⑳急募 リリ〇の倒し方
「あなたたちに、わたしを殺すことはできないわ。絶対にね」
焼けただれた皮膚、身体中の裂傷、さらには切断された首さえも再生し、爆発前の姿まで戻ったリリ。にやりと口元を歪めながらこちらを睥睨してくる。さらに、腹部の黒い穴からは再び悪魔たちが湧きだしてくるではないか。
あれは無限なの!? 無限湧きなの!?
リリに疲弊した様子はなく、際限なく溢れ出すデーモンたち。その様子を見て、わたしの頬には冷や汗が伝う。
「凍結キノコ!」
回転していたキノコを発射。同時に「ドンッ! ドンッ!」という銃声と共にモモの銃から弾丸がリリに向かって放たれる。次の瞬間、リリは凍結。そして銃弾はシスターの眉間、心臓を正確に撃ち抜いた。
しかし、それでもみるみるうちに再生していくシスター。
「あははは! 無駄無駄! こんなの痛くも痒くもないわ!」
斬っても、撃っても、凍らせても駄目。わたしたちの労力を嘲笑うかのように、リリの哄笑が響き渡る。クソッ! これではらちが明かない。わたしはヒヅキとモモに向かって叫んだ。
「いったん撤退して、態勢を立て直すべきじゃない!?」
「だめだよ! このままシスターを逃がしてしまえば、つぎはどこで子供が犠牲になるか分からない!」
しかしわたしの進言はあっさりとモモに退けられてしまう。だが、モモの言うことはもっともだということも理解できた。このままわたしたちが引いてしまえば、リリさんが逃げる時間を与えてしまう。そうなればもういちど彼女を探し出すまでにどれだけの人が犠牲になるか。
ならいったいどうする!? なにか弱点はないか!?
わたしは襲い来る悪魔たちを退けながら、必死に思考を巡らせる。その時だった。天啓のように、さきほどモモが零した言葉が脳裏に蘇る。
『お母さん』
そこで点と点が線で繋がるように、ライトから聞いた話とその言葉が一本の糸で結びつく。たしかモモのお母さんはフェイカーになってしまい、ビャクヤに討伐された。その時にモモは保護されたという話だったが……
ひょっとして……
「モモ! もしかしてリリさんの能力って、あなたのお母さんのと同じ!?」
「うん。あの姿、ぼくの記憶にあるお母さんの姿と全く一緒だよ」
ビンゴ! だとしたら……
「じゃあビャクヤに聞けばリリさんの倒し方が分かるはず! 無線機で連絡を取って……」
「…それは無理」
しかしわたしの言葉はヒヅキに遮られる。「なんでよ!?」と食って掛かろうとして、そこでわたしも気が付いた。先ほど、地上と連絡を取ろうとした際に無線機が使えなかったことを。おまけにビャクヤのいるナイトクランの拠点とここはかなりの距離がある。いますぐリリの倒し方を聞きだすのは不可能だ。
なら、だれかがここから抜け出して……
「誰一人として、ここから逃がさないわよ!」
当然、シスターとデーモンズがそれを妨害する。そもそも一人が脱出したとして、残った二人の負担がかなりでかい。ならどうする? なにか攻略の糸口は……
「モモはリリさんの倒し方わからない? どうやってビャクヤがお母さんを倒したかとか」
「ごめん……詳しいことは知らないんだ」
申し訳なさそうに肩を竦めるモモ。まあ仕方ない。例え良い母親じゃなかったとしても、母親の死にざまなんて子供に聞かせるもんじゃない。実際、モモも辛そうな表情を浮かべている。しかし彼は、それでも言葉を続けた。
「でも、一つだけ覚えてることがある」
「なんでもいい! 攻略の糸口になりそうなことなら全部教えて!」
銃を撃ちながらモモが頷く。そして口を動かすと、
「ぼくのお母さんが持ってたナイトメアスキル。その名前は……悪魔の母」
「それだけは覚えてる」と、か細く続けるモモ。わたしはモモの発した名前を反芻する。
リリス……リリス……
リリスって、あのリリスだろうか? 日本でも割と有名な、女の悪魔。
ギインッ!
戦いの喧騒の中、金属同士がぶつかり合うような音が鳴り響く。見ればヒヅキが振るった刀を、リリが自身の爪で防いだようだ。
「やはりあなたたちは、絶対に生かしては帰さない……」
ぶつぶつと呟くリリの視線はヒヅキを通り越し、モモに注がれている。ギラリと輝く目を見れば、シスターの持つナイトメアスキルがリリスであり、それを言い当てられて動揺しているのが見て取れる。
これは大きな一歩だ。必ずやリリを倒す鍵となるはずだ。
「ああああぁぁぁ! 殺す殺す殺す!」
錯乱したシスターが絶叫する。それとともに腹部の穴から雪崩の如く悪魔が溢れ出し、その濁流にのみ込まれそうになったヒヅキが咄嗟に飛びのいた。モモは少女の前に立ち塞がりながら、二丁の拳銃で確実に悪魔たちを葬っていく。
そんな彼らを見つめ、わたしは声を張り上げた。
「少しだけ時間を稼いで! わたしがリリさんの倒し方を見つける!」
「…なにか当てがある?」
「ある! だから任せて!」
一瞬、ヒヅキとわたしの視線が絡み合う。赤い目は雄弁に、あなたに託すと物語っていた。わたしはそれを見て、大きく頷き返す。次いでモモに視線を向けると、モモも目で頷き返してくれた。
二人の了承を得て、わたしはスマホを取り出す。まずは電波があるかどうかだが……どうやら問題ないらしい。地下だから電波が通じない可能性も考えていたが、杞憂で済んで一安心。
さっそく、わたしはスマホの画面に指を走らせる。
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急募 リリスについて教えて! できるだけ早く! お願いします!
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手短にチュイッターに文章をポスト。返信が来るのを固唾を飲んで待つ。
この間にも戦況は一段と激しさを増していく。悪魔たちの咆哮や断末魔、リリの怒声、ヒヅキの刀と悪魔の爪がぶつかる金属音、銃声。あらゆる戦闘音がわたしの鼓膜を揺らす。わたしが離脱した分、二人の負担は大きくなっているはずだ。
スマホを持つ手の平がじっとりと汗で濡れる。一秒がとても長く感じる。
お願い早く! だれか返事を!
ピロン
スマホの通知が鳴った。わたしは急いで返信を確認する。
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ディアブ〇4のウーバーリ〇スのことコポ? あいつはなかなか強かった思い出。拙者もかなり苦労したこぽぉ。攻略で意識することはリリスの呪文で、地面を血で覆う魔法を使うでござるけど…………
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違う! ゲームの話じゃない! どこのかは知らないけど、教典とかで触れられてる悪魔のリリスのことを聞いてんのよ!
はやる気持ちを抑えながら、返信をしようとする。その時だった。
ピロン
もう一件、返信がきた。慌ててそれを確認すると、どうやら以前のゾンビ事件の際にアドバイスをくれた人だ。これは少し期待ができそうである。
わたしは急いで返信の内容に目を走らせる。
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リリスはユダヤ伝承に見られる女性の悪魔。悪霊や妖怪とも言われているが、共通するのは子供を害する存在として伝えられていること。リリトと表記されることもあり、語源はヘブライ語で「夜」を意味するライラ―、あるいは古代バビロニアのリリートゥと言われる。
一説ではアダム同様、神が土から創り出した2番目の存在とされ、アダムの最初の伴侶になったと伝わっている。しかしひょんなことからエデンの園を追放され、その後はサマエルの伴侶となり、無数の悪魔の生みの親となった。また、そのリリスの子供たちはリリムと呼ばれている。
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ありがとう、顔も知らないどこかの人。そこにはリリスの語源や伝承について、かなり細かい部分まで載っていた。わたしはそれを急いで読み、なにか悪魔の母の攻略の糸口になりそうな情報はないかを探す。
そしてその返信の中でわたしが気になったのは、リリスの出自について。リリスは土から創られた存在……
もしかしたら……いや、突拍子もない考えだ。しかし、動かないことにはなにも始まらない。いまは可能性のあることは、なんだろうと試さなければ!
わたしは大きく息を吸い込むと、声を張り上げた。
「リリさんの倒し方、分かったかもしれない!」
「本当!?」
「うん! リリさんを地面から引き離してから攻撃して! そうすれば再生しないかも!」
リリスは土から生まれた。なら地面に触れている限り、土を用いて自身の身体を再生することができるという能力があっても不思議じゃない。それならば、土のない場所……空中や水中でリリさんを攻撃すれば再生しないのでは!? という仮説だ。
そんなわたしの言葉に、不思議そうな顔をするモモ。リリさんも、
「ふん……そんなことでわたしを殺せはしない。無駄な足掻きはやめて大人しく死にな!」
と嘲笑する。しかしわたしは見逃さなかった。わたしの言葉を聞いた時、シスターの顔が一瞬だけ蒼白になったのを。そしてそれはヒヅキも見ていたのだろう。わたしの指示を聞くと、間髪入れずに指から無数の蜘蛛の糸を放出。一斉にリリを襲わせる。
しかしシスターリリもそう簡単には捕まらない。自身の子である悪魔たちを盾に、四方八方から襲い来る銀の糸を掻い潜る。さらに腹の穴からデーモンたちを放出。視界を覆いつくさんばかりの勢いで、悪魔たちが急速に部屋を埋め尽くしていく。
このまま逃げるつもりだ。わたしは直感的にそう察する。
「させない!」
リリさんを逃がすまいと、凍結キノコを一斉投擲。降り注ぐ流星のごとく、無数の青キノコがシスターに襲い掛かる。しかし悪魔の量が多すぎた。わたしが射出した青キノコたちはデーモンの群れに阻まれ、リリには届かない。
ダメだっ。このままでは逃げられる!
だんだんと見えなくなっていくシスターを見つめ、わたしは歯嚙みをする。その次の瞬間だった。
ドドンッ!
「……え?」
二つの銃声とともに、リリの口から戸惑ったような声が漏れる。次いで倒れ込むシスター。見れば彼女の両の膝には小さな風穴が開いている。
モモが撃ち抜いたのだと、瞬時に理解した。同時に、わたしは恐れおののく。なぜなら大量の悪魔たちによってリリの姿はほとんど見えていなかったにも関わらず、モモは正確にシスターの膝を撃ち抜いたのだから。つまり彼は動く悪魔と悪魔のほんの僅かな隙間。そこに寸分の狂いもなく、銃弾を通したということである。なんという技量だろう。
わたしは一瞬、その事実に驚愕する。しかしこの機を逃す手はない。リリは一瞬で再生する。わたしはすぐに気を取り直すと、再び凍結キノコを投擲。今度はリリの周囲を固める悪魔たちを蹴散らすために。
パキィィィン……
大量のデーモンが一斉に凍り付き、弾け飛んだ。それによりリリの姿が露わになる。彼女は驚愕と恐怖がない交ぜになった目でこちらを凝視する。
次の瞬間、シスターの姿を白い糸の束が覆いつくしたかと思うと、彼女を空中に縛り付けた。手足を拘束された姿はまるで、十字架に磔にされたかのよう。
おもむろに、モモがそんな彼女に銃口を向ける。それを見て、恐怖に大きく目を見開くシスター。
「やめて、モモ君! もう二度とこんなことしない! 子供を襲ったりしない! だから……」
そんな言葉、信じられるわけがない。出まかせに決まっている。しかしモモの手は震え、銃の照準は定まらない。
そんな少年の様子を見て、にやりと口元を歪めるシスター。
「ふんっ! とんだ甘ちゃんね!」
叫ぶと共に、再びシスターの腹から悪魔が湧きだす。しかし次の瞬間、瞬きをする間もなく塵となって消えるデーモンたち。そして、
「……え?」
間抜けな声を漏らすと共に、シスターのが首が宙を舞った。その首は流れるようにヒヅキの手の中に吸い込まれる。
自身の首を斬った赤髪の少女を、憎悪の籠った瞳で睨みつけるシスター。その口からは怨嗟の籠った絶叫が響き渡る。
「この! こんな! このわたしがこんな! 許さない! 絶対に! 許さない! 呪ってやる! 末代までのろt……」
しかしその言葉は途中で塵と共に消えた。首と同じように塵となって消えていくシスターの身体を見つめながら、わたしはモモの背に手を添える。少年はただ俯き、
「ごめんなさい……」
と小さく零すのだった。
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攫われた少女を救出。
その過程で、子どもを攫っては食っていたシスターを倒しました。彼女はリリスの能力者だったようです。正直胸糞悪い、あまりスッキリとしない事件でしたが、一応ご報告です。
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残りKP 12976999841
やっぱりKPが異常に減っている。一千万くらいだろうか? 理由はよく分からないが、やはりフェイカーを倒すとKPが大きく減るようだ。これは行幸。ただ善行をして、それをポストするだけではKPを清算するのに何百年かかるんだ!? と思っていたところ。これなら少し希望が見えてきた。うん、よし! 方針は決まった。
フェイカーをもっと倒してKPを清算! 髪の毛を取り戻す!
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