⑫居酒屋じゃい! 軽い男は全員〇ね!
ワイワイ、ガヤガヤと喧騒に包まれる明るい店内。すっかり日も暮れ、仕事を終えた労働者たちが酒場にたむろしている。
酒を片手に語らう彼らの表情は笑顔で、店内はとても賑やかだ。
そんな酒場の片隅。
「「「「「おおぉぉ!」」」」」
おっさんたちの野太い歓声が上がる。わたしはそんな彼らに優雅な一礼をしてみせた。途端に周囲から沸き起こる割れんばかりの拍手。
「嬢ちゃんよかったぞ!」
「なかなか刺激的だった!」
「もっと! もっと見せてくれぇ!」
口から火を噴く芸、虚空からハトを召喚する芸を披露したのだが、思ったよりもウケが良くてわたしは内心でほくそ笑む。
ただでさえ酒を飲んで気分よくなっているおっさんたちだ。ちょっとした芸でも大げさに喜んでくれる。これはなかなかにVPが美味しい。ついでにおっさんたちを背景に自撮り写真をカシャッと。あとでこれもチュイートしておこう。贅沢は言わないから1000いいねくらい付いたりしないかなぁ……
……ってそうじゃない!
周囲に持て囃されて危うく本来の目的を見失うところだった。わたしは慌てて人で賑わう店内を見回し、ヒヅキの姿を探す。
……いた。
店の隅っこ。チャラそうな金髪男二人に挟まれて口をもぐもぐさせている。その目の前には山のように積みあがった大量のから揚げとワインの入ったグラス。
あいつ、また肉ばっかり食べやがって。てかここに来る前も食べてたのにどんだけ食うのよ!?
わたしは相変わらずのヒヅキの大食漢に苦笑する。そうして彼女たちの方に近づいていくと、店内の喧騒に紛れて彼らの会話が聞こえてきた。
「ヒヅキちゃんめっちゃ食べるね~」
「それな~! てかさ~、ずっと気になってたんやけどなんで仮面なんか付けてるん~?」
「…これがわたしのアイデンティティー」
ヒヅキが手を止めずに答える。見たところ金髪2人は全く相手にされていないようだが……
しかしヒヅキの返答に二人は破顔する。
「なにそれ(笑)。この子めっちゃオモロいんやけど~」
「ウケる~」
チャラ男……なんだよな? なんかむしろギャルっぽい口調だな……
顔を強張らせながら近づいていくと、わたしに気が付いたチャラ男の片方が笑顔とともに手を挙げた。
「お帰り~、カエデはん。ずいぶんと盛り上がってはったな!」
「あはは。そうですね~……じゃなくて!」
「バンッ!」とテーブルを叩き、チャラ男二人を睨みつける。キョトンとした表情を浮かべる二人。
「ど、どうかした?」
「どうかしたじゃないよ! ヒヅキはまだ子供ですよ! それなのに手を出そうなんて……このロリコンどもが!」
ヒヅキになんてものを飲ませるんだ! まったく……酔わせてなにをするつもりだったのか。それを想像してわたしのハラワタは煮え繰り返る。
一方、憤るわたしに反して、困惑した様子のチャラ男たち。顔を見合わせて一拍、吹き出したように笑い出す。
「カエデちゃん、なにか勘違いしてるよ〜」
「せやせや。オレら、べつにそんな気いっさいあらへんよ〜」
そんな2人の言葉に今度はわたしが困惑する番。「どういうことですか?」と尋ねると、笑いながら説明してくれた。
曰く、ヒヅキが飲んでるのはワインではなく、グレープジュースらしい。実際に匂いを嗅がせてもらったが、本当にブドウの芳醇な香りが鼻をくすぐった。アルコール独特の臭気は微塵も感じない。
どうやらヒヅキは店に来てから一滴のお酒も飲んでないし、チャラ男たちも一切勧めてないらしい。むしろ天然でガードの緩いヒヅキに絡んで来る男どもを撃退していたくらいだとか。
つまりは、わたしの早とちり。
「流石にぼくたちにも、そのくらいの良識はあるよ〜」
そう話を締め括った金髪の2人。それに対してわたしの顔は茹でダコのように真っ赤に染まる。
は、恥ずかちぃ……穴があったら入りたい。
顔を上気させながらわたしはペコペコと頭を下げる。
「そ、そうとは知らず……ロリコンとか言ってしまってすみませんでした……」
「あはは! べつに構へんよ」
「そうそう、誰にでも間違いはあるものだしね」
なんて心の広い人たちだろうか。ニコニコと微笑む二人の顔を見ながら、わたしは感涙の涙を流す。
……いや、そう言えばこの世界って基本的に善意で回っているから、ほとんどがいい人なんだっけ? そう考えると彼らの行動は当然なのかもしれない。しかし当たり前のことを当たり前にするのは意外と難しいもので……
考えだしたらキリがない。うん、やめておこう。
そんなことを考えていると、背後から陽気な声が掛けられる。
「みんなぁ~。楽しんでるぅ~?」
「「うぇ~い!」」
チャラ男たちが拳を上げるのを傍目に振り返ると、そこにはライトがいた。代償である鱗を隠すように絆創膏を頬に貼っている。そしてその横には、彼にしなだれる黒髪ロングの女性。チャラ男たちがライトに紹介した女性なのだが……正直わたしはこの女性が苦手だった。
名前はキュラ。確かに若くて綺麗な女性だが……とにかくケバい。厚い化粧に豊満な胸を強調するように胸元の大きく開いた服装、そして十字架のネックレス。これはそう……パパの財力で高層マンションに住む港区女子。キュラからはそんな彼女たちと同様の匂いがするのだ。
わたしは酒気を帯びた二人に眉を顰める。
「しばらく姿を見なかったけど、どこに行ってたの?」
「え~……それは秘密かな~。ねー! キューちゃん!」
そう言ってキュラと視線を絡ませるライト。キューちゃんと呼ばれた彼女がニコリと微笑み、甘ったるい声音とともにライトに寄りかかる。
「そうねぇ~……それより、そろそろつぎの場所に行きましょうよぉ。わたし、ちょっと酔っちゃたみたいだしぃ」
「ぐ、ぐへへへ……そうだね。なら、お店を出て少し休もうか」
すっかりキュラの虜のライト。目に見えて鼻の下を伸ばし、デレデレと気持ちの悪い笑みを浮かべている。そんな彼らの様子に、わたしは虫唾が走る思いだ。
まったく。男って単純だ。ちょっと色気を出せばホイホイと女に踊らされて……
しかしそんなわたしの考えなど露知らず。ライトは意気揚々と店員から伝票を受け取る。
「ふむふむ……じゃあ男は一人当たり8000VP、女性陣は一人当たり3000VPね!」
3000VPか……ちょっと渋いな。こういうのは男がもう少し出してくれてもいいのではないだろうか?
そう思うものの、無理を言って付いてきた手前、あまり強くも言えない。
チャラ男とヒヅキがライトにVPを渡す。どうやらライトが一括でお会計をしてくれるようだ。わたしも渋々とだが、ライトに3000VPを送った。
そこでキュラがライトを上目遣いで見上げる。
「ねぇ~。それ、わたしも払わなきゃダメぇ?」
「え、いや、それは……」
「ダメかなぁ~?」
キュラがぐっと自身の胸をライトの腕に押し付ける。見る見るうちにライトの顔が赤く染まり、「ポッポー!」と噴火でもしたかのように頭上から蒸気が上がる。
「もちろん、キューちゃんは出さなくていいよ! おれが代わりに出しておくから!」
そう言って踵を返すと、ダッシュでお会計に向かうライト。その背を見送りながら、わたしは呆れた視線を向ける。
ホント……どうしようもないバカだなぁ……。キュラの色仕掛けにまんまと嵌って、情けないことこの上ない。とりあえず、このことはあとでビャクヤにキッチリ報告しておくことにしよう。
そんなこんなでわたしたちは店を出る。ライトとキュラが腕を組んで夜の通りに消えていくのをジト目で見送り、チャラ男たちとも別れたところで、ヒヅキが足を止めた。不審に思い、わたしは彼女を振り返る。
「どうしたの?」
「…二人を追いかけようと思う」
「は? 追いかけるって……」
ライトとキュラをだろうか? ラブラブで去っていた二人の背を思い出す。確か「宿屋」とかなんとか言っていた気がする……。いまごろなにをしているかなど想像に難くない。それはもう熱い夜を過ごすこと請け合い。だからわたしはヒヅキを嗜めることにする。
「それはあんまり良くないんじゃないかなぁ……そういうことに首を突っ込むのは下世話だしさ」
「…カエデは気にならない?」
「き、気になるわけないじゃない!? 急になにを言い出すの!?」
本当にこの子はなにを言い出すんだ!? 確かにヒヅキもお年頃で、そういうことに少なからず興味を抱くのかもしれない。それにわ、わたしだって全く興味がないということもない。けど、そんな人の情事を覗き見るなんて変態みたいなこと……とてもじゃないができない! そんな勇気、お姉ちゃんにはないです!
しかし慌てふためくわたしに反して、ヒヅキは実に落ち着いたもの。真っすぐな光の宿った目でわたしのことを見上げている。
この子、肝が据わりすぎじゃない?
「…ビャクヤに報告しなきゃいけない」
なるほど……不貞(付き合っているわけではない)の証拠を押さえるために、ライトの素行を暴くという建前なのか。
それなら大義はこちらにある!(錯覚)
ライトとキュラの情事を覗いてもなんら問題はない!(横暴)
そうと決まれば……
「分かった! 善は急げだ! 行くわよ、ヒヅキ!」
「…ん」
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酒場のおっさんたちがたくさんVPをくれたよ! ありがたい!
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