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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
カエサル、弁護士になる
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経営譲渡の検討

カフェ・プラタリオを少しだけ楽しんだ二人はきりあげてカエサルの事務所に向かった。

カエサルに連れられて帰ることになったアッティクスは麗しい女性たちともっと話をしたいと思っていた。しかし、夜になってカエサルの事務所に連れて来られたアッティクスはカエサルの提案を聞いて固まった。


「私がカフェ・プラタリオのオーナーになるなんて、そんなこといきなり言われても!」

声を上げるアッティクス。

「そうかな。確かにいきなりの話だけど、今プラタリオを支えているのも何も経営を知らない剣闘士のヌスパと高級女娼の頭をしているアレミアなんだ。人が不足しているのもあるけど、全体を見渡せる人がいないため、やはり問題は山積しているとみたほうが良いだろう。」

落ち着いて葡萄酒を口にしながら笑っているカエサルに対して、アッティクスは手汗をかきながら、頭を整理しようと必須になって言い返した。

「それは確かに”情熱の剣闘士”ヌスパは素敵な女性だと思うが、経営は金や数の問題がいろいろあるだろうし、それ以外にも様々な人たちと話す必要があるからむつかしいだろう。」

と理解を示すアッティクス。

剣闘士のヌスパにも一度カエサルを介してあったことがあるのだが、さっぱりしていて気持ちの良い女性だった。だが剣闘士であり、商売をやる人物には見えなかった。

「そう、だから私も経営をよく知る人物、例えばクラッススなどに依頼するのも手だと思ったんだ。」

というカエサル。それにアッティクスが反応した。

「金持ちクラッススかい。そんなにすばらしいのかな。」

アッティクスの顔が曇る。いい兆候だ。プラタリオを守りたい、という気持ちには同調してもらえている様子だな、とカエサルは思った。


そこから、カエサルの説得がはじまった。

「そうだな、あまりよい選択肢ではないと思っているよ。カフェ・プラタリオはもともとは私のクリエンテスのソフィアが持っていた店でソフィアの夢を実現するための店だからね。そういったソフィアの思いをクラッススがひきついでくれるとも思えない。」

「ソフィアの夢っていうのは何だい?」

「ソフィアは裕福な家の生まれだったんだが事業がうまくいかなくなったところを夫と会ったんだ。夫は実直な商人だったようだがお客の求めに応じて手広くやりだしたのがプラタリオと剣闘士の興行だったそうだ。プラタリオも最初は食事処だけだったらしいよ。そこへ仕事に困った女の子たちに仕事を作っていくうちにサービスが増えて形も今のものになっていったんだって。だから女の子たちと客の求めに応じたカフェ・プラタリオは今後も女の子たちを助けながら客の求めにも可能な範囲で応じたいと

いうのがソフィアの想いだったんだ。」

「それはすごいね。ソフィアを尊敬するよ。」

「そういってもらえてうれしいね。問題はプラタリオを今後も今までと同じようにすばらしい店としてやっていけるかどうかというところだね。」

頷いて聞いていたアッティクスに対して、話を切り、表情を見ながらさらに言う。

「ソフィアの思いを継げる人は、経験よりも思いが大切だと思うんだよね。クラッススよりもアッティクス、君に頼りたいんだ。もちろん君がよければだけどね。」

そこまで言って待つ。

アッティクスも真剣に考えているようだ。


少しの間、その場が静かになる。

ゆっくりとアッティクスが話し出した。

「なるほど。その状況はよくわかったよ。でもカエサル。なぜ私に経営ができそうだと思ったのかな?」

「私は私に任されたことをまっとうしたいと考えている。カフェ・プラタリオを守りたい。守るためにベテラン商人に頼るのも考えたが、人の話を聞ける若い人のほうがプラタリオを良くして行けるんじゃないかと思ったんだ。

そして君はいつも周りを気にしてくれている。君はそれを自分に自信がないせいだ、と思っているだろうが、周りの人の思いをくみ取れることは素晴らしいと思う。経営も父のアッティアの下にいたから感覚的にわかる部分もあるだろう。知識があり、周りの人の話を聞ける君なら成功できると思ったんだ。だから君にお願いしようと思ったんだ。うまくいけばより良いお店にできるのと思うんだ。」

「私をそこまで見ていてくれてありがとう、カエサル。」

アッティクスは足が震えていた。それでも自分を見てくれて今後の可能性を考えてくれたカエサルの気持ちがうれしかった。それでも、小さな商店だったらすぐにイエスと言ったであろうが、カフェ・プラタリオは規模の大きな店だ。自分はカエサルの期待に応えて本当にできるだろうかとアッティクスは思った。

「もちろん、今聞いて答えるのもむつかしいだろう。ただ私は君に助けてほしいと思っている。だから少し考えてくれないか?」

「わかった。少しかんがえさせてほしい。」

「カエサル、一つだけ疑問だったのだが、ソフィアはなぜヌスパに継がせたい、と思ったんだろう?」

そうアッティクスが質問した。

「わからない。遺書に書くほどだからそれだけ強い思いがあったんだと思う。実はソフィアには出来の悪い従弟がいて、そいつに経営権をとられそうになったんだよね。だから実直なヌスパに任せれば、誰かがサポートしてくれると思ったのかもしれないな。もしかしたら後を継げる人材がいたら変えていくつもりだったのかしれない。」

「そうか。なるほど。」

「そうだ。ソフィアはカフェ・プラタリオと剣闘士興行の事業、としてもう一つの柱としてオスティア港で新しい事業をはじめようとしていたんだ。プラタリオは自分で見ながらベテランの女娼アレミアが中心になってささえていて剣闘士興行の事業は興行の仕切りをヌスパが実施していた。オスティア港での取引が増加しているから港で新しい事業の計画をシンディという女性が中心に進めていたん

だ。」

「みんな女性か、すごいな。これからは女性の時代なのかもしれない。」

冗談めかしていう。

「あはは、そうだな。しかし実際男よりも気配りがあったりするのも事実だ。元老院にも女性が入ったらもっとよくなるかもしれないな。」

二人は笑いながら言った。

アッティクスは自分の住処にしているオスティアでも事業が始まろうとしていることに興味をもってきいてきた。

「オスティア港の事業ってのはどうなっているのかな?」

「ああ、港からローマまでの距離を考えると取引をしている海運業者などはなかなかローマに来れないだろう。だから港にあった店を作ろうとしているんだよ。少しサービスの内容は変えて、食事などが中心になる予定だと聞いているけどね。」

「なるほど。確かに港の取引は増えているようだからそれも面白いと思うよ。」

それからソフィアの事業全体と、プラタリオについての細かな話を二人はして夜も更けてきた。

今日は泊っていきな、というカエサルにしたがって二人はその夜はカエサルの家に宿泊した。

夜になって、思い出したようにアッティクスが言う。

「ああ、でも女性たちともうひと時過ごしたかった気もするなあ。もう遠い昔のようだ。」

「あはは、それだけ女性を思うのも大切だ。今日は途中できりあげてすまなかったね。君が女性たちと仲良くする前に経営者という目線を頭にいれておいて今後は接して欲しかったんだよ。」

「そうか。確かに大切な気がするね。そういった目線で女性を見ることも。」と頷く。

そんなことを話しながら夜は更けていった。


翌朝、アッティクスははじめての外泊をしてカエサル家の人々に礼を言いながら出た。

帰り際に、プラタリオについての返事の期限を聞く。

「いつまでに返事をすればよいかな?」

「そうだな。1週間くらいで返事が欲しい」とカエサル。

「1週間あれば大丈夫だ。それにしても本当に驚いたよ。真剣に考えさせてもらうよ。」そういって笑いながらアッティクスは去っていった。


アッティクスと話をして別れた翌日、昨日の件をフォローするため、アッティクスと再び話をしようと考えたが、カエサルの事務所に客が来て会いに行くことができなかった。ジジにアッティクスへのフォローをお願いしてカエサル自身は客への対応をすることにした。

アッティクスはプラタリオの経営を受けるだろうか。

そして、カエサルは次に何をおこなっていこうとしているのだろうか。


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