LXXXV 吸血鬼の力
うーん…
「お嬢様?何か思い詰められているのですか?」
「そりゃまぁ、面倒事が二つも重なったら思い詰めるよ」
「トープ州での出来事と、大罪の悪魔について?でしたっけ」
「そうだね」
「大罪の悪魔と言うものがあまりよくわかっていないのですが…」
「まぁ多少強い悪魔みたいな認識でいいと思うよ、弱体化されてるしね」
とはいえ、相手はリヴィと同じ悪魔…全盛期の力を発揮されたら、こっちもたまったもんじゃないかも
「あ、そう言えばお嬢様、吸血鬼の力についてはどうなさるおつもりで?」
「あー…あったねそんなの」
正直、あった方が便利なんだろうけど…
「どうやって開花させるのか、あんまりわかってないんだよねぇ」
「リエル様のようになさるのはどうですか?」
「うーん、相手の素性がしれない上、リエルからもやめとけって言われたしなぁ」
「では一体…」
血液操作は吸血鬼の力…開花させるにはどうしたら…
「なになに?なんの話してるの?」
「リエル様、今お嬢様とどうすれば吸血鬼の力を開花させれるか考えておりまして」
「それなら、まずは沢山血を吸って、自己制御して、操って…でいいんじゃない?何事も基礎が大事だよ」
「そういえば基礎、全くやらずここまで来てたからね…いいんじゃないかな」
「では輸血用パックを用意しておきますね、届いた際、始めましょう」
これが地獄の始まりだとは…まだ誰も知らない
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三日後
「じゃ、始めるよ!」
今回のコーチはリエル、何かあった時対応できるようにってことで
…そういえば私、血飲むの慣れてないんだよな…慣れるいい機会になるかも
「輸血パックを飲み干して…」
鉄分の味がする…こんな一気に飲んだことないからきつい…
「そしたら吸血鬼の力が反応するからそれを抑え込む!」
どうやれって言うんだ…?
血に対して食用が増すのはひしひしと感じるけど…
食べたくなくなればいいのかな?
「…思った以上に制御できてるね、これは使いこなすのも時間の問題かも」
「ふー…ふー…」
「…いやそんなことないかも、大丈夫?」
血を飲んでる感が今になって強くきて…吐きそう
「吐きそうなのね、吐くのも制御!どうしてもってなったら吐いてもいいけど…」
「どうしても!このままだと吐血する…」
「自分の血じゃない吐血とかなかなか見ないよ、わかった、吐いて大丈夫だよ」
血の味が思いっきり口に広がってきつい…
意外と吐瀉る時って思考は割とはっきりしてるよな…
まぁ思考以外は全部ダメだけど
「あはは…次からはもうちょっと飲む量減らそうか」
二週間後…
「最初と見比べると結構良くなったね、調子はどう?」
「まぁまぁって感じ、この勝手に羽出てくるのどうにかできないの?痛覚ないはずなのに痛いんだけど」
「それも抑えてみたら?」
なんだこの鬼コーチ…
まぁ、しょうがないけど
「でもおかしいね、そろそろ開花してもいいはずなのに」
「次は血液操作…イメージが大事なんだよね」
白夜に見劣りはするけど、だいぶ使えるようになったかも
〈開花、リミー・アルミーンの吸血鬼の力が開花しました、これにより吸血鬼には自我が大きく芽生えます〉
「自我が…」
「芽生える?」
「リミー、気を張って、乗っ取られないように」
「え、いやでも…」
ドクンという耳の奥まで響く鼓動音を皮切りに、鼓動音が頭に響く
だんだん強くなるそれは、私の瞳を限りなく鮮血色に変えていく
視界の端に映る髪の色が、いつも鏡で見る私の髪ではなく、もはやそれは血管に流れる血がそのまま出て来たような、薄気味悪い何かだった
「はぁ…上手く見えない…リエル…いる?」
「いるからね、気を強く持って、主導権を渡しちゃいけないよ」
『リミ…の……を完…に…って自…の…に……つも…だな…』
リエル…?なんて言ってる?思考がまとまらないせいでうまく聞こえない…
視界が霞んで…耳もよく聞こえない…リエルがなんて言ってるのか、わからない…
頭の中が真っ白になる…視界は真っ暗…
あーあ…あんだけ頑張ったのに…結局主導権、渡しちゃってるじゃん…
身に余る程の重荷は、時に自らを殺し得る