26 ディアナはワイトと話す
その後も四人は、騎士の墓地を奥へと進んだ。
ファビオは念のために盾を構えて皆の先頭を歩き、その後ろにレイナ、エドモンド、ディアナと続く。
すると再びトラウグが現れた。
先程から何回かトラウグに遭遇しているが、今回は一度に三体だ。
「面倒だな」
レイナはそう言うとムチを手に取り、聖属性魔法を付与してから振るう。
バシッバシッバシッという音とともに、三体のトラウグが崩れ落ちた。
「さすがですね」
と、ファビオ。
ディアナは今回も後ろで見ていたが、何回か遭遇しているうちに徐々にトラウグに対する恐怖心が薄くなってきたようだ。
まだエドモンドの近くからは離れないが、彼の後ろに隠れたままでいることは無くなってきた。
ところがここで、ディアナの横の方から、もう一体のトラウグが現れる。
「あっ」
ディアナがそれに気づいて小さく声を上げた。
「こっちへ」
エドモンドがかばってくれようとする。
「ありがとう。でも、私もそろそろ手伝わないと」
ディアナは少し腰が引けながらも魔法を使う。
「送霊」
トラウグは肉体に残っていた魂が天に送られ、ただの屍となり崩れ落ちた。
「おみごと」
エドモンドがディアナを褒める。
「なんとかなったわ。それにしても、よく出てくるわね」
「まったくだ」
――教会の人が時々ここに入っているみたいなのに。
その時は襲われないのかしら。
四人はとうとう地下墓地の一番奥。王の霊廟に通じる扉の前に到着した。
「やっと着いたわね」
ディアナは緊張が解けてホッとする。
「おいおい。本番はこれからだ」
と、レイナ。
「そうだったわ。でも、今のトラウグたちは元々騎士なんでしょう? なんで、あんなアンデッドに?」
「それは彼らも人間だったからだ。王のためと思って働いていても、満たされなかった欲望や、この世や肉体への未練がある。だからあの世に行けなかったのだな」
「俺はてっきり、この向こうにいるワイトに操られているのかと思いましたよ」
ファビオが言った。
「その可能性も否定できないがな」
「そうなの? それじゃあ、気を引き締めないとね」
と、ディアナ。
「まあでも、楽しかっただろ?」
「どこが?」
「少なくともこの中の一人は、とても楽しかったようだ」
レイナがそう言ってエドモンドを見る。
エドモンドは、バツが悪そうに横を向いた。
エドモンドはディアナが怖がって自分にピッタリくっついていたのが嬉しかったのだ。
ここに入る前にレイナが一興と言ったのは、どうやらこの事だったらしい。
「さ、さあ。扉を開けて中に入りましょう」
エドモンドが話題を変えたくて皆を急かした。
「よし。じゃあみんな。気を引き締めてな」
レイナがそう言って、他の三人が頷く。
エドモンドは司教から預かった扉の鍵をファビオに渡すと、右手でディアナの肩を抱き、左手に持った盾を自分たちの前に構える。
レイナは自分で魔法の盾を出して、ワイトが急に攻撃してきた時に備えた。
準備が出来ると、ファビオはエドモンドから預かった鍵を持って扉に近づく。
「では開けますよ」
この扉はちゃんと開いた。
上にあった正面の扉が錆びていたのは、扉の付近に水が染み出している場所でもあるのかもしれない。
ファビオが盾を構えて用心しながらまず中に入り、他の三人も慎重に後に続いた。
今の所、ワイトからの攻撃は無いようだ。
ファビオは、壁際に掛けられている燭台を見つけると、近い物から順に火を灯していく。
灯るロウソクの数が増えるにつれ、だんだん霊廟の中が明るくなっていった。
すると、霊廟の中央付近に王の服を着た骸骨がたたずんでいるのがわかった。
ワイトだ。
――あっ。
「ディアナ。あのワイトを結界で包んでくれ」
レイナが言った。
結界は外からの攻撃も通さないが、内側からの攻撃も遮断する。
その性質を利用して檻の様に使おうとしているわけだ。
「すぐにやっつけないの?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。とりあえず攻撃してこれないように閉じ込めてくれればいい」
「わかったわ」
ディアナもアンデッドに少しは慣れてきたようだ。
もうビビってはいない。
「結界」
ディアナが結界を張っても、ワイトは結界をチラッと確認しただけで、騒いだり攻撃しに来る様子もない。
四人はゆっくりとワイトに近づいた。
四人がある程度まで近づくと、ワイトの方から話しかけてくる。
「やっと来たな」
エドモンドはワイトが結界に包まれて攻撃してこれないので、持っていた盾を背中に掛け、今度は剣を抜いてワイトに向けた。
「父上に呪いを掛けたな?」
「エドモンドだな?」
「なぜ私の名前を知っている」
「ワシが、お前の先祖だからだ。攻撃することはないから安心せよ」
「ご先祖様の霊が? しかし攻撃しないというわりには、隣の墓地でトラウグに襲われたが」
「あれはワシのせいではない。生前の自分の欲望のせいで、あの世に行けなかった奴らだよ。大聖女の神気に触れて、救いを求めて近寄って来たんだろう」
「え?」
つまりレイナが来たから、救われたくて近寄ってきたのだ。
エドモンドを始め他の二人もレイナを見る。
――教会の人が時々入っているような感じだったので、こんなに現れるのはおかしいと思ったわ。
レイナが舌を出した。
「まあ、そういう事もあるわな」
レイナはどうやら、トラウグが襲ってきたのは自分のせいだと薄々気がついていた様だ。
みんなの力が抜け、エドモンドとファビオも剣を下ろした。
「まあ、そのおかげであやつらも、やっとあの世に行く事できたのだから、結果的には良かったではないか」
と、ワイト。
「しかし、父上に呪いを掛けたのは?」
エドモンドが聞いた。
「それには訳がある。お前たちをここに呼ぶためだ。特に大聖女レイナをだ。久しぶりだなレイナ」
「もしかして、お前はライモンドか?」
レイナが聞いた。
「わかっておったくせに」
「それは誤解だ。先ほど姿を見て、なんとなくそうではないかと思っただけだ」
皆が知りたそうな顔をしているので、レイナが説明する。
「百年ぐらい前に、一緒に冒険をした仲間だよ」
「えっー!?」
皆が驚いた。
この時点で、ディアナはライモンドの周りに張っていた結界を解除した。
レイナは皆の驚きをよそに、何食わぬ顔で再びライモンドと会話を続ける。
「そういえばお前さんは冒険の旅を終えた後、父親の後を継いでここの国王になれたんだったな」
「その通り。兄は病弱だったので王位を辞退したのでな」
「でも、どうして父に呪いを掛けてまでレイナさんを呼んだのです?」
再びエドモンドが。
「実は、現国王レオポルド二世は、頭に腫瘍ができておる」
「何ですって!?」
「この病気を治せるのは聖女しかいない。そこで、あやつを呪いで昏睡状態にして、聖女を連れてくるまで病気の進行を遅らせていたのだ」
「なんと!」
「もしワシが昏睡状態にしなければ、とっくにあやつは病死していたぞ」
「お前さん。そのためにわざわざあの世から戻ってきたのか?」
レイナが聞いた。
「あの世から見ていたら、どうしても子孫の事が気になってな。しかし、霊のままでは誰も気づいてはくれない。この国にはレイナの様に霊と交流できる者もいないからな。かといって、急に幽霊の姿でレイナに会いに行けば、問答無用で送霊されてしまいそうだしな」
「さすがによくわかってるじゃないか。おそらく、そうしたろう」
「やはりな」
ライモンドは、ため息とともに首を少し振った。
そして、話を続ける。
「それで自分の亡骸に宿り、ワイトになった。しかしここはいつも扉が閉まっているし、出られたとしても城には結界があってワイトでは近づけない。それで、レオポルドが教会にやってきた時に呪いを掛けたのだ。ここから地上までの距離ならぎりぎり術が届くのでな」
「そういう事でしたか。ご先祖様、ありがとうございます」
エドモンドが頭を下げた。
「それなら、陛下の寝所に戻って、呪いを解いたらすぐに聖女の魔法で頭の病気を治せばいいのね?」
ディアナが確認した。
ライモンドが頷く。
「その通りだ。そこのお嬢さんも聖女の様だな」
ディアナはカーテシーで挨拶する。
「自己紹介が遅れました。隣国ソリアーノ王国の公爵家次女。ディアナ・アルファーノと申します」
「良い子だな、エドモンド。地下墓地の様子を見ていたが、お前はこの子と結婚するのだろ?」
ディアナはエドモンドの方をチラッと見る。
「はい。もちろん」
「もし王族や大臣たちに反対する者がいたら、わしが化けて出てやると言っておいてくれ」
ライモンドの顔は骸骨だが、ウインクしたように見えた。
「おそらく大丈夫だと思いますが、ありがとうございます」
「まったくお前さんは、変わらんな」
と、レイナがライモンドに。
「性格は死んでも変わらんさ」
「ふふ……そうだ。お前さん、あの世から色々な物が見えたなら、魔人について何か知らないか?」
「ああ……魔人か。ベルクハイム帝国の方で何か動きがあった気がしたが。まあ、それを見たのはワシがワイトになる前の事だから、今どうなっているかはわからんよ」
ベルクハイム帝国というのは、コンフォーニ王国やソリアーノ王国の北にある大きな国だ。
魔法や魔道具の研究が盛んな事でも知られている。
「そうか。参考になった」
「さて。これで、用は済んだ。レイナよ、昔のよしみであの世に送ってくれんか?」
「ああ、送ってやる。二度と戻って来るなよ」
「それはわからん。ワッハッハ」




