カフェ・プラタリオ
ついにカエサルはカフェ・プラタリオにアッティクスを連れていく日を迎えた。
アッティクスは大丈夫だなのだろうか?
カフェ・プラタリオはローマの街の少し奥まった通りで店が連なっている一角の大きな白い建物だった。
入口には左右に看板が掲げられている。看板は字がわからなくても何を扱っているのかがわかる絵で表現されて
おり、酒と人、男女が絡んだ絵、跪いた人々、皿に乗ったパンと食べ物の絵が描かれていた。
その上を夜でも見ることができるようにランプが並べられて夜は賑わいでいるのが常だった。
夕刻近くにカフェ・プラタリオを訪れたカエサルとアッティクスは、街中の雑踏をかわすように潜り抜けて店にたどり着く。
ローマの街をあるくこともあまりなかったアッティクスは夕暮れの街の雑踏。食事をとったり、家路についたり、酒を飲んでいる人たちの動きに圧倒されて少し気持ち悪さを感じていた。
それでも緊張しながら踏み入れた初めての娼館は、外の雑踏を押さえて静かだった。
入ってすぐに出迎えた男性に何かをカエサルが話す。するとすぐに奥に通されて、酒や食事ができる個室に通された。
雑踏から名晴れてほっとしたアッティクスは個室に入ってカエサルに軽い冗談を言おうとしたがそこですでに先客がいることを感じて何も言えなくなった。
個室にはテーブルと椅子があり、椅子はカエサルとアッティクスの席があけてあり、後の4つには若い美しい女性が4人座っているのが見えた。
アッティクスは背中に汗がたれるのを感じて固まる。
そこへ我らがカエサルが笑顔で進んで、皆に挨拶をする。
アッティクスはプレイボーイの師匠をまねて挨拶をした。
麗しい女性たちは皆、笑顔で迎えてくれてアッティクスも少し落ち着いてきた。
席にすわり、杯を出されて手に取り、注がれた葡萄酒を口にしようとしたとき、自分のふとももに女性の手を感じて固まった。
あやうく葡萄酒を杯ごとおとしかけたが、何とか耐える。
プレイボーイの師匠を見ると、同じように手を伸ばされているがまったく気にすることなくアッティクスを見て、女性を見て笑っている。
「ひさしぶりだねラフィア。そしてプラタリオも久しぶりに来たが、新しい子たちだね。」とやさしく聞くカエサルにとラフィアと呼ばれた見目麗しい淡い金髪の女性が笑顔でかえす。
「ええカエサル、新しくプラタリオに入った子たちです。ぜひお見知りおきください。」
と丁寧に答えながら優雅に頭をさげる。
「ああ、名前を教えてくれ。あとは将来の夢だね。」
将来の夢ということで周りの女性がざわつく感じになった。少なくとも貴族階級の男性がプラタリオにいるような女性に対して未来を聞くようなことはないからだ。アッティクスもカエサルの独特な考え方を理解していたが、改めて認識するにいたった。
女性たちはざわつきながらも、再びカエサルに聞かれて「私は、お金を稼いでソフィアさんのように店を経営してみたいです。」
一番おとなしそうな茶色い髪の幼い顔立ちの少女と言ったほうがよい女性が言った。
それをきっかけに、他の2人も口にする。
最後にラフィアと呼ばれたカエサルとも顔なじみの女性が
「私は、そうですね。ここで男性を買ってみるのも面白いかもしれないですね。」
煙にまくような表現を聞いてカエサルが笑った。
意味を理解してアッティクスは汗が出てくるのを感じる。
カフェ・プラタリオは女性の高級娼館でもあるがお金を持つ女性が男性を買うこともできるのだった。
そして金額次第によっては女性であれ男性であれ身受けをすることもできる場所だった。
もしかして自分も売られるのでは、一瞬そんなことを想像して汗がにじみ出た。
そんなアッティクスを理解したのか、ラフィアが淡い金髪を編みこんだ長い髪をかきあげながら寄り添って囁くように言った。
「アッティクス様、ご安心ください。こちらの店はあなたの味方でございます。とって食べるようなことはございません。ごゆっくり私どもを見て言ってください。」
と言い微笑む。
あまりにも近くに魅力的な女性の顔がきたので、焦って遠ざかろうとしたアッティクスの身体にラフィアの手がかかる。それによって筋肉の少ないアッティクスの身体は逃げることができず、ラティアの顔が眼の前に来た。そこで優しい彼女はよりかかるのをやめてアッティクスがゆっくり後ろに去ることができるようにした。距離をとったアッティクスは落ち着くことができてほっとした。
カエサルは自分のどたばたしている姿をどのように見ているだろうと思って眼をカエサルのほうにむけてみると稀代のプレイボーイはラティア以外の3人をすでにとりこにしているようだった。
しかもよく見るとカエサルがしゃべっているのではない。
美人たちが我先にカエサルに話を聞いてほしいとしゃべる機会を伺っているのだ。
「カエサル様は、人の心を引き出すのが上手ですからね。
新しい彼女たちが虜になるのも仕方ないですわ。私も私の未来のしたいこととか根掘り葉掘り聞かれているうちに心を丸裸にされていったんです。」
とアッティクスのすぐ横に顔を持ってきて訴えかける。
「なるほど。私はこういった場では、男性がきれいな女性に話をすることが多いのだとおもっていたがそういうわけでもないんですね。」
「いえ、多くの男性はご自身の自慢が多いですわ。だから聞きなれている女性たちがうまくあしらうんです。それなのにカエサル様は女性のお話を聞きたがるから、なかなか自分の思いを話す機会のない女性たちは我先にむらがってしまうんです。」
ラティアが、わかるでしょというような眼でアッティクスを見た。
アッティクスは少しカエサルがもてる理由を理解することができた。
そしてそういうことであれば自分にも少し真似できるところあがるかもしれないと思った。
それから心を落ち着けたアッティクスはカエサルを少し真似ながら自分の興味の話をしつつ女性の話もきいていくことで女性たちからもとりつくろうことなく楽しい時間を過ごすことができた。
女性たちからはさらに深いサービスへの誘いがあった。
露骨に身体をこすりつけてくるようなことはなかったが気が付けばアッティクスの左右にも女性がいて初めてきた店を楽しむことができていたのだ。
それでも、カエサルはアッティクスと別で相談事があるとして女性たちが残念がるなかで、店を去ることに決めた。
最後に席を離れる際に、ラティアはカエサルではなく、アッティクスのほうに来た。
少し女性たちとの交流を名残惜しむ気持ちがあったアッティクスがラティアの素敵な四肢に見とれているとラティアは自然な感じで近づいて、アッティクスの唇に唇を重ねた。
あっと思った瞬間にはラティアは少し離れていて、やさしい笑顔、そして少しだけいたずらっぽい顔をしてアッティクスに礼をした。心をとらわせた感じになったアッティクスをカエサルはひっぱるように連れ出した。女性たちに見送られながら二人はカフェ・プラタリオを後にした。
カエサルの女性の扱いを垣間見たアッティクスは少しだけ大人になった気がした。
もう少し、という気持ちもあったが。カエサルの用事は何だろうか?




