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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
豊かなるアシア
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徴税役人(プブリカヌス)

レスボス島の攻略が終わり平和になりつつあるエフェソス。

カエサルは何をめざしていくのか?

ジグルド邸の近くまで走ってくると店の脇のほうでジグルドが大きな男たちに囲まれていた。

ジジは静かに近寄ろうとする。

男たちの中心から声がする。


「さあさあ、いつまでも迷っていたら困るんですよ。

ジグルドさん。こちらも徴税のお仕事をローマの総督のミヌチウス様からいただいた手前、いままと同じ金額で納めるわけにはいかないんです。」

少し高く自分を喧伝するような声を聞きながら、ジジが主人のほうを振り返ると痩身の若者は、まっすぐに男たちのほうに歩いて行った。


「おお、ジグルド、忙しいところ悪いが、至急の話があるんだが、来て貰えるか?」

とカエサルは男たちを全く気にせずにジグルドが見える位置に行き、声をかけた。


すると、男たちに囲まれていたジグルドが、カエサルのこえに気づき、「は、はい。」と焦って答えた。

周りの男たちの注目がカエサルに集まる。

男たちは背の高い痩身の若者のほうを見て取り囲んだ。


男たちの真ん中に少し背の低い太った中年がいた。

中年は口を開いて、

「おうおう、最近の若者は順番をわきまえてないのかな?徴税役人(プブリカヌス)のカヌレス様が、商会のご主人と税についての話をしている間に割って入るってのはどういうことだ?」

とかなりドスを効かせた低い声で言ってきた。

カエサルは神妙な声で、

「これは失礼した、徴税役人のカヌレス様。ジグルドさんの知り合いのカエサルと言います。ところでエフェソスの徴税役人は、アヌアス様であったと思っておりましたが、変わられたのでしょうか?」


アヌアスという名前が出て腹が大きく出た中年は若者を睨み、値踏みするように見ながら言った。

「よくアヌアス殿の名前を知っておるな。ただし、今度からはアヌアス殿ではなくエフェソスの街の徴税はこのカヌレスとなったのだ。よく覚えておくが良い。」

と胸を張るように言った。


カエサルは頭を軽く下げながら言う。

「かしこまりました。ところで、カヌレス様はジグルドと税で話をされているとのことでしたが、

いかがなさいましたか?」

「ふん、それはお前の関わるところではないだろう。」

「いえ、私もジグルドにはお世話になっているところあるため、もし彼が道を誤っているならば、カヌレス様とともに彼の説得をお手伝いしようと思います。」

腹が大きく出た中年は、笑いながら言った。

「ふん、なるほど。」と理解を示す。それから

「素人にもわかりやすく言うと、先日のレスボス島で行われた大きな戦争で、ミティリーニの街やメテュムナの街が大きな損害を出たのだ。反逆を試みたミティリーニの市長が悪いのだが、さすがに街が焼かれて哀れに思ったミヌチウス提督が、街の支援のため、エフェソスの住民にも少しだけ臨時の税をかけ、支援してもらおうとしているところだ。」

カエサルは頷き、中年は調子に乗って話続ける。

「いや、すべて市長が悪いんだがな、これから冬を迎えるにあたり、ローマに恭順を誓った街の人々を思うと、やはり支援するのが正しいだろう。」

カヌレスは熱弁をふるい続ける。

「もちろん、これはミティリーニの街に活気が戻ってくればすぐに交易で儲けることで穴埋めはできるだろう。だから、最近勢いのあるイレイア商会にもしっかりと協力をするように話をつけているんだ。わかったかな。お若いの。」


鼻を鳴らしながらしゃべりきったカヌレスは、何か意見があるか、というように胸をはる。

カエサルは、なるほどと頷きながら話をした。

「なるほど、レスボス島の話は私たちも聞き及んでおります。私たちの知らないところで、そんな悲しい

状態になっているのは素て置けないですね。」

そう言い、カエサルはジグルドのほうを振り返る。

「ジグルドさん、お久しぶりです。」

と言って固まったジグルドにすぐに駆け寄り、親愛を示す包容をしながらジグルドの耳元に口を寄せた。

それからジグルドを見ながら、ゆっくりと話をしだした。

「ジグルドさん、話は伺いましたがやはり儲けている分、少し支援するのも悪くないことだと思います。可能な限りの支援をすべきでは、と私も思います。」


ジグルドはカエサルが言うことを聞きながらじっと目を話さずに見て、頷いた。

「わかりました。カエサルもそう言われるなら、ご協力させていただきます。少し準備まで時間がかかるのですがよろしいでしょうか?」

カヌレスは眉をひそめて言った。

「前もそんな感じだったよなあ、ジグルドさん。もう少しの時間も待てませんよ。」


ジグルドはどきどきしながらいう。

「わ、わかりました。それでも少しお金を整理するため少しお待ちください。あと、追加の税としてお支払いした証として、板書にサインを頂けますか?」

カヌレスは再び眉をひそめる。

「徴税役人が商人に板書を書く必要があるのか?」

カエサルが間にはいり、

「まあまあ、カヌレス様、ジグルドさんはやり手の商売人。いろいろとしっかりされているんだと思う

ので、板書へのサインくらいいいじゃないですか。」

と笑顔で話しかけてきた。

「まあ、それくらい徴税役人の役目であるしな。私はいいけどな。その分間違いのない税の支払いを頼みますよ。売上の5%を追加させていただきますからな。」

と睨みながら一言付け加えた。


カエサルが笑うのを見て、何がおかしいと聞く。

カエサルは再び笑い「いえカヌレス様のやさしさは必ず民に届くでしょう。」

と言う。

「では、われわれはジグルドさんを待っている間、ゆっくりさせていただくとしましょう。カヌレス様、

何か待っている間に戴きましょう。」

と言って、ジグルド邸の小者に何か飲み物と食べ物を持ってくるように指示した。

すぐに葡萄酒と酢漬けの野菜が出されて、つまみを頂きながら徴税役人ご一行はカエサルと共に酒を楽しみ出す。

はじめはカヌレスとカエサルだけが飲んで食べていたがカエサルがカヌレスの連れの大男たちにも勧めたことで、全員が楽しむことになった。

カヌレスがどうやって徴税役人になったのかなどの話を聞いていた。彼はミヌチウスの支援者の一人で元の徴税役人のアヌアスの親族で、アヌアスが体調を悪くしたため、アヌアスを補佐するために来たようだったが本人は明確に言わないが全体の話を聞いているとそんな話だった。

あまり自分の話をしたがらないカヌレスを見てカエサルは話題を変えた。

その後は、カヌレスの連れの大男たちは部下だろうか、等と聞くと、全員が奴隷だった。

ローマ人の奴隷で体格が良いものをまとめ役として、残りはガリア人、ゲルマン人だった。彼らはみな、ギリシャの街で売られていてもっとやせ細っていたところをカヌレスが用心棒代わりにまとめて買い、良い食べ物を与え少し身体を鍛えさせたという。だから恩人であるカヌレスを大切に思っているのだ、と本人が自慢げで言った。


カエサルは彼らに興味が沸いたのか、ガリア人、ゲルマン人と力比べをしたい、と言いだした。

さすがにカヌレスもこの話がわかる若者がケガをすることになるぞ、と気遣ってあわてたが、本人は気にしていないようなので、結局カヌレスが折れて腕ずもう大会が開かれることになった。


ローマの奴隷とガリアの奴隷、ゲルマンの奴隷を代表してひとりずつ、そしてカエサルの4人で腕相撲をして誰が勝つのかを試すものだ。

ジグルド邸で働いている小者がこの客室での遊びに気がついたが、旦那様の大切なお客様であるカエサルが言うので、ジグルドに報告だけをすることにした。


カヌレスも奴隷たちもこのカエサルの提案に始めはローマの若者が馬鹿なことを、と思っていたのだが、最初に腕相撲をするのはカエサルと身長は長身のカエサルと同じくらいだが、身体の厚みが違う大きなガリア人が力比べをした。


かなりの熱戦の末にカエサルが勝ったことでもりあがりはじめた。ガリア人は背が高いだけの細いローマ人が自分に勝ったことで悔しがりながらも驚き、「お前強い。お前が勝者。」と褒めたたえた。


カエサルは全力でやったためか汗まみれになっていた。

今度は、用心棒のとりまとめであるローマの奴隷とゲルマンの奴隷た戦う。

ローマの奴隷は背こそ高くないが丸太のような身体をしており、気合も十分。ゲルマンの奴隷は背がカエサルよりもさらに高く引き締まった身体が伺える。

こちらも良い勝負になった。ローマの奴隷はとりまとめであるからこそ負けられない気合十分だったが最後にはゲルマンの奴隷に負けて悔しがっていた。

今度は、ゲルマンの奴隷とカエサルの戦いだが、2人ともに消耗していた。

2人は手を握り合わせて腕相撲を開始する。

拮抗する力くらべ。2人は歯を食いしばって腕に力を入れる。

「うぉおおお」

カエサルも力を込めて最後の気合を入れた。

そこへジグルドがイレイアを連れて戻ってきた。

イレイアに見られていると思ったカエサルが最後の力を振り絞る。

ゲルマンの奴隷は美少女が入ってきたのに一瞬目を奪われて、カエサルに負けた。

「おー」

参加者全員の歓声があがった。

突然はじまった腕相撲大会。

徴税役人プブリカヌスの奴隷に勝ちカエサルはこれからジグルドたちをどう扱うのだろうか?


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