リビエラの自由な風
盗賊の一部を撃破したカエサルたち。
もう一方の盗賊たちと相対することになる。
「敵にも大きな危害を与えました。次は必ず勝ちます。ですから再戦の機会をいただきたい。」
そう強い口調でアシア総督ミヌチウスに食らいついたのは、地域統括官のマリナスだった。
「貴官は戦いで傷ついた身体を休めていなさい。」
ミヌチウスは、厳しい口調で命令をしてマリナスに有無を言わせなかった。
それからまだラオディキアの街にいるガルパンとカエサルの軍に、ピュスコスへ向うように連絡が入った。
ガルパンはローマ軍が敗退したことに憤慨し、かたき討ちをしよう、と熱くなっていたが、カエサルはピュスコスに着いたら平和の使者を出さないか?と言ってきた。
若者を睨みながら「ローマ軍を撃破した盗賊たちだぞ? 何を考えている?」とガルパンが詰める。
カエサルは難しい顔をしながら言った。
「盗賊行為は許されるものではありませんが、マリナスが行っていた施政には問題があったのではないかと考えています。なぜなら、ピュスコスはエフェソスやリュキア同盟や海を渡ればロードス島もある要衝にあります。盗賊になってローマの怒りを買うよりも遥かに交易で得るほうが大きい土地柄で、地元民が立ち上がっているのは何らかの理由があるからではないか、と考えました。」
眉をひそめながらも、ガルパンが言った。
「お前の意見には聞くべき点があるな。しかし、軍が一度負けているものを交渉で対応してよいものだろうか?」
「それは、ローマというより統括官のマリナスの施政に問題があった可能性もあります。なので、そのあたりを寛容を持って伺い、以後、統括官を変えることでローマに従うのであれば不問にするのもよろしいかと思います。」
「むう、統括官を変える。マリナスは元老院議員だから、問題が起きる可能性もあるぞ。」
「起きるかもしれない問題よりも、民が困っている可能性があることをしっかりと確認して施策をうつことがローマの公平性、柔軟性を示す良い機会になると思います。」
「わかった。お前の意見を入れよう。ピュスコス付近に行ったら、降伏に関わる交渉をする使者を出すようにしよう。」
「よろしければ、私が使者としていきましょうか?」
「もし敵が単なる盗賊であれば生きて帰れないぞ?」
ガルパンはもう一度ドスの効いたような低い声でいう。
「かまいません。その場合は私の見込み違いであっただけですからね。」とカエサルは簡単に返した。
その後、ガルパンの軍は、ピュスコス付近まで進軍することになった。
ピュスコス付近で陣を張ったガルパンの軍は、盗賊たちに降伏するように使者を送った。
数日を経て、エフェソスで戦況を危惧していた
ミヌチウスの元に、「リビエラの自由な風」が降伏したことを報告する使者が到着した。
ミヌチウスは人払いをして話を聞いた。
「ガルパン司令官より、「リビエラの自由な風」を降伏させた事をお伝えいたします。
自由な風の頭よりの条件としては2つ
1つ、地域統括官のマリナスの交代をすること
2つ、リビエラの自由な風に参加していた兵士達の罪を許すこと
ガルパン司令官は教育隊のカエサル殿の助言を受け、条件を飲み、平和裏にことを納めることが望ましい、としています。」
「ガルパンとカエサルが言っている理由はなんだ?」
「はい、2人がいうには、「リビエラの自由な風」は盗賊というよりもマリナスの施政に納得がいかない者たちが集まってできた義賊であること。
そのため、ピュスコス付近でも襲われたという街や人はありませんでした。現地においてもマリナスの評判は非常に悪く、増税を図り、人々を嬲りと好き放題をやっていたとの情報があります。ピュスコスだけでなくリュキア同盟の諸都市にも増税を図っていたという話です。」
ここまで話を聞いて、ミヌチウスは顔を赤らめて言った。
「それはおおごとだぞ?分かっているのか?」
使者は、ミヌチウスから厳しい口調で言われても引かい。
「大事でございます。今正せばリュキア同盟は今までどおり、ローマの施政下にいつづけますが、もともと独立性の強い都市国家連合、不満を高めすぎると離反することもあると思われます。ぜひ施政の見直しを行っていただきたいと思います。」
とミヌチウスに告げる。
「ずけずけとものを言う使者だ。お前はどこの所属だ。」
「はい、ユリウス・カエサルに仕えているエセイオスと申します。」
ミヌチウスの表情が固まった。
「お前がエセイオスか。分かった。ガルパンとカエサルの意見を受け入れよう。しかし、指導者たちについては罪を償ってもらう必要があるが、そこについては意見がなかったのか?」
「はい、本人たちからの要望はありませんでした。ただ、カエサルが罪を償わせるために、教育隊で自分の部下にしたいと申し出ております。」
「なるほど。それをお前はどう判断する?」
「カエサルに預けるのがよろしいかと思います。」
「わかった。そうしよう。残りの兵士たちはどうする?」
「そちらについてはガルパン様の指揮のもとで、吸収する形がよろしいかと思います。」
「吸収できそうだったのか?」
「はい、指導者たちの指示に従っている兵士たちでした。マリナスへの叛意であり、ローマへの反逆の意思はないので大丈夫だと思います。」
「わかった。そのあたりはガルパン、カエサルの希望どおりの対応にしよう。」
ミヌチウスは、エセイオスにそう伝えた。
そしてエセイオスを見ながら、
「直接会って話しているのが、スッラ様の直轄の凄腕の情報屋だとは思わなかった。いつの間にカエサルの元に来ていたのだ?」
「アシア属州にいたのはたまたまですが、ミヌチウス提督の部下の方にお願いして、カエサル直下に自分が行けるようにお願いしたのです。」
「なるほど。もしかしてレスボス島の攻防でもお前が全面的に協力したのか?」
「少しは手助けしましたが、カエサルはほぼ自分の力ですべてをやりきっていました。しかも私が想像する以上のやり方で。」と言う。
「ほう、それはすごいな。あいつの成長が楽しみだ。」
「そうですね。日々刺激的に過ごしています。」
「スッラ様とローマに反逆する気はないのだな?」
「カエサルは、ローマのことを第一に考えているので問題ないかと思います。発想、着眼点、思考はすばらしいものを持っていますね。もしかしたらスッラ様を超える天才かもしれません。」
「ほう、そこまでのものがあるのか。」
「ええ、当面私もご一緒させていただくつもりです。」
「分かった。後はマリナスの今後についてはこちらで考えるとする。ガルパンとカエサルの要望は全てミヌチウスが承認する。「リビエラの自由な風」の部隊を吸収、統合して戻ってくるように伝えろ。」
「はは。」とミヌチウスに頭を一度下げて、エセイオスはその場を後にした。
2週間後、ガルパンとカエサルの軍団は、いきようようとエフェソスの街に帰ってきた。
そして「リビエラの自由な風」の降伏を受け入れ、指導者は責任をとって教育隊で特別教育を受けることとした。
一般の兵士たちはローマ軍に統合された。
そして、「リビエラの自由な風」がとらえていたローマ軍の兵士たちも解放された。捉えられていた兵士達が丁重に迎えられていたこと、壊滅と言われながらかなりの兵士が命をすくわれたことでローマ軍からの「リビエラの自由な風」の者たちへの風当たりはなかった。
代わりにローマ軍を指揮したマリナスの指揮命令の稚拙さや旗色がまずいとわかった瞬間に逃げ出したことなどが明らかになり、マリナスへの厳しい処分を求める声が大きくなった。
結局、マリナスはエフェソスに当面住み続けて、一幕僚としていつづけることになった。
事実上の大幅な降格である。多くの人がそれでも甘い対応たとおもったこの処置だったが、マリナスは人生で最大の恥辱を受けたとして怒り狂った。
「リビエラの自由な風」が降伏した。
カエサルの元に指導者たちが来ることになり今後、どのように動いていくのだろうか?




