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㉙クズどもをぶっ飛ばしたよ! だけどもっとやばいやつが現れた!

雷撃(サンダー)キノコ(マッシュルーム)!」

「あばばばっ!?」


 電撃が炸裂し、最後の一人の修道士が倒れる。気絶した修道士たちを目の前に、顔を真っ青にしてプルプル震える教皇。


「な!? ───こ、こんなバカなことが……」

「つぎはあなたよ! 覚悟しなさい!」


 わたしの怒声に怯み、一歩、二歩と後ずさる教皇。足元に転がった修道士の一人にチラリと視線を向け、罵声を浴びせる。


「なにを寝ている! 立て! 立って我を守らんか! なんのために高いVPを払ってやってると思ってる!」 


 修道士を足蹴にする教皇。「あの兵力差で負けるとは……使えん奴らめっ」と歯ぎしりをする。そのデブを氷漬けにしてやろうと、わたしは青キノコを持った手を振りかぶる。顔を真白に、慌てふためく教皇。


「ま、待て! VPをやる! だから───」

「うるさい!」

「ひ、ひぃ!?」


 デブの言うことに耳など傾けはしない。わたしは一思いにキノコを投擲。しかしその凍結(フリージング)キノコ(マッシュルーム)は教皇ではなく、デブが引き起こした修道士に着弾。グレゴリー三世には届かない。


「な、あの野郎……仲間を盾に───!」

「ひぃぃぃ!」


 助かったと見るや否や、すぐさまこちらに背を向けて逃走を図るデブ。その背にわたしは追撃をしようとする。しかしその時だった。出入り口からヌッと、巨大な影が現れた。


 それは身長二メートル近い、色黒の大男。黒のローブの上からでも分かるプロレスラーもかくやと言うべき筋骨隆々の肉体に、ツルッとした坊主頭。狂暴な笑みを浮かべる顔の右には、縦に大きく牙のような入れ墨が彫ってある。


 逃走を図った教皇はその男を見ると、小躍りしながら擦り寄っていく。


「ヴォルフ様! 助けに来て下さったのですね!」


 靴でも舐めそうな勢いで縋り付いていく教皇。こちらを振り返ると先ほどまでの態度とは一転、見るからに調子に乗ったニヤニヤ笑いを浮かべる。


「ひひひひ! 貴様らの命運も尽きたな! ヴォルフ様がいれば百人……いや千人力! 素っ裸で命乞いしようがもう許さん! というわけでやっちゃってください!」


 ヴォルフと呼ばれた大男を満面の笑みで振り返る教皇。しかしヴォルフは目の前のマッシュヘアを鷲掴みにすると、目を皿のように見開いて教皇を睨みつける。


「おい、それよりてめぇ。なんだこの体たらくはよ?」

「へ、へぇ?」

「これだけの兵がいながら、たった数人の賊も捕まえられない。道中にはおれの部下たちが転がってる。てめぇが任せろと言うからここ(麻薬工場)の警備を任せたわけだが……どう言い訳すんだ? あ?」

「ひ、ひぃぃぃ! お許しをぉ!」


 ジタバタと藻掻く教皇と、それを軽々押さえつける大男。わたしはそれをチャンスと見て、爆裂(バースト)キノコ(マッシュルーム)をヴォルフ目掛けて投擲。しかし、


「ちょこぜぇ!」

「なっ!?」


 大男は触れた時に炸裂した爆炎もろとも、片手で軽々と赤キノコを弾き飛ばした。とても人間技とは思えない。それを見たヒヅキがわたしの横に立ち、耳打ちをする。


「…あいつはやばい。わたしが引きつけてるうちに子供たちを逃がす」

「う、うん。分かった」

「なにをコソコソと相談してんだぁ?」


 ヴォルフがこちらに視線を向け、凶悪な笑みを浮かべる。それには答えず、刀を構えるヒヅキ。それを見て教皇を横に放り投げる大男。


「はっ! 先に豚と話をつけようかと思っていたが、どうやらそんなに早く死にたいらしいなぁ? いいぜ。相手してやるよ」


 こちらを挑発するような笑みと共に、クイックイッと指を動かすヴォルフ。かかって来いということか。


 しかしヒヅキは動かない。身構えたままジリジリと機を窺う。それを見て片眉を上げた大男。


「そっちが来ねぇなら、こっちから行くぜ」


 そして次の瞬間、ヴォルフの姿が掻き消える。同時にヒヅキも飛び出した。それを合図に、わたしは背後の子供たちに指示を飛ばす。


「今よ! こっちn───」

 ボゴォォォォン!


 しかしわたしの言葉は最後まで続かなかった。なぜなら轟音の直後、背後に巨体が立ったのを直感で察したから。恐る恐る振り返ると、そこには予想通りヴォルフの姿。震え上がるような笑みと共に、こちらを見下ろしている。


 わたしは震える唇で言葉を絞り出す。


「ひ、ヒヅキは……」

「あぁ? あのチビならあそこだぜ?」


 男の指差す方を見ると、そこには壁に叩きつけられ動かなくなったヒヅキの姿。


 あ、ありえない……あのヒヅキが一撃で……


 赤髪の少女の背面には放射状に砕けた壁面。それがどれほどの力で彼女が叩きつけられたのかを彷彿とさせ、わたしは絶叫した。


「ヒヅキィィィィ!」

「おーおー、安心しろ。死なねぇ程度に手加減はしてるからよ」


 少女の身を案じ、駆け寄ろうとするわたし。その首根っこをヴォルフが掴む。咄嗟にジタバタと藻掻くが、あまりの膂力(りょりょく)に振りほどくことができない。「キッ!」と睨みつけると、ヴォルフは不敵な笑みを返してくる。


 その次の瞬間だった。


「カエデさんを放せ!」

 ドンッ! ドンッ!


 二つの銃声が鳴り響く。瞬間、わたしの視界が歪んだかと思うと、気が付くとわたしは頭を大きな手に鷲掴みにされ、床に組み伏せられていた。横には同様のモモの姿も。


 頭上からドスの利いたヴォルフの声が響く。


「下手な動きしてみろ。お前らの首をへし折ってやるぜ? ははぁっ!」


 その言葉にキノコを生成しようとしていたわたしは動きを止める。わたしは大丈夫だ。しかしモモはそうもいかない。なにか起死回生の一手はないか。必死に思考を巡らすが、いいアイディアは出てこない。


 打つ手なし……か。


 そうしてわたしが自身の無力感に打ちひしがれていると、ヴォルフが教皇に指示を飛ばした。


「おい、その辺のやつらを叩き起こして、こいつらを縛っとけ」

「は、はいっ。ですが縛ってどうするおつもりですか?」

「あ? こんな雑魚ども知るかよ。地下牢にでも放り込んで、テキトーに薬漬けにでもしとけ」


 その大男の言葉に首を縦に振る教皇。叩き起こされた修道士たちがわたしとモモを縄で縛る。それを確認して立ち去ろうとするヴォルフ。しかし途中でなにかを思い出したように立ち止まると、こちらを振り返った。


「そうだ。あそこで転がってる赤髪のチビは、目が覚めたらおれの部屋に連れてこい。仮面で隠してはいるが、あれはなかなかの上玉だ。まだガキだし、生意気なところもあるが……あとで従順になるまでたっぷりと躾けてやるからよぉ! 分かったかぁ?」


 そう言い残すと、ヴォルフは今度こそ立ち去っていくのだった。


 一方、わたしたちは子供たちに浴びせられる罵声を背に、さらに地下へと連れていかれる。教皇と三人の修道士に連れられて向かった場所は牢獄。


 いまここにいるのは修道士と教皇だけだ。ヴォルフとかいうやつはいない。腕は縛られているが、わたしならキノコでこいつらを倒すことは可能。ぶっ飛ばして逃げるか?


 そんな考えが脳裏を過ぎるが、修道士の肩に担がれたヒヅキを見てその考えを打ち消す。


 いや、モモと二人とはいえ、ヒヅキを連れて逃げるとなると脱出は困難。下手したら再びあの大男と遭遇するかもしれない。そうなれば今度こそどうなるか分からないだろう。ここはヒヅキが目を覚ますのを待ってから、機を窺う方が賢明か。


 そう判断し、わたしは素直に教皇たちに付き従う。そうこうしていると一つの鉄扉の前に着いた。前を行く修道士がその扉を開くと、ジトジトとカビ臭い空気が鼻を突く。


 決して気分のいい臭いではない。しかしそれよりもわたしが気になったのは、遠くから聞こえる「あ”あ”あ”あ”あ”あ”……」という無数の人々の唸り声。地下通路を進むごとに大きくなるそれは、次第にハッキリとした言葉へとなる。そして地下牢に着いた時、わたしはあまりの光景に言葉を失った。


「せ”い”ず”い”ぃぃぃ!」

「よ”こ”ぜ”ぇぇぇ!」

「お”お”お”ぉぉぉ!」


 それは地下牢に幽閉された、薬漬けの人々の声。薬物中毒の禁断症状に侵され、苦痛の悲鳴を上げている。彼らは修道士たちの姿を見ると、鉄格子に縋りつき、死に物狂いでこちらに手を伸ばしながら鉄格子を激しく揺らす。


「触るな! 汚いうじ虫どもめ!」


 服に触れそうになった彼らの細い手を、グレゴリー三世は容赦なく足蹴にする。しかしそれでも、痛みを感じていないかにように腕を伸ばし続ける人々。


 それを見ていたわたしは、とある可能性に思い至り絶句する。


「まさか……この人たちって子共たちの……」

「ふふふ。気が付いたか。そう! 上であくせく働いてるゴミどもの親たちだ!」


 あっさりと事実をバラす教皇。わたしはデブを睨みつけた。


「なんでこんな酷いことを……」

「酷い? 弱者から搾取してなにが悪い?」


 しかしデブ男に悪びれた様子は微塵もない。


「こいつらはガキどもへの人質だが、どうせ自分の親がいまどんな状態なのかなんて分かるまいて。ならばこいつらをどう扱おうが、我らの勝手であろう」

「それならこんなに苦しめる必要もないじゃない。それをこんな劣悪な環境に置いて、しかも薬漬けなんて……」

「ふんっ。貴様はなにも分かっていないな」


 通路の奥へと歩を進めながら、わたしの言葉を鼻で笑う教皇。


「こいつらは薬を与えれば喜ぶ。これを利用しない手はないであろう」

「……どういう意味よ」


 言葉の真意を掴み切れず尋ね返すわたしに、ニヤニヤと嫌な笑みを返すグレゴリー三世。


「VPは善行をすることで増える。そして善行とは突き詰めれば人に感謝されること、喜ばれることに繋がる。つまり他者に感謝されれば、喜ばれればVPが増えるわけだ。そしてその感謝や喜びは大きければ大きいほど、得られるVPも増える。ほんで薬漬けのこいつらは、薬を与えれば大喜びするわけで……」


 そこまで言われれば教会がなにをしているのか、わたしにも想像がつく。あまりにもおぞましいその行いに、わたしは怒りを露わにした。そんなわたしの様子に、愉悦に染まった高笑いをする教皇。


「どうやら理解したようだな! そう! 極限まで我慢させた状態で薬を与えれば、こいつら(薬物中毒者)は狂喜乱舞する! そうすれば我らは大量のVPを手に入れることができるという寸法よ! 一石二鳥! 人質の完璧な活用方法であろう!?」

「このゲス野郎が!」


 わたしの罵声が空間に木霊する。しかし教皇の高笑いは止まらない。


「わはははは! 好きに罵るがいいさ! どうせすぐ貴様等もこいつたちと同じように、薬のことしか考えられないゴミと化すんだからな!」


 そう言ってわたしたちをそれぞれ別の鉄格子の中に放り込むと、教皇たちはその場をあとにする。わたしは徐々に遠ざかる高笑いを聞きながら、ただなにもできない悔しさに(ほぞ)を嚙むことしかできないのだった。

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