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クラッススとカエサル

グアッパの店であばれたカエサルは背後にクラッススがいうことを知る。

そこで、クラッススと話をする必要があると感じていた。

カエサルが剣闘士のヌスパとグアッパの店で暴れたことは街中の噂になっていた。

噂ではグアッパの店で借金をして困ったカエサルをヌスパが助けたという話に置き換わっていたのだがカエサルはそれを聞いて悪くないと思った。


なぜなら自分が活躍しているシーンがないからである。


ローマに帰ってきたとき、アシア属州で活躍したことを誰も知らないことに愕然としていたカエサルではあった。

しかし、実際にローマで生活をしてみて、民衆派と見なされて公職につくことを許されていない自分があまり好き勝手にやっていると思われても面白くないと思う連中が出てくるから、侮られる程度の存在でいながら、しっかり要所を抑えることが大切だ、と母からの助言をもらって自分でもそうしようと思っていたのだ。


今回の件は、少々侮られ過ぎでもあるがグアッパもその取り巻きも、カエサルをマークしていなかったために簡単に一撃を与えることができた。だから、剣技を見せびらかしすぎない程度で抑えておくほうが良いと思うようになっていた。


自慢してしまったのはキロとクラッスス、キロは自分の半身とも言うべき存在なのでみてほしかった。クラッススはどうすべきか、ある程度カエサルの力を認めてくれているのは良いがあまり構えられるのは良くないと思っていた。

しかし、クラッススがどうしようが、それを超えていくこともまた楽しいかもしれない、と夢想しているところで、そんなときにクラッススから食事への誘いが届いたのだ。



パラティーノの丘にあるクラッススの邸宅はあった。

スッラから追われた民衆派の貴族の邸宅を安く複数買い叩いて、そのうちの最も立地が良い丘の中腹、元老院の集会が行われるフォロ・ロマーノに行くために多くの議員が通る道の前においてあるのだ。

そして入口近くの庭の外には神々を祭った白い大理石でできた彫像が置いてある。

ユピテル、ユノー、ミネルヴァ、マルス、メルクリウスなどの神々が祭られている。

遠くからもその特徴が分かる邸宅だった。


昼も過ぎた時間にカエサルはダイン、ジジ、ザハを連れてクラッススに招待された邸宅に向かった。

クラッスス邸は大きかったが、予想していたよりも金持ちらしい煌びやかな飾りなどをしておらず、すっきりとした建物で、調度品も詰め込まれた感じもなく空間をうまく生かされていた。


カエサルが来たことを言うと、従者であるダイン、ジジ、ザハは従者の待合室に行かされたが丁寧に扱われ、カエサルとは別で美味な食事にありつくことができた。


カエサルは1人、クラッススとその取り巻きに相対することになると思っていたのだが、実際にクラッスス邸の会談の間にいたのはクラッススだけだった。

「よう、道端で会って以来だな、ガイウス・ユリウス・カエサル。今日はよく来てくれた。そして我々2人の間で話すこともいくつかあるだろうから、食事をしながら話をしようじゃないか。」

「クラッスス様、本日は晩餐にご招待いただきありがとうございます。」とだけ言った。

クラッススは笑顔を見せながら席に付く。


「まずは食事だ。話をしたいこともあるかもしれないがせっかく準備したんだ。しかも我が家でも豪勢な食事だ。これはルクルス将軍に習った誰もが羨む超がつく高級料理ってやつだ。カエサルはルクルス将軍を知っているか?」

「ええ、お名前だけは。貴族のなかの貴族ルクルス様の話は伺ったことがあります。」

おお、そうか、そのルクルスだ。貴族らしく生まれ、振る舞うルクルス将軍は食事も貴族らしく下々では想像もつかないものらしい。俺も実はあまり豪奢すぎる食事ってのは食べたことがねえ。しかしせっかくだ、こういった素晴らしい食事を楽しむことも大切だろう。」

そういって笑う。

なかなか親しみのもてる男だ、とカエサルは思った。

それから2人は出てくる食事を楽しんだ。カエサルはクラッススの商売の方法などを楽しく聞き、クラッススはカエサルがどうやって市民冠を受取ることになった戦いの話などを聞いてお互いに驚き楽しむことができた。


食事を一通り楽しんだところで、クラッススが言った。

「さて、腹がいっぱいになったな。カエサル。腹がいっぱいになると頭がまわらなくなると言うが、食事を一緒にしながら思ったぜ。お前は信頼できる人間だ、と。」

「ありがとうございます。クラッスス。私も私にとってあなたは信頼できる人だと感じています。」

「そりゃありがてえ。なにしろ商売人あがりのこの俺を怪しく思う人間はたくさんいるからな。なかなか腹を割って深く知り合うってのは難しい身分にもなってしまったことだしな。そんななかで信頼できそうな人間と知り合えたのはうれしいぜ。カエサル。」と言って話を切る。

「さて、ここからは今まで起きたことの整理だ。」と厳しい表情になったクラッスス。

「元老院議員グンダ様との取引の話でしょうか?それとも私を襲ったグアッパのことでしょうか?」と冷ややかな風で聞いてみた。

「ああ、そういったこともあったな。」とクラッススはにやりと笑う。うしろめたさのかけらもない。

「だが、グンダとの取引はお前とグンダの話であって俺は関係ない、お前に取引のノウハウもあるのは驚いたし悪くないことだ。そこに文句を付ける理由もねえ。グアッパについては俺がお前を試したんだ。お前がどの程度できるやつなのかを知りたかったからな。そしてお前は見事にグアッパを追い詰めてさらに金をとりあげることに成功した。これもなかなかすげえことだと思うぜ。大金をせしめたって話だが、そこについてはお前が力を示したことで俺がお前に文句を言うこともねえ。」

真っすぐに攻めてみたら真っすぐに返されてカエサルはクラッススの意図が読めず困惑しながらも、ありがとうございます、と礼を言った。


グアッパの件では、クラッススが元凶であるが、金をとりあげているしそこに文句を言うつもりもないようだ。もう少し話を聞く必要があるな、とカエサルは思った。

「俺が何を考えているのかわらかないだろう。カエサル。

俺はお前が俺と直接話ができるほどに価値がある人間かどうかを試しているんだよ。元老院議員で法務官へもすぐなるだろうローマ最高の金持ちクラッスス様とな。」

自信満々な物言いだったが、クラッススほどの金と力を持っていればこそだ。そして、普通なら言い返すカエサルだが、クラッススには言葉にも力があり、カエサルはどうしても聞き手にまわってしまっていた。

「なるほど」一言だけカエサルは言った。

「そしてお前はその価値を見せつつある。」さらにクラッススが言う。

「そこでだ、もう一つ仲良くなるためにお前の実力を示してもらいたいんだ。」

「どのようなことでしょうか」とカエサルは素直に聞く。

「マルクス・トッゥリウス・デクラを追い落としたい。さらにいえば、ドラベッラもな。」

「スッラの”双頭の犬”ですね。」

「ああ、度胸があって困難も乗りこえられる、俺と接点が少ない有能なやつを探していたんだ。」

「それが私だと。」

「ああ、その代わり表には出せねえけど、サポートはさせてもらうぜ。」

「私があなたの意向を汲むことで受けるメリットは何でしょうか?」率直にカエサルは聞いた。

クラッススは顎をさすりながら、カエサルを見て言う。

「俺はすぐに法務官になる。その次はローマ最高の権力、執政官を手にするだろう。お前が30歳になる頃だ。その際には、お前たち公職に付けないでいる民衆派が戻れるようにしよう。」

なるほど、それは頼りになりそうだ、とカエサルは考え

「では、あぜ双頭の犬、を除外されるのですか?」と疑問を投げかけた。

「奴らは、スッラの言ったことを忠実にこなすことしかできない犬だ。ローマの経済体制はここにきて大きく揺らいでいるからな。今のままではローマの経済人たちは困ってしまっている。そういうったことに気づかないやつらがいることでどれだけの害があることやら。」

「そんなに厳しい状況なのですか?」

「ああ、そうだ。お前もそういった状況を知りたいか。」

「もちろん。」

「じゃあ、奴らがスッラの言った事だけを守って今の変化についてこようとしないことでどれだけの害があるのか、ローマの経済を俺が直々に教えてやろう。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ、双頭の犬を除くことに手助けしてくれるな?」

「ええ、もちろん、あなたの意見が正しければ。」とカエサルはニヤリと笑って答える。

「がはは、言うねえ。俺の実力もみてみたいということかわかったぜ。クラッスス先生のいう事をよく聞けよ、カエサル。」

クラッススがカエサルと握手をする。そして抱擁をしてお互いにメリットがあることを感じ取った2人はそこから話合いに入った。まずはローマの状況をクラッススの目線から知ることが大事だろうと考えたのだ。


この小さなつながりはやがて未来を大きく動かすことになるが、それはまだまだ先の話。

クラッススと再会をは垂らしたカエサルは自分が試されていたことを知った。

しかし、そんなことはおくびにも出さず、クラッススがもちかける案を聞くことにした。

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