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最初の一手

クリエンテスの前で倒れたカエサル。

何とか体調を取り戻しつつも、自分の存在をアピールするために活動を開始しだした。

ローマの街は変わってしまっていた。

以前は元老院議員といえども、比較的簡単に会うことができていたのだ。

しかし、マリウスとスッラの抗争以降、ローマ市内を歩く元老院議員には多くの取り巻きがいたり、家にも門番が入口で確認をしたりとお互いを信頼できない状態になり、議員たちは簡単に話しかけることが難しい存在になっていた。

それでも、共和制であるローマは市民の総意を得るための民会があり、市民の合意をとる必要があるために、元老院議員といえども、執政官、法務官、按察官、財務官、高位の役職のどれにつくにしても民会での総意が必要だったために表舞台に現れないわけにはいかなかった。

表舞台に現れなければいけないということは話しかける機会を作ることも可能であるが、有力議員に

なればなるほど取り巻きや取り入ろうとする人が多すぎて話しかけることが困難でもあった。

カエサルも試してみてあきらめたのである。


そこでカエサルは民会などで元老院議員が出かけた後の家に目をつけた。以前よりも元老院議員の護衛や付き人が増えた分、その家は入りやすくなっているはずだった。

身なりを整えて、良家の若者としてぼれぼれするような恰好をする。もちろん、従者になるジジやダインにも身なりを整えさせた。身なりを整え、オシャレさを演出することにかけてカエサルはローマで一番を自認していた。

そしてそれは間違いではなかった。


何人かの有力貴族や騎士階級の家に伺い、カエサルは元老院議員の奥方や家族、主に女性と仲良くなる。

マリウスに殺された執政官ルキウス・ユリウス・カエサルの甥であるというと多くの人は同情し、何か力添えがあれば行いましょう、と仲良くなることができた。若い女性になると、ローマから逃げる前のファッションリーダーとしてのカエサルを知っている人たちもいた、スッラに反抗して、年長者にへりくだらないオシャレで有名な若者との会話を楽しむことも多かった。

カエサルも挨拶でこそ、叔父の名前を出したが、後は旦那の素晴らしさや奥方の話を伺うこと、若い女性の未来の相談に乗ることに終始したため、多くの奥方や若い女性はこの痩身の若者が最近の若者の中でも素晴らしくわきまえていると認識していった。


奥方たちは旦那の素晴らしさよりも自分のことを理解してくれる若者ができたことに喜び、時には自分の子ども達よりも聞き分けのよい痩身の若者の境遇に同情するようにもなっていった。

そして貴族の比較的厳しい規範の家で育った若い女性は、同じ貴族であるが、不幸な境遇により活躍の場を奪われている魅力的な若者が自分の話し相手となり身近にできたことを喜んでいた。

しかし、カエサルは彼女たちに自分の立場をどうしてほしいなどの要望は全く語らず、ただ仲良くなるだけだったのだ。

何人もの元老院議員の奥方や議員の娘たちと仲良くなりつつ、自分の願いを言わないでニコニコしている

カエサルを見て、ダインとジジが疑問をなげかけた。

「カエサル、元老院議員の奥様方と仲良くなって知古を広めていくのはわかりますが、ただ通って話をして食事を頂いたりでは次に進めないのではないでしょうか?」

カエサルはそんな疑問を聞いて笑った。

「女心がわかっていないな、お前たち。彼女たちは今まで常に何かを求められる立場だった。今もそうだろう。何か対価があるから何かをしてあげることになれている人たちだ。では私が彼女達に何かを求めたとして今の私に何か彼女たちにしてあげられることは少ないだろう。だからひたすら話を聞き、時を共に過ごして楽しい時間を過ごしているんだよ。それに一緒に話をすることで私も知らなかったローマのことであったり元老院で起こったことなどもどんどん分かるようになってきたしね。」

「そんなもんなんですかね。」

「ああ、ここは結果を焦らず、せっかく仲良くなれた方々との時間を楽しむだけで良いだろう。社会は男たちが動かしているように見えるが背後で支えている女性たちが同じ数だけいるんだ。彼女たちが影ながら応援してくれるとなるとなんて心強いことだろうね。」

そんな会話をしながら、痩身の主人は本当に楽しそうに元老院議員の奥様や家族の女性たちをまわっていった。


最初のうちは必ず門番に止められていたものが、顔なじみになってくると顔パスができるようになって

きた議員の家も増えてきて、若者の方は門番にも簡単な菓子を持って行くなどしてより親しくなっていった。


2人の従者から見ると、奥様方や若い娘たち、門番、各家の奴隷にいたるまでに丁寧に接する若者があまりにも楽しそうなので、何も言えずに追随していった。


ある日、楽しそうな主人が2人に言った。

「お前たち、なぜいつも他の家にいくのにつまらなさそうな顔をしている?楽しめないならついてこなくていいぞ。」

2人は焦り、カエサルについていくことが仕事なんですと言うと、

「うーん、それでも私が楽しんでいるのにお前たちがつまらなさそうな顔をしていると私の行き先の方々も楽しくなくなってしまうだろう。だから楽しくないなら付いて来られても困るんだよ。」と言われた。

ダインとジジは主人に謝罪をして、自分たちも楽しめるように務めると約束した。

しかし、さらにダインが言った。

「カエサル、ゴルバンスはどうするのですか?他の者たちともつながっていますよ。」

先日、ダインが追跡して他の貴族とつながっていることを見つけたことを言っているのだ。

カエサルはそれも笑いながら、

「もちろん、動向は気にしておく。しかし私も他の人々とつながっているように、ゴルバンスも商人だから多くの貴族とつながっている必要はあるんだ。彼がつてを増やしているのを止める必要はないし、もし彼が私を応援したくないと言ってしまえば今の私には止める力もない。今力を蓄えて、やはり最終的にはカエサルに頼るのがよい、とゴルバンスが思えるようになっていかなければいけないんだよ。」

ダインも頭では理解しつつ、カエサル家とクリエンテスの繋がりがどんどん崩れて行っているのが気になっているのだろう。

「ダイン、心配してくれてありがとう。だが今は待つ時期だ。」と言った。

ダインの疑問も少しはすっきりとしたためか、そこからはダインもジジも関心を持って奥様方や若い

女性たち、門番の話にも聞き耳をたて、共に笑うようになっていった。

気が付けば両手、両足の指でも数えれないくらいの元老院議員の奥様方や若い女性たちと仲良くなっていたのだった。

毎日が社交の場になったが、その日々を楽しんでいた。

また、カエサルは共にローマに来ていたザハの勉強をプブリヌスに任せていたのだが、時々は様子見をして剣の練習をしたりもして日々を過ごしていった。

元老院議員の家族に知り合いを増やしたカエサルは次の手として何をしていくのだろうか。

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