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⑪チャラ男と美少女二人(笑)

 ゾンビ事件が解決した三日後。ナイトクラン本部。


 わたしはキッチンに続く木製の扉の前にいた。右手の窓からは赤く染まり始めた空が見える。


 ナイトクランにおける食事作りは当番制であり、今日の夕食当番はわたしなのだ。なにを作ろうか思考を巡らせる。


 カレーか? ハンバーグか? 魚料理も捨てがたい。


 そんなことを考えながら鼻歌交じりに扉を開ける。磨かれたタイル張りの床と白い壁。鍋やフライパン、コンロが台の上に並べられている。そしてわたしの目の前には、こちらに背を向けた赤髪の少女の姿。


「なんでヒヅキがいるの?」

「…お腹空いた」


 振り返ったヒヅキの手には、少女の顔ほどもある巨大な骨付き肉が握られている。さらに彼女の背後には無数の骨が散乱した皿が。それを見てわたしはため息を吐く。


「はぁ……また肉ばっかり食べてるの? そんなんじゃ栄養が偏っちゃうよ」

「…カエデはやっぱり口うるさい」

「あなたを心配してるからでしょうが!」


 ムスーっと頬を膨らませるヒヅキ。ちょっと可愛い……ってそうじゃない。


「それにあなた、フェイカーを狩りに行く日以外はずっと本部に引きこもってるじゃない。ひたすらクッチャネクッチャネ……もっと外で遊んだりして友達とか作りなさいよ」

「…カエデはわたしのお母さん!? まあでも、そういうことなら心配しないでよカエデママ」

「だれがママじゃい」


 間髪入れずにツッコミを入れるが、それは華麗にスルーされてしまう。ちょっと寂しい。


「…これからわたしはお出かけするの」


 しょぼくれるわたしに反して、得意げに胸を張るヒヅキ。彼女の言葉にわたしはバッと顔を上げ、目を見開く。


 いつ見てもベッド、ソファーでゴロゴロしているか、または何かしらを食べているだけのヒヅキがお出かけだと!? ニートみたいな生活している仮面少女が!? いったいどこに!?


「ヒヅキ……いったいどこに……」

 ガチャリ


 わたしがヒヅキに行先を尋ねようとすると、背後の扉が開いた。振り返るとそこには金髪のチャラ男 ライトの姿。白のロンTの上に茶色のベスト、下はスラリとした黒のズボン。ちょっとキメちゃった服装だ。


 その金髪野郎は厨房を見回し、ヒヅキを見つけると愛好を崩す。


「ここにいたのかヒヅヒヅ。準備できた?」

「…ん。完璧」


 ヒヅキがいつも通りの無表情で親指を立てる。どうやら彼女はライトと出かけるようだ。


 わたしは両者の間で視線を彷徨わせる。ニコニコ笑顔のライトと、もぐもぐと口を動かすヒヅキ。


 ……うん。なんか嫌な予感がする。


「ライト、ヒヅキとどこに行く予定なの?」


 わたしは気になって思わず尋ねてしまう。


「いよう、カエディー! おれとヒヅキはこれから居酒屋に行くんだよ」

「い、居酒屋ぁ!?」


 わたしの口から素っ頓狂な声が飛び出す。


 このチャラ男、いまなんと言った? 中学生くらいの女の子を連れてどこに行くと?


「そんなのわたしは許しません! そう言う場所は成人……いや、せめて大学生になってからよ!」

「成人!? 大学生!? いったいなんの話!?」

「とにかく! こんな小さな女の子をつれて居酒屋に行くなんてダメ! 絶対ダメ!」

「えぇ!? そんなぁ……もうヒヅヒヅを連れていくって言っちゃったのに」


 オロオロとするライト。しかしわたしも断固として譲れない。ヒヅキを守るように仁王立ちするわたしに戸惑うライト。


「てかさ、カエディーなにか勘違いしてない? 居酒屋ってこの世界では単なる大衆娯楽の一つだよ。ほら、個人でできる娯楽なんて限られてるしさ」


 ふむ……歴史の授業で聞いたことがある。中世の時代は娯楽なんて限られたものしかなかった。特に個人でできる娯楽などほとんどなく、祭り、結婚式、そして居酒屋など集団で集まるものが定番の娯楽だったらしい。そしてこの世界は見たところ中世ヨーロッパに近い……だからライトの説明はもっともらしいものに聞こえる。


 しかしだ。


 目の前の胡散臭い笑顔を見つめる。


 この男に限ってただの娯楽の一環として居酒屋に行くとは思えない。ジト目を向けながら目の前の金髪野郎を問いただす。


「で、本当は?」

「ぶっちゃけ知り合いが可愛い子を紹介してくれるから、おれも女の子連れてきてって言われた」

「そんなことだろうと思ったわ!」


 予想通りの返答に呆れかえる。


 というかこの男、ビャクヤに気があるのではなかったのか!? 『ビャクヤさん一筋です!』とかなんとか言ってた記憶があるのだが……。それがこうもホイホイと他の女に目移りさせおって。


 けしからん! そしてヒヅキはわたしが守る! 


 チャラ男の魔の手から仮面美少女を守る。これも一つの善行だしね。バズるかどうかは知らんけど。


 それからわたしは、なんとかヒヅキの合コン行きを食い止めようと四苦八苦する。しかしライトもなかなか往生際が悪い。「でも~」「だって~」「けどさ~」を繰り返して粘りやがる。


 そして最終的に……







 わたしの方が折れた。


「あーもー! 分かったよ! そんなに行きたいなら居酒屋でも合コンでも好きに行きなさいよ!」

「やりー! じゃあヒヅヒヅ行こうか!」

「…ん。了」


 ヒヅキを連れだって部屋を後にするライト。しかしただで彼らを不埒な店に行かせたりしない。


 こうなったら作戦変更よ!


 わたしは二人を呼び止める。


「だけど条件がある」

「えぇ!? 条件!?」


 ライトがこちらを振り返る。そんな彼にわたしは大きく頷いて見せる。そして条件というのは……


「わたしもその集まりに参加させなさい! ヒヅキはわたしが守るんだから!」

「…カエデも来るの?」

「か、カエディーも来るの!?」


 目を見開いた二人が綺麗にハモる。しかしこれはなんと言われようと譲らない。


 年端もいかない美少女に酒を勧める悪い男どもを撃退……それをチュイートすれば、かなりのいいねが貰えるのではないでしょうか!? 髪の毛を取り戻すのに大きく近づけるのではないでしょうか!


 そんな決意を宿したわたしの目を見て、大きくため息を吐くライト。ヒヅキに困惑した視線を向ける。


「カエディーはヒヅヒヅのなんなの?」

「…カエデはわたしのママ」

「だからだれがママじゃい」


 間髪入れずにツッコむ。


 そんなこんなで(よこしま)な考えを胸の内に、わたしは居酒屋へGOするのであった。

作者から読者様へ。大切なお願い


ご高覧いただきありがとうございます。

少しでも面白い! 先が気になる! と思われた方は、ぜひブックマーク登録、ページ下部の星を1つでも付けていただけると幸いです。


大変、創作の励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします!

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