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32 ディアナは検問で止められる

 明後日の夕方、四人は予定通りにソリアーノの王都へ到着した。

 精霊が忠告した内容からレイナが予想した通り、王都の門では衛兵が中に入る者をチェックしている様だ。

 現在門の前には、冒険者や商人など三十人ほどが列を作って待っている。


「さすがですね」

と、エドモンドがレイナに。 


 この検問がディアナを見つける為かどうかはまだわからないが、もしそうでなかったとしてもディアナは目立つので注意しなければならない。

 一介の衛兵がディアナの顔を知っているとは思えないが、もし金髪で緑の目という特徴がバレれば、アルファーノ家と結びつけて考える可能性が高いはずだ。

 仮にその場でディアナだとバレなくとも、そういう特徴の女性を見たという情報が少しでも伝われば、バルサノ家が確認に動くに違いない。


「精霊が見てきたところによると、魔物が迫っていることが知らされるまでには、もう少し時間が掛かりそうだな」


「どうする?」

ディアナが聞いた。


 魔物が北から迫っていることが伝われば、多くの衛兵がそちらの防衛に駆り出され、南門の検問が甘くなる可能性がある。

 四人はそれで検問が甘くなることを期待しているが、場合によっては甘くならずに、衛兵の数が少なくなることによって待ち時間が余計に掛かってしまうだけの可能性もある。

 もし検問が甘くならないのなら、夕日がディアナの目の色を隠してくれる今のうちに検問を通ってしまったほうが良さそうに思えた。

 

「精霊の導きを信じて、並ぼうじゃないか」


 レイナがそう言って四人は馬から下り、その列の最後に並びに行った。



「みんな、名前は憶えているな?」

レイナが周りに聞こえないように小声で。 


 検問でギルドカードを見せれば、その偽名を呼ばれることがあるかもしれない。

 もしその時に反応できなかったら、怪しまれるのは確実だ。

 さらには自分の名前だけでなく、お互い四人全員の偽名を覚えておいたほうがいい事も確かだろう。

 

 三人が頷いた。

 

 ちなみに、ディアナは前に教会の治療院で使ったヴィオラという偽名でカードを作っている。

 

 エドモンドはレイモンドという偽名だ。

 父親のレオポルドと、霊廟で現れた先祖ライモンドの名前から一字ずつもらったのかも知れない。

 

 エドモンドの場合は、もし隣国の王子だと知れれば扱いは良くなるだろうが、王宮にも報告が行くはずだ。

 四人一緒に王宮へ招待される事にでもなったら、ディアナはよく王宮に出入りしていたので、顔を知っている者は多いからすぐにバレるだろう。

 たとえ王宮へ行くことを免れても、隣国の王子とわかれば警護の騎士を付けてくる可能性が高い。

 警護されると同時に、騎士は四人の行動を監視する役割も担うはずだから、四人は行動を制限されてしまうことになるだろう。


 そしてレイナとファビオは顔も名前も知られていないと思われるが、どこでこの四人の情報が漏れているとも限らないので、やはり偽名は必要だった。

 例えばガポニ村の誰かが、時々村にやってくるレイナが、緑の目をした可愛い女の子を連れていた、なんていう噂話を行商人とする可能性もある。

 

 しかし衛兵も、ギルドカードを作る際に作ろうと思えば偽名で作れることを知っているはずだから、これで安心することは出来ないが、それでも本名を名乗るよりは何倍もマシであることは確かだ。

 さらに、経験豊かな衛兵なら、ギルドカードの名前よりも相手の目の動きや挙動が不審かどうかを見てくるから、まずは平静を装うことが重要になるだろう。 

 

 

 並んでから二十分ほどが経ち、もうすぐ四人の順番がやってくるが、王都内はまだ静かなようだ。

 衛兵たちも、普通に仕事をしている。


「まだ、魔物の襲来は伝わっていない様ですね」

と、エドモンド。


 レイナが頷く。


「混乱に乗じて入るというのは、いい手だと思ったんだけどなぁ」

ファビオがぼそっと。


 時間を調整するために途中で列から外れたらかえって怪しまれるので、このまま行くしか無い。


 

「次」

衛兵に呼ばれて、四人は前に進む。


 ディアナは、買ってきたかつらで金髪を隠すようにしていて、その上から外套がいとうのフードを被っていた。

 そしてなるべく夕日に向かうような位置に立つ。


「冒険者か? ギルドカードを」

衛兵がカードを要求し、四人はあらかじめ用意したコンフォーニ王国支部発行のギルドカードを出す。


 それを衛兵が一人一人カードを確認し、顔も見ていく。

 まずエドモンド、次がファビオ。


 ファビオの次はディアナだ。

 ディアナは直前までフードを被っていたが、カードを渡すと同時にフードを外した。

 

 フードを被ったままだと、絶対に外すように言ってくるはずだ。

 そうなると、かえって注目を浴びてしまう。

 そこで、ギリギリのタイミングでフードを外し、顔を夕日に向けて、目の色が夕日の反射で茶色に見えるようにした。

 

 ところが、ディアナのかつらの端から金色の髪が少し出ているのを隣りにいたファビオが気がついた。

 夕日のおかげであまり目立たないが、念の為ファビオが仕草でディアナにそれを伝えようとする。

 ディアナもその意味がわかったのだが、衛兵が見ている前で直すのはかえって危ない。

 

 そこでファビオがその衛兵の注意を自分に向けるために、とっさに話しかける。

「先日来た時には検問はしてなかったのに、何かあったのかい?」


 ファビオの思惑どおり、衛兵はディアナをあまり見ないうちに視線をファビオに向けた。

 ディアナは衛兵の視線が外れたスキを見て、さりげなくはみ出ている金髪をかつらの中に戻す。

 

「さあな。俺たちは不審者を入れないようにと上から言われているだけだ」


 もしバルサノ家が検問を指示したにしても、末端の衛兵にまでディアナを名指しで捕まえろとは言わないだろう。

 アルファーノ家にそれが伝わったら問題になるに違いないし、バルサノ家としては秘密裏に事を進めたいはずだ。

 そしてディアナが帰って来るとしたら、顔を隠していたり名前を名乗れなかったりと、不審な行動をするに違いないと思ったのだろう。

 それで「不審者を」という風に指示された可能性がある。

 

 衛兵が不審者と認定すれば、その後の判断は上の者が出てきてすることになる。

 だからバルサノ家は、上の者にだけに金を握らせてディアナのことを伝えておけばいいわけだ。


 

 ファビオのとっさの機転は、衛兵の意識をディアナからそらすことに成功した。

 衛兵はそのままディアナをほとんど確認せずギルドカードを返して、次のレイナに向かう。


 そこでレイナも、ファビオの様に自分に衛兵の注目を集めることにしたようだ。

 レイナの番が来たが、レイナはフードを被ったままカードを渡した。

 

「フードをはずせ」

と、衛兵。


 すると、そこにいる衛兵たち全員の注意がレイナに集中する。

 

 レイナは言われてからひと呼吸おいて、フードを後ろに下ろした。


「おや? お前はエルフなのか? 本物は初めて見たぞ」

と、衛兵。


「エルフの中にも、国を出た者が何人かいるのでね」

レイナが応えた。

 

 数人いる衛兵たちは、皆レイナに注目している。

 

 衛兵も、エルフだとわかれば皆に珍しげに見られるのが嫌だからフードを被ったままだったのだろうと、勝手に想像してくれたようだ。


「フードを外したがらなかった理由はわかったが、検問なんだから次回はすぐに外してくれ」

「わかった」


「よし、いいだろう。では通っていい……」

衛兵がそう言って四人を通そうとする。


 ディアナとレイナはフードを再び被り、ディアナに関心が向かないようにする作戦は成功したかのように思えた。


 ところが、衛兵たちの後方から出てきた隊長が四人を止めた。

「まて」


 四人に緊張が走る。

 

「お前のような小娘が冒険者をやっているのか?」

隊長がディアナを指で指した。


 四人はそれを聞いて、内心少しだがホッとした。

 どうやら、ディアナの顔を知っていたわけではない様だし、金色の髪や目の色に気がついたわけでもなさそうだ。

 

 ただ、ディアナにもっと近づいて確認されたらバレてしまうかもしれない。

 

 ――これは、私が冒険者かどうか疑っているのよね?

  そういえば、私はDランクの冒険者になっているのに、ナイフしか持っていないのよね。

  せめて、魔法使いの杖でも買ってくれば良かったかしら。

  

 魔法使いだったら、若くて非力そうな娘が冒険者をやっていてもそれほどおかしくはないだろう。 

 

 しかしレイナは、この後の対応をしくじると疑いをもたれるかもしれないと思った様だ。

 髪や目の色以外にも、例えばディアナの荒れていない綺麗な手を見られたら、剣を握ったことも無いどころか雑用の仕事さえしたことが無いのがすぐにバレるだろう。

 綺麗な手をしている若い女性は、貴族か裕福な家の令嬢ぐらいだ。

 そうなると、そんな令嬢がなぜ冒険者になっているかなどの無用な疑問を抱かせるに違いない。


 そこでレイナが自分のフードを外し、片手でディアナの肩を抱いて作り話しを始めた。

「この子は、私の知り合いの娘を預かっていてるんだが、かわいそうな身の上なんだ。北方の裕福な商人の家だったんだが……」


 レイナが時間稼ぎをするかのように長々と話し始めると、王都の中から兵士が一人走ってやってくる。

 その兵士は、その隊長に耳打ちした。


「なんだって!?」

隊長は驚いた反応をした後、そこにいた部下の衛兵たちに命令する。

「ここには三人だけ残し、あとは北門へ向かうぞ。この門は夜の鐘の合図で閉めて、それ以降は絶対開けるな」


「はっ」


 隊長は手が空いている部下たちを引き連れて北門へ向かった。

 

 ――どうやら、魔物が迫っていることが今伝わったみたいね。

  ギリギリのタイミングだったわ。

  レイナさんは精霊から聞いて、少し引き延ばせば上手くいくと教えてもらったのかもしれないわね。


「お前たちはもう行っていい。次」

先ほどの衛兵が四人を通した。


  

 なんとか無事に王都に入ると、レイナは隠れ家に皆を案内していく。

 その途中にも、時折走って行く兵士たちとすれ違った。

 おそらく兵士たちは魔物への準備をしている様だが、一般市民にはまだ何も伝わっていない様だ。

 市民たちはいつもどおりの生活を続けていた。

 

  

 レイナの隠れ家は、王宮がある丘のすぐ横。商業区の裏通りにある庭付きの一軒家だった。

 商人などの家がある地区なので、近所にも同じぐらいの大きさの家が建っている。

 小さすぎず大きすぎず、拠点として四人で使うにはちょうど良さそうだ。

 

 門は魔道具による鍵がかかっているようで、レイナが手を触れると鍵が自動的に開く。

 隠れ家はレイナが王都にいた時に使っていたものだろうから、少なくとも八十年以上前の物だと思われるが、庭には雑草も生えていないし建物も傷みが無く綺麗なままだった。

 レイナが掛けたという維持の魔法のおかげだろう。

 

「ではみんな、門の解錠の魔道具に皆を登録するから一人ずつここに触れてくれ」


 レイナが言って、レイナが一緒にいなくても皆が一人で出入り出来るように魔道具に登録をしていく。 



 次に家の中に入って見ていくと、一階には大きなリビングやダイニングなどもあり、地下には倉庫のような部屋もある。

 二階にはベッドルームが複数あり、四人がしばらく滞在するのに問題は無さそうだ。

 

 四人は二階の部屋に荷物を置くと、一階のダイニングのテーブルを囲んでこの後の事を話し合う。

 

「しかし、検問を無事に通れたのは、レイナさんとファイビオの機転のおかげだわ」

と、ディアナ。


「俺にかかったら、あんな検問なんでもないさ。これからも俺がうまくやるから、何でも任せてくれ」 


 ファビオの調子の良さに、皆が笑う。

「フッ」「ハハ」「うふふ」

 

「それで、魔物が王都にやって来るのは明日なのよね?」

ディアナがレイナに聞いた。


「おそらく、そうだな」

「今晩、お父様に会いに行こうかしら。明日の戦に備えて今日は早めに家に帰って準備しているはずだわ」

「しかし、門から堂々と入って行ったら、家中が騒ぎになるんじゃないか?」

「そうね……」


 ――おそらく、お父様にはソフィアが私が無事なことを伝えてくれているはず。

  でも、他の使用人たちにまでは伝わっていないと考えた方がいいわよね。

  門から入って行ったら、使用人たちが喜んで騒ぎ出すわね。

  ありがたい事だけど、今は密かに進めたいわ。

  なにかいい方法は……。


 ディアナが名案を思いついた。

「そうだわ。ファビオが一緒に行って、ソフィアを外に呼び出してくれないかしら」


「え、えっ?」

ファビオが動揺した。


「それがいい。ソフィア殿に頼めば、御父上のところまでフードを被ったまま行けるに違いない」

と、エドモンド。


「しかし……」

「何をためらっている? それにさっき自分で、何でも任せてくれと言ったばかりだろ?」


「あっ。いや。そのー、あんな熱烈なラブレターを書いたんだ。恥ずかしくて彼女と目を合わせられないし……」

「いまさらか?」


「きっと、ソフィアもファビオに会えて嬉しいに違いないわよ」

ディアナがファビオに。


「そ、そうかな」


「よし。そうと決まったら、今から皆で行こう」

エドモンドが言った。


「いや、四人はちょっと多い。私とエドモンドは、別にやることがある」

と、レイナ。  


「しかし……」

「ディアナが心配で一緒に行きたいのは分かるが、大丈夫さ」

「精霊がそう言ってますか?」

「ああ。安心していい」

「それなら、わかりました」


 実は、精霊はレイナにそうは言っていないかったのだが、今はエドモンドを納得させるためにそういう事にしたようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無事に帰国出来ましたね。 ここからのラストスパートも楽しみにしております。
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