1-3
夕方。俺は無事帰宅、そのまま自室へ向かい、荷物を置いてベッドに倒れ込んだ。そしてベッドの上で──俺は頭を抱えた。
……何をやってんだ俺は……!
俺は家路に着いている間、先ほど駅前で起きたことをずっと思い返していた。そして自分の言動を思い出す度に、反省(自責?)を繰り返していた。
いや頭おかしいだろ……初対面の女の子相手に何やってんだ……!手を握ったり腰に手を回したり……痴漢で訴えられたら何も言い返せないし、初対面の人にそんなことされたら気持ち悪いだけだろうが!
自分でもなんであんなことをしてしまったのか分からない……なんか、確かに自分の視点からものを見て、自分の体で動き、自分の声で女の子に声をかけた自覚はあるのだ。けれど、自分のものであるはずの言動が、自分のものでもないようにも感じて、なんか不思議な感覚もあって……。
まるで、夢の中と同じように、自由奔放な王様が女の子を口説いて楽しんでいるかのようだった。
「……」
それに、あの女の子の反応……確かに手応えはある感じだった。アレが俗に言うナンパというやつで、こうやって女を口説き落としていたのか、俺の前世であるあの男は……。
「……」
別れ際の彼女の表情を思い出す。真っ赤に染まった頬に、好意に満ちた瞳。
──心臓が大きな音を立てて鳴る。
昂っているのは分かるけれど、恋愛感情とも、性的興奮とも違う──
何だろう、この悦楽は。
「……もう考えるのやめよ」
俺はセットしていた前髪を軽くほぐし、ベッドから起き上がると机の上に置いていた眼鏡をかけた。視界がクリアになる。うん、いつもの景色だ。
今日の俺はちょっと変だっただけだ。明日からはまたいつも通りの学生生活に戻る。いつも通りの、根暗で目立たない俺に──そう自分に言い聞かせた。
またいつか、今日のようにオシャレして出かけてもいいかもしれないなんて──まさかそんなことを、思うはずもなかった。