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03 ディアナは癒し手として経験を積む

 翌日の朝。

 ディアナは庶民の格好をして、ソフィアとともに聖サバティーニ教会の治療院へ馬車で向かっている。

 

 公爵家には何台か馬車があり、その中には使用人たち専用の馬車もある。

 今回はその使用人が使う公爵家の紋章が入っていない馬車で移動していた。

 もちろんソフィアも、今日はメイド服ではなく普段着だ。

 

「でも、よく聖女候補として本山に報告しないでくれることになったわね?」

ディアナがソフィアに聞いた。


 聖女の出現は教会や国が待ち望んでいる。

 さらに、その候補となりえる癒し手も希少な存在だから、黙っていてもらうのは大変なはずなのだ。


「時期が来たら公爵家の方から申請するから、ということで納得してくれました」

「なるほどね」

「あと、お嬢様の正体は司教様しか知りません。ですから、癒し手見習いの『ヴィオラ』という名前でお願いします」

「わかったわ」

 

 

 馬車が教会の近くまでやってくると、二人は少し手前で馬車を降りて、そこからは歩いていく。

 

 教会は四階建てほどの大きさの石造りで、壁や柱にも彫刻が施されている立派で美しい建物だ。

 そして治療院は同じ敷地内の二階建ての別棟の中にあるが、こちらも本殿とデザインが統一されている。


「今日から五日間、ここで修行させていただくヴィオラです」

ディアナは、癒し手の先輩に挨拶した。


「司教様から聞いているわ。私はエミリーよ。よろしくね」


 エミリーは三十歳近く。ちょっと活発な雰囲気の女性だ。

 服は教会らしく肌をなるべく見せないようなデザインだが、黒ではなく白基調で、これは治療院専用の制服だと思われる。

 ケガ人や病人を診るのだから、常に清潔でいなければならない。それで、汚れていればすぐに分かるように白基調なのだろう。


「こちらは、姉のソフィアです。ちょっと心細いので一緒に来てもらいました」

「そうなの? それで、聖女の確認の儀式はまだ受けていないと聞いているけれど、あなたはどの程度癒しの力が使えるのかしら」


 彼女が聞いたのは、本来なら聖女の確認の儀式で白魔法だけの適性なのか、聖属性魔法にも適性があるのかを調べてから白魔法の練習に入るのが普通だからだ。

 つまり、まだ誰からも白魔法の手ほどきを受けていない、ということになる。


「小さなケガなら、何回か治したことがあります」

「何回か治した経験があるなら大丈夫ね。では待合室にいる患者さんに入ってもらうから、早速やってもらおうかしら」

「あ、はい」

「では向こうの部屋でこれに着替えてね」


 エミリーはディアナに予備の服を出して、隣の部屋で着替えさせる。

 その間にエミリーは治療室を出て、受付に患者を入れるように伝えに行った。

 

 ディアナがソフィアに手伝ってもらい着替え終わって戻ってくると、受付の女性に案内されて患者の男性が治療室に入って来る。

 ケガではなく、なにかの病気を患っている様で顔色も少し悪い。

 エミリーは手慣れた感じで、その患者を診療ベッドに寝かせていた。


「始めにどうやったらいいかわかる?」

エミリーがディアナに聞いてきた。


「いえ」

「ケガなら見ればわかるけど、病気の場合は外から見てもどこが悪いかわからないでしょ?」

「そうですね……それなら、患者さんにどこが具合が悪いか聞いてみるとか?」

「具合が悪いところと、実際に患っている場所が違う事はよくあることよ」

「そうなんですね? それなら全身に癒しの力を使うとか?」

「それも可能だけど、あまりお勧めはしないわ。まずはこうやって手をかざして、患っている場所を探すのよ」


 宮廷医師のように、よほど経験を積んだ医者なら診察や問診で病名や患部がわかるかもしれない。

 診察方法などは一般的には確立されていないので、医者を目指す者は、まずはそういう高名な医者に弟子入りして、ノウハウや知識を何年も掛けて学んでいく。

 ところが癒し手は、そういう知識や経験が無くとも魔法の力で患部を探す事が出来る。

 

 ちなみに、癒し手が教会にいるのに医者は何をやっているのかというと、薬草で治る範囲のケガや病気の治療だ。

 さらに、自分で手に負えない場合は、癒し手に治療してもらうまでの応急処置も行う。

 癒し手が圧倒的に少ないために、こういう職業も成り立っているのだ。


「え? それでわかるんですか?」


「見ててね……」

エミリーは患者に手をかざして、その手を頭から足の方へとゆっくり移動していく。

 そして、お腹のあたりで手を止めた。

「……あったわ。ここね」


 ディアナは、その様子を真剣に見て学ぶ。


「では、ヴィオラ。やってみて」

そう言って、エミリーが場所を譲った。


「え?」

「大丈夫。白魔法が使えるならできるはずよ」

「はい」

「患者さんの体に意識を集中して」


 ディアナは、エミリーがやった様に手をかざして、意識を集中してみる。

「……あっ」


「違いがわかった?」

「はい。患部のあたりに来ると、なんか抵抗があるというか」

「そうよそれよ。あなた、優秀ね。一発でわかるなんて」

「ありがとうございます」


「じゃあ、この患っている場所を治してみて」

「はい」


 ディアナは屋敷で練習したように、癒しの力を注いでみる。


 ――この方の病が治り、元気になりますように。


 ディアナの手から光が出て、患者の患部に降り注ぐ。


 さらにディアナは、先ほどの患部を探る方法で、自分なりに病巣がなくなったかを確認した。

「終わったと思います」


「どれどれ?」

エミリーがそう言って、もう一度患者の患部を魔法で探る。

「うん。いいわね。治っているわ」


「やった」

ディアナは小さくガッツポーズをした。


「はい終わり。もう帰って大丈夫よ」


 エミリーが患者に声を掛けて、患者は診療ベッドから起き上がる。

 患者の男性も顔色が良くなったようだ。


「具合がよくなりました。ありがとうございました」


 患者はエミリーとディアナにお礼を言って部屋を出ていった。



 患者が出ていくと、エミリーがディアナにアドヴァイスする。

「魔力が多い人なら始めから患者の全身に癒しの力を使ってもいいけど、ああやって患部だけに癒しの力を使えれば魔力を節約できるのよ」


「なるほど」

「ここみたいに、一日に何人も診るところでは必須の技術なの。あと、あなたは無詠唱でやっていたけど、魔法名『治癒』を詠唱した方がもっと楽だし力も出るわ」

「そうなんですね? 勉強になりました。ありがとうございます」

「いいのよ。あなたは勉強のためにここに来てるんだし、私も優秀な癒し手が増えれば仕事が楽になるわ」

「はい」


「では、次ね」


 するとそこに、受付の人が入って来る。

「すいません。重傷の方がいらしたので、先に診てもらえますか?」


「いいわ。入れて」

と、エミリー。


 すると、担架に乗せられたケガ人が運び込まれる。

 片足の膝から下が切断されているようで、患部の上の部分を紐で縛って、止血だけはされているようだ。


 それを見て、ディアナは口を押えた。

 重傷者を初めて見たのだ。


 後ろからソフィアが近寄り、そっと手を触れてディアナを落ち着かせようとしてくれる。


「ありがとう。大丈夫よ」

ディアナが小声でソフィアに礼を言った。


「いったい、どうしたの!?」

エミリーが患者の付き添いに聞いた。


「馬車にひかれたんです」

「足が完全に切断されてしまったのね?」

「はい」


 人が乗る馬車ぐらいなら骨折ぐらいで済んだのだろうが、おそらく重い荷物を運んでいた荷馬車にひかれたのだろう。


 エミリーはディアナに説明する。

「完全にちぎれていなければ、癒しの力でくっつくこともあるのよ」


「この状態ではダメなんですか?」

「残念だけど」

「そうなんですか」


「聖女の力なら無くした手足も戻せる様なんだけど、今は聖女が不在だからね」

「え? 聖女なら、この大ケガでも完全に治せるんですか?」

「そうらしいわ」


 ――私、自分の都合で聖女になるのを拒んでいるけど、すぐにでも聖女になるべきなのかしら。

  そうしたら、この人だって治してあげることが……。


 ディアナが悩んでいるのを察したのだろう。ソフィアが後ろから耳元に小声で。

「どのみち聖女の魔法を勉強もしていない今は、どうすることもできないですよ」


 聖女の魔法は、聖女と認められてから初めて学び始める。

 それも教会の総本山に出向いて学ぶので、実際に魔法でこういう大ケガを治せるようになるのは、さらに数か月先だろう。

 どうせ今すぐにできないことを悩んでもしょうがない。


「そうね」


「では、治療するわよ。続けてやってみる?」

と、エミリーがディアナに。


「はい」

「人によっては、一回の治療でバテてしまう人もいるけど、あなたはまだ大丈夫そうね」


 魔力量が少ない癒し手は、一回の治療で魔力を使い切ってしまう事もあるのだろう。

 

「治癒」

ディアナは教わった魔法名を詠唱して、癒しの力で切断面を癒し、傷口をふさいだ。


 さらに馬に踏みつけられて出来たのであろう打撲のあとも治しておいた。


 ――何か所も癒したのに、全然疲れないわ。

  詠唱すると魔力の消費が少なくて済むのね?


 治療が終わった患者が運び出されていく。


「あなたの魔力量はわからないけど、まだ出来そう?」

エミリーが聞いた。


「おそらく。体調にほとんど変化がないので」

「よかった。あなたがいるこの五日間は、私も楽が出来そうだわ」



 次に入ってきたのもケガ人だ。

 切り傷だが、先ほどに比べればそれほど大きなケガではない。


 ディアナが早速治療しようとすると、エミリーが呼び止める。

「その前に」


「はい?」

「ここでは別にいらない知識なんだけど、知っておいた方がいいかもしれないわ……」


 癒し手は戦争が起これば戦場に、また大規模な魔物討伐の際にも同行していくことがある。

 ところが、野外でケガ人を治すときに光が出ると、特に夜などは敵に場所が知られて狙われる可能性が出てしまう。

 そこで、先人たちが光を出さないようにして治す方法を考えていたのだ。


 方法は簡単だ。

 患者の体に直接触って魔法を使う事によって、光が漏れないようにするだけの事だ。

 ただ、傷口に直接触るのはよくないので、その周りに手を当てたり、手で光が漏れないように囲って癒しの力を使う。


「なるほど。それでやってみます」

ディアナは教わった通り、患者の傷口を手で囲むようにして癒しの力を注いでみる。

「治癒」


 すると、光が周囲にあまり漏れずに治療することができた。


「いいわね。呑み込みが早いわ」

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