レスボス島視察!
新しい仕事を任されたカエサルは、新しく信頼できる部下であり仲間を増やすことを目指して動いていた。
すでにカエサルの頭のなかでは計画はできていた。
それを実現するための仲間たちを集めて実行に移そうとしていた。
カエサルはイレイア達の家を去ってペノのいる情報武官の控室にむかっていく。武官の控室はカエサルが紙での掲示に変えてから、作業をする場所になっていた。
ルブルスとペノが紙の清書をする前に余った部分でメモを書き散らかすことがあったが、それでもなお広い控室だったので10人以上が入ってもまだ余裕を感じる作りになっていた。
最近では情報武官の役割の多くをペノが実施して、ルブルスがチェックをする感じで、2人で仲良くできている感じだが、午後もある程度を過ぎると、仕事も一段落してルブルスは帰ることも多くペノしか残っていないことが多かった。
そのためカエサルも集合する場所に指定した。
ペノのいる控室は予定どおり数人の兵士が集まっていた。
カエサルが近づくと、ペノがカエサルに気づいて挨拶をしてくる。続いてペノを見て兵士たちもカエサルに礼をしてきた。
カエサルは、笑顔を見せると集まった兵士に話しかける。
「みんな、ミヌチウス提督の元で働いているローマ軍団の一員で良いかな?」と誰とはなしに聞いてみた。
何人かが頷くのを見たカエサルは、軽く話しかける
「こんにちは、ミヌチウス総督の幕僚を勤めるユリウス・カエサルだ。みんなの名前を知りたいから、一列に並び、私に近い方がら簡単に自己紹介をしてくれ」
それからすぐに兵士たちを横に並ばせると、カエサルは向かって右側から自己紹介をするように言った。
最も右側の若者は、中肉中背、白い肌に可愛い笑顔を時おり見せる美少年だっただろう。名前はアルバニスと言った。少し大人になってきても可愛らしさが残っている。マケドニア出身の20歳で、得意なのは工学で、測量などもできるらしい。工兵知識もあると助かるな、とカエサルは考えて笑顔になる。
次に、無言で頭を下げて、ぼそぼそと喋ったのはジジと同じくらいの年齢だろうか。13歳の薄くところどころ切れた服を着た少年はザハと言った。
実際に農民の子供だそうだが、読み書きもでき、闘いも、「彼は戦いの天才だと思いますよ。」とアルバニスが横から口を出してきた。仲間内で少し有名らしく木剣などで行う簡単な武術の演習では仲間うちでは負けたことがないそうだ。汚れているからさっと見たところ、小汚い少年にしか見えないが、その目を見ると、非常に利発そうな少年だった。しかし、とにかく服にあわせた髪も汚かった。風呂に入るところからだな、とカエサルは笑って思った。
どんどん自己紹介が続く。
次は、少し恰好をつけた感じで服にいろいろな織や飾りを付けているのが、都市国家の貴族の子供で17歳のロボス。4男らしい。顔だちなどもこぎれいな感じの白い肌に淡い金髪をしているギリシア人の血を継いでいることを感じる。しかし、小規模な貴族なら自分で働くしかないだろう。ちょっとプライドが高い感じがするが知識も深そうだ。
ローマ軍団にあまりうまく溶け込めなかったのかもしれないからこちらに来た可能性が高いな、とカエサルは思った。口は少し悪いが知識もあり頭も良いと思われた。自分の昔を見ている気になり、ここでも笑顔になった。
その横には体格に恵まれダインよりも大きく筋肉質で色のかなり濃い黒色で、言葉があまり達者ではない戦士がいた。力がかなり強そうなこの黒い戦士はバラッシといい21歳と思ったよりも若かった。
胸を軽く突いた挨拶のつもりだったが、石でも触ったような感触で、すごい、と率直に思った。
するとバラッシは褒められたことがうれしかったのか浅黒い顔を赤くして、下を向いた。
次は、遊牧民族出身の若者 弓使いのハナル。今16歳で、遊牧民族だったが、14歳の時に1人だけはぐれたとのことだった。少し黄土色に近い肌をして、鷲鼻をした精力の強そうな顔と黒い瞳、そして黒い髪をしていて、痩せていた。
地方から来たのか、やはりラテン語に疎いところがあり、文化も違うことから、もしかしたら仲間に煙たがられたのかもしれない。私の下でならしっかり活躍させてあげられるぞ、とカエサルはほくそ笑んだ。
最後に情報収集が得意という調子の良い無精髭の中年がいた。42歳とそこそこな年上だ。白い肌は焼けて濃い色になり、髪は濃い茶色で、同じ色の髭で顔も隠れている放浪者エセイオス。放浪をしていたせいか皺が多く、もう少し年上に見える。詩人を夢見ていた商人の子供らしいが、ローマ領内で食べていけなくなったために兵士になったそうだった。
曲者だな、しかし自分も一時期旅をする詩人に憧れる時期があった。相手から見るとこんな感じに見えるのか・・・とにやにやしてしまった。
集められた6人は個性が強かった。
ひととおり見ると個性的な者が回されてきたのは確かだ。
教育がなかなか難しいのだろう。それをなんとかするのが表向きの教育担当でもある私の役目か。そして、裏の役目を一緒に達成する仲間になる。
カエサルはわくわくしていた。
彼らの個性をうまく合わせていければ、素晴らしいチームになると思ったのだ。
興奮しながら、改めて思った。
彼らに何か光るものを感じつつ上手く組織になじまないから各隊長がこちらに回したのだろう。であればカエサルが彼らを輝かせてあげられれば、隊長たちもカエサルの手腕を認めざるを得ないだろう。
悪くない、そう思った。
カエサルはさっと新しい部下の紹介を聞くと、簡単に自分の紹介をした。
さらに従者であるダインとジジを紹介する。
紹介を終えた後は、追加のメンバーが来る予定なので、カエサルはそれまで全員休んでいるように指示した。
休むといっても、この控室から移動をさせることもできないため、全員そこで待機しつつ、お互いに挨拶や雑談をして過ごさせようとした。
そこへ、曲者っぽい中年のエセイオスが近づいてきて言う。
「隊長、ローマ貴族であるあなたの実力を見せてもらませんか。いや私は疑っていないんですがね、若者たちは自分たちの隊長の実力を知りたいだろうと思うんですよね。」
と笑いながら言う。
「どうやって照明すればいいんだい?」と笑顔で受けるカエサル。
「さて、やはり剣ですかね。」
「ほう、エセイオス、君が私の剣を受けてみたいのかい?」
「いや、ここにいるバラッシが力自慢なので、ぜひ軽い模擬戦をいかがかと思います。」
エセイオスの後ろから黒い塊のようなバラッシが出てきて、申し訳なさそうに頭を下げた。その横には他のメンバーが値踏みするようにカエサルを見ていた。
こいつら、集まる前に指揮官の腕試しをしようと話をしていたな、とカエサルは思ったが軽く受ける。
自分の仕事場で騒ぎは困る、と思ったペノだが、これはカエサルが隊長として認められる儀式だと思い、口を挟むのをやめて見守った。ダインとジジもこの腕試しを止めるそぶりもなかった。
「では木剣を持ってお互いに参った、というまで模擬戦をしてみようか?」
「は、はい。」
バラッシがあわてていう。カエサルはバラッシに剣を渡して
「よし、ではやろうか。」と相対した。
ハナルやロボスといった若者たちが興味深く見ているのを感じながらカエサルは彼らに認められるためにも全力でいこう、と考える。
じゃあ、私が間にはいりますね、とエセイオスが素早く言った。
それから少し距離をおいて周りを観衆になった仲間たちがかこい、カエサルとバラッシが向かい合う。
カエサルはバラッシに「練習だが本気で向かってきな。」と言った。
向かい合った2人が眼をあわせたところでえエセイオスから声が発せられた。
「開始。」
突然はじまった模擬戦にダインとジジも成り行きを待つしかなかった。そもそもカエサル本人がやる気のためどうしようもなかったのだが。
カエサルにケガをさせたらどうしようと2人は心配したがその決着はすぐについた。
バラッシの足を木剣で打つと素晴らしい速さで詰め寄り、頭を叩く。バラッシは足と頭を打たれて倒れた。
「終了!」
「すげえ。」そんな声が聞こえるところでカエサルはまだ剣を持ったままいう。
「さて、次はエセイオス、君の番かな?」というとエセイオスは、
「いえ、私じゃ練習にもなりませんよ。」と言った。
「他に私の腕試しをしたいものはいないか。疑問に思う者がいれば自分で名乗りをあげるんだ。」
誰も手を上げない。
そうするとカエサルは叩かれてまだ痛そうなバラッシのそばに戻り、
「バラッシ、君は勇敢だった。素晴らしいよ。」と言って褒める。
バラッシは恥ずかしそうに下を向いてもじもじとした。
その後は誰もカエサルを試そうとする者もおらず、逆に簡単にバラッシを倒した腕前で特に若い連中は指揮官に関心を持つようになった。
わいわいとさわいでいるところに、扉が開いてやっと腹の傷がある程度治ってきたルチャが仲間たちを連れてやってきた。
「カエサルの兄貴、遅くなって申し訳ない。」
「兄貴って呼ばないように言っただろう。」
「すまねえ、カエサル兄。」
溜息をつきつつカエサルはルチャに仲間たちを紹介するように言った。
太い男とのっぽの男と小さな男がいる。
これは覚えやすそうだな、とカエサルは思った。カエサルはルチャとその仲間たちを迎え入れる。
3人と簡単な挨拶をしたカエサルは、ルチャと3人を他のメンバーに簡単に紹介した。
それから、今日来てもらうメンバー全員が集まったので、カエサルは集まった10人に対して自分の話をしだした。
「まずは、集まってくれてありがとう。私がユリウス・カエサルだ。今後君たちは私の指示にしたがってもらう。さっそくだが、われわれは初めてあったもの同士でもある。
これから仲間になっていくのだが、仲間になるために何か話合いをしたりするような時間はない。今から君たちに紹介したい人たちがいる。彼らは商人で今回の君たちの任務は商人の行商の手伝いだ。」
全員が最初はばらばらの方向で、カエサルの話を聞いているかどうかもわからない感じだったが、「商人の行商の手伝い」という具体的な目標を話したところあたりになると全員がカエサルの言葉に集中しだした。
行商の手伝いというと・・、と何人かがざわついたが、カエサルは無視して続ける。
「2人の商人の手伝いをするのだが、われわれはバラバラな経験と出自を持って集まっている。部隊として活躍するためには部隊がお互いを理解しあうために、2人の商人の護衛兼手伝いをしながらお互いを理解しあうことにしよう。」
「もうすぐに仕事というか任務に入るんですか?」という疑問が出される。
「そうだ。任務の間に互いを知っていってもらう。」
その言葉に他の者から疑問は出なかった。
カエサルは続けた。
「この護衛兼手伝いの予定だけど、2人の商人は行商のためエフェソスから船でレスボス島のミティリーニの街を訪れる。当然、海賊などが出たらわれわれが立ち向かうことになるだろう。
無事にミティリーニに到着したら、そこで商売の手筈を付けて荷物の搬入、搬出で2日ほど泊まる予定だ。それからエフェソスに帰ってくる予定だ。理解したかな?」
聞いているメンバーは全員頷いた。
「2人の商人の手伝いは、午前中だ。だから午後からは好きに遊んでいい。私もじつはレスボス島には行ったことがないので午後から遊ぶことも楽しみにしている。さらに・・・」
少し周りを見て皆が集中するのを待ってから
「小遣いを出そう。」
皆が笑顔で歓声をあげる。
カエサルはすかさず続けて言った。
「その小遣いを使って仕事にからめて、より多くの人と話をして今後の商売の役に立ちそうな情報を得てきてほしい。そうすると、小遣いとは別に情報によって2人の商人から報奨が出るぞ。どうだい?」
すごい。楽しみだ、すぐにいこう、そんな声が聞こえる。
皆がカエサルのいう仕事に興味深々なことがつたわってきた。
それを見てカエサルも笑顔になりながら、さらに付け加えた。
「飲みながら商売に関わる話、商品もそうだし、軍の話もそうだし、痴話げんかみたいな話でもいいから集めてみてくれ。そのためにも、宿泊場所も準備するし、全員に先に小遣い、そこそこ遊べる金を渡す。」
ここで再び歓迎の歓声があがった。
カエサルは全員に気持ちを抑えるようなジェスチャーをしてみせて、話を続ける。
「一つだけ注意点がある。君たちは商人を手伝う護衛でありそれ以上でもそれ以下でもない。
ローマ軍であるということは絶対に言わないこと。なぜならレスボス島はローマ軍のことを快く思っていない連中が集まっているからだ。理解できたかい?」
皆の顔が先ほどの笑顔から緊張した面持ちになる。
それでも皆が理解を示して頭を前に揺らした。
「最後に、天気次第だが、あまり悪い天気の場合、出航、または帰港する日程をずらす場合もあることを知っておいてほしい。」
と言った。
ここまでで、兵士になった全員が、今回の商人の手助けで自分が何をするかを理解した。もちろん、カエサルの目的を深く理解したものもいたが、多くは、簡単な仕事だ、と思い、レスボス島で遊ぶことを楽しみにした。
目的がわかりやすくなったところで、カエサルはそれではすぐに出発するぞ、と言う。
「今すぐですかい?」とエセイオスが質問。
「ああ、すぐだ。荷物はいらない、行けない者はいるかい?」誰も意見は出なかった。
「じゃあ、大丈夫ですね。」
「おっと、カエサルの旦那、もしかしてレスボス島にこれからすぐ行くんですかい?」
「ああ。そうだ。皆行くことに問題はなさそうだろう。」
「そりゃ、ないですがいきなりすぎませんか?」
「早く動く、それが私の信条だ。」
「うへえ。」と中年はうめき声を出した。
「準備ができれば動く。そうすれば変な連中も付いてこれないだろう。」
「元気ですね。おじさんは少々疲れそうですよ。」
「待っているかい?」
「せっかくの楽しそうなことを待っているのはもったいない。」
「じゃあ頑張ってくれ。」
「へいへい。わかりました。」
そういってエセイオスも半ば強引だが納得したようだった。それ以外のメンバーはカエサルとエセイオスのやりとりを聞いて理解した。
一通りの話が済んで、カエサルはずっと話を横で聞いていたペノに向かって場所を貸してくれた礼をいう。
それからカエサルたちは人や荷物の出入りが激しい港の先のほうに向かっていった。
「お気をつけて。」とペノは皆の後ろ姿を見送った。
カエサルが歩く先には、大きな横帆を付けた船が2隻見えた。
そして、そこにはすでに人や馬車がたくさんきており、荷物をひっきりなしに積んでいた。
2隻の間には、人が何人か立っている。
近づいてみると、ドムスとイレイアとジグルドが何かの話をしていた。カエサルはそこに加わり話をする。
カエサルの仲間たちは先導していたカエサルが話をしはじめたので、少しの間待つ。
カエサルがドムス、イレイア、ジグルドと話をして笑顔になって、自分が連れてきた全員を振り返っていった。
「先ほど話をした続きだ。レスボス島にいくにあたり関係する商会の方を皆に紹介しよう。まずは、昔からエフェソスで商売をしている老舗、フェナ商会を代表して、若頭のドムスさん。そして新興の商会「イレイア商会」を代表してジグルドさん。乗るのは相談役のイレイアさんだ。商会を代表して一言ずつお願いしましょう。」
いきなり振られたドムスは慌てて
「フェナ商会のドムスです。」それだけ言って礼をして下がった。
ジグルドは、どうしようか迷ってイレイアを見るとイレイアはジグルドに話すようにしぐさを送った。ジグルドはまごつきながらも前に出て口を開く。
一言ではだめだ。カエサルが連れてきた兵士たちのやる気を出す言葉はなんだ?
そう考えながらジグルドは、挨拶を始めた。
「イレイア商会のジグルドです。商会の手伝いをいただくこと。ありがとうございます。
カエサル様と。その部下の皆さま。その力を借りて。商売。今後の交易。発展、を進めていきたいと思います。」
言葉を区切りながらゆっくりと話しながらジグルドはやる気を出す言葉を考える。
間が空いた。皆が自分を見ている。限界まで伸ばしてジグルドは再びしゃべりだした。
「今回の達成状況によってフェナ商会とイレイア商会からさらなる褒賞をお渡ししたい。そう思っています。」
歓声がわいた。
溜息をついてそれでも兵士たちのやる気をだせたことに満足したジグルドだった。
ジグルドがいい感じでもりあげてくれたな。カエサルはそう思いながら
「イレイア商会から素敵な案内をもらいました。ありがとう。」とジグルドの話を受けて説明を続ける。口調はより強くなっていった。
「今からわれわれは2隻に別れて乗りレスボス島ミティリーニの街に向かう。この2隻は別の商会のものだが、目的は同じだ。まずは、昔からエフェソスで商売をしている老舗、フェナ商会を代表して、若頭のドムスさん。こちらには、私とジジ、アルバニス、ザハ、ロボス、バラッシ、ハナルが乗る。
それから、新興の商会「イレイア商会」を代表してジグルドさん。乗るのは相談役のイレイアさんと、ダイン、エセイオス、ルチャたちだ。後は総舵手など船を運航するための者たちも当然乗ることになる。ここまでで質問はあるかな?」
皆がカエサルの言葉に集中していた。特に質問も出ない。
「では、説明を続ける。」と言ってカエサルは話を続けた。
「われわれの最も重要な任務は2つの商会の手伝いをしっかりと実践することだ。ここからは2人の代表の命令を聞くこと。それでは、ドムスさん、ジグルドさん、船に乗るメンバーを分けるので続きの説明、指示をお願いします。」
そういうと、カエサルはドムス、ジグルドに自分たちで指示を出すように言った。
ジグルドは、カエサルとの旅で人の前で話す経験も増え、鍛えられてきたので、そつなく説明をしていったが、ドムスはいきなり任せられた大任にまごつきながら、カエサルのフォローに助けられて、今後の予定などをなんとか説明することができた。
そして、準備を行った一行は、商会の一員として、レスボス島に行くための船に乗り込んで行く。
カエサルと商会の代表たち以外のメンバーはまさか今日レスボス島に向かうとは思っていなかったが流れにあわせて皆真剣に指示を聞いて準備を手伝った。
積み荷を載せたりするので船と陸地を往復するが、エフェソスで出会ったメンバーは船にも乗ることが多いのか皆、問題がなかった。唯一ダインだけが恐る恐る船に乗るシーンもあったが誰も笑ったりせず、真面目に働く。
小一時間も働くと準備が整い、メンバーも船に乗り込み、それからほどなくして2つの船は出航した。
船に乗ることが初めての者もいて、出発時はざわついたが、すこしずつ皆船に慣れていく。
大きめの船ではあるが、それでも陸が離れていくと不安を覚える。最も暗い感じになったのがダインだったのだがカエサルは船をわけたせいでダインが心細かったことをレスボス島について愚痴られることになった。
横帆を付けた船は、背後から良い風が吹いてきた場合、非常に早く目的地につくが逆風だと全然進まなくなる。カエサルは理屈をドムスに聞きつつも実際に背後からの風に追われてエフェソスからレスボス島に半日ほどの時間で非常に早いスピードで到着することができたことを、関心しながら見ていた。
エフェソスからレスボス島の東側、ミティリーニの街は、距離よりも海流と風の流れが狭い海域で良く変化するため、風の影響を強く受ける横帆の帆船を使うのは良い悪いがあったのだが、カエサルはドムスの父親が近隣でも知られた船乗りであり商人であることに目をつけていた。
イレイア商会を発展させるためにバックアップもしたかったため目につきやすい立派な帆船を
デモンストレーション的に使用してくれるようにお願いしたのだった。
フェナ商会の航路は、エフェソスを出ると、レスボス島を経由して、一度エフェソスに戻った後で、ロードス島に向かう予定だった。ひと手間かけるが、ドムスの父親が、息子が迷惑をかけたことともう一人の息子の旅立ちを手伝うということで快諾してもらったものだ。
そういった理由があり、しっかりと荷物を積み込んだ2隻の帆船は南から吹く風の向きにも助けられて、
レスボス島で一番の街で敵の侵入を防ぐ外壁がせり出しているミティリーニの港に堂々と、そしてスムーズに入港することができた。
仲間を集めた、と思った瞬間にはレスボス島に乗り込んだカエサル。
誰も思っていなかった視察はどうなっていくのだろうか?




