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04 ディアナは旅の剣士を癒す

 三日目も、ディアナは教会の治療院で癒しの練習をしていた。

 

 夕方になって患者も途切れる。

 

「さあ、今日の診療時間もそろそろ終わりね」

エミリーがそう言って片づけを始めた。


 ちなみにソフィアは、いてもやることが無いので今日は隣の部屋で待ってもらっている。

 エミリーは、ソフィアが静かに後ろに立っているのを見て彼女が侍女だと気付いているかもしれないが、特に何も言わなかった。

 おそらくエミリーは、人が隠していることを根掘り葉掘り聞くような性格ではないのだろう。


「今日もありがとうございました」 

「こちらこそ楽をさせてもらっているから、お礼を言うのは私の方だわ」 

「エミリーさんのおかげで、色々と勉強になっていますから」


 エミリーから患者の容体別に効率的な治し方を教わることができたし、屋敷にいては経験できなかったような様々な病気やケガの手当の方法を学んでいる。


「ねぇ。五日間とは言わずに、ずっと来てくれると嬉しいわ」

「それは……」


 そんな事を話していると、受付の女性が入ってきた。

「すいません。急患なんですが、大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。入れて頂戴」

エミリーが返した。


 すると旅姿の男性の剣士が二人入って来るが、一人の容体が非常に悪そうで、もう一人の肩を借りてやっとの思いで歩いてくる。

 

「お願いします」

と、肩を貸している剣士。 

 

「どうしたの!?」

エミリーが治療室に二人を入れながら、肩を貸している剣士に聞いた。


 患者の剣士は、話す余裕はなさそうだ。

 意識が朦朧もうろうとしているように見える。


「毒を持つ魔物に腕を噛まれたんです」

 

 ディアナが指示をする。

「ここに寝かせてください」

三日目にして、ディアナが治療を仕切らせてもらっていた。


 付添つきそいの剣士が介助をして患者の剣士が診療台に横になると、ディアナは噛まれたところを確認した。

 腕に大きなきばあとがあり、そこを中心にれていて皮膚も変色している。

 

 ――これはひどいわ。

  毒が入ったところから、すでに体の方まで変色し始めている。

  熱もあるし、早く治療をしないと危ないわ。


 ディアナはすぐに彼の傷口の近くに触れて、まずは毒を消す白魔法を使う。

「解毒」


 毒が回っている部分に魔力が行き渡るように、傷口付近から癒しの力を流し込んでいった。


 実は昨日、ディアナは普通の毒蛇に噛まれた人を治していた。

 その時に、なにかに噛まれて毒を受けた場合には、この方法が効果的だとエミリーから教えてもらったのだ。

 

 すると、剣士の腕の腫れが徐々に引き始め、熱も下がって来る。

 毒が抜けたら、さらに毒によって損傷した体の組織も治さなければならない。


「治癒」

ディアナは続けて治癒魔法を使った。

 

 すると傷口も完全にふさがり、炎症による腫れや変色も完全に無くなる。

 患者の呼吸も落ち着き始め、熱も引いたようだ。

 

「間に合ったわね。もう大丈夫よ」

と、ディアナ。


「よかった。ありがとうございます」

付添いの剣士はディアナにお礼を言うと、次にベッドに横になっている剣士の名を呼ぶ。

「エドモンド!」


 すると、エドモンドと呼ばれた彼の目がゆっくりと開かれた。

 ブルーの目が印象的だ。

 

「ここは? 私は助かったのか?」


 今まで意識が朦朧もうろうとしていて、治癒院に連れて来られたのもよく覚えていないのだろう。


「彼女が治療してくれたんだ」


 そう言われてエドモンドはディアナの方を見る。

「なんと、天使がいるではないか。やはり、私は死んだのか」


「何言っているんだ。まだ熱があるのか? たしかに彼女は美しいが、人間だぞ」

「そうなのか。てっきり……ありがとう」


「いえ。助かって良かったです」

そう返したディアナの顔は少し赤いようだ。


 天使と言われたからか、それとも治療中は気にしている暇がなかったが、こうやって落ち着いて見るとエドモンドがイケメンなので、顔が赤いのはそのせいかも知れない。

 

 次にエドモンドは、噛まれた腕などを少し動かして完璧に治っているのを確認しながら、診療ベッドからゆっくりと起き上がった。

 身長が高く体もがっしりしていて、いかにも鍛えていそうだ。

 その彼がディアナの前に片膝をつく。


「私はエドモンドと言い、隣国コンフォーニの出身で旅をしてます。できれば、あなたの名前を教えていただけませんか?」


「ディ……ヴィオラです」

ディアナは少しあがっていて、一瞬本名を言いそうになったが、ここでの偽名を言う。


「ヴィオラ……かわいい名前だ。体の痛みも傷口も完全に治っていて素晴らしい治療でした。ありがとう」


 そこにエミリーが後ろから言ってくる。

「かなり重症だったから、できれば明日もう一回診せに来てね。お昼ごろなんていいかもね」

そう言って、意味ありげに微笑んだ。


「わかりました。ところで、この辺りに宿はありますか?」

付添いの剣士がエミリーに聞いた。


「ここを出て右に歩いていけば、すぐに見つかるわよ」 


 二人はもう一度お礼を言ってから出ていった。

 

 ――あら?

 

 ディアナは、付添いの剣士がエドモンドの少し斜め後ろを行くのを見て、エドモンドは貴族で、付添いの剣士は彼の従者ではないかと思った。

 ディアナは、普段から従者の行動を見慣れている貴族だから気が付いたのだ。

 先ほどの片膝をつく所作だけなら、ちょっと礼儀正しい男性なら庶民でもやる可能性はある。

 

 

 

 翌日。

 昼の休憩が近くなるとエミリーがぶつぶつと。

「おかしいわね。今日は来ないのかしら。脈はありそうだったのに……」


「え? 病人ですか? 脈がありそうって、危篤きとくなんですか?」

ディアナが聞いた。


「いやいや、こっちの話……と思ったら」

エミリーがそう言いながら、意味有りげに部屋の入口の方を見た。

 

 ディアナはエミリーの視線の先を見ると、花束を持ったエドモンドが立っている。

 昨日いたもう一人の剣士は一緒ではない様だ。


「受付の女性から、そろそろお昼の休憩だと伺ったので」

エドモンドが戸口から。


「えぇ、どうぞどうぞ」

エミリーはエドモンドを招き入れながら、エドモンドとディアナから少し離れていく。


「エミリー?」

ディアナはエミリーの気づかいに気が付いていない様だ。


 昨日エミリーが昼頃にもう一度診せに来るように言ったのは、こうなる事を期待しての事だった。

 エドモンドとディアナがお互いに気になっていたようなので、二人をくっつけようとしたわけだ。


 すると、エドモンドがディアナに近づく。

「昨日は命を救っていただきありがとうございます。これを」

そう言って花束を渡した。


「あ、私に? ありがとうございます」

「もしよろしければ、お昼の食事を一緒にいかがですか?」


「え?」


 ディアナはエミリーの方をチラッと見ると、彼女はしきりにうなずいている。

 行ってこい、という意味だろう。


「あ……はい。では、着替えてきますので」

ディアナはエドモンドに返事した。


 ディアナはソフィアが待っている部屋入ると、ソフィアに花束を預ける。

「昨日治療した剣士のかたからこれをプレゼントされて、食事に誘われたの」 


「まぁ! それで、お誘いをお受けしたんですか?」

「ええ。夕食ではないし、問題は無いと思うから」


 許嫁がいる身としては、他の男性と二人での夕食はあまりよろしくないが、昼食であれば世間的にも許される範囲だ。


 ディアナは服を着替え始め、ソフィアはそれを手伝う。


 ディアナは服を着替えながら、話を続ける。

「隠しているみたいだけど、たぶんあの方は隣国の貴族だと思うわ。立ち居振る舞いもそうだし、昨日付添っていた男性は彼とはタメ口で話していたけど、所作しょさからたぶん従者だと思うの」


「私はどうしましょう。後からそっとついて行きましょうか」


 ディアナは貴族であることを隠してここに来ている。

 だから、侍女が一緒には行かない方がいいと思われるのだが、ディアナを一人にするのもまずそうだ。

 それでディアナの意向を聞いたわけだ。


 ――彼とは昨日会ったばかりだし、ソフィアにも一緒に行ってもらおう。

 

「もちろん、ソフィアも一緒に。姉なんだから食事も一緒にね」


 ソフィアはそれを聞いて少し焦っているようだ。

「え? お嬢……わ、私は……」


 ここでは姉ということになっているが、侍女が主人と一緒の席で食事をとることは普通ならあり得ない。

 二人だけの時ならまだしも、第三者がいる席では尚更なおさらだ。

 

 ディアナはソフィアに手伝ってもらって素早く庶民の服に着替えると、エドモンドたちが待っている部屋に出て行こうとする。


 ソフィアは、このままだと相手の男性と主人が食事する一緒のテーブルで食事をすることになりそうだ。

 そこで、ディアナに考え直してもらおうと呼び止める。

「あ、お待ちを……」


「しっ。聞こえるわ。さあ、一緒に来て」


 ディアナはエドモンドの前に出ると、ソフィアを紹介する。

「エドモンド様、姉のソフィアです。姉も一緒で構いませんか?」


「もちろんです。まだ出会ったばかりだ。こちらも昨日のファビオがいますので、それでは四人で」


 ソフィアは、あたふたとしている。

 

「さあ、お姉さま。行きましょ?」

「ど、どうしましょう」 

「いいから、いいから」


 エミリーが三人を笑顔で送り出す。

「ゆっくりでいいわよー。戻るのが遅れてもいいからねー」

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