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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
豊かなるアシア
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イレイア商会襲われる

盗賊たちの反乱を抑えたカエサルたちはそれぞれのもの思いにふけりながらミヌチウスたちと会う。

マリナス・ファビウス・ラビオは40代の半ばだった。

ローマ有数の名門貴族ファビウスの一門として元老院議員である。しかし名門であることを誇るあまり、同じ元老院議員たちからも疎まれていた。同じ一族の口利きでミヌチウスに同行したのだ。ミヌチウスはファビウス一門からの依頼でマリナスを同行させることにした。


そうしてマリナスは南部の要衝、ピュスコスを任されていた。西に行けば、リュキア同盟があり交易的にも価値が高く、南にいけばロードス島を望める立地だった。


マリナスは知識が豊富で賢いのだが、問題は名門貴族としての高いプライドだった。

貴族でも超のつく名門である自分とそれ以外の貴族、騎士階級や平民などを常に格下として扱っていたのである。


格下であるミヌチウスが属州総督であることも本人には我慢がならなかったがファビウス一門の総意としてきている以上、仕事には前向きにとりかかっていた。

マリナスが任されたピュスコス近辺は漁業、林業、交易も盛んで豊かな富をもたらすことでは彼を満足させたが、金は十分過ぎるほどに持っている男だったため、交易でさらに豊かになることに重きを置かず、商人や市民を大切にせず、行政を担っていた属州出身の有能な者を排除し、ローマから連れてきた自分の配下を配置し、その者たちが自由にすきなことをしたせいで、地域の人々の気持ちは離れていった。


そこで発生した「リビエラの自由な風」という盗賊たちの活躍である。

本来、盗賊を嫌うはずの庶民が盗賊側の肩を影ながら持つようになった。

これを恥と感じたマリナスは、最初自分の配下だけで秘密裡に処理しようとしたが、全くうまくいかず、

「リビエラの自由な風」を調子づかせる始末だった。

そして、大勢力になった賊を倒すために、ミヌチウスからあてがわれた6個大隊を持って鎮圧を目指したが、一方的にやられ、6個大隊のほとんどを撃破され生き残った兵士を放り投げてエフェソスに逃げ帰ってきたのだ。

そして再戦を挑もうとしたマリナスに対して、ミヌチウスは再戦を認めず、ガルパンとカエサルという平民と貧乏貴族に任せたのだ。

そして平民たちは盗賊たちを懐柔してきた。

「下郎同士、意見があうのだろう。」と侮蔑して思っていたものの、リビエラの自由な風にいた兵士たちはローマ軍に統合され、指導者たちもカエサルが教育隊にて再教育をするという。ガルパンとカエサルと盗賊たちが結託して自分を貶めようとしているように思えた。


そしてとどめは、ミヌチウスからピュスコスの任地を取り上げられ、ミヌチウスの直接の配下となるよう言われた。

全員がぐるになって自分を貶めようとしているのか。許せない、と思った。

少なくとも、ガルパンとカエサルがマリナスを貶めている事に違いはない。


エフェソスは好景気にわいており、なかなか貴族や商人が住める住宅も空きがなかったなか、ミヌチウスは無理を言ってマリナスのために館を1つ準備した。

最初、準備された館が豪奢だったことでマリナスはミヌチウスの配慮に感謝を示したものだが、この館が貴族ではなく昔の商人の家だったことを知りミヌチウスの仕打ちを罵った。


「この私に、商人の館に住め、という仕打ちをするとはミヌチウスめ。許せない。」

そういう主人をなだめようとする者はいなかった。

なだめることでさらに怒ることが目に見えているからだ。

その後、マリナスの新しい館に離散していた部下たちが集まりだした。

そして、いつの間にか金で言うことを聞くならず者たちもたくさん集まってくるようになった。マリナスは金払いは良いのだ。

ならず者たちを集めながら、マリナスはミヌチウス、ガルパンとカエサルのことを徹底的に調べ上げるようにした。


そして調べていくと、ミヌチウスは総督の公邸に家族を連れてきて住んでいた。

ガルパンの住んでいる邸宅には妻と子ども達、そして何人かの親族がともにローマから来ていること。

カエサルは兵士たちの館に住んでいたが懇意にし、入り浸っている商会があり、そこにカエサルの女が

いることを突き止めた。


盗賊たちの乱が過ぎて1月が過ぎようとしていたある日。

日が傾いてきた時間。マリナスは、自分の引き連れている部下達を連れてエフェソスを望む丘から街を見ていた。エフェソスの市街地から2カ所火の手があがっているのを見る。そして、人々の叫び声が聞こえる。


日が落ちはじめているエフェソスは買い物客などでにぎわっているなかだったために混乱の絶頂にあった。自分を貶めた奴らに罰をくれてやったのだ。そう思ったマリウスは満足して、自分の館に帰った。



カエサルは兵士たちの館で剣の稽古をしていた。そして、成長してきた兵士たちの教育が終わった事を祝い共に酒を飲んでいた。


街が騒がしくなっていることに気づいたカエサルは嫌な予感がしていた。そこにエセイオスが走りこんで

きてジグルド邸が襲撃された、と言った。半分酔った身体を動かしながら急いでジグルド邸に向かう。

「イレイア、ジグルド、ラナ、他の者たち、無事でいてくれ・・・。」

祈るような気持ちで馬をかる。


一部で焦げた小麦の匂いや襲撃によってケガを負った者たちの血があちらこちらに散っていた。ジグルドは殴られ剣で切りつけられた傷があったが、幸い命に別条はなかった。

ラナは買い物に行っていて無事だったが、何人かの小者たちが血だらけになって倒れていた。そして

最近知り合った「リベリアの自由な風」の幹部たちもそこに横たわっていた。

そして、その先に15歳になった美少女は、頭から血をながし、全身に殴られたような跡があった。

そして、両脚には切り付けられた大きな傷がある。

優しく抱きかかえようにも、傷にさわるため、カエサルはジジやダインに運搬用の布を持ってくるように言った。

それから大切に布に載せてエセイオスを加えた4人で持って明るい場所に連れてくる。

すぐにジジが血の流れている部分に応急処置をはじめた。

カエサルは頭から血を流している少女をやさしく抱きながら、涙を流した。

それでも、息があることを見て安心して、ゆっくりと横に寝かせて頭の状態を見る。


すぐにエフェソスでも有名な医者呼ばれた。


医者は何も言わずにただ一所懸命に処置をした。

カエサルやダイン、ジジも様子をみて、医者の指示したものが直ぐに準備出来るように動いた。

それから、当たりが真っ暗になってろうそくとランタンで処置を終えた医者が、

「ふう、なんとか必要な処置をしたぞ。」

しかし浮かない顔をしていた。

「どうでしょうか?」

と聞くカエサル。

「頭はたぶん大丈夫だと思う。他にも胸を殴られたり蹴られているところも痛々しい。良くはないが、

しっかりと処置をすること、薬を飲むことで、若いから治っていくだろう。」

それから一呼吸をおいて、カエサルを見て言う。

「しかし、脚の腱を切られているところはわしにもどうしようもない。」

「腱がやられているとどうなるのです?」

「今は歩くことはかなわん。」

「治癒の見込みはないのですか?それか杖があれば歩けるとか?」

「わからん、ただ、今後も自力で歩くことは 難しいと思う。」

カエサルは頭がくらくらしてきた。

自分にきりかかってきたイレイア。

横で一緒に喋っているイレイア。

走り回り、飛び跳ねて武器を使っているイレイア。

一緒に歩いて旅してきた馬車で、脚をのばしていた姿。

そして、私もカエサルについていくと言っていた姿。

いろいろなものが思い出されてきた・・・。

カエサルはそこに座り込んで、イレイアの足元でただひたすら泣いた。


翌日になっても、痛みがまだひかないイレイアはうなりながら、起き上がることはなかった。

カエサルは、エセイオスに襲撃犯をさがせとだけ指示していた。


それから数日が過ぎた。

イレイア商会が襲撃をくらった日、町ではガルパン司令官の家も襲撃されていたことがわかった。

盗賊たちの報復であるとして騒ぎになり、町を巡回する兵士たちが増えていた。


ジグルドは普通に仕事ができる程度に回復したため亡くなったイレイア商会の仲間たちを葬り、祈りを

ささげ、痛めつけられた商会を立て直すことに専念することにした。

アルバニスが焼け落ちた柱の再設計をしてくれルチャやロボスなど兵士の仕事がある仲間たちも

荷物を運んだりすることを手伝ってくれた。

イレイアの容態も少しおちついてきて、カエサルたちは交代でイレイアを見るようになっていた。

苦しそうだった寝顔は、少し落ち着いてきたのだ。


そんなときに、エセイオスがジグルド商会に現れカエサルに声をかけた。

「どうだ?」とすぐに聞くカエサル。

「いろいろわかってきました。カエサル。まずは落ち着いてきいてください。イレイア商会を襲撃

したのは元老院に席を持つマリナスです。そしてイレイア商会と同時にガルパン司令官の家も襲撃さ

れて、ガルパン司令官を含め親族全員が殺されたようです。そこには、「リビエラの自由な風」と言う

書き置きがされていました。

「リビエラ・・・」の連中はイレイアたちを守った感じにしか見えなかったが・・・。」

「連中を嫌う者たちが、罪をなすり着けたに違いありません。」


その話をしているところにカエサルの配下に入った

「リビエラの自由な風」を率いていたタウロとタルススの2人が入ってきた。2人も今回の襲撃

でたまたまイレイア商会にいた仲間が殺されているのだ。

その二人にカエサルは向って口を開いた。

「リビエラの自由な風、が私とガルパン司令官を襲撃した。」と言うカエサル。

タウロとタルススは首を振って否定した。

「私どもは、一般市民をまき沿いにする活動をしたことはありません。既に解散しましたがそういうった

心持ちの者もおりません。イレイア商会への攻撃はわたしどもではありません。」

「ああ、そうだろうな。「リビエラの自由な風」に罪をなすりつけようとする者の仕業ならどうする?」

「名誉のためにも罪をなすり着けてきた者たちを捕まえに行きます。」

「そうか、私は、イレイア商会を襲ったけだものたちを退治しようと思う。力を貸してくれるか?」

無表情のままのカエサルが言う。

いつも笑顔が多い若者なので、2人は違和感、恐れを感じつつもうなずいた。

「よし、では今から夜襲をかけるぞ。敵は元地域司令官マリナス。やつらは人の姿をした獣だ。

これからその獣たちを討伐しにいく。やつに与する者者はだれも生かしておかない。」

とカエサルは言った。

周りのものが緊張の面持ちでカエサルを見る。

エセイオスが言う。

「マリナスは今でもローマの元老院議員ですよ。良いのですか?」

「ガルパン司令とイレイア商会を襲った。その理由は何だ?」

「自分の手柄をとられた復讐とかですかね?」

「そんなところだろう。個人的な嫉妬や復讐心にかられ同胞を殺めるような者は人の条理の外にある。

獣と同じだ。元老院議員だろうとも関係ない。」

そういってカエサルは武器をとり、暗くなってきたエフェソスの街を歩きだした。

復讐を決意したカエサルは敵の陣地に乗り込む。

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