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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
豊かなるアシア
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エセイオスの脱出

ガルパンは自分の新しい生活をするためにせいいっぱいだった。

家族は婆を除いて死に、頼れる人もいない状態だったのだ。

衝撃的な話を聞かされたガルパンは、それでも仲間になろうと思ってカエサルと気持ちをあわせて働くことを決めた。

それから、ガルパンはまずは借りている家から、自分の家を見つけて、使用人を探していくことを決めた。

イレイア商会のジグルドは非常に気さくな若者で彼とも仲良くなりながら、少しずつ自分の生活を築き上げることができてきたのにほっとしていた。


家を決め、ジグルドの使用人が手伝ってくれる。

若い奴隷や使用人を雇って、身体が弱っている婆をなんとか世話できる感じになる。

もともと質実剛健をよしとする家系なため、自分でできることを何でもやりだして、生活環境が整ってきたところにカエサルが祝いをしよう、と言ってきたのだ。


しかも場所は、ガルパンの新居でだ。

新しい友はなんて気が利くのだろう、と思い、ガルパンは大喜びでカエサルたちを迎え入れた。カエサルはジグルドとドムスに依頼してプレゼントを山のようにもってきた。

新居に足りないであろう幾つかの家具や道具もある。

そして祝いのための食べ物、酒などもたくさんあり身内ではあるが、それなりの規模で祝いが行われた。

ガルパンは周りの市民も呼びたかったが、カエサルはガルパンと自分たちだけで今回は私用と言うので従った。夜を通して、酒をのみ乾杯しつづけた。


ふと気が付くとカエサルがいなかったが、恋人のところにでも行っているのだろう。

そう思ってガルパンは、自分は気が利く男だな、と笑い、早く自分にも良い人がほしいと思ってまた他の仲間達と飲んで楽しく過ごした。


朝になってガルパンは頭がガンガンしていた。もう少し寝ていたいところだったがジグルドの使用人のシャーラという使用人が優しく粥を持ってきてくれたのでゆっくりと味わって飲む。

シャーラへすぐに他のところに行ってしまったが、

ガルパンは彼女のエキゾチックな雰囲気と憂いのある表情が印象に残ってしまった。

それから顔を洗い、立ち上がるとカエサルがおはようと言ってきた。近寄ってきた彼は、ガルパンに、

「私は昨日は一晩中君と共にいて、一緒に飲んでいた、ことにしておいてくれ。」と言ってニヤリと笑った。

ガルパンは事情は分かっていると思い、同じようにニヤリと笑って

「当然さ。昨日は一晩中語らいあったじゃないか。」と返した。

そうこうしているうちにカエサルとジグルドたちは祝いの片付けをしてい去っていった。


皆が去っていき、婆をおいて一人きりのガルパンは寂しい気持ちになっていた。

明日には新しい使用人が来ます!

とジグルドが言ってくれたがそれまで寂しいなあ、と思っているのだ。


昨日の後片づけは住んでいるし、今日は何もする気にならないと思ってゆっくり休むことにしたガルパンは、午後になり、新しい我が家に何人もの人が入ってくる音がして起きた。

カエサルたちがまた来たのかと覗いてみると、ミヌチウスの部下の調査官が、部下をつれてきていたのだった。調査官はガルパンにたいして質問した。

「ガルパン殿、昨日の夜は何をされておられましたか?」

ガルパンは怪訝に思いながらも

「カエサル殿と語り合っていましたよ。」

「一晩中?」

「一晩中です。」

「カエサル殿とずっと一緒でしたか?」

「はい、互いに大変だったこと、そしてそれを乗り越えたこと、これからのことを大いにかたりあかしたのです。」

そう誇らしく言ったガルパンを見て、調査官は、笑いながら言った。

「いや、ガルパン殿がそこまで誇らしく言っていただけると、カエサル殿の嫌疑も晴れたと言えるでしょう。」

「嫌疑とは?カエサル殿にどのような疑いがあるというのですか?」

嫌な予感がした。

「いや、シビル様のところから情報屋が逃げ出したそうでね。真っ先に疑われたのが上司でもあったカエサル殿なんですよ。」

思い当たるふしがあった。夜カエサルはどこかに行っていたのだ。

「さて、あなたも大変なお役目ですな。しかしカエサル殿は私と居たのには変わりません。

ぜひ真の犯人を捕まえるようお願いいたします。」

と言って早々に我が家に切り上げた。


まさか、自分と飲んでいる間に、隙を見て抜け出して情報屋を助けにいったのだろうか?

いや、しかし確かにいない時間はあったが、他の屋敷に侵入して出てくるのは大仕事だ。


そんなことを考えていたら、また誰かが自分の家を訪れてきた。


訪れてきたのは、今度こそカエサルだった。

カエサルは、ジグルド、ダイン、ジジそしてもう一人、

昨日はいなかった少しやつれ気味の男がついてきていた。


カエサルは笑顔であいさつをしてきた。

「ガルパン、昨夜君が話をしていたトーガを準備してきたよ。私のこだわりの部分、裾の色にもこだわった感じにしてあるから、ぜひ使用人が来たら着てみるといい。

そして少し慣れたら、カエサル流のトーガの巻き方などを教えてあげよう。これでローマに戻った時は、おしゃれなガルパンでいけるはずだ!」

と少し自慢げに喋り続けてきたカエサル。

ガルパンは、さまざまな気持ちが頭をかけめぐっている中圧倒されて、お礼を言うのがせいいっぱいだった。

「ありがとう、カエサル。さっそく新しい使用人とトーガを着てみるよ。」

それでもガルパンは気になっていた点を聞いた。

「カエサル、昨日、私と飲んでいる途中でいなくなってどこかにいったりしなかった?」

「もちろん、私はずっと君と話をしていたよ。もちろん酒をたらふく飲んだから、小用は何度か行ったけどね。」と笑う。

らちがあかない。

そう思ったガルパンはカエサルに質問をなげつけた。

「昨夜、シビル邸から情報屋が逃げたということで調査官が現れた。それは君がやったことではないのかい?」

痩身の若者からただならぬ暗い感じがした。

「真実を伝えたほうが良いかな?答えによっては君と私は共謀したことになるけど。」

ガルパンは固まる。すでに調査官にはカエサルは自分とともにいた、と言い切った後だ。

どう考えても自分はカエサルのアリバイを立証したことになる。

真剣な表情で頷いた。

「わかった。じゃあ、紹介するよ。その後ろにいる少し疲れた感じの男が噂のエセイオスだ。彼だ脱走したのは本当だ。その手助けを私はした。」

横にいたエセイオスがガルパンに少し頭を下げた。

さらにカエサルが喋る。

「彼には今からスッラの元に走ってもらう。そうするとシビルが皆の前で話をしたことは本当の話になるから、誰も困らない。ただし、シビル本人は、自分が情報屋を捕まえていた、ということをスッラに密告されないかは気になるだろう。」

そう言って、エセイオスの疲れた身体を見せた。

「エセイオスの姿を見ると、丁重にもたらされた、というよりも単なる監禁だったというほうが確かだ。

そのあたりの報告をどうするかはエセイオス次第だが、シビルはもしかしたらスッラへの言い訳のために

ローマに急いで帰るかもしれないね。」

と悪い顔をして言った。

「しかし、情報屋がひとり、いなくなってもスッラに会いにいくかはわからないのでは?」

「もちろんそのとおり。だから、エセイオスには、シビルに手紙を書いておいてもらったんだ。

スッラ様に報告にいきます。と。」

そして笑う。


疲れた感じの男が前にでてきて、ガルパンに挨拶をした。

「ガルパン様、私を助けるために助力いただきありがとうございました。何かあなたの手助けができるようなことがあれば、ぜひさせていただきます。」

「ああ、無事なようでなによりです。」

ガルパンはそれくらいしか言えなかった。

もはや自分は共犯者になっていたのだ。

父や家族を殺したというマリナスのことも聞きたかった。頭がぐるぐるする。


その後、ガルパンはカエサルやエセイオスと色々なことを話した。マリナスの罪の断定などについても聞いたのだ。あまりおぼえていないが納得した気がしていた。

余りに多くのことがあったので疲れて早々に眠りについた。


翌日、エフェソス近郊で元老院議員から情報屋が逃げたという情報は出なかった。

その翌日もなかった。

その翌日、元老院議員のシビル・ファビウス・マクシマム様がローマへの帰路についた。

ガルパンは笑ってその話を聞いた。


エセイオスを救出したカエサルは、強襲事件が収まったことを感じた。

次は何をしていくのだろうか。

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