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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
豊かなるアシア
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教育統括官カエサル

教育統括官として何を目指すかを決めたカエサル。

同じ世代の若者たちにどのように接していくのだろうか?

年が明け、カエサルの教育がはじまった。

冬の間も一部の兵士たちが採用されたが、それは難民や没落した農民対策も兼ねていたのだ。


カエサルははじめての教育統括官になり、今までの統括官と少しだけ違うことをした。

それは士官も一般の兵士たち全員を集め話をしたのだ。

「おはよう、戦友諸君。私は統括官のガイウス・ユリウス・カエサル。君たちは半年私のもとで訓練を受けてから軍の配属になる。半年間よろしく。まず君たちに求めるものは、私の命令に従う事を覚えてもらう。

私が走れ、と言ったらローマ軍の移動ルールに則って最速で走り、止まれと言ったらその場でとまるのだ。」

ゆっくりとした口調だった。

それでもラテン語の言葉を理解できないのか意味がわかっていない者たちも多いようだった。

それでも、カエサルは続けた。

「最初の命令だ、今集合してもらっている集合場所から、教育訓練をするために丘の上に移動しよう。そこで最初の任務がある。よし、全員そのままの状態で進め。」

明確な指示だったが、新人たちはばらばらになりながら、丘の上に進んでいった。


ダインがカエサルを見て、泣きそうな顔になる。カエサルはそれでも焦ることなく言った。

「よし、全員丘に向った走れー。」と大声をあげて一緒に走る。


何人かの兵士に先導させて、そこに大多数があわせて走り出す。ただ周りが走っているから走っているものが多い。それでも残ったものはおらず、わけがわからないながらも周りをみながら、全員丘の上に走り出した。


丘の上まで1km程度。道はなだらかで草木が生い茂ってもいないため全員が丘の上にたどり着くまでそんなに時間はかからなかった。

丘の上につくと、今度は兵士たちの宿舎があるところまで歩いて帰るという。

なりたての兵士たちは不満を持ったが、どこに行く当てもあるわけでもないので不満を口にしながら歩いて丘を下って行った。

丘を下って行って、再び丘の上にあがる、を何度かくりかえしたあとに、最後に丘をかなり遠回りをして宿舎の近くの別の広場に向って降りて行った。


その広場は、焼いたパンや肉と野菜を煮込んだスープ、

干し果物などのにおいがして兵士たちは空腹を思い出した。


教育統括官が再び言う。

「戦友諸君、今日の任務を言う。今から食事だ。栄養をしっかりと取って明日からの本格的な訓練に控えよう。今日はローマ軍の一員となった祝いだ。好きなだけ食事をとるように。そして細かな部隊のふりわけなどを実施して終わる。」

好きなだけ食事をとるように、のところで全員から歓声がわき、その後の話はかき消された。これ以上の話はあきらめたカエサルは、手を振って全員に食事に行くよう促して終わった。

「やはり食べ物は大切だな。」と苦笑しながら言う。

それでも、最初よりも何度か歩く訓練をしたことでまとまってきたことを実感していた。


兵士たちの胃袋をしっかりとつかみながら、移動や剣、盾などを使った集団戦闘や個人の体力、

剣の使いかたなどを教える。

細かなところは、ダインやザハなど教育補佐に任命されて仲間にまかせていたが、遠くから見ていることも面白くないので、さまざまな訓練を横で見たり、一緒に剣でたたかってみたりした。兵士たちからもカエサル、と気軽く声をかけられる距離感で過ごした。


カエサルの指揮下で手伝いをするはずの元100人隊長のエノブスはミヌチウスからできるかぎり手を出すな、と言われたのでカエサルからの要請がないかぎりは口を出さないようにしていた。

この健康をひたすら維持している歴戦の勇士は、齢50を超えてまだまだ20代の若者に走り負けない力強さを持っていた。


エノブスはいままでの教育の仕方にプライドを持っていたが、カエサルの教育が優れているところを発見した。まず離脱者が非常に少なかったのだ。そして厳しいが、笑いがある訓練でもあったのだ。カエサルが1人1人の兵士の訓練でも声をかけて応援しているのも印象的だった。


それでも、ある日エノブスはカエサルに言った。

「カエサル、あなたの育成手腕はすばらしい。だが若者たちは今後ローマの正規軍に組み込まれる。今ほど自由ではなく、歴戦の勇士たちと肩を並べることになるのだ。だから、今までよりも厳しい感じでやるほうがよい。私はそう思う。」

カエサルはエノブスに言った。

「そうか、エノブス殿、助言ありがとう。分かりました。そのあたりは以降配慮するようにしましょう。」


戦いを潜り抜けてきた戦士のいう言葉だった。

それに対して自分はまだ言い返す言葉をもたないカエサルはエノブスの意見を尊重することにした。

それ以降、カエサル風の少し風通しの良いやり方は残ったものの、教育をして誰かに引き渡す以上、ローマの規範から大きくそれすぎないことだけは注意した。


規律をしっかりと図りつつも、食事などや司令官の地位にあるカエサルの気さくさなど居心地がよいのか、多くの兵士は教育隊のなかで成長した。

こうして軍隊のなかで心身を鍛えることが主な仕事になったカエサルの19歳の冬は過ぎていった。


公務では必死に頭を絞り、身体を張る。もともとローマ軍はマニュアルを規範とする軍隊だった。

特にカエサルはその伝達を徹底することで全員の意識の統一を図った。

仕事の面で、「できる男」であったカエサルは私的には相変わらずジグルド邸に行っては、イレイアと遊び、ジグルドや行商人との話に参加をしたりなから、他の男たち、女たちと遊んで回る日々を送った。


ローマ軍の本隊に合流させるため、ローマ軍をよく知る人物が欲しいと思ったカエサルは、ミヌチウスにお願いして、情報武官の長であるルブルスにも一時的に参加してもらうようにした。

エフェソスにきてカエサルの最初の仕事だった情報武官の長だったルブルスは今はペノとともに仕事を行っているが、伝達を書面でするようになってから余裕をもてあますようになっていたのだ。


多くの雑務をペノがやってしまうので、余裕を持ったルブルスは、カエサルから「あなたの経験を若い

兵士たちに還元してほしい」、と相談されたとき、うれしくなり二つ返事でOKを出したのだった。


ルブルスはローマ軍の百人隊長経験もあったがケガをした経験もあるので、顔にに合わず細かな配慮もできる男だった。週1程度の元百人隊長の経験とカエサルが始めたチームごとの競争は効果を生み、日に日に若者たちの顔は戦士に近くなっていった。

そしてここでも、脱落者が殆ど発生しなかった。

教育は順調だった。


平和な日々を送っているなかで、エフェソスから離れたアシア属州全体はいくつかの課題があった。


シリアやメソポタミアが近いアシア属州は経済的に豊かであった。その反面で、貧富の差と奴隷の扱いが厳しい面もあった。特に大地主と一般の農民の貧富の差は拡大していた。

たてつづけにあった戦争によって大量の奴隷が市場に出回り、奴隷を安価で手に入るようになっていた。その結果として一般の農家よりも金を持つ大地主が大量の奴隷を使役した結果で作った作物のほうがかなり安くすることができた。結果として一般の農民は生活が苦しくなり、奴隷に落ちるという事態も発生していた。奴隷にならない者たちは、大都市の郊外で徒党を組み、盗賊となっていった。

盗賊たちのうちの幾つかは小都市を制圧したり貴族を殺したりと好き放題をするようになっていたのだった。

そして、治安の悪化による盗賊たちの跋扈はさらに貴族や行商をする商人、果ては農民たちまでもが

苦しめられるという事例が発生していた。


ミヌチウスは盗賊対策で地方の豪族たちに対応を迫られていた。

その中でも、エフェソスからキリキア属州をつなぐ途中にある交易都市ラオディキア近辺に拠点を置く盗賊の組織、「セレウコス軍」と、ピュスコスとエフェソス、そして南東部のリュキア同盟の各都市の交易を妨げて近隣を根城にしている「リビエラの自由な風」と呼ばれる盗賊を討伐することが決定した。


セレウコス軍には、ミヌチウスの直属の部下でたたき上げの武将であるガルパンが指揮をとる4個大隊、そして補佐と演習をかねてカエサルが訓練していた2個大隊が加わることになった。

これはミヌチウスとガルパンにカエサルが相談して、背面に並ぶ程度でよいので参加させてほしいと願い出たのだった。戦場をよく知る2人は、威圧のためだけでも2個大隊1200人の兵士がいるのはプラスになると判断して参加を許可した。


そして「リビエラの自由な風」を壊滅させるために、地域統括官のマリナスの元には6個大隊を向わせることになった。こちらには、ルチャやロボスの小隊が含まれていた。

ミヌチウスがアシア属州にきてから最大の治安維持のための戦いが始まる。

盗賊を討伐するためにカエサルの教育部隊は初の実戦を迎えることになった。

セレウコス軍とどう戦っていくのだろうか?

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