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25 ディアナは地下霊廟へ入る

 翌日。

 ディアナ、エドモンド、レイナ、ファビオの四人は、ワイトを倒しに王都内にある教会へ馬車で向かった。

 

 エドモンドは王子という立場上、王都内であまりみすぼらしい格好はできないので、王子らしい派手な装飾が施された金属製の防具を付けている。

 しかし動きやすいように全身鎧ではなく、胴や肩、腰、籠手、ブーツなどに金属が使われている物だ。

 ファビオも同様の装備だが、もちろん王子のような派手な装飾は無い。

 そして二人とも日ごろ使い慣れている剣を持ち、盾を背中に掛けている。

 

 ディアナとレイナは、昨日買ってきた防具だ。

 それにディアナはナイフを腰に差し、レイナは右の腰にナイフ、左にムチを付けていた。

 

 さらに四人とも、マントを羽織っている。

 マントは見栄えが良いだけではなく、後ろからの攻撃に対しての防御力を上げるし、いざ野営にでもなれば毛布代わりにもなる。

 

 

 教会に到着すると、連絡を受けていた司教と助祭二名が出迎えてくれる。

 

「殿下。大聖女様、聖女様。お待ちしておりました」


 エドモンドが代表で応える。

「手間を掛けます。では、早速ですが地下霊廟へ案内していただきたい」


「はい。こちらへ」


 司教の案内で、礼拝堂の奥にある扉から四人は地下へ降りていく。

 

「しかし、この地下に魔物がいるとは」

司教が階段を降りながら。


「魔物と言ってもワイトです。どこからか悪霊が入り込んで、しかばね憑依ひょういしたのでしょう」


 階段を降りてすぐの地下室に着くと、正面にはさらに扉がある。

 装飾が施されている古くて大きな金属製の扉だ。

 その奥が王の霊廟だろう。

 

 しかし、鍵を開けようとした司教が何やら戸惑っているようだ。 

 

 後ろからエドモンドが声を掛ける。

「どうされた?」 


「いえ。どうにも、鍵が錆びついているようです。回りません」


 前王が葬られてから、二十年近くこの扉は開けられていないのだろう。

 そして昨日、王子たちがここに入ることは連絡があったが、同時に魔物がいる可能性があることも伝えられたので、前もって扉を開けて中を確認するようなことはしなかったのだ。

 

「見せてください」


 エドモンドが代わりに開けようとするが、やはりびくともしない。

 エドモンドとファビオが、二人がかりで扉をたたいたり鍵を再び試しても駄目なようだ。 


「エドモンドとファビオに身体強化を掛けて、この扉を破壊してしまおうか」

と、レイナが後ろから。


 それを聞いた司教が焦って止める。

「それはおやめください。修理には何日もかかります。王家の霊廟内には宝石類の副葬品もありますので、扉が壊れては盗賊に狙われるかもしれません」


「しかしな」


「あちらにも入り口があります。少々遠回りになりますが」

司教が指したところには、少し小さめの扉がある。


「あの扉は?」

エドモンドが聞いた。


「王たちに仕えた騎士たちの墓地になりますが、王家の霊廟につながっています」

「騎士用の墓地からか……」


「はい。最奥に王家の霊廟に通じる扉があります。これがその鍵です」

司教は鍵の束から、一つのカギを外した。


 騎士の墓地の奥と王家の霊廟が扉で繋がっているのは象徴的な意味がある。

 つまり、あの世でも王が呼んだら騎士たちがすぐに駆け付けられるように、という意味で付けられた物だ。

 実際にそこを人が通ることは無いが、通れるようになっている。


「遠回りと言っても、所詮はこの教会の地下だ。大したことはないでしょう」 

と、ファビオ。 

 

「では、そちらから回ろう」 


 エドモンドがそう言って皆を見回し、誰も異議がないのを確認すると司教から鍵を受け取った。

 

「これも一興いっきょうか」

レイナがつぶやく。


 ――なにかしら。


 ディアナは、何が一興なのかわからなかった。

 レイナは、自分の知らないことを知っているので、この先に何か楽しいことでもあるのかもしれない。

 なんとなく、この時はそんな風に思ったのであった。

 

 

 司教が今度は騎士用の墓地の扉の鍵を開けると、こちらは普通に開いた。

 おそらくこちらは、王家の霊廟に比べて頻繁に埋葬が行われているからだろう。


「誰か、案内を付けた方がよろしいですか?」

司教がエドモンドに聞いた。


「それには及びません」

「では、途中の何か所かにランタンが掛けてありますので、それに火を灯しながら進むといいでしょう。消すのはあとでうちの者にやらせますので、そのままで結構です」

「ありがとう」 


 司教は助祭に持ってこさせていたランタンを四人に渡す。

 それを受け取って四人は墓地に入っていった。

 

 

 騎士用の地下墓地は自然の岩をくりぬいたもので、天井の高さと横幅がそれぞれ三メートルほどの通路になっていて、それが奥へと続いている。

 その壁や天井の表面はある程度綺麗に仕上げられ、場所によっては彫刻も施されていた。

 そして両側の壁には人が一人横になれるぐらいの穴が掘ってあり、そこに騎士の遺体がほうむられている。

 一応木の板などでふたはしてあるが、古い物は木が朽ちていて、中の遺骸が見えているものもあった。

 

 ここに埋葬されているのはほとんどが隊長クラス以下の騎士で、本人の遺言により家の墓ではなく、生前仕えた王の近くに葬られたいと願った者たちだ。

 それより上の騎士団長などは貴族出身者が多いので、彼らは大抵の場合は自分の家の墓地に埋葬されている。

 それでも中にはここに埋葬されている貴族出身者もいるようで、その場合は横穴ではなく石棺に収められているようだった。

 

 ディアナはそれらを恐々と見る。

 

「生前王に忠誠を誓い、死んでも王の近くに葬られ、王を守りたいと願った者たちだ」

エドモンドがディアナに説明した。


「ずいぶん多いのね」

「ここに王都が出来てから数百年経つからね」

「ということは、ここは入り組んでいて、結構距離が長いということね?」


 エドモンドはディアナの手を取る。

「そういう事だが、大丈夫だ。何があっても君は私が守るから」

 

「はい」


 レイナとファビオはそれを見て、軽く肩をすくめていた。

 

 

 ファビオが先頭で、四人は奥へと歩いていく。

 騎士の遺体が増えるにつれて穴を掘り進めていったので、昔は王家の霊廟へ通じる扉があったと思われる場所は現在は塞がれていて、騎士の墓地はさらに先へと続いている。

 

 どうやら王家の霊廟をぐるっと囲むように造られている様で、一周すると下りの階段が現れて下の層に降りる構造になっていた。

 それが三層ほどあるようだ。


 ファビオが通路の途中にあるランタンに火を灯す。

 他の三人がそれを待っていると後方で何か音がして、一番後ろにいたディアナが振り向く。

 

 ――今の音はなに?


 すると、暗がりで何かが動いたような気がした。

 ディアナは、まさかと思いながら恐る恐るランタンの光を向けると、そこにはボロボロの服を着たミイラ化した人間のようなものが、よろよろとこちらに歩いてやって来るところだ。


「キャー! ぞ、ゾンビ!?」


 その声に皆が振り返る。


「いや、これはゾンビではなく、トラウグという奴だな」

レイナが淡々と言った。


「レイナさんは、なんでそんなに冷静でいられるの!?」   

「冒険者として世界を回った時に、嫌って程見たからな」

「私、冒険者は無理かも」


 その間にもトラウグは、まるでディアナたちに抱き着きたいかのように手を前に伸ばして、よろよろと近づいてくる。


「エドモンド。ディアナを頼む」


「喜んで」

エドモンドは盾を構え、ディアナをかばうようにして後ろに下がる。


 ディアナはエドモンドの背中に半分隠れるようにしながら、レイナとトラウグの方を覗き見た。


「こいつは聖属性魔法で簡単に退治できる。退治というよりはあの世に送る感じだな。死体にあの世に行けなかった魂が残っているんだ」


 レイナが説明する間にも、トラウグは少しずつ近づいてきた。 


「わ、わかったから。早く……」

と、ディアナ。


 レイナが右手を上げて、手のひらをトラウグに向ける。

「送霊」


 すると、金色の光がトラウグを包み、次の瞬間トラウグは崩れ落ちた。

 死体についていた魂が救われて、残ったのはただの死体になったわけだ。


「あーよかった。でも、送霊でいいのね?」

ディアナが恐る恐るエドモンドの後ろから出てくる。


「トラウグの場合は、他の魔法で肉体を消滅させてやってもいい。そうすれば、もう何もできないからな」

「つまり、悪霊ではないという事?」

「そういう事だ」


 悪霊が取りいたワイトなどの場合と違って、トラウグは現世に未練を持ってあの世に行けなかった者たちだ。

 つまり、他の屍に取り憑いてまで襲ってくるようなことはしない。

 

 そんなトラウグも稀に、墓荒らしなどを排除しようと何度やられても他の遺体に憑依ひょういし直して襲って来る場合もあるが、その時は強制的に送霊すればいい。

 


 △▽△▽△▽△▽△▽△▽



 ディアナたちが向かっている先。

 体育館ほどの広さの王家の霊廟には、いにしえの王や王妃の装飾されたひつぎが並んでいる。

 その中の一つのふたが、誰もいないのに横にずれた。

 

 続いてその棺の中から骸骨化した手が伸ばされて棺の縁に掛かり、中に安置されていた遺骸がゆくっりと体を起こす。

「やっと来たか」

という声とともに。

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