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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
豊かなるアシア
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カエサルのほら話

シビルの話で議場が混乱していた。

エセイオスという情報屋が思った以上に力をもっていたことに驚いたカエサルは

この場をどうしのぐのか?

シビルは、カエサルの物言いが面白かったのか大笑いをした。

カエサルはその笑いにどう対処してよいのか困った風を装いながら、考えを巡らる。

笑いをとめたシビルは、

「そうですね。カエサル殿の活躍はスッラ様もご存じなはずです。若者の活躍を祈っているでしょう。」

なるほど。

これは嘘だな、とカエサルはおもった。

あの冷酷な独裁官が些末なことに反応するはずもない。

エセイオスの報告というのがうそかもしれない。


そういえば、シビルの言葉の出し方はおかしい。

もしエセイオスがシビルの元にいたとして、全て喋っているなら周りくどい話をしなくてもいいはずだ。

もちろん、傲慢な貴族にありがちな、すべて知っていて遊んでいるという可能性はあるが、カエサルの直感は、シビルの言葉の大部分は嘘だと感じていた。


まだ笑っているシビルを横目に、カエサルは口を開く。

「さてさて、アシア属州での私の忠節にスッラ様からお褒めの言葉をいただけるかもしれません。楽しみにしておきます。シビル様のお話、カエサルは十分に納得しました。

ちなみに彼はどちらにいるのでしょうか?

これでもミヌチウス様から私の配下にといただいた優秀な部下です。実は情報の達人であったとはしりませんでしたが、彼と早々に話をしたいですね。」

軽い感じで言いながら、カエサルはシビルの回答を待つ。

シビルは、一瞬とまって喉をゴクリと言わせて話す。

「彼は私の館にいる。しかし、すぐにどうしても急ぎでローマにいかねばならないのだ。」

「上司である私には報告なしでですか?それはシビル様、一度私の元に戻ってくるようにお伝え願えますか?いえいえ特に何があるわけでもないですが、スッラ様の旗下で情報を取り扱っているということであれば、一言二言文句を言ってやりたいくらいなんです。」

といってカエサルはいたずら者の顔をして、シビルとそれ以外の人たちを見渡した。

「まあ、それくらいの時間はあるでしょうね。」

と助け舟を出したのは、アルテミス神殿の神官長と呼ばれた中年の女性だった。

彼女とは気があいそうだ、と思ったカエサル。


他の者も、そうですね、それくらいはカエサル殿にゆるされてもよいかもしれませんな。

という流れがでてきた。ガルパンも手を叩いてカエサルを援護する。

シビルが少しこの流れが悪いと感じたのか

「いや、カエサル殿のお気持ちもわかりますが、スッラ様の命令ですからな。私の一存でどうこうするわけにはいかんのですよ。」と譲らない。

「ローマまでいくのであれば、シビル様の家から私のところを経由しても差はありませんね。」

といういたずらっぽい言い方でカエサルは追いかけた。

場内はいままでの緊張がとけてのんびりした感じになり、ちょっとの寄り道くらい大丈夫だろうという意見になった。


シビルが、どう反論しようか止まっている。

どうも、エセイオスを私にあわせることはシビルにとって不都合らしい。もしかしたらできない状態なのか。軟禁していたり、殺してしまった可能性もある。


エセイオスとあうのは別として、今の議題をそらしたいカエサルは、シビルに助け船を出す風で、皆を見ながら、真剣な口調で話をはじめた。

「シビル様の話はわかりました。エセイオスには私の文句を聞いたあとでローマに旅立つように言っていただきましょう。」

と勝手に話を決めてしまった。そしてすぐに

「そして、皆さまに聞いて頂きたい話がございます。」

と言ってカエサルは緊張の糸が切れた列席の幕僚たちの緊張感を高めつつゆっくりと話をはじめた。

「海に面した栄えある交易都市に育った男がおりました。男は目端が効いたので、成長すると大きな商会で交易を任されるようになりました。自分を重宝してくれた旦那に感謝をしながら仕事に邁進しました。商会のなかでも度胸もあり荒事にも強買ったため、また将来の性格的に交易の交渉を得意としていました。」

皆、まだカエサルが何を言いたいかわらかない。

カエサルは皆の注目をあびながら喋り続ける。

「彼は商会で大きな地位を占めるようになりました。しかし、出自が不明の彼はそのあとどれだけ頑張ってもそれ以上の出世はできなくなります。そんな彼にある商人が話をかけました。ちょっとだけ交易

都市の情報を横流しすれば更なる利益をお前に与えよう。彼は悩んだ末にそんなに影響も大きくないと思われたその情報をあたえます。そこで、数日後、彼のライバルであった商人頭が襲われて死にます。

それから次にまた商人が現れて彼に言います。今度は商会とも仲の良い都市の評議員の情報が欲しいと言います。彼は商人頭の事故のことを知っていましたが、今度は迷いながらも情報を渡します。そのあと、今度は評議会の議員が事故で死にました。

それからすこしたって、再び商人が現れます。今度は都市を守る軍の司令官の場所を教えてほしいというのです。

彼はもう悩むことなく話をしました。それから司令官に何があったかはわかりません。彼は多くの金を手にして独立し、稼いだ金でさらに多くの利益をあげ、交易都市を牛耳る商会の商会長をつとめるまでになりました。」

「その話は事実なのか?」と幕僚の一人が言う。

「さて、どうでしょう。それよりも重要なことは、われわれがなすべきことはお互いに疑心暗鬼になることではなく不明の敵に対して結束することだと思います。いかがでしょうか、ミヌチウス様。」


ミヌチウスは頷きながらしゃべりだした。

「そうだ、われわれは可能性だけで判断してはならない。

そして、情報がたりないなかで、他者をおとしてめてはならないだろう。シビル殿が幼少から知るマリナス殿がわが軍の武将ガルパンや教育官のカエサルを狙った。その可能性はあるだろう。しかし隙をついて近隣の諸国がローマの力をそぐために動いた可能性もあるな。もう一度調査を徹底させるようにしよう。」


シビルは表情を見せないような乾いた笑顔でミヌチウスに了解の意をしめした。カエサルも神妙な顔でうなずく。

そして、その場にいた皆もとりあえず納得した感じで、この日の集まりは終わった。


カエサルはほっとしながら総督邸を出る。

シビルの感じでは、ガルパンとカエサルを襲撃したのはマリナス。マリナスを狙ったのはカエサル、と状況証拠がなくても言いそうな雰囲気だったのだ。未然に罪の疑いをはねのけられたことは成功だった。


ふう、とため息をついて足早に外に向って歩いていると、ダインとジジがかけよってきて話かける。

「いつもと違う雰囲気でしたが大丈夫でしたか?」

「ああ、ちょっと話が複雑になっただけだ。」

カエサルは考えながらも歩き続ける。それから

「そうだエセイオスがどこにいったなんかわかるかな?」

「エセイオスですか。彼はいつも自由だからちょっとわからないかもしれませんね。彼に何かあったんですか?」と答えたのはジジだった。

「捕まっているか、最悪殺されている可能性もある。」

ダインとジジは顔を見合わせたが邸内なので2人も何も言わずに歩き続けた。


「なにがあったんですか。」

総督の邸宅を後にしたところで、2人が聞いてきた。

「マリナスの親族のシビルという男がいて、エセイオスからの情報でマリナスがガルパンと私を狙った犯人だと発言したんだ。」

「エセイオスが裏切ったってことですか?」

「いや、そうじゃない。どうもエセイオスは捕まっているんじゃないかと思う。マリナスを疑うこと自体はある程度推理ができるものならできることだからな。」

「なるほど。」

「どうもそいつの話す感じだと、エセイオスを家に確保しているけど、私がマリナス邸を襲撃したなどの情報は得ていない感じなんだ。だからたぶん監禁されているか適当にのらりくらりと最低限の情報だけを相手に出してのんびり過ごしている可能性もある。」

「確かに、エセイオスなら敵につかまっていても、のんびり過ごしている可能性がありますね。」

とジジが言った。

辛辣に成長してくれた若い奴隷を見ながら、

「とりあえず、私に嫌疑がかかる前に、適当な話でごまかしてでてきたんだ。ミヌチウス提督はうすうす

感じているかもしれないが、私を罰するつもりはなさそうだったからな。」

「なるほど。提督が味方であればありがたいですね。」

とダインが言う。

笑いながらカエサルは2人に指示を出した。

「ジジはザハとともにシビル邸を偵察してきてくれ。エセイオスはいるだろうからあいつを脱出させられ

そうか、また変な人間が出入りしていないかを見てほしい。

そしてルチャたちに依頼してフェナ商会に圧力をかけていってもらおう。」

「ルチャたちはフェナ商会で何をしますか?」

「フェナ商会はシビルとつながりがあるそうだ。ちょっとプレッシャーをかけたいので、ドムスと父親

に、友情が壊れない程度に脅しをかけてほしい。本当に傷つけたり商品は丁寧に扱えと言ってくれ。」

ジジがわかりました、と言った。

「それから、イレイアの容態を見たら、私は出かける。ダインは私についてきてくれ。」

ダインが言う。

「どちらへ?」

「ガルパンに会う。彼も仲間にしよう。」

議場をうまく抜け出したカエサルは、エセイオスの状況を確認し、

ガルパンを仲間にするため動きはじめた。

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