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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
豊かなるアシア
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シビル・ファビウス・マクシムス

イレイアたちを襲ったマリナスに復讐を実現したカエサルは晴れやかな気持ちになっていた。

そして、そのままベットの上で身体を休めていた。

カエサルは、スッラから追われて逃げてきた先で受け入れてくれたミヌチウスに感謝をしていた。

自分が活躍できる場をいくつも提供してくれたこと自分が活躍したことを心の底から喜んでくれたことにも感謝をしていた。

だから本当は、正直に事情を話したい、と思っていた。

しかし、状況はそうならなかった。


カエサルが部屋に帰り眠りについてから、やっと起きだして、軽く昼食に焼いたパンと野菜をあわせた食事をしていた頃、使いがきてミヌチウス総督の元に来るようにお呼びがかかったのだ。


最近では、ミヌチウスがカエサルを呼び出すときは1対1になることがほとんどだった。

それだけ腹をわって話すことができていたのである。

しかし、今日は違っていた。


まず、総督の執務室の前で、従者であるジジやダインと共に待機を命じられた。

今までにない雰囲気を感じ取ったカエサルは、頭を巡らせた。


ただごとならない雰囲気の呼び出しは、マリナス襲撃の犯人と断定去れたか、さらに悪いことに

ガルパン襲撃も自分のせいになっているかもしれないと。

どうやってこの流れを良いほうにもっていくべきか。短い時間で表向き平静を装いながら、

座って待っている間考え続けた。


それから、カエサルのみが入るように言われて、入りなれた執務室に入る。

その中には、ミヌチウスと見慣れた数名の人たち、多くはミヌチウスの幕僚であり、カエサルも顔を知っていた。さらに、ガルパンの同名の息子ガルパンそれから全く知らない顔が2人いた。

一人は長身のカエサルと同じくらいの身長だががっしりとした肉付きの壮年の男性。重厚なトーガに赤い襟をしているところを見ると元老院議員だろう。

もう一人は服装からしてアルテミス神殿の女官だろう神官服を来たすらっとした中年の女性だった。


ミヌチウスが声をかけてきた。

「よく来た。ユリウス・カエサル。襲撃事件が立て続けにあった中で無事にいてくれて何よりだ。君の恋人の健康状態はいかがかね?」

ミヌチウスにとっては、これは普通の挨拶。ローマ人は家族の健康状態にも踏み込んでお互いの話をしていくのだった。

しかし、カエサルは最初から儀礼的な挨拶をしなかった。

「ミヌチウス閣下、ご配慮ありがとうございます。しかし、残念ながら私の恋人は・・・」

ここでカエサルは嗚咽をもらした。

中年の神官らしき女性が気遣うぞぶりを見せる。周りの者も挨拶が単なる挨拶に終わらなかったことに動揺を隠しきれずにいた。

「申し訳ありません。」と謝り嗚咽を抑えるカエサル。

「私の恋人は、顔にひどい傷を追い、胸にも穴が空き、足は二度と立てないと医者に言われ、未だに生死の境をさまよっております。私は恋人を狙い、その周りの人々を殺した犯人たちを自分の手で仇を討ちたいと思っています。」

語気がどんどん強くなる。

そこまで言い切って、ミヌチウスを見た。ガルパンが想いを同じにしてくれたのだろう。同意を示し強く頷いていたのが目に入った。

「ミヌチウス様、我々を襲った犯人は誰か、操作の進展はいかがなものでしょうか?」

大きなそぶりでそのようになげかけミヌチウスを見た。

ミヌチウスはため息をつき、まずは犠牲者への祈りをしながら、恋人が少しでも健康な状態になれることを祈る、と言った。

それからカエサルを見て

「私は、ガルパンを殺し、カエサルお前の恋人の家を襲撃した奴らを許さない。」

と言った。それから続け言った。

「それとは別に本日驚くべき殺人事件が発生した。マリナスが殺されたのだ。私は共にローマから来た彼の死を悼む。彼の殺され方を悲しいと思うし、次代の若者に彼の心を引き継げなかったことは残念に思う。」

カエサルは静かに、「心中お察しいたします。」とだけ言った。

ミヌチウスはカエサルを見ながらさらに言った。

「マリナスに対して、君は思うところはないか?」

「マリナス様とお話する機会がほとんどなかったため、個人としては偉大な先輩が亡くなられたことを残念に思っております。私自身も機会がありましたら冥福をお祈りしたいと思います。」と言った。

「そうか。マリナスが襲撃しなくなったことで、疑われているのは「リビエラの自由な風」のメンバーである。マリナスも君たちも彼らと関わっているからな。」

「なるほど。」平静を装うカエサル。

「しかし、「我々は「リビエラの自由な風」と合意して彼らの罪をつぐなう場所をあたえたのであって恨まれる筋合いはありません。さらにいえば私は彼らの多くを育成している立場で、その教育方針があわなくて私が恨まれるならまだしも、ガルパン様を責めるのはおかしいと思います。マリナス様も残念ながら戦闘で彼らを叩きのめしたのではなく叩きのめされたのですから、恨まれることはないのではないでしょうか?」

「ああ、そうだ。そこはわかっているのだ。だから元賊であっても彼らを一方的に疑うべきではないとも

思っている。」


「少し話がどうどうめぐりをしているようですね。」

そういって話に加わってきたのは、先ほどカエサルが見た長身だががっしりとした肉付きの壮年の赤い襟のトーガを来た元老院議員だった。

議員は挨拶をしながら、カエサルたちに近づく。

「はじめまして、ガイウス・ユリウス・カエサル殿。私はシビル・ファビウス・マクシムスという。」

ファビウス・マクシムス。ファビウス一門の中でも最高の名家、ファビウス・マクシムス!

その名前を聞いてカエサルも一瞬緊張した。しかし痩身の若者はかくさずに口にした。

「これははじめまして。名高きマクシムス家のシビル様、このような地でお会いできるとは光栄の至りです。以後、お見知りおきを。」と言った。

「こちらこそよろしくお願いする。カエサル殿。さてミヌチウス殿、私の勝手な想像、を言ってもよろしいでしょうか?」

シビルは周りの他のメンバーにも同意を得るようにあたりを見回した。

「私はなくなったマリナスと幼少期から一緒に育ったことがあります。そしてだからこそ彼の性向をこの場の多くの人よりも理解しております。」

シビルはカエサルに再び目をあてていった。

「彼は誇り高い男でもありました。それが良い方向に出ればよかったのですが今回は盗賊たちに撃退されることでその誇りをぼろぼろにされてしまったのだと推測します。そのうえで、ガルパン殿、カエサル殿が盗賊を説得し吸収したことで、彼の心はズタボロになったのでしょう。そして、彼は部下を使ってガルパンとカエサルを襲ったのです。」

シビル・ファビウス・マクシムスの推測はどこまでカエサルの真実に近づけるのか?

そして、その時カエサルはどうするのか?

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