マルクス・リキニウス・ クラッスス
パラティーノの丘に住んでいるはずの親友キロに会いにいこうとしたカエサル。
その途中で予想外の出あいがあった
ローマの市街地では公園や個人の庭園で緑が大切にされており、多くの木を街中からも見ることができるた。ローマの政治の中心地、パラティーノの丘にある貴族の邸宅や神殿などは美しい緑が整えられていた。
常に綺麗に整えられた緑は、多くの人を驚嘆させたが、カエサルはそれを見ながら、緑は自由であるほうが美しい、と思っていたので多くの関心を持たなかった。
アウレリウス・コッタの館に向かって歩いている途中、大きな男が何人かを引き連れて歩いてくるのが見えた。色のついた鮮やかなトゥニカを着ているからより目立つ。
カエサルたちはそれを避けて歩こうとしたが、大きな男が声をかけてきた。
「おい、お前、どうして銀の冠を付けているんだ?」と言ってきた。
カエサルは家の中で母と話をするために付けて、そのまま歩いてきた事を思い出した。
「みせびらかしているのか?そうだよな?あはは、銀の冠を見せびらかしている男がいるぞ。」
さほど面白くもないが、周りの男たちは大きな身体の男にあわせて笑う。
この一団の頭のようだった。
周りの男たちは、「若者、質問に答えたまえ」と静かにいう。
「家に置いてくるのを忘れたんだ。」とカエサルが素直にいうと皆が笑った。
「そうか、若者よ、家で頭に載せてわすれたのか、そりゃドジだな、しかし、銀は本物っぽいな。」
大きな男はそこで冠をよく見ながら唸って言う。
大男の連れで、護衛をしているのであろう男が、
「この冠はなんなんだ?」と聞いてきた。
「この冠は価値がわかるものにはわかり、価値がわからないものにはわからないものだ。」
とカエサルが言う。
問いかけた男は言葉を出せなかった。
大きな男は問いかけた護衛が言い返せないのをみて、その物言いに笑いながら,
「おお、面白いな、その表現。俺はこれが銀で、相応の価値があるものだ、とはわかる。うーむ、ああ、
市民冠を模したものなのか?ふむ、ならばそれ相応の活躍をしてのものだろう。
お宝だな。しかし自分のお宝をしまい忘れるのには気を付けないとな、あはははは。」
「そうでしょう。次から気を付けるようにする。」
大きな男はカエサルにより近づいて、
「お前、おもしろいやつだな、名前はなんという?」
「まず、人の名前を聞くにはーーー」
といいかけたところで、大きな男がさえぎって言った。
「そりゃそうだ、俺の名前は、マルクス・リキニウス・クラッススっていう。”金持ち”としてそこそこ有名なんだぜ。”ディウェス”を二つ名にしてもよいか、と思っているんだ。スッラの”フェリックス”(幸運)みたいにな。」
さあ、どうだ、とばかりに自分の名前を明かしたのは自分が有名人だからだろう。
カエサルはその反応を軽く流しながら、負けじと自己紹介をした。
「私は、ガイウス・ユリウス・カエサル。二つ名はまだない。あなたにあやかって、”コロナ”(冠)と
するのも良いのかもしれない。」
と名乗った。それから頭を下げて
「高名な金持ちのクラッスス様にお会いできてうれしく思います。この冠は属州で活躍したのを認められてもらったものです。」
クラッススはカエサルの物言いが気に入ったのだろう。
カエサルの肩に手をまわして
「カエサル、お前面白いやつだな。気に入ったぜ。しかし、その若さで属州に行って武勲をあげたってのもすごいな。俺もスッラと共に歩んで戦場をわたり歩いたことあるけどさ。結構大変だもんな。わかるぜ。俺は最近ではローマの街が主戦場になってしまったよ。それも平和に見えるが結構大変なんだぜ。」
お道化るように言うと、周りが追従するように笑った。
カエサルも笑顔になりながら聞いた。
「ローマの街が主戦場とは?」
「それ以上は、カエサル、俺の仲間にならないと言えないな。」と言ってにやりとした。
カエサルも笑顔になって言った。
「それは光栄。ぜひお仲間に加えてください。」
即答したことに、おお、とどよめく。
周りのクラッススの追随の者たちも、ダインもジジもだった。ここまで迷いがないことはめずらしい。
「お前、本当に気持ちのいいやつだな。カエサル。気に入ったぞ。」
クラッススは笑顔で言う。
「クラッススの仲間になれたと思って良いですか?」
「ああ。俺の仲間になったら俺のルールには従ってもらう。しかし、お前もローマの街中でクラッスス
の名前でいろいろはばを効かせられるわけさ。」
「でも私は今までも自由に歩いていましたがね。」
「ふふ、そうだな、お前はそういうやつだよな。しかし、困ったことがあれば俺に言え。
助けてやろう。」
「それは心強い。」
「ええ、グラッスス様に文句を言えるようなやつはいませんからね。」と言ったのは追随の1人だった。
カエサルは少しだけ考えて言った。
「それではクラッスス様にお願いがあります。私はカエサル家の家長です。私はマリウスに連なる者と
してスッラから公職を務めることができないようになっておりますが、ぜひお力添えいただいて、ローマの公職につけるようにお願いできませんか?」
「マリウスの家系のガイウス・ユリウス・カエサル?」
グラッススはあまりぴんときていなかった感じだ。
追随の賢そうな男が耳打ちをした。
「・・・お前、あのスッラ様から離婚しろと言われて断って逃げたやつか?」
「ええ、そうです。」とわらう。
「まじか、スッラ様にその場で断りを入れれるのはすげえよ。ポンペイオスのやつなんて、離婚しろと
言われて、はいって従ったんだからな。いやあ、お前には会って話をきいてみたかったんだよ。すげえ心臓の持ち主だよな。」
ともはやクラッススの笑顔は止まらない。
さすがにカエサルも苦笑いしてしまった。
クラッススはそれでも笑いを治め冷ややかな感じになり口を開いた。
「お前の気持ちはわかった。マリウスに連なるだけで公職を放棄させられたのは辛いだろう。だが、それは俺もおなじだ。俺のおやじはちょっとスッラを支援しただけでマリウスに殺されたんだ。もうおやじはやりたいことを何もできねえんだよ。どうよ?」
クラッススに試されている、と感じつつもカエサルはおくびにも出さずに答えた。
「私はマリウスとスッラの争い自体が悪だと考えます。だから私たちが新しい世界を切り開いて行く必要があるのでしょう。クラッスス、あなたのお父上のような人を出さないために。」
クラッススは今までになく真剣にカエサルを見た。
カエサルもグラッススを見続ける。
少しの沈黙のあと、
「ああ、そうだな。そのとおりだな。だがな、カエサル。仲間にしてくれと言われたが、すぐにはできねえ。マリウスに連なる者を簡単にいれるわけにはいかねえからな。とはいえ俺はお前を気に入った。その度胸、物言い、そして未来を見ている目、だから何か入り用があったら俺に相談していいぜ。こっちも何かあったらお前に相談するかもしれねえ。」
と言って周りの者と去ろうとする。
「じゃあな。楽しい出会いがあってよかったぜ。カエサル。」
「こちらこそ、良い出会いができました。ありがとうグラッスス。」
そして2つの集団は別々の方向に進んでいった。
カエサルは歩きながら、ダインとジジに言った。
「あれが”金持ち”クラッススか。俗物な感じはするが、思ったより大きいな。」
「ええ、大きかったですね。」とダイン。
カエサルはダインを見て笑った。
「もちろん、体格的な大さだけじゃなくて、人としての大さだけどね。」
「え、私もそのつもりですよ。いや体格も良かったですけどね。金持ちっていうからもっと小さくて腹が出ているイメージだったんですが戦士みたいな感じですね。」
とダイン。
「あはは、実は私もさ。もっと小賢い感じの人を想像していたんだが、気持ちのいい人だったな。」というとダインもジジも頷いた。
「さて、気持ちを切り替えてキロを探そう。」
そういってパラティーノの丘のアウレリウス・コッタの家まで行ったがその日はキロに会えなかった。
翌日、キロからの伝言が一つ。
自分から連絡をする、とだけあった。
”金持ち”クラッススに会ったカエサル。
仲間にはならず、しかし仲良くなった。
この出会いは何を生んでいくのだろうか。




