レピドゥスの反乱
カエサルたちの幾つかの作戦はうまく行っているように思えたが、時代の流れは彼らの思惑を無視して進み続けようとしていた。
元老院最終通告とは、元老院が国家の敵と認めたものに対して布告した最後通牒であり、これが発布されるとローマの公敵とみなされて排除されるまで効果を持ち続けるという元老院の敵を倒す切り札でもあった。
布告がされるという段階で元老院の本気度が伺えた。
カエサルとクラッススはレピドゥス軍が反乱を起こし次第、元老院最終通告が発布されること。そして、
ローマの正規軍が編成されて、そこで幾度か戦いがあったとしてもレピドゥスは負けるだろうと予想して今後どうするかを話し合った。
まず狼の戦士を使って話題性と印象を強めてデクラ旗下の商人の信頼を失墜させることはいったん停止した。
そして小麦の無料配給も配給を受けた者たちからレピドゥス軍に参加する者たちが出ないかわからないためこちらも停止した。後から元老院の長老たちからの難癖を付けられる可能性を排除したのだ。
それ以外で2人の意見が一致したのは、スッラの作ってきた体制が、レピドゥスの反乱で少し懐疑的になってくること、鉄の結束を誇っているかに見えたスッラ旗下のメンバーにほころびがでてくるだろうということだった。
またレピドゥスが反乱を起こすきっかけになった原因についても2人は話をした。レピドゥスはスッラ改革の一部を以前の体制に戻すことを目指していて護民官の権限の復活や無職の者への小麦の無料配給の復活、民衆派の市民の資産の返却などを執政官の時に案として提出し、同僚の執政官に拒否されたことが原因になっていた。
「レピドゥスの取り組み自体は悪いものではなかったがちょっと同僚に拒否されたから力で現状を変えよう、というのがそもそも間違いですね。」
「ああ、しかも自分は民衆派の市民の資産で莫大な利益をあげておきながら、急に人気取りのように民衆派に向かっても多くの市民の共感は得られないだろう。」
「そうですね。自分に自信があるんでしょうが、執政官になったのもスッラの力であって、市民の本当の支持があったわけではないですからね。」
「レピドゥスの提案自体は俺が執政官になった暁には復活を目指してもいい。一つ一つは悪くないはずだからな。」
「私も賛成です。ローマ市民の間で大きな溝ができているのはスッラの幾つかの改革のせいでもあるでしょう。市街を歩くと元民衆派のつながりでもはや未来への希望を持てない人々が無産階級として浮浪者として、ただ社会への恨みを募らせている面もあります。」
「ああ、そうだな。強硬すぎて市民からいつも反乱が起きるような国は駄目だ。反乱者たちはたいてい商人をターゲットにしてしまうしな。それを俺が見逃すわけにもいくまい。世界は平和であるべきだからな。ものを運んでいる商人を襲うなど馬鹿げているわ。」
そのような社会情勢の話にまで踏み込んで、2人はレピドゥスが起こすであろう反乱には関与せずレピドゥスへ合流しようとする人々を減らすことで一致した。
そのころ、カエサルのクリエンテスでもある商人、ゴルバンスは水と金が足りない為に借金を重ねて追い込まれていた。そして状況を打開するためにカエサル家の若い当主、ガイウスに先日会って話をしたがガイウスは会談の途中で倒れるというお粗末な状況だったのだ。
若い当主のふがいなさを見て、自力でなんとかすることを決意したゴルバンスは、他の伝手でローマで力を持っている前執政官のレピドゥスと話をする機会を得て面会にいたることができた。
ゴルバンスは伝手を伝って属州総督としてガリアに向かっているはずのレピドゥスとローマからエミリア街道を北上して交通の要衝でもあるボロニアにて会った。
レピドゥスは気さくな感じでゴルバンスの手をとり言う。
「よくぞボロニアまできてくれまし。ゴルバンスさん。」
ゴルバンスは気さくなレピドゥスの対応に喜び、自分の苦労を説明した。
「そのお気持ち分かりますゴルバンスさん。我々はスッラの下で民衆派、元老院派というありもしない派を作らされて分断されてきました。しかし、ローマ市民はもう一度一丸となっていく必要があると私は考えます。」と演説をするように言う。
ゴルバンスには、偉大な指導者に見えたのだろう。
レピドゥスの言葉に頷きながら、熱く燃えるように気持ちが燃え上がっていくのを感じた。
その後も2人は会話を続けた。
レピドゥスによると、自分の力で民衆派の人々の権利をとりもどし、若いカエサルのサポートを自分がおこなってあげようというものだった。そして、スッラの改革で厳しい生活に追いやられた民衆派の市民が借りた借金は過ちだったため、借金の利息を0にすることも言ってきた。ゴルバンスは涙を流しながら喜んだ。
自分の借金の利息が0になれば、既に借りていた額が高額でも十分に返せると思ったからだ。そもそもスッラの専横がなければここまで追い詰められることもなかったのだ。
そう強く思っていたゴルバンスに対して、カエサルは自分が守るから、ゴルバンスは今後、レピドゥス本人を支援するように言っきたのだ。
そしてそのためにまずは今ある食糧の提供と、権利を守るための兵士の供出を求めてきた。
少しだけ躊躇したがまだローマの基準では思春期に該当し頼りないカエサルを当主としてあおぐよりも、指導者として優れたレピドゥスにサポートしてもらい彼が立派な大人になるのを見ながら、自分自信はレピドゥスのクリエンテスになるべきだ、と考えた。そのためにもレピドゥスの求める食糧と兵士の供出にも快く応じる必要があると考え、了承した。
100人程度の兵士と食糧の供出にあたるとしたのだった。
ゴルバンスは了承して、自分の親族と働き手達を中心に100人以上をかき集めて来ることを決意して、エミリア街道を戻りローマに戻ろうとした。
しかし、兵士と食糧を持ってくるために戻ろうとしたゴルバンスをレピドゥスの旗下の将軍が止めてきた。街道が危険になってきているので、ゴルバンスはレピドゥスと共にこの地に残り、信頼できる者を伝言でローマに行かせるように勧告されたのだった。
ゴルバンスは仕方なく自身の信頼できる解放奴隷を1人、ゴルバンスがローマで商売をしている拠点に行って息子に状況を伝え食糧と兵士を手配してボロニアに来るように伝えた。
解放奴隷は急ぎローマに戻りゴルバンスのローマの店に向かったが、ローマが近づくに連れてレピドゥス反乱の情報を得て、どんどん顔が蒼ざめていった。
このままレピドゥスに加担していると主人のゴルバンスも、今から自分が連れてこようとしている仲間たちや主人の息子も全員反逆者になってしまうと思ったのだ。
そこで思案してゴルバンスの支援者であるカエサル家のガイウス様のもとに一度行き、相談を行うことを彼は考えたのだった。
前執政官レピドゥスに反逆の恐れありこの連絡によってカエサルたちは善後策を練る。
その間にもカエサルのクリエンテスが無謀なことをしようとしていた。どうするカエサル?




