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 さて、とりあえず家を出た俺は駅前のショッピングモールを一人で巡っていた。突発で出かけることにしたから、一応友達にも連絡してみたけれど、「行けたら行く〜」という全く来る気のない返事をもらったので素直に諦めることにした。まあ一人でゆっくり見て回るのも悪くはないだろうと、俺は変わらぬ足取りで気になるお店を順に回っていった。


 そして半日経ったころには、行きたかったお店は全て回りきっていた。戦利品は、足りなくなっていた文房具と、それと……洋服と、アクセサリー……と、偶然通りかかった雑貨屋さんでオススメされて買ってしまった香水……。

 いや、これは決してオシャレを極めようとか思って買い物をしていたわけではない。洋服に関しては、本当にたまたま新しい服が欲しいなと思って店に入っただけだし、アクセサリーと香水についてはただ店員さんの熱弁に負けてしまっただけで……!別に、夢に出てきた王様のようにモテたいとかそういうのは全く……!


 って、俺は何に対して言い訳をしているのか……冷静になれ、俺。


 まあ実際、アクセサリーもそんな派手なものではなく、高校生の俺が買えるくらいリーズナブルでシンプルなものだ。香水も、オーデコロンというもので、香水の中でも比較的香りが軽く、数時間で香りが消えるものとのこと。そんなに濃い匂いじゃないし、付けやすいかなと思って買うことにした。今はまだ試供品を付けた右手から仄かにフローラル系の香りが香ってきているが、それも今日中には消えることだろう。


 さて、買い物も終わったし、いい気分転換になった。久々の裸眼にも疲れてきたし、早く家に帰って、いつものように眼鏡を通したクリアな世界が見たい。服も朝のものに着替えて、いつも通りの日常に戻ろう──そう思い、帰宅の足を早めたその時だった。


「──きゃっ!」


 曲がり角に差し掛かったところで、目の前に突然女の子が現れた。気が付いた時には既に遅く、お互いに避けることなくぶつかってしまう。その反動で相手が後ろへと倒れていく。危ない──!


「──おっと!」


 気が付くと、考えるよりも先に手が彼女のほうへと伸びていた。左手で彼女の右手を取り、空いている右手は彼女の腰へ。そうして倒れていく彼女を俺は抱きかかえるようにして受け止めた。

 ……あっぶねー、もう少しで女の子に怪我させるところだった……!しかも綺麗に(と言っていいのか?)後ろへ倒れていってたし、もし受け止めきれないでいたら、最悪、頭とかぶつけていたかもしれない。


「君、大丈夫?」


 俺は手を引っ張って彼女の体勢を少しずつ戻してあげながら、安否を確認した。完全に地に着く前には止められていたかと思うが、一応念のためだ。あとでなんか言われたりしたら嫌だし──そう思って彼女の顔を覗き込む。しかし、彼女は俺と目が合うと、すぐに俯いて目を逸らしてしまった。

 なんだよ、せっかく助けてあげたのに──そう少し不満にも思ってしまったが、彼女は下を向いたまま、小さく呟いた。


「は、はい……あの、もう大丈夫なので、その……は、離していただけますか……?」

「……」


 そう言われて気が付く。俺が彼女の手を握ったままであること、こけそうになったところを助けたまま腰に手を当てていたこと、ボヤけることなくはっきりと見えるくらいまでお互いの顔が近くにあること──


 そして、彼女の顔が、耳まで真っ赤になっていたこと。


「……」



 ……へぇ。



「ごめん、ずっと握ったままだったね。本当にもう大丈夫?」


 俺はゆっくりと彼女の体を離してあげた。


「は、はい!本当にもう大丈夫なので──いたっ」


 彼女は慌てて俺から距離を取ろうとしたようだったが、しかし再び躓いてしまう。そしてすぐに蹲り、先ほどまで俺が握っていた彼女の白い手を自身の足に伸ばした──どうやら右の足首を捻ってしまったらしく、靴下の上から摩っていた。


「足捻っちゃったの?無理しないで。そうだ、今近くで湿布買ってくるよ」

「い、いえ、そんな!本当に大丈夫なので……!友達とも待ち合わせしてて、もう行かないとですし……」


 俺の提案に首を振る彼女。そうか、友達とも待ち合わせしているのか……いや、逆にそれなら……。


「……それなら、友達のところまで送ってあげるよ」


 俺はそう言い、蹲っている彼女の腕をもう一度掴んだ。


「え、あの……!」

「大丈夫だよ。ほら、もっとこっちにおいで」


 そして立ち上がるように促し、余っている腕を彼女の肩に回して支えてあげる。足首を挫いているならあまり脚に負荷をかけないほうがいいし、これぐらいのことをしても不自然ではないだろう──


「待ち合わせ場所は?」

「……東口の、改札前です……」

「オッケー、じゃあこっちだね」


 そんな会話をしている間も、彼女はやはり俯いたままだった。けれど、確かに彼女は、俺にその身を委ねてくれていた。髪の隙間から覗く耳も、変わらず真っ赤に染まっている。


 ……手応えあり、かな。


「あ、来た!」


 駅の東口改札近くまで行くと、彼女の友達のほうから声をかけてきてくれた。そして彼女の隣に立つ俺を見て、予想通り、まずは少し困惑した表情を見せた。


「あれ、えっと……」

「君がこの子のお友達?さっき俺とぶつかった時に、この子足挫いちゃって。それで送りに来たんです」

「そうだったんですか……!」


 俺の説明に素直に頷くお友達。まあ実際、嘘を吐いているわけじゃないし。そのままの流れで、女の子をお友達に任せる。


「あ、あの!ありがとうございました……!」


 お友達に肩を貸してもらった彼女は、足をかばいながらもご丁寧に頭を下げてお礼を言った。

 手応えはあったけど、さすがに今日はここまでか。


「本当にもう大丈夫なので……」

「そう?それならじゃあ……」


 手応えを感じただけに少し惜しい気もしたが、まあいい……最後に、少しだけ。


 彼女の可愛らしい顔は、お礼を言って頭を下げた時にその長い髪で遮られてしまっていた。それを少しだけ掬い、耳にかけてあげる。そして手を引くついでに彼女の頬を軽く撫でた。



「また、どこかで」



 俺はただそう言い残し、その場を後にした。

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