そして嗜虐的な光を宿す金色の目。


 そこには巨大な人狼の姿があった。夜闇に遠吠えが響き渡る。


 その光景をわたしは呆然と見つめることしかできない。思考が停止し、判断が遅れる。そんな立ち竦むわたしを、二つの金色の目が捉えた。


 あ、まずい。


 そう思った次の瞬間、その巨体がわたし目掛けて躍りかかる。


 目の前に迫る巨体を見つめながら、わたしは目まぐるしく思考を巡らせた。


 どうする? 戦う? ひったくられた荷物を取り返す? バカ言うんじゃない……


 逃げるのよ! 


「いやぁぁぁ!!!!」


 わたしは本能の鳴らす警鐘に従って、悲鳴を上げるとともに踵を返して駆けだした。


 そのまま夜の暗い路地を、月明かりのか細い光だけを頼りにひた走る。幾度も十字路、T字路を通過し、自分がどこにいるかわからなくなっても、ただ恐怖から逃れるために本能のまま走り続ける。しかしどれだけ走り続けようと、背後で響く建物の崩れる破壊音と獣の息遣いが遠くなることはない。むしろ少しずつ近づいているようにすら思え、わたしの表情は段々と歪んでいく。


 そうしていくつかの路地を曲がったあと、わたしは息を飲んだ。


「行き止まり……」


 目の前には高い壁がそびえ立っている。息をつく間もなくわたしは慌てて引き返そうとするが、どうやら遅すぎたようだ。


 背後からひたっ……ひたっ……という足音が響く。ゆっくりと振り返れば、そこには黒い獣の姿。残虐な笑みの刻まれた口元からは鋭い歯が光る。


 屋根に上れば……と左右を見るが、とても上れそうな場所はない。


 わたしは人狼を睨みつけながら後退る。そんなわたしの様子に、人狼は舌なめずりをしながらじわじわと距離を縮めてくる。わたしの背中がドンと壁にぶつかった。


 だめだ。もう逃げる場所がない。


「恨むんなら下手に首を突っ込んだ自分を恨むんだな!」


 そう言って人狼がわたしに躍りかかる。わたしは死を覚悟して目を瞑った。しかし、


「へ?」


 響く人狼の間抜けな声。わたしも困惑する。確かに触れられた感触はあった。鋭い爪の感触だ。だけど死んでない。というか痛みもない。


 ……思い出した。わたし無敵だったわ。


 傲慢の王(ルシフェル)の力でわたしに傷を付けられる者はいない。つまり……


「特攻じゃぁ!」


 逆にわたしが人狼に躍りかかる。


 覚悟しろ! 傲慢パンチ!


 ぺシ!


 わたしの拳は人狼のみぞおちを捉えた。しかし人狼はビクともしない。わたしは恐る恐る視線を上げる。するとそこには、呆れたようにこちらを見下ろす金色の瞳。


「……」


 ですよね~! 無敵ってだけで、べつに強くなったわけじゃないですもんね~!


「あ、あははは……」


 わたしは誤魔化すように引き攣った笑みを浮かべながら、ゆっくりと後退る。そのわたしを逃すまいと、人狼が手を伸ばした。黒い体毛に覆われた大きな手が迫り、わたしの視界一杯に広がる。


 その次の瞬間だった。上空から一人の少女が現れ、人狼の背後に舞い降りた。闇よりも深い黒のワンピース、そしてウェーブのかかったロングの赤い髪が闇に踊る。


 わたしは吸い込まれるように少女を見つめた。目元を覆う仮面……マスカレードマスクの奥から覗く赤い瞳と視線がかち合う。


 仮面越しでも分かる可愛らしい、それでいてどこか儚く妖艶な美貌。背丈は中学生くらい。とんでもない美少女だ。


 その少女はわたしから視線を外すと、人狼を感情のこもらない冷たい瞳で見つめる。人狼もその少女に気がついたようだ。


「ウオオオオオオ!!!」


 人狼の咆哮が空気を震わせ、わたしは尻もちを付く。そのわたしの目の前で、両者は同時に地を蹴った。


 ギギギギンッ!!!


 赤い影と黒い影が宙で交錯する。少女の握った小太刀と人狼の爪がぶつかる甲高い音が暗い路地に反響し、火花が散る。


 そのまま宙で身体を捻り、壁を蹴る少女。振り返った人狼に再び躍りかかる。


 そこからの戦いは、とてもじゃないがわたしの目には追えなかった。


 赤と黒の光の筋がぶつかり、絡まり合い、離れてはまたぶつかる。地面が爆ぜ、壁が吹き飛び、破片が宙を舞った。二筋の軌跡が暗い路地を縦横無尽に駆けまわり、交錯するとともに火花が散る。


 そんなアニメの中のような光景を、わたしはただ呆然と眺めることしかできなかった。そして、その戦いは唐突に終わりを迎える。


 赤と黒の軌跡がぶつかったかと思った次の瞬間、人狼の首が宙を舞い、その身体がドサッという音と共に倒れ込む。その横で少女が小太刀を鞘に納めた。


 その様子をポカンと口を開けて見ていると、少女の赤い目がわたしの方を向いた。びくりと肩を震わせるわたしの前で、ごそごそとポケットから無線機のようなものを取り出す少女。


「…目標撃破。ただ問題が一つ。目撃者がいる」

「目撃者……何人だ?」


 感情の希薄な、しかし鈴の鳴るような美しい声で無線機に話しかける少女。対して無線機からは二十半ばくらいだろうか? 女性の冷静な声が流れる。


「…16歳くらいの少女が一人」

「一人か……ふむ……」

「…わたしは殺すのでも構わない」


 なんか物騒な話をしてらっしゃる……いや、人狼の首が飛んだ時点で相当物騒ではあるんだけどさ。


「あ、あの……」


 死ぬのは御免被りたい。わたしは意を決して話しかける。少女がこちらに視線を向けて首を傾げた。


「…なに?」

「絶対にいまの出来事は他言しないからさ! ここは見逃してくれない? ほら! この通り! お願い!」

「…そんなの信じられない」

「本当だって! 本当! わたしはなにも見てないし聞いてない! オーケー?」

「………分かった」


 微妙な沈黙の後、コクリと頷く少女。


 ズコー


 自分で言っといてなんだけど、本当に見逃して貰えるとは。ダメもとでもなんでも言ってみるものである。なにはともあれ、少女の気が変わる前にさっさと立ち去ることにしよう。


 わたしは抜き足差し脚でその場を後にしようとする。しかし、そうは問屋(とんや)(おろ)さない。少女の持った無線機から怒号が響く。


「なにを言っているヒヅキ! 目撃者は抹殺、または捕縛だ!」

「…ん、そうだっけ?」

「『そうだっけ?』じゃない! 逃がすな! 急げ!」


 やっべ。わたしは急いで逃げようと駆け出した。しかし、


「へぎゃ!?」


 なにかに足を取られてわたしは顔面から地面にダイブ。額を強打した。痛みに転げまわりながら下を確認すると、わたしの足にはワイヤーのような銀色の細い糸が絡まっている。その糸の先を目で辿ると、そこには仮面の少女の姿。


 その少女が手を動かす。するとその指の先から白い糸が射出され、わたしに襲い掛かった。わたしは悲鳴を上げる間もなく簀巻(すま)き状になって地面に転がる。


 陸揚(りくあ)げされた魚のように跳ね回りながら、わたしは抗議の声をあげた。


「ちょ、ヒヅキちゃん!? これは酷いよ! お願いだから解いて!」

「…命令だから無理。それより、なんでわたしの名前を知ってる?」

「さっき無線機から聞こえたよ!」

「…む、そうだった」


 ……この子、けっこう天然なのだろうか?

 そんなことを思いながら、わたしは少女に担がれてどこかへ連れ去られる。


 そして連れ去られた先で、わたしは究極の二択を迫られることになる。


「死ぬか、それともここで働くか、おまえはどっちがいい?」


 もちろん答えは……どっちも嫌ですぅぅぅぅ!!!!


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 親子からひったくりをする悪いやつ発見! いまから追いかける! 無事に捕えられたらまた報告するね! その時はいいね、リポスト、フォローを是非よろしく!


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 残りKP 12999999993

ご高覧いただきありがとうございます。

VPってPVに似てますよね。

おれも1話で3000~5000PVくらい欲しいものです…

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