③異世界にやってきた! 平和そのもの!
異世界にやってきた。周囲を見回す。街並みは歴史で習った中性ヨーロッパといったところだろうか? レンガ造りの建造物。通りには露店が立ち並び、人々がそれを物色している。
もうちょっと詳しく見てみよう。とある露店、店主と女性客のやり取りに注目する。どうやら女性は蝶の髪飾りが欲しい様子。
「このアクセサリーはいくらですか?」
「そいつは7000VPだよ!」
「7000ですか……ちょっと高いけど買っちゃおうかな」
「毎度あり~!!!」
店主が女性に髪飾りを渡す。しかし女性がお金を渡す素振りはない。代わりに女性の右手の甲に書かれた数字。それが7000減少した。
なるほど。手の甲に書かれた数字がVPなのだろう。そのやり取りでこの世界は回っているらしい。
わたしも試しにリンゴを一つ買ってみた。結果、
VP:87267
VPが300減った。リンゴ一つ300VP。1VP=1円と解釈して良さそうだ。他にもちょいちょい見て回ったところ、物価は日本とあまり変わらないこともわかった。
つぎはどうすればVPが増えるのかの検証だ。ちょうどそこに、大きな荷物を運ぶおばあちゃんがいるので声を掛ける。
「おばあちゃん! よかったら手伝うよ!」
「それはありがたいねぇ。じゃあお願いするよ」
というわけで荷物を運ぶ。そして運び終わり、
「ありがとうねぇ」
「いえいえ! これくらい大したことないですよ! ───あ、よかったら一緒に、写真を撮ってもらってもいいですか?」
「シャシン……? よく分からないけれど、構わないよ。お嬢ちゃんには荷物を運ぶのを手伝ってもらったしねぇ。わたしにできることなら協力するよ」
「ありがとうございます! じゃあわたしが持ってるこれに視線を向けてもらって───そうそう! できたら笑ってもらえると嬉しいです───わぁ! いい笑顔! じゃあ取りますねー。はい、チーズ!」
カシャッ
「ありがとうございました!」
「もう終わったのかい?」
「はい! ばっちりです!」
おばあちゃんにグッと親指を立てて見せたわたしは、早速その写真をチュイートする。
「『おばあちゃんの荷物を運ぶの手伝ったよ!』っと……投稿!」
ついでに、道に落ちていたバナナの皮も拾っておく。それもチュイッタ―に投稿。すでに善行を二つも積んでしまった。これは幸先の良いスタートかもしれない。
そんなことを思いながら、わたしはつぎにVPを確認する。善行を積んだので増えているはずだが果たして……
VP:87270
3増えている。一方、おばあちゃんの手の甲に書かれた数字に変化はない。
なるほど。人から感謝されるとVPが増える。けれど商売じゃなければ相手の数字は変動しない。こういうことだろう。けれどこの制度では、いずれポイントが飽和してインフレを起こすんじゃないか? という疑念が浮かぶ。しかしそれは杞憂だったようだ。
おばあちゃんに見送られ、再び道を歩いていた時だった。よそ見をしていて、うっかり少年とぶつかってしまった。スッ転ぶ少年。わたしは慌てて彼に駆け寄る。見ればどうやら擦り剥いてしまったようで、膝からは血が出ている。
「ぼくごめんね? 大丈夫?」
「うわあああん!」
泣き出す少年。そこでふと、手元のスマホの数字が目に入った。
VP:87170
100減っている。人に悪いことをすれば、VPは減少する。そういうことだろう。まあ美徳ポイントだしね。そりゃそうか。
わたしが子供をあやしていると、親切な女性が声を掛けてくれる。
「どうかしましたか?」
「あ、はい。ちょっとわたしの不注意でこの子とぶつかってしまって。怪我をさせてしまったんです」
「あら、それは大変。ちょっと見せていただけます?」
「はい、どうぞ」
わたしが退くと、女性は子供のもとにしゃがみ、膝に手をかざす。すると女性の手から淡い緑の光が放たれ、少年の膝を包む。見る見るうちに塞がっていく傷口。
少年は元気になると、笑顔で走り去っていった。その背を見送りながら、わたしは女性に頭を下げる。
「助けていただいてありがとうございます」
「いいのよ。困ったときはお互い様ですからね」
そう言って女性はおしとやかに微笑む。なんていい人だろう。あの女神とは正反対だ。というか、先程の緑の光はなんだろう? 疑問に思ってわたしは女性に尋ねてみる。すると、
「あれは治療術師のスキルですよ。傷を癒すことができるんです」
とのこと。スキル……そう言えばわたしのスマホにもそんな文字があったなと思い出す。女性と別れた後、早速わたしはスマホを見る。
蒼く輝くスキルの文字をタップすると、
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初級水魔法:50000VP
初級土魔法:50000VP
初級炎魔法:50000VP
初級風魔法:50000VP
錬成スキル:20000VP
農耕スキル:10000VP
・
・
・
・
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もはや把握しきれないほどのスキルが表示される。というか……
「高すぎない!?」
わたしのポイントは9万ないくらい。しかもVPは人助けして増える量よりも、うっかり悪いことをしたときに減る量の方が多い。生活費もVPだし、万一のことを考えて使わずに置いておくべきか……
しかし先ほど、おばあちゃんを手伝ったのとごみ拾いをしたので合計3ポイントしか入らなかった。さらに言えば、チュイートの方もまったく反響がない。いまだに0いいねである。
ここは生活費を稼ぐために、そして効率よくいいねを稼ぐためにもスキルを取得するべきだろう。スキルがあればできることの範囲が広がるし、地球にない、この世界独自の仕組みはどんどん利用していく方が、物珍しさからバズる可能性が高くなりそうだしね。
けれど残念ながら現状、「あれもこれも!」とスキル習得はできないのもまた事実。ここは慎重に最初のスキルを選ぶ必要があるだろう。
それからじっくりと吟味した結果、わたしが選んだのは、
大道芸:30000VP
はい。こちらです。道で見せ物をすれば、それなりに稼いだうえで、チュイッタ―でも反響があるのではないか? と考えた結果だ。
思いついたが吉日! わたしはさっそく道具を用意すると、芸を披露すべく表通りへと向かった。
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リンゴのジャグリングを終え、優雅な一礼をする。周囲からまばらな拍手が起こった。
うーん。初日だからだろうか。客引きはいまいちだったな。VPも200ほどしか増えていない。
まあ、また明日から頑張ればいいか!
そう思ってわたしは、今夜の宿を求めて再び街の散策を始める。そうしてジャグリングで使ったリンゴをシャクシャクと貪りながら、石畳の道を歩いていると、少し向こうに大層な人だかりができているのが見えた。
なんだろうか? 気になって見に行くと、その人だかりの中央には浮浪者のようなぼろきれを纏う親子の姿。そして、
「ほらほら、お腹空いてるでしょう? これでも食べなさい!」
「まだ夜は冷えますからね。この毛布もどうぞ~」
「わたしもこれあげる!」
老若男女問わず、食料、衣類、ランプなど、いろいろなものを親子に手渡す集団。親子は涙を流しながら「ありがとうございます。ありがとうございます」と頭を下げている。
なるほどなぁ……この世界は人に親切にするとVPが増える。だからみんな親切で、困っている人がいれば手を差し伸べる。そんな幸せに満ちた世界なのだろう。
わたしは頷きながら満面の笑みを浮かべる。争いの生まれない、なんて素敵な世界! 素晴らしい! わたしも生活に困窮した時は、周囲の人達に物資を恵んでもらうことにしよう!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それから数日。わたしは大道芸を披露して日銭を稼ぎながら、同時にキノコ栽培師のスキルも取得していた。
え? キノコ栽培師を取った理由? それはキノコの成長って速いし、適当に育てても割となんとかなるから。椎茸は10日で育つし、さらに美味しい。自給自足にもぴったりだ。
そしてある日、わたしはあることに気が付いた。それはスキルを取ろうかとスマホを触っていた時のこと。
宿のベッドで寝転んでいたわたしは、うっかり赤文字で表示されているカルマポイントに触れてしまった。次の瞬間、表示されたページに、わたしは思わず言葉を漏らす。
「……なにこれ」
そこには真っ黒になった画面に、血のような赤文字でスキルが表示されたのだ。
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豊穣の王:100000000VP
地震の王:100000000VP
見通す者:100000000VP
呪いの王:300000000VP
解き明かす者:500000000VP
砂漠の王:100000000VP
・
・
・
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なんだこれは。悪魔や怪物の名前の付くスキル。高いものは5億VP、安くても1億VPが必要。わけがわからない。こんなもの、女神からは説明を受けていない。
もとの画面に戻りたくても戻れない。わたしはわけもわからずに画面をスクロールしていく。すると、その悪魔スキルのなかに一際、目を引くものが。
傲慢の王:0VP
わたしは戸惑った。ルシフェルって、あのルシフェルだろうか? 七つの大罪。傲慢の悪魔。でもなぜ0VP? ルシフェルって悪魔の中でも最強クラスなんじゃ……
わたしは気になって、その赤文字をタップする。その次の瞬間、
「うあっ!? ぐっ!? あぁ!?」
わたしの左目を、この世の終わりかと言うほどの猛烈な痛みが襲う。なにが起こったのか分からない。声にならない悲鳴を漏らしながら、左目を抑えてベッドの上をのたうち回る。
死ぬ。そう覚悟するほどの壮絶な痛み。
しかし数秒後、その痛みは急速に引いていく。そして痛みが完全になくなったわたしは、目に涙を滲ませながら床に落ちたスマホを拾った。目の様子を確認しようと、内カメラを起動する。そして画面を見たわたしは絶句した。
「なにこれ……」
日本人らしい黒の瞳だったはずのわたしの左目。画面に映るその瞳が、なぜか金色に変化していた。混乱したまま、わたしは目元に触れる。当然、画面にもわたしの手が映る。間違いない。本物だ。
わたしは震える手でスキル画面を開く。間違いない。こうなったのはあのスキルのせいだ。わたしは傲慢の王をタップして説明を開く。そこには赤い文字でこう表示されていた。
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我よりカルマポイントの低き者、我を傷つけること能わず
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瞳の色が変化した理由は書いていない。しかし、わたしはそのスキル説明を食い入るように見つめた。
我よりカルマポイントの低き者、我を傷つけること能わず? カルマポイントがわたしよりも低い人は、わたしを傷つけることができないってこと?
ふむ……わたしのカルマポイントはテロリストも真っ青の130億だ。
てことはつまり……わたしって無敵?
本日のポスト(フォロワー 7)
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大道芸で日銭生活ナウ! 魔法とかいろいろスキルあるから、余裕出来たらわたしも取ってみたい!
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残りKP 12999999996
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