30 ディアナは二度目の予知夢を見る
「レイナ……レイナ……」
夜中。レイナが寝ていると、呼びかける声がして起こされた。
見ると、枕元にライモンド王の幽霊がいる。
今回はライモンドはワイトではなく幽霊のまま来ているので、城の魔物用の結界は通り抜けることができたのだ。
「ライモンド? 性懲りもなく、また来たの?」
レイナはそう言って、送霊を発動しようとする。
「まて、早まるな。今回は情報を持ってきてやったのだ」
「しょうがないわね。それで情報とは?」
「実は気になって、魔人がどうなったか探してみたんだ……」
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同じころ、ディアナは隣の部屋で夢を見ていた。
夢の舞台はソリアーノ王国の王都の近く。
王都の北門から出てすぐの草原で、たくさんの魔物と兵士たちが戦っていた。
おそらく、魔物の数は一万ほど。
一方、ソリアーノの兵士の数はもう少し少く、数千だ。
魔物は半分近くが弱いゴブリンのようだが、オークや狼系の魔物も多数いるようだった。
しかし、夢を見ているディアナ本人は、これが夢だということにまだ気がついていない。
次にディアナは、いつの間にかその戦場の中に立っている。
すると、右からオークが棍棒を振って襲いかかってきた。
――キャッ。
ディアナは思わず身構えたが、棍棒はディアナの体を素通りして、ディアナの左にいる兵士に当たった。
――え?
これって……もしかして夢なの?
そう思って改めて周りを見回してみる。
するとディアナは、その戦場の中心付近に知っている顔を見つけた。
――あそこにいるのは、お父様とお兄様?
大丈夫かしら。
でも、まって。
お父様は将軍だから、兵士を率いて戦わないといけないのはわかるけど。
なぜここにお兄様がいらっしゃるのかしら。
王族の方は見当たらないのに。
兄は第一騎士団の騎士団長なので、王族警護が役目だ。
もちろん守るべき王族はこの戦場に見当たらないので、こういう時でも王宮を守っているはずなのだ。
――それに、お二人は同時に戦場には出ないようにしていたはず。
だから、お兄様は第一騎士団の仕事に着いたとか聞いたことがあるわ。
アルファーノ家としては戦場に出るのは父か兄のどちらかにしたい。
もし二人が死ぬことにでもなったら、アルファーノ家は潰れてしまう。
だからディアナは、なぜここに兄がいるのだろうと聞きたくなった。
ディアナは父と兄のそばに行って声を掛けてみる。
「お父様。お兄様」
しかし、ディアナが話しかけても気が付かないようだ。
――駄目だわ。
気がついてくれない。
やはり、これは夢なんだわ。
しかし、あまりにもリアルだった。
ディアナはしょうがないので、そのまま戦いの様子を見ることにした。
すると、弱いゴブリンは討たれてどんどん数を減らしているようだ。
オークなどの手強い敵は未だに多くが残っているが、魔物全体の数が減ってきたことによって、兵士たちの顔には希望の色が見え始めている。
ところがそこに、奥から身長が四メートルはありそうな人型の魔物、トロルが数匹やってきた。
そして兵士たちを、手に持っている大きなこん棒で薙ぎ払っていく。
人間側は総崩れになり、見ているとトロルは父や兄の方へ向かっているようだった。
指揮官を狙っているのだろう。
兵士たちは必死に戦うが、トロルには勝てない。
そしてとうとう、父と兄がトロルの棍棒で弾き飛ばされてしまった。
ディアナはそこで目が覚める。
「お父様! お兄様!」
――今のは夢……よね?
まさか、また予知夢?
ということは、今のはこれから起きる事なのよね?
どうしたらいいの?
……明日、レイナさんに相談してみよう。
翌朝。
世話係の女性が起こしに来て、ディアナは彼女に手伝ってもらいながら急いで服を着替えると、レイナのいる隣室へ行く。
「レイナさん、相談したいことが」
「深刻そうな顔をしてどうしたんだい? エドモンドと喧嘩でもしたか?」
「そうじゃなくて! あのね。実は……」
ディアナは、父と兄が魔物と戦って困窮している夢の内容を話した。
「おそらくそれは、予知夢に間違いないだろう」
「予知夢は、現実にならないように回避する努力を始めると外れはじめるのよね?」
「その通りなんだが、実は私の方も昨夜ライモンドが私の前に現れてな」
「また戻ってきたの?」
「うざったいから送霊してしまおうと思ったら、情報を持ってきてくれたんだ。それで、その内容が……」
その日の昼近く。
城の会議室には王様やエドモンド、大臣たち。そしてレイナやディアナが集まっていた。
「……それで、ライモンド王の英霊が現れ、告げたのだね?」
王様がレイナに確認した。
王様のレイナに対する口調は、すっかり親しげだ。
「そう。帝国に現れたはずの魔人が、魔物の大群を率いて北からソリアーノへ向かっていると」
レイナも、王様に対して対等な口調で話している。
この数日間で、そういう口調で話せるぐらい相当親しくなったのかもしれない。
大臣が発言する。
「数百年ぶりに魔人が現れたのですか。これは、由々しき事態ですな」
「魔人については、レイナ殿の父上が警告されていましたね」
と、エドモンド。
「とうとう、動き出したようだね」
レイナが応えた。
次に王様はディアナに確認する。
「そしてディアナ殿は、父のアルファーノ公爵殿や兄殿が魔物と戦って困窮する夢を見たと」
「はい。あれは王都のすぐ近くでした」
「これは、この先に起こる事だと考えていいのだね?」
王様がレイナに確認した。
「まず、間違いないわ。ただし予知夢というのは、回避しようと努力を始めると結果が変わり始めるわ」
「とにかく、ソリアーノが落ちれば次は我が国に来るのは間違いないでしょう。援軍を出すべきでは?」
エドモンドが言った。
地理を考えれば、帝国からソリアーノに来るよりも、ソリアーノから山を一つ超えるだけのコンフォーニへ来る方がずっと容易なのだ。
「レイナはどう思う?」
王様が聞いた。
「魔物や魔人自体は、私とディアナでなんとかできるけど……」
レイナはそう言って、考えを巡らす。
魔人と言えども魔物なので、過去の例から強い聖属性魔法であれば討伐することも可能だ。
「二人でなんとかできるのか? それはそれですごい事だが、何か気になるところがあるのかね?」
「私は、もしかしたら裏にベルクハイム帝国がいるのではないかという気がするのよ」
「ベルクハイム帝国が魔人を操っていると?」
「確証があるわけではないけど、魔人の動きが不自然だわ。近くの帝国の町を襲わず、ソリアーノへまっすぐ向かっているなんて。魔人は人間並みの知能があるから、何か帝国と取引をしたのかもしれない」
「たしかに、帝国ならやりかねませんな」
と、大臣。
「それで、まずは私とディアナでソリアーノに行こうと思う。そして、コンフォーニはベルクハイム帝国の動きに注意をしているべきね。ソリアーノへ援軍を送って手薄になったところを、帝国が攻めてこようと企んでいるかもしれないから」
「なるほど」
「しかし、まさか二人だけで行こうと言うのかね?」
王様が心配そうに聞いた。
レイナが答えるよりも早くエドモンドが口を挟む。
「では、私も二人と一緒に行きたいと思います。父上? まさかこのような状況で、再びダメだとは言いませんよね?」
エドモンドはこういう状況になる前にも、何回かディアナとともにソリアーノへ行く許可を求めていたが、良い返事はもらえていなかった。
もちろんそれは、王様がエドモンドとディアナの両方を心配してのことだ。
「私がダメだと言っても、お前は二人と行くつもりだろ?」
「その通りです」
王様はため息をつく。
「我が国に魔物の侵攻が飛び火するかどうかは、レイナとディアナ殿に掛かっている。非常事態だ。わかった、許可しよう」
「父上。ありがとうございます」
「しかし、くれぐれも注意してな。そして、二人を守ってくれ」
「はい。必ず」
「では私達は、冒険者ということでソリアーノへ入ろうか」
レイナがエドモンドとディアナに。
「そうですね。魔物が襲ってくるなら一般市民は家の中に避難して出てこないでしょうが、冒険者なら外を出歩いていても変には思われないでしょう」
エドモンドが応えた。
冒険者は魔物との戦いに慣れているから、そんなときに家の外にいるのは兵士と冒険者ぐらいだろう。
「私は名前を変えた方がいかしら」
と、ディアナ。
そして外を出歩いていると、兵士が冒険者ギルドのカード、つまり身分証明書を確認してくるぐらいのことはあるかもしれない。
その時にディアナは本名ではまずいだろう。
それを聞いて王様が。
「それなら、ここの冒険者ギルドの支部長宛に推薦状を書くから、四人は冒険者ということで名前を変えて行くとよい。Dランクあたりなら、向こうで兵士にギルドカードを確認されても怪しまれずに済むだろう」
四人というのはもちろん、ファビオを含めてだ。
冒険者はランクで管理されている。
初心者はFランクから始まり、仕事をこなし経験を積み、さらに剣や魔法の腕などを磨いてE、DそしてAへとランクが上がっていく。
その冒険者たちに仕事を斡旋したり、ランクアップを通して冒険者を管理しているのが冒険者ギルドだ。
その冒険者ギルドは、身分証明書にもなるギルドカードを発行してくれる。
元々冒険者になるときには身分証明書の提示などは必要なく偽名で登録も可能なのだが、わざわざ偽名で登録する者はほとんどいない。
一般的に偽名を使いたがるのは犯罪者ぐらいだが、ギルドに登録する際に魔道具で犯罪歴がないかをチェックされるので、そういう者は始めから来ないからだ。
よって、よほどの事が無い限り、冒険者ギルドのカードが偽名かどうかまでを疑われることは無いと言っていいだろう。
そして冒険者ギルドは基本的には国から独立した機関だが、国から魔物の討伐報酬の支払いを受けている関係上、国王からのランクアップの推薦があれば前向きに対処してくれる。
そして今回の場合は、ランクを初心者のFやEランクを飛ばして、いきなりDランクにしてもらうための推薦状だ。
なぜかというと、FやEランクの初心者冒険者が国境を越えて旅をするのは稀だからだ。
だからDランクぐらいでないと、コンフォーニで発行されたギルドカードをソリアーノで見せたときに、かえって怪しまれてしまう。
そして、冒険者ギルドも実績もないのにいきなりCランク以上にしろと言われたら渋るかもしれないが、Dランクなら受け入れてくれるだろう。
「では、すぐに準備します」
エドモンドが応えた。
「それと……」
王様はそう言って、レイナやディアナを見る。
「レイナはワシと。そしてディアナ殿はエドモンドと婚約の儀を済ませてから行ってはどうか」
それを聞くと、レイナは隣の王様とテーブルの上で片手を重ね、エドモンドとディアナは目を見かわしてうなずいた。
「見届け人はどうしますか?」
エドモンドが聞いた。
「それは私が」
そう言ったのは、この国の公爵で筆頭大臣だ。
「では頼む」
と、王様。
午後から四人は、見届け人の公爵や王族など最低限必要な人のみを集めて、急遽王都の教会で婚約の儀を済ませた。
本来なら何週間も前から告知して衣装なども準備して行うものだが、ディアナたちの出発が明日なので、それに間に合わせたのだ。
夕方。
ディアナとアウローラ姫は、バラの花が咲き誇ったバラ園に再び来ていた。
「このバラ園は、とてもすばらしいわ」
と、ディアナ。
「お義姉さま」
「なに?」
もう婚約の儀を済ませているから、アウローラもディアナも身内のように接する。
「このバラ園には言い伝えがあるの」
「どんなの?」
「バラの花が咲くこの場所に入った恋人同士は、必ず結ばれるって」
「まぁ!」
「だから、お兄さまとお義姉さまは結婚できることになったと思うの」
「不思議な力があるのね? 精霊の導きかしら。精霊に感謝しなくちゃ」
「これは、お義姉さまが咲かせたバラよ。つまり、お義姉さまが自分の力で未来を変えたのだと思うの」
「なるほど」
――確かに、このバラを咲かせた直後だったわ。
ワイバーンがやってきて、それを倒すことによって陛下が私とエドモンドを結んでくれた。
「だから、明日ソリアーノに出発すると聞いたけど、同じように未来を変えてね?」
――夢の通りにならないようにってことね?
「わかったわ」
「そして、絶対無事に帰ってきてね。また一緒にバラを見ましょ?」
「約束するわ」




