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思春期のユリウス・カエサル  作者: くにひろお
アシアのカエサル
25/142

キロからの手紙

報告を終えたカエサルはより大きな役割をになうために

ローマの友邦国ビティニアに行くことになった。

急いで準備をすることになった。

痩身の若者は自分のために準備してもらった部屋の中で、悩んでいた。

閉じていた目をあけて、好奇心が旺盛な茶色い目は、何かヒントになるようなものはないか探す。


その目に留まるのは、いくつかの準備された白い楕円形の毛織物。いくつかは先に染色を施され、いくつかはその一部に飾りが付けられていた。


友好国とはいえ、国の代表として他国の王に謁見するのである。

自分の知識を思い起こしても、元老院とは違う王政の国家で、特に豊かな東方世界の一部でもある。ローマと自分自身が服や装飾で過剰にもならず、侮られないものをしっかりと準備していく必要があった。

自分が持つ最も正式なトーガを身にまとい伺うべきなのだろう。

しかし、自分がローマにいるときに好き好んできていた、少し前衛的なオシャレをしたトーガを来ていくことが良いのでは、そしてその装飾はどの程度まで持っていくべきかと迷っていた。

カエサルは、自分が大切にしてきた見た目の部分もビティニア訪問でも大切にしたかった。

ダインやジジ、ペノに聞いても、「いいんじゃないですか。」という彼らには判断しずらい話だった。

どうにもまとまらないため、服は後回しにして先に随行してもらう人員について考えながら、その人たちに話をすることにした。



ビティニアに行く事を決めたカエサルがエフェソスにいる時間は明日の朝まで。過去にないほどに急な決定だった。

ダインとジジは連れていくとして、あとは誰を一緒に連れていくか。


今回はジグルド、イレイア、ルチャとルチャの仲間は置いて行こうと思った。エフェソスにいるかぎり大きな治安の乱れへの心配はないが、自分が傷つけたルチャの腹が治るにもう少しかかるだろう。

ルチャの剣技、度胸を見ていると彼は連れて行きたかったのだが、ここで負荷をかけて傷が治らなくても困る。今後を見越してルチャには静養してもらうことにした。さらにイレイア商会に地元の暴力的な輩や他の荒っぽい商会が手荒なことをしてくる可能性もあるので、ルチャたちが睨みを効かせていれば大丈夫だろう。この2つの意味でエフェソスに残して置くことを決めた。


また、せっかくミティリーニのメリサ商会とつながりがもてたのだ。やりとりの責任者としたロボスもエフェソスに残ってもらうことにした。


そのため、随行の兵士は最低限として、アルバニス、ザハ、バラッシ、ハナル、エセイオスを連れていくことにした。

連れていく仲間は決まったが、まだどのトーガにするか決めきれないままだったのでカエサルは日が暮れる前にフェナ商会に走り、ドムスの父に会いにいった。


レスボス島への交易に力を貸してもらい感謝の気持ちを伝えつつ、ビティニアの王宮に今度はミヌチウスの書簡を持っていく。フェナ商会も随行しないか?と話を持ち寄ったのだ。本来はイレイア商会に参加させたかったのだが、ミチェリーニとの交易を開始しだしたばかりで、人で不足も甚だしい。ビティニアも対象にするのは、難しかった。

レスボス島での取引を開始できたドムスの父は、今度も二つ返事で了解した。

レスボス島での新規取引で疲れ切っていたドムスは、ちょっと遠慮したいという気持ちでカエサルを見ていたのだが、ドムスには選択の余地はなかった。

父が快諾したことによってドムスはカエサルに同行することが決定した。父だけが、ビティニアとの取引ができる可能性に目を輝かせて、明日の昼には出立というカエサルの話にあわせて、フェナ商会は商会をあげて準備にとりかかっていった。


それからイレイアと会い話をする。予想したとおり、イレイアは一緒に行きたいと言ったが今回は待っていてほしい、というカエサルの願いを聞き入れてくれた。


その後にジグルドにも会い、今回はドムスと一緒に行くことを話した。ジグルドも一緒にいきたそうにしていたが、カエサルの想像どおり、イレイア商会はまだ発展途中でこれ以上手をのばしすぎると回らなくなることも事実だった。ジグルドはそのあたりは理解して、気を付けて行ってください、とだけ言いカエサルを見送る。


ジグルド邸を去ったカエサルはアルバニスたち兵士でもある仲間たちにあい、明日の午後にはロボスを除いて全員エフェソスを船で出てビティニアに向かうことを伝えた。

ロボスはビティニアに行きたがったのだが、メリサ商会との交渉、責任者として残すんだ、とカエサルに諭されて、不承不承引き下がった。

実際、ロボスの役割は重要だった。ビティニアでカエサルが工作をしている間もレスボス島の状況は変わっていくだろう。ミティリーニにいるメリサたちとも連携して情報収集にあたってほしいのだ。ロボスはペノを通してミヌチウスにレスボス島の情報を逐一報告する役割があった。


すでに日はくれつつある中で、カエサルは兵士の館ではなく、ふたたびジグルド邸に向かった。

ジグルド邸では従者がカエサル用に準備してある部屋に案内してくれた。それからゆっくりと考え事をしようとしたら、イレイアが入ってきたのだった。

イレイアはカエサルをみて、いつもなら一直線に近づいてくるが今日は遠くに円をえがくように笑顔でやってくる。背中に何か持っているのを感じた。

イレイアは隠していたものをすぐに前にだし、じゃーん、と言いながら説明する。

「カエサル、キルティウスって人からお手紙よ。知っている人?」

と言われて、カエサルははっとなる。

キロだ。

もう2カ月以上が立つが、キロが手紙をくれたのだ。

カエサルはイレイアからすぐに手紙を受取ると、自分のベッドに座って読みだした。イレイアはカエサルがすごく真剣なので邪魔をしないように横にちょこんと座った。

カエサルはどきどきしながら封をあける。

そこにはこの旅の初めで、ローマに戻ってもらった親友、キロからの手紙があった。キロの正式な名前から書かれていた。





キルティウス・エルバミウスより

親愛なるガイウス・ユリウス・カエサルへ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

やあ、人ったらしのカエサル。

こんなにお前と別れているのは初めてだな。

俺はお前は絶対にどこに行っても上手くやれていると信じている。それでも不在のローマのことは分からないだろう。俺のこととローマの現状を伝えるよ。


スッラはやはりやり手だったな。


かねてからのうわさどおり、元老院の人員の数を今までに比べて倍にした。

それから、カエサルのおじさんのルキウス・カエサルが作った法律「ユリウス市民権法」だが、法制度の一部「ローマに敵対しない者」という条文にかこつけて、スッラに敵対した市民やローマ外の市民の多くが市民権を失うことになる。

あとは、その時に闘った兵士たちの就労支援のために街をいくつかつくる計画をたてているようだ。反対に、市民の中でも貧民階級への小麦の配給も停止することが決まりそうだ。

これはスッラに従属する兵士たちにエサを撒き、スッラに従わない者たちを抑え込むための取り組みだと俺は考える。


あとは、お前がセルティウス外壁であったポンペイオスというスッラの部下の武将がいたが、彼はスッラから戦闘時の活躍が認められて、二つ名、偉大な、を意味するマーニュスを受けた。

これはアレキサンドロス大王に並ぶ二つ名だそうだ。

彼は今後、ポンペイウス・マーニュスという重いが、かっこいい名前を得たことになる。民衆派を掃討する小さないくつかの戦いでも力を発揮したようだ。

このあたりをみていても門閥派というかスッラ派が幅を効かせているから難しい状況はまだまだ続くだろう。だからお前も、すぐに帰れるかも、なんて甘い考えを捨てて、羽根を伸ばしながら、自分を伸ばしていてほしい。


ここで俺自身の話をしておく。

お母上様(カエサルの母アウレリア)の依頼もあり、俺は、お前の叔父上であるアウレリウス・コッタ様の従者として働くことになった。お前が戻ってくるまでに、元老院を含むローマ市内でいくつかつながりを持っておけるようにする。

従者として、キロではなく、キルティウスとして呼ばれることが増えたが、すごくむずむずする日々だ。お前もローマに帰ってきたら、表ではキルティウスと呼ぶことになるだろうさ。


そして、従者ではあるが、元老院議員の徒弟として扱われるため、表舞台にたたされて気にもなっている。今まで、お前の横でお前が成すことを見てきたが、先頭に立つものと、その横に立つものの違いを強く感じた。それでも俺もめげずに一人立ちして、コッタ様にもお母上様にも認められるように頑張っておくつもりだ。


お前の嫁であるコルネリアは無事、子どもを生んだ。

可愛いぞ。

そのうちお前がローマに帰ってきて、早くその手に子どもを抱ける日が来ることを祈っている。あまり遅いようだと、俺が父だ、と教えこんでやろうと思っているから、帰れるようなったらすぐにローマに帰ってくるようにしたほうが良いだろう。


俺たちは共にまだ半人前でもある。もっとお互いの場所で自分自身を磨いて会おう。


追伸:ダインとジジは頑張っているか?俺たちの弟分あいつらにも頑張ってほしいな。

また連絡する。ぜひ俺にも近況を教えてほしい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キロの手紙を気が付けば、カエサルが持って、イレイアとダインとジジが横から見ている感じになった。カエサルは気持ちがどんどん高揚していく気分だった。

自分たちのことも書いてあったダインとジジも嬉しい気持ちになった。

「ガイウス・ユリウス・カエサル・マーニュスか。うーん二つ名があるのみいいなあ。」

そうつぶやくカエサル。

イレイアが、「そこが気になるの?」と笑いながらいうと、

「私は、歴史上の偉人として、アレクサンドロス大王を尊敬しているからね。どうしてもマーニュスという二つ名はアレクサンドロスと同じと人から認められたと思うとうらやましく思ってしまうよ。まあ、言葉遊びと思ってながしてくれ。」とめずらしく苦笑する。

それを見てイレイアは、

「カエサルもいつか素敵な二つ名がもらえるくらいに活躍すると思うわ。」

ダインとジジもうなずく。

「そうだな。そうなりたいな。」とカエサルも頷いた。

キロは遠くローマの街で自分にできることを頑張っているようだ。

私もがんばろう。


明日にはビティニアへ向わなければいけないのだ。

手紙を丸めて大事にしまい、イレイアに預けた。

「ビティニアから帰ってきたら、イレイアに会いに来るよ。そしてキロにも手紙を書こう。」

イレイアが笑顔で、

「その日を心待ちにして待っているわ。」と素直な気持ちがカエサルの心をうつ。

金色の髪の毛が暗くなってきた夜空になびく。今日はどうも感傷的になっているようだった。

そんなカエサルを暖かく抱きしめるイレイア。

2人はベッドに倒れこんだ。

ダインとジジははっとなって静かにその場を去っていった。

キロから届いた手紙を読み、さらにやる気を増したカエサル。

ビティニアとの交渉をうまくまとめることができるのか?

歴史の流れはすこしずつ、カエサルを巻き込みつつあった。

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