小競り合い
グンダとの交渉をうまく立ち回ったカエサルに今度は一緒に連れ添っていた若い女性が
ケチをつけられた。
「迷惑料の額は変えられねえ。どうしても変えたければお前が何か質に入ればいいんだぜ、お若いの。」
黒い筋肉質の身体をした大男がドスの聞いた低い声で痩身の若者の前にある大理石調の机を叩きながら言った。
周りには彼の仲間たちが長椅子に座って笑って痩身の若者を見ている。
痩身の若者は、肩をすくめながら、面倒くさそうに言う。
「迷惑をかけたことは申し訳ないと思っています。しかし、家のものを質に入れることはできないと
何度も言っているでしょう。」
なぜ、こんなことになったのか、カエサルは思い出した。
最近知り合ったナヌアというヌミディア出身の褐色の肌をした女の子にせがまれて街に買い物にでかけ、オシャレな髪型を作ってくれる店に行っている途中に、同じくヌミディアから来た難民の若者の集団に捕まったのだ。
しかも、濡れ衣であるが、ナヌアがヌミディアのなんとかという街でかなり黒い肌の大男の家を燃やしたということでローマの街であったナヌアを黒い肌の大男がおいかけ、金を出すように言ってきたのだ。
ナヌアに聞くと、そんなことをしていないという。どちらが正しいかは正確にはわからないがカエサルはどちらに味方するかは決めていた。
そこで、難民の若者がたむろしている空いた3階建ての建物に押し込まれて、迷惑料についての話を聞くことになったのだ。
カエサルは女の子との買い物が楽しくて、ダイン、ジジ、ザハに遠くから見張るように言ったのを失敗したと思っていた。またはここで機転を聞かせて救出にきてくれるかもしれないことに期待しようとしていた。
そこで、集団のリーダーである、筋肉質の身体をした大男がさらにカエサルに何かを言っていたが、カエサルは聞く姿勢はみせつつも流して話をきいていた。
いら立ったリーダーは机を再度叩き、カエサルに言った。
「ふん、結局小僧だから何一つ自分で決められないというんだろう。お前みたいな軟弱な若造は母ちゃんのおっぱいでも吸っていればいいんだよ。最もお前の母ちゃんの萎んだおっぱいが吸えるかはわからねえけどな。あははは。」
その瞬間、どさっと大きな音がした。
黒い筋肉質の身体の大男が顔面を強く殴られて顔を潰されながら後ろに強く飛ばされたのだ。周りの仲間たちも唖然と見ている。
「私の親を侮辱することは許さない。父であっても母であってもだ。」
さきほどまでうっすらと笑っていた痩身の若者から、強烈な怒りが感じられる。
痩身の若者はゆっくりと周りを見ながら剣を抜いた。
大男の仲間たちもここで負けてられないと剣を抜く。
痩身の若者は、横にいた若い褐色の肌の女の子の腰に手をやり、剣を片手にもちながら威嚇して部屋の外に出た。
周りの連中も一定の距離をあけていて痩身の若者のすぐ横には近づかない。リーダーである大男は殴られ飛ばされてまだ起き上がらないのだ。
「よし、こっちから逃げよう。」
そうカエサルがいうと褐色の肌の女の子は走って逃げた。
すぐに彼女に並走する。
後ろから少しの間をあけて黒い肌の男たちが追いかける。
建物の外に出るとそこはローマの新市街だった。
高い建物がひしめきあって人々が暗い面持ちで歩いている。新市街のなかでも貧困地域なのだ。
女の子はよく知った街のなかを走り、カエサルに指示された建物の中に入る。
すぐに痩身の若者がおいついた。
そしてその後には十数人の黒い肌の男たちが続く。
建物の中に入るとそとの喧噪が嘘のように静かだった。
そこで、両者は剣を抜いて対峙した。
痩身の若者の剣の振りは尋常でなく早く、対峙した瞬間に黒い肌の男たちは斬りつけられて剣を落とすか、斬りつけられて痛がってしまった。ほんの数十秒で、6人の男たちがケガを下のを見て、黒い肌の男たちは、これ以上剣であがらうのを止めて、石を持ってきて痩身の若者に投げようとした。
石を投げようとした瞬間、背後から誰かに斬りつけられ、殴られた。カエサルは敵の戦意を喪失させたことを理解して、背後から現れたダイン、ジジ、ザハにありがとうを言った。
それから、黒い肌の男たちを全員捕まえて縛るように言ったのだ。
顔を思いきり殴られて意識が混濁していた黒い肌の男は、自分が捕まっているのに気が付いた。何か石の固まりで殴られた感じだったが、身体の全身がしびれていて動かないし、両手両足が縛られている。
なんとか動く首で周りを見ると仲間たちも全員捕まっているのが見えた。
そこに、椅子に座っている痩身の若者と薄い布を被った小柄な男が2人いるのが見えた。
「お前、名前は何と言う。」
黒い肌の男はあきらめたように息を吐いて言った。
「ヌアデ」
「よし、ヌアデ、私の名前はカエサルだ。憶えておけ、それからお前が捕まえようとした女の子、ナヌアが店で泥棒をしたと言う件だが、デナリウス銀貨で1万枚分、きっちり返そう。」
そういってカエサルは一般庶民の年収のはるかに高い額の泥棒のお金をヌアデの横に、金貨を置いた。
「さて、これでナヌアの罪はなくなった。そしてここからはヌアデ、お前たちが私に対して行った仕打ちについての話をしよう。まず、カエサルの両親を愚弄した件だが、これが10万デナリウス銀貨分、手付としてお前が持っている1万枚分をもらう。後9万分。それから私に襲い掛かってきた件だが、合計で11万だ。お前の借金は20万デナリウス銀貨分になった。ただ、お前は身体付きも良いし、戦う才能にも恵まれているから、お前が稼ぐ事ができる場所を用意した。お前の仲間も同じ場所で働けるようにしてやる。」
「俺たちをどうするつもりだ。」
「良い働き場所があると言っただろう。お前は生粋の戦士だ、ローマの剣闘士になるんだよ。それで稼いでくるがいい。稼いだお金の一部は借金の返済に使うことで、お前はローマの英雄になりながらお金がかせげるんだ。」
「嫌だ、あんな殺し合いの場所に俺をつれていかないでくれ。お前に声をかけるように言ったのは俺じゃねえんだ。俺たちは命令でお前に突っかかっていっただけなんだよ。」と途中から哀れな口調になって喋りだした。
「お前は私たちが街で歩いていた時にナヌアに不合理ないいがかりをつけて金をまきあげようとしただろう。今度はお前が獲られる側になるだけだ。」
「そんなつもりはなかったんだ。カエサル許してくれ。今後はあんたの言うとおりにするから、な。俺にお前を襲うように言ったやつの名前が必要だろ、な。」
「誰だ?本当か?」
「ああ、俺に命令を出したのは、グアッパというローマの商人だ。俺たちもあいつにだまされただけだ。お前は痩せていて女と遊ぶことしかしらない軟弱者だから、捕まえるのも簡単だって言われていたんだ。
すまねえ、あいつに俺たちも騙されたんだよ。今後は俺たちはあんたのいうとおりにする。誓うぜ。」
「私はお前がいうことが正しいか判断できない。お前は嘘つきだ。適当なことを言うだけかもしれない。だからお前は剣闘士として働いてくれ。よし、連れていけ。」
「はい。」と言ってダイン、ジジ、ザハが続く。他にも使用人がきて手伝って抵抗する20人の若者たちを奴隷商もやっているソフィアの元に連れていくことができた。カエサルはそこでソフィアと打合せをしていて、話もまとまったのだろう。
ソフィアの館を出た。
「あんな見掛け倒しの腰抜けだったらそんなに長く持たないと思うよ。」
壁にもたれかかってカエサルに話かけてきたのは、若くて綺麗な女性剣闘士のヌスパ。
親はわからないが白めの肌に、髪は短く縮れていて、顔の彫りが深い。さまざまな人種の血が入っていることはあきらかな人気女性剣闘士がカエサルを見ながら言った。
まあ、私は新人を連れていく仕事を請け負っただけだからいいけどね。
「ヌスパ、君の目にかなう者はいなかったか・・・。
しかし戦いながら目覚めて有望な戦士になることもあるんじゃないのかな?」
「まあね、そりゃ自分で鍛える気になったやつは見込みがある。今のあいつらは奴隷剣闘士になるってのが嫌なだけだからつかいものにゃならないな。数戦して生き延びられて心を入れ替えたなら別だろうが、その時まで五体満足の確率は低いね。」
「そうか、彼らのために戦の女神に祈るとしよう。」
そういいカエサルはヌスパにすべてを任せて出ていった。
そして歩きながら考えた。グアッパという商人のこと。
アフリカにルーツを持つローマ人である。そしてグアッパの背後にいるのは元老院議員クラッススだった。
先日のグンダの件といい、クラッススの傘下がローマで好き放題をしているのは事実だが、実害が及んでくると大変でもあった。
早めにクラッススと話をしたほうがよいのかもしれない、と考えていた。
グンダと別れた後、カエサルは街中で新しい女性と知り合った。
しかし、その女性の陰には男が出入りしていたのである。




