表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/40

28 ディアナたちは大臣に相談する

 二人は王都から五キロメートルほど離れた丘の上までやってきた。

 そこからは王都が一望でき、二人は馬を降りて景色を一緒に眺める。

 

 約十万人が住む広い王都、その隣に広がる田園風景、遠くに見える豊かな森やさらにその奥にある山並みなど結構遠くまでが見渡せていた。

 

「暇ができると、よくここに来るんだ」

と、エドモンド。


「この国が豊かなことがわかるわ」


「向こうに小さく見えるのが、来る時に泊まったモルコーネの宿場町だね」

「転移魔法陣の近くの町ね? ソリアーノはどちらの方向?」

「はるか向こうに見える、あの山の反対側だよ」

「やはり、けっこう遠いわね」


 ――お父様や皆は無事かしら。


「それでディアナ……」

エドモンドは真剣な顔でディアナに向き直る。


「どうしたの?」

「結局、地下霊廟ではライモンド王に言わされた形になったけど、改めて。ディアナ。私と結婚してほしい」


「あ……はい」

ディアナは顔を赤らめながら。


「よかった。ありがとう」

「でもそのためには、一度ソリアーノへ戻らないといけないわ」


 ディアナとエドモンドは結婚するにしても、両方の親の了解を取って、さらに親同士が揃って婚約の儀や婚儀などを行わなければならない。

 王族や貴族の結婚というのはそういうもので、家同士の結びなのだ。

 そして、こういう事は手紙で済ませられるような問題ではない。

 さらにディアナは、先日の父親の暗殺の時ようにもし家族に何かあっても、その時に自分が近くにいれば聖女の力で死の運命をも覆せるのではないかと思っている。

 

 しかし、ディアナがソリアーノの家に帰るのは危険を伴う。

 まず、ディアナは国王の命令で修道院行を命じられている。

 それに従わないで家に帰れば、最悪の場合は牢屋に入れられる可能性もある。

 

 しかしそれは、バルサノがすべて仕組んだことなので、国王の前でバルサノの弾劾ができれば回避できそうだ。

 だが、それをバルサノが黙って見ているはずがない。

 ディアナが国王に会う事を阻止してくるはずで、その前に刺客を送られる可能性もある。 

 

「……そうだね……」

エドモンドは、ディアナがソリアーノへ戻る危険性がわかっているから言葉を濁した。


 さらにエドモンドは、父である国王の意識が戻った今、前のように独断で旅ができるような環境ではなくなってしまった。

 王子は、国王が許さなければ長旅や国外に行くことはできないのだ。

 そしておそらく国王は危険な旅は許してくれないだろうから、ディアナが一旦ソリアーノへ帰ることになっても、いっしょに行けるかどうかも即答できない。

 それをもどかしく感じていた。


「バルサノの断罪は難しそうだから、せめてお父様たちがこちらに来られればいいのだけど」

「おそらく、父上殿が国外に出るにはソリアーノ国王の許可が必要だから、今は難しいと思う」


 ディアナの父アルファーノ公爵は、外交官ではなく軍を束ねる将軍だ。

 だから役職上、簡単には他国へ行くことができない。

 例えば両国が軍事同盟を結べば、その軍事交流という名目なら行けるかもしれないが、それはだいぶ先の話だろう。


 ましてやディアナが隣国の王子と結婚するからという理由では、バルサノから邪魔が入るに決まっている。


「そうよね」


 するとエドモンドは、何かを思いついたようだ。

「そうだ。しきたりに詳しい人に聞いてみよう」


「何を?」

「君がソリアーノに戻ること無く、父上殿がこちらに来ること無く婚儀などができる方法がないかどうか」

「そうね……」


 ――そんな方法があるとは思えないけど、聞くだけ聞いたほうがいいわね。


「彼は大臣なんだが、私の一般教養の教師もしてくれた人で、この国で一番式典や儀礼などに詳しいんだ。さあ、城に戻ろう」

「ええ。行きましょう」



 エドモンドとディアナは城に戻ると、式典・儀礼を担当している大臣の執務室に行く。

 国内の式典や、外国の使節を迎える際の儀礼や接待を担当する大臣だ。

 

「先生」

エドモンドが執務室にいた七十歳ぐらいの老人に声を掛けた。


「これは殿下」

「彼女は知っていますね?」


 ディアナはレイナと一緒に皆の前で紹介されたが、直接話すのは今回が初めてなので改めて挨拶する。 

「改めまして。ディアナ・アルファーノです」


「これはご丁寧に。こちらも改めまして、式典関係の大臣をしておりますジーノ・ファリーニと申します。どうぞお掛けください」


 ソファに座るとエドモンドが切り出す。

「実は先生にご相談があります」


「ふむ。察するに婚姻関係ですかな?」

「そうです。私達は結婚したいと思っていますが、彼女がソリアーノに戻るのは危険が伴うし、彼女の両親がこちらに来るのも難しいでしょう。ですから、そのような状況で正式な婚約や結婚ができる方法は無いでしょうか」

 

「なるほど……。ご存知のように王族や貴族の結婚は家同士の結びです。ですから、それぞれの家長が揃わなくてはなりません」

「だめな事を承知で聞きますが、何か委任状のような物で済ますことは?」

「残念ながら……しかし、一つあるとすれば……」

「それは?」

「アルファーノ公爵家の宗主家にあたるソリアーノ国王の許可とその代理人の出席があれば、アルファーノ公爵が同席されなくてもかまいません」


 ――王様はバルサノ家寄りみたいだだから、おそらく無理よね。

  かえって邪魔をされそうだわ。

  それに王様の代理は普通は王子が務めるから、あのアロルド王子が出てくるとなるとスムーズに事が運ぶとは思えないし。


「それは……難しいかもしれません」

と、ディアナ。


「それ以外の方法は?」

エドモンドが大臣に聞いた。


「残念ながら」


「もし、アルファーノ公爵とソリアーノ国王の代理、どちらの出席も得られずに結婚したらどうなります?」 

「もし正式な手続きをしないで結婚をすれば、お二人がどう思おうとも、ディアナ様は対外的には正妻ではなく内縁の妻という事になってしまいます」


「私は内縁の妻でもいいわ」

と、ディアナがエドモンドに。


「いや、そういうわけには……」


「それならやはり、一度ソリアーノへ戻るしかなさそうね……」

「しかし今は危険だ」

「でも……」


 ――やはり、一旦ソリアーノへ戻ろう。

  今週中ぐらいには出発するようにして……。

 

  レイナさんはどうするつもりかしら。

  たしか向こうを出る時に、なるべく早くソリアーノへ戻ったほうがいいような事を言っていた気がするわ。

  でも、王様と仲良くなって気が変わったかもしれないわね。




 二日後。

 エドモンドとディアナは、外のテラスの長椅子に二人で座って話をしていた。


「陛下のお具合はどう?」

ディアナが聞いた。


「だいぶ元気になったよ」

「それで、やはりレイナさんは?」

「そう。父上に付きっきりで世話をしているんだ」  

「やっぱり、あの二人って……」

「そうみたいだね」


「でも、お后様きさきさまはこの事をどうお思いかしら」

「母はもう七年前に他界しているし、父上は再婚もしていないから」

「そうだったのね? ごめんなさい」

「いや気にしないで。大丈夫だから。それに今は、私には君がいるし」


「まぁ。エドモンド……」

「ディアナ……」

 二人の距離が近くなる。


 そこにアウローラ姫がやってきた。

「お兄様? ディアナ様?」


 ディアナとエドモンドは照れくさそうに、さっと距離をとる。

 

「これはアウローラ様」

ディアナが立ち上がって挨拶した。

 

「アウローラ。どうしたんだい?」

エドモンドが聞いた。


「今日は、私がディアナ様をお借りしてもいいでしょ? お庭をお見せしたいの」


 ディアナはエドモンドと目を見合わせてうなずいた。


「うれしいわ。見せてもらえますか?」

と、ディアナ。


「こっちよ」


 エドモンドも後から付いていく。

  

 

 三人は城の庭の一角にやってきた。

 厳密に言えば三人だけではなく、少し離れたところには侍女たちが数名待機している。

 

 アウローラがディアナを案内して先を歩く。

「ディアナ様、ここはバラ園なの。お花はまだ咲いていないけど、あとひと月もすればバラが咲いて、とても綺麗になるわ」


 二人が仲がいいのを見て、嬉しそうにしているエドモンド。


「ひと月かぁ……」


 ――その頃は、まだソリアーノから戻ってこれそうにないわね。


「ディアナ様と一緒に咲いたバラを見たいわ。だから、ずーっといてね?」


「私もこのまま、ここにいてほしいと思っている。ソリアーノに帰るのは危険だ」

と、エドモンド。

 

 アウローラは、ディアナが危険を承知で一旦国に帰ろうと思っていることを知っているようだ。

 

 ――アウローラ様は、私を引き留めたいと思ってくれているのね?

  ありがたいことだけど、やはり一度帰らないと。

 

 問題はソリアーノへ帰ったら、いつコンフォーニへ戻れるかわからない事だ。

 バルサノとの問題解決に下手をすると何年も掛かってしまうかもしれないし、最悪は向こうで殺される可能性だってある。


「でも、すぐに戻って来ます」

ディアナが二人を安心させるために言った。


「本当?」

アウローラが聞いてきた。


「私もバラが咲くのを一緒に見たいですし……あっ」


 ――そうだ。

  レイナさんが、聖属性魔法は植物の成長を促進すると教えてくれたわね。

  花も通常より長く咲いているはずだわ。

  

「ちょっと見ていてくださいね」

ディアナはそう言うと、バラ園に聖属性魔法の回復の玉を展開する。


 バラ園が光に包まれると、早送りで見るようにバラにつぼみが出来て、さらに花が咲き始めた。

 

「わぁ!」

アウローラが目を輝かせる。


 ――これで、思い残すことは一つ減ったわ。


「すごいわ。私も聖女になりたいわ」

あまりにも奇跡のような出来事だったので、アウローラはそちらに気が向いたようだ。


 ――んー。

  こればっかりは適性があるからなー。

  でも、アウローラ様にも適正があったりして。

  

「私は小さいころ、自分のケガが治ってほしいと思ったら癒しの力に目覚めました。アウローラ様も、もしケガをしたら試してみてください」

「やってみるわ」


「アウローラ様」

ディアナはニコリとほほ笑む。


 すると、アウローラの方からディアナに抱きついてきた。

「必ず戻ってきてね。ディアナ様」


「ええ、戻ってきます。そしてまた一緒にバラを見ましょう」

「約束よ」


「わかった。君が行くなら私も一緒にソリアーノへ行こう」

と、後ろからエドモンドがディアナに。


「え? でも、陛下がお許しになるかしら」


 普通なら王子が危険な旅に出ることを許すはずがない。


「なんとか、説き伏せるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] バルサノ家が滅ぶか落ちぶれるかすれば簡単なんですけどそうもいかないのが現実ですよね。 ここでもディアナのために色々しようとするエドモンドの男らしさが出ましたね。どっかのアホ王子には到底出来な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ