27 ディアナはレイナに王の治療を任せる
ディアナたちは早速城に戻り、まずは服を着替える。
その間に王の寝所には、四人が戻ってきた事を聞いた王族たちや側近、大臣たちが再び集まってきていた。
そしてディアナたちが寝所に入ると、彼らは少し遠巻きにして事の成り行きを見守る。
「では、お願いします」
と、エドモンドがレイナとディアナに。
二人は国王が伏せるベッドに近づいた。
「ディアナ。お前さんがやってみるか?」
レイナが聞いた。
「万が一の事があるといけないので、レイナさんにお任せするわ」
「大丈夫だと思うがな。わかった、ここは私がやろう」
レイナは右手を王に向ける。
「解析……解呪。……よし、問題ないな……回復」
レイナはまず呪いを解呪して、呪いが完全に解かれたのを確認すると、続けて王の頭の病を治した。
すると、王の目がゆっくりと開かれた。
見ていたエドモンドや側近、そして後方で控えていた大臣や王族たちが歓声を上げる。
「父上!」
「陛下!」
「昏睡状態だったので、まだ体が弱っている。しばらくは安静にして、体力が付くものを少しずつ食べてもらうといい」
と、レイナがエドモンドに。
「わかりました」
すると、王が口を開く。
「ワシは……死んだのか?」
すぐにエドモンドがベッドの横に行って片膝をつき、目線合わせる。
「大丈夫です。病気は回復しました」
「ではそこに、女神が見えるのはなぜだ」
そう言った王の目はレイナを見ていた。
ディアナは、エドモンドが毒の治療をしてもらった時も、自分に対して同じようなことを言っていたのを思い出した。
――まぁ。やっぱり親子だわ。
「彼女は大聖女レイナ様です。父上の呪いと病を治してくださったところです。父上は約半年の間昏睡状態でした」
「そういえば、教会で倒れたところまではなんとなく覚えておる。そうか……レイナ様。あなたの様に美しい方に治して頂いて、天にも昇る気分です」
――あら?
王様はレイナさんが好みなのかしら。
王様がベッドから起きようとしたので、レイナが近づいて王様の手を両手で優しく握った。
「治ったばかりですから、まだしばらくは横になっていてくださいな」
――あら?
レイナさん、いつもと違うわね。
王様が好みなのかしら。
これって、まさかの相思相愛?
ディアナはそう思ってチラッとエドモンドの方を見ると、彼もそう思ったのか小さく肩をすくめて見せた。
翌日。
ディアナは暇を持て余していた。
レイナは自ら進んで王様の世話をしているし、エドモンドはソリアーノに行っていた一ヶ月の間に溜まった書類仕事を片付けている。
ファビオはもちろんエドモンドの手伝いだ。
そこでディアナは、彼女に付けられた世話係の女性に案内してもらい、図書室にやってきた。
「こちらが図書室になります」
と、世話係の女性。
「ありがとう。私はしばらくここで本を読んでいますから、戻って頂いて構いませんよ。部屋までの道順はわかりますから、読み終わりましたら自分で戻れます」
「かしこまりました」
ディアナは一人で図書室に入り、入り口から室内をざっと見回す。
図書室は体育館ほどの広さがあり、窓のある面を除いてすべての壁は本で埋め尽くされている。
もちろん部屋の床部分にも本棚が並んでいて、所々に座って読めるようなソファがや机が置いてあった。
ディアナは本棚を端からざっと眺めていく。
――このあたりは歴史書ね。
こっちは小説だわ。
あら? この本は。
ディアナは一冊の本を見つけて手に取った。
それは、昔ディアナが読んだことがある本で、ある国の姫が騎士の男性と駆け落ちする話だ。
――こんな軽い本まであるのね?
すると、後ろから声が掛かった。
「聖女様も、そんな本をお読みになるの?」
そこにいたのは十四歳ぐらいの少女。
昨日紹介された、エドモンドの妹のアウローラ姫だ。
「これは、アウローラ様」
ディアナは膝を曲げて挨拶をした。
対外的には聖女と王女はほぼ対等ではあるが、ディアナはここでは客分なので丁寧な接し方をする。
それにディアナはまだ正式に教会から聖女認定は受けていないので、本人としては身分は隣国の公爵令嬢という気持ちが強い。
そして、ディアナが先程の質問に答える。
「私は、こういう本も好きですよ。それに、聖女と呼ばれるようになったのはつい最近のことで、その前までは家でこういう本もよく読んでいました」
するとアウローラ姫が、ディアナに顔を近づけ小声になる。
「ここだけの話だけど、実は私もこういうのが好きなの。でも、家庭教師の先生に見つかると、まだ早いって怒られちゃうから、ここに来てこっそり読んでいるんのよ」
「うふふ。歴史の本より何倍も面白いですものね?」
「そうなの」
「アウローラ様は、このあたりはもうほとんど読まれましたか?」
「まだ半分も読めていないわ。何かお薦めの本はあるかしら?」
「そうですね……」
ディアナが本棚に以前読んだ他の本を見つける。
父親が倒れる夢を見た時に読んでいた本だ。
――いくらなんでも、これは十四歳には早いわよね?
ディアナはそれを棚に戻そうとする。
「それは?」
「これはちょっと、私でも早いと言われたので、アウローラ様にはどうかと」
「私はもう大人よ」
ーまあ、私も十四歳の頃には似たような本を読んでいたわね。
「結構、どぎつい内容ですよ」
「どんなの?」
「庶民の女性がライバルを毒殺したり、体を使って男性を誘惑したりして成り上がっていくんです。ソリアーノでは貴婦人の間でこの本が密かなブームなんですよ」
「それは面白そうだわ」
「では読んでみます?」
「ええ」
ディアナは自分用に他の本を見つけ、アウローラは今の本を持ってソファで一緒に本を読み始めた。
一時間ほど読んだところで、アウローラが小さく声を上げる。
「まぁ」
「どうされました?」
「ここ」
「ああ、ここですね。ここはちょっと赤面しますよね」
すると、そこへエドモンドがやってきた。
「二人で楽しそうだね」
「あ、お兄さま」
と、アウローラ。
「やあ、アウローラ。なんの本を読んでいるんだい?」
「お兄さまにはヒミツ」
「うーん。そこをなんとか」
「お兄さまには、まだ早いわ」
――ぷっ。
「それは残念だ。では、ちょっとディアナを借りてもいいかい?」
「しょうがないわね。お二人の邪魔をするほど私は悪い女ではないから。では、どうぞ」
ディアナとエドモンドは顔を見合わせて微笑む。
アウローラが背伸びをしているように思えたからだ。
「ではディアナ。ちょっと遠乗りに行かないか?」
遠乗りとは、馬に乗って少し遠くまで行くことで、今風に言えばドライブだ。
「お仕事の方は?」
「残りはファビオに押し付けてきた」
――書類仕事ばかりで、少しストレスが溜まっているのかしら。
「ふふ。では行きましょうか」
「ではお二人とも、いってらっしゃいませ。次回は私も連れて行ってくださいね」
と、アウローラ。
「ああ。それじゃあ行ってくる」
「では、行ってきます」
エドモンドとディアナが返した。
二人は乗馬用の服に着替えて、馬小屋までやってきた。
ここは王や王子が使う馬が置いてあるところのようで、毛並みのいい馬ばかりが十頭ほどいる。
「ディアナは、一人で馬に乗ったことは?」
エドモンドが聞いた。
「小さい頃に少しだけ。でも、久しぶりに自分で乗ってみたいわね」
「そうか……では思い出しながらゆっくり行こうか」
エドモンドは少し残念な顔をする。
もしディアナが一人で馬に乗れなければ、二人乗りで行こうと思っていたに違いない。
しかし、二人乗りは馬にも負担を掛けるので、遠くに行くなら馬のためにも二頭で行く方が良いことは確かだ。
「ええ」
「まず馬だが、もし気に入った馬がいたらどれを選んでもいいよ」
「そうね……あら? あの馬は……?」
一頭だけ座り込んでいる馬がいた。
「ああ、ファルコンか。あいつは足を怪我してしまっているんだ」
「速そうな名前ね?」
「怪我をする前はこの中で一番速かったが、再び走れる日がやってくるかどうか」
「それなら私が治すわ」
「そうだった」
エドモンドは、ディアナが聖女だということを思い出したようだ。
「もしかして、私が聖女だって忘れていたの?」
ディアナはそう言ってからクスリと微笑み、ファルコンのところに行く。
「い、いや。あっ。そいつは少し気が荒いところがあるから気をつけて」
ディアナは脅かさないようにゆっくりとファルコンに近づいて、首のあたりをそっと撫でる。
ファルコンが嫌がらないことを確認すると、怪我している足の方を触った。
ファルコンがピクリとする。
「大丈夫よ。今治してあげるわ」
ディアナがそう声を掛けると、ファルコンはまるで言葉を理解できたかのようにおとなしくなる。
「回復」
ディアナが聖属性魔法で足を治した。
「さあ、もう大丈夫よ」
ディアナはそう言いながら、ファルコンから少し離れる。
すると、ファルコンが勢い良く立ち上がった。
ディアナが再び近づいて撫でようとすると、ファルコンは自分の方からディアナに鼻を擦り寄せてくる。
「うふふ。よかったわ」
と、ディアナ。
エドモンドも近づいてファルコンの鼻を撫でながら。
「よかったなファルコン。それにどうやら、ファルコンは君になついたようだ」
「じゃあ、この子にしようかしら」
エドモンドは馬番を呼んで、ファルコンと自分用の馬に馬具を付けさせた。
「よろしくね。ファルコン」
ディアナは声を掛けてから、エドモンドに手伝ってもらってファルコンに乗る。
それから二人は、最初はゆっくりめに馬を歩かせて城を出ていった。
王都内は人や馬車が行き交っているので交通の流れに合わせてゆっくりと進み、王都を出たところでスピードを徐々に上げていく。
ファルコンがディアナに気を使って走ってくれたからか、ディアナはほとんど初心者であるにもかかわらず、スムーズに乗ることができた。




