㊳絶対に許さない! サマエルの居場所
「どういうことか、説明していただけますか?」
首を掴んだまま、黒衣の女性が男性を詰問する。男は宙吊りの状態で、怯えた目をビャクヤに向ける。
「な……んで……」
「なんで分かったかって? ここに来るまでのあなた方の様子がおかしかったので、スキルを使って警戒していたとだけ」
彼らの様子がおかしかった……?
確かに、言われてみればそうだ。
男は森の様子がおかしいから調査に来たといった。それは問題ない。でも、一人でというのは妙だ。周囲を森に囲まれたこの村にとって、森の異常は一大事のはず。そんな大切な調査を、たった一人で行うか? それにいま思えば、男の足の傷は転んでできたものには見えなかった。まるで鋭利なもので斬りつけたような……まさか自分で!?
他にも怪しいことはあった。村の異様な緊張感、わたしたちが食事を了承した時の夫婦の安堵した様子とか……
だから食事を口にする前に、予知の王で未来を見たのか。そして恐らくだが、スープを飲んだビャクヤ自身かヒヅキか、あるいは両方が倒れる未来が見えた……
でもなぜビャクヤは見え見えの罠に自ら飛び込むような真似を?
「それで、わたしの質問にはいつ答えていただけるんですか?」
以前として男性を問い詰めるビャクヤ。その足元に、涙を流した男性の奥さんが縋り付く。
「お願いです! やめてください! 夫が……夫が……」
縋りつく女性を冷めた目で見下ろしたビャクヤ。足を振り、奥さんを引き剥がす。しかしそれでもなお縋り付く女性。
「脅されただけなんです! だから、どうか命だけは……!」
「やっぱりですか……詳しく説明していただけますか? 主に、サマエルの居場所について」
パッと男性を掴んだ手を放す白髪の冷鬼。女性はコクコクと頷いた。
なるほど。罠と踏んだうえで、ビャクヤがあえて誘いに乗った理由はサマエルの情報を聞き出すためか。人質を取ってまで、彼らにわたしたちを殺すよう指示した以上、サマエルはその成否を近くで見ている可能性が高い。
わたしの推測を他所に、大きく息を吐くビャクヤ。その身体がゆっくりと傾く。わたしは咄嗟に彼女の身体を支えた。
「あわわわ! 大丈夫!?」
「おっとっと……すまない。少し立ち眩みがしただけだ」
小さく頭を横に振りながら、目をしばたたかせるリーダー。「ありがとう」と微笑むと、いつもの様子に戻る。少し訝しく思いながらも、特には問い詰めない。そんなわたしたちに、夫の肩を支えた女性が声を掛けた。
「こちらに……」
夫婦に案内され、わたしたちは奥の部屋へと踏み入れた。
そこは薄暗い寝室。壁際は3つのベッドが並んでいる。そしてその一番奥のベッドには、小学校低学年くらいの少女が眠っており、布団が呼吸に合わせて上下している。しかし、どうにも様子がおかしい。
少女の顔には紫色の斑模様が浮かんでいた。これはまさか……
「…サマエルの毒」
わたしより先に、ヒヅキが呟いた。隣でブルーが拳を強く握り、奥歯を強く噛みしめる。
「あなた方に毒を盛ったのは、その子のためなんです」
そう言って、女性が説明を始めた。
曰く、見知らぬ老人が森で遊んでいた村の子供たちに毒を飲ませたと言ってきた。彼らを助けたければ、枯れ木の道を通る一団に、老人が渡す毒を飲ませて殺せ。そして証拠に首を持ってこいと要求してきたという。
サマエル……なんて惨いことを……
顔を覆う父親。「ごめんなさい……ごめんなさい……」と涙を流す母親。そしてベッドの上で苦し気に息をする少女。
わたしたちの追跡から逃れるために、なんの罪もない人たちを巻き込むなんて。しかもまだ年端もいかない、こんな小さな女の子を人質に取って……
部屋に静かな怒りが満ちていく。わたしは奥歯を噛みしめると、男にサマエルの行方を問いただした。
「サマエル……老人はわたしたちの首を要求したんですよね? どこに持ってくるよう言われたんですか!?」
「……村から南に十分ほどの場所ににある、湖で待つと」
わたしたちは顔を見合わせた。ビャクヤが大きく頷く。
「いますぐ向かうぞ。これ以上被害者が増える前に、やつを仕留める!」
リーダーの力強い言葉に「了解!」「…ん」「もちろんよ!」と口々に返答すると、わたしたちは部屋を飛び出すのだった。




