24 ディアナとレイナは王の病の原因を探る
コンフォーニ王国の王城に入ったディアナたちは、エドモンドの案内で王の寝所へと向かっている。
エドモンドの後にレイナ、ディアナ、ファビオと続き、その後ろから先程の大臣たちも付いてきた。
案内されて廊下を進んでいく間、ディアナは初めて訪れた他国の城の様子を視線だけをめぐらせて見ていく。
目だけを動かして見ているのは、頭まで動かして物珍しげに見回すのは淑女のすることではないからだ。
――このお城の内装は落ち着いていて、いい感じだわ。
それに比べて向こうは……。
ディアナが比べているのは、もちろん自国ソリアーノの王宮だ。
ソリアーノはコンフォーニよりも国が小さいにもかかわらず、王宮は必要もないところまで金などをふんだんに使った豪華絢爛な造りだった。
悪く言えば成金趣味で、無理して虚栄を張っているように思える。
もちろん宮殿と城という役割の違いはあるだろうが、ディアナはこちらの城の方が好感が持てると感じたようだ。
――やっぱりソリアーノは、無駄遣いが多いんじゃないかしら。
よくあれで、財政難にならないものだわ。
実は、ディアナが知らないだけで、ソリアーノの台所事情はよくない。
宮殿の豪華さはその一端にすぎず、あらゆるところで無駄遣いをしている。
だから、バルサノ公爵の様に金で地位を得る者が出てくるのだ。
やがて王の寝所に着くと、衛兵が扉を開けてディアナたち四人と、さらに後ろから付いてきた大臣たちを中に入れた。
王の寝所は広く、その中ほどにある天蓋付きの大きなベッドに国王が横になっている。
その周りには医師や側近などが集まっていた。
すでにレイナたちの事は伝わっているので、エドモンドたちが部屋に入ると、医師たちはその場をあっさりと明け渡した。
エドモンドはそのままベッドまで進み、レイナとディアナはその後についてベッドの横にやってきた。
ベッドに意識不明で寝ている国王は四十代ぐらいで、立派な髭を生やしている。
その顔色は病気とは思えないような血色の良さだが、まるで時間が止まっているかのようにピクリとも動かずに横たわっていた。
レイナは国王を見てすぐわかったようだ。
「これはやはり呪いだな」
「そうでしたか。解呪できそうですか?」
エドモンドが聞いた。
「やってみよう」
「お願いします」
レイナはディアナに目で合図すると、二人でまずは国王の呪いの解析を始める。
「解析」「解析」
ディアナにも一緒にやらせるのは、もちろん彼女に経験を積ませるためだ。
「あら? これは……練習の時と違う気が」
と、ディアナ。
「そうだな……」
レイナが応えた。
その直後、ディアナが驚いて後ずさる。
「あっ」
「どうしたのです?」
エドモンドは何があったのかと、ディアナとレイナを交互に見た。
「今、骸骨のようなものが……」
ディアナは、少し怖そうにしている。
「骸骨?」
「呪いを掛けた相手が見えたのだ。そう。おそらくこれはワイトだ」
レイナが答えた。
「ワイトとは、あのアンデッドの魔物ですか!?」
エドモンドが驚いて聞いた。
ワイトというのは魔物に分類はされているが、実際には悪霊が王や高位の聖職者の亡骸に宿ったものだとされている。
王や高位の聖職者は特別な力を持っていた者が多く、悪霊はその元になった人間の亡骸に残る力などを利用して、生きている人間に災いをもたらす。
「厳密には魔物というより悪霊だな。それで、陛下はいつどこでお倒れになった?」
それには側近が答える。
「約半年ほど前、王都内の教会でした」
「もしや、そこに王家の霊廟が?」
「はい。その地下にあります。そして当日は、ご先祖の霊を祭るために教会に赴いておられました」
「どうやらワイトは、その地下霊廟にいるようだな」
王都内の地下に魔物がいるかもしれないのだ。やり取りを後ろで聞いていた大臣や医師たちが、ざわつきだす。
「もしかして、解呪は難しいのですか?」
エドモンドが聞いた。
「どうやら陛下は、そのワイトとつながったままだ。つまり、解呪しても再び呪いが復活してしまう」
「ということは……」
「その地下霊廟に行って、そのワイトを倒さなければ完全に解呪できない」
「ワイトと戦ったことはありませんが、剣で倒すことは?」
「聖剣ならば簡単だが。なに。倒すのは我々の聖属性魔法でなんとかなるので問題は無い」
「そうですか。それならお願いできますか? もちろん私も一緒に行きます」
「まずは教会の霊廟に入って戦う許可と、もう一つはワイトというのは大抵の場合、王の遺体に悪霊がとりついている。つまり、おぬしの先祖の遺体を損壊させることになるかもしれない」
「なるほど。一応他の王族にも了解を取っておいた方がいいという事ですね?」
「そういうことだ」
王族たちも現国王を助けるためだから拒否する者はいないだろうが、ご先祖様の遺体を破壊するかもしれないので、事前に説明はしておくべきだろう。
「わかりました。早急にに許可を取りましょう。では、ワイト討伐は明日ということで」
「うむ」
この後、遅めの昼食会が用意されることになっている。
それまでの間、レイナとディアナは用意された部屋で休憩することにした。
案内された客間で、レイナとディアナは出されたお茶などを飲んでいる。
「明日地下霊廟に入るのにこの格好では戦いづらいから、あとで防具を借りるか」
と、レイナ。
「明日は私はここで待つ、っていうのはダメかなぁ?」
ディアナはできれば行きたくないようだ。声にも覇気がない。
「ワイトが気味悪いか? しかし、慣れればどうってことない。今回は私たちの後ろに隠れていばいいさ。それに聖女になれば、たまにはそういう仕事もあるから、慣れておいた方がいい」
「えー?」
――聖女としてやっていく自信がなくなってきたわ。
「それでも、見た目はゾンビよりずっとマシだよ」
「え? ゾンビってそんなに?」
「あれは、初めて見たら吐いてしまう。腐った死体が動くわけだからな」
「イヤ! 絶対、会いたくないわ!」
「まあ、ソリアーノやコンフォーニの辺りではめったに遭遇しないから大丈夫さ。この大陸のもっと北の方に行けば時々遭遇するが」
――この辺りにいないのなら……。
でも、この辺りにいない魔物の種類までよく知っているわね。
「そういえば、レイナさんは色々なところへ旅をした事があるの?」
「そう。百数十年前に人間の国にやってきて、色々な国を回ったな」
「ここへも?」
「ああ。この国にも来て、友人もいた。そしてここは、エルフの国を除けば世界で一番美しい国かも知れない」
「そうなのね? 私もこの国の景色は気に入ったわ」
ディアナはそう言って窓の外の景色を見る。
ここは三階だ。
城自体が少し高い所に造られているので、町にあるほとんどの建物よりも高い位置にあり、眺望は最高だ。
整った美しい街並みもよく見えるし、その背後にある遠くの美しい山々までが見渡せている。
ディアナは景色を見ていると、ふと気が付いたようだ。
「あら? この城は結界に守られているみたいだけど」
以前ならディアナはすぐに気が付かなかっただろうが、この数日間の聖属性魔法の特訓で慣れていくうちに、結界の存在も分かるようになってきたのだ。
「そう。これは魔物除けの結界だ。ここの結界は私が前に来た時に仕掛けたものだ」
結界が王城だけに掛けられているのは、王都全体を包むと魔力の消費量が十倍以上必要になるためだ。
それでもし魔物が襲撃して来た場合には、まずは王都を囲む城壁で守り、万が一そこが抜けられるようなことになりそうなら、その時は民衆を城内に避難させればいいという考えだ。
「もしかして、ソリアーノの方も?」
「昔はソリアーノの方も王宮に結界があったんだが、いつの間にか壊されたみたいだな」
「そうなの!?」
「二十年ほど前の宮殿の改築の時に壊してしまったのかもしれない。去年だったか、王都の近くまで行ったときに遠目で見て結界が無くなっているのに気がついただけだから、詳しいことはわからないが」
「まあでも、今はお兄様たち騎士団が王都の近くの魔物はちゃんと駆除しているようだから」
「そうだな」
ディアナはもう一度、外の結界に目を向ける。
「あら? でもこの結界、弱くなっているのかしら」
「魔物除けだけの簡単な結界だから、これでも百年ちょっと持ったんだ。転移魔法陣の施設の周りに張ってあったような強力な結界では、十年しか持たなかっただろう。でもまた、結界を維持している魔石に魔力を注がないとな」
「魔石?」
「そう。魔石は魔力を貯めておくことができる石だ。それを魔法陣と組み合わせることによって、百年以上もの間結界を維持できたわけだ」
「ふーん?」
「お前さんがエドモンドと結婚してこの国に住むことになったら、この結界の管理はお前さんに任せるさ」
「え? け、結婚?」
ディアナは赤くなる。
「相思相愛じゃないか。それにこの国が気に入ったのだろ? もちろん、すぐというわけにはいかないだろうが」
「そ、そうね。ソリアーノの事もまだ気になるわ」
「家族のことか」
「バルサノ家がこのままおとなしくしていとは思えないし」
「そうだな。まだ、何か起きるかもしれないな」
昼食後、ディアナとレイナはファビオの案内でお忍びで町に出かけた。
エドモンドは叔父など、他の王族たちへの説明に回っているので今は一緒ではない。
そしてディアナとレイナが、なぜわざわざ町に出かけたかというと、明日地下霊廟に潜ってワイトと戦うのに、城には女性用の軽い防具が無かったからだ。
城には女性の騎士もいるのだが、彼女らは体を鍛えているので金属製の鎧を着ている。
その金属製の鎧なら予備が有ったのだが、普段あまり鍛えていないディアナにはそれは重すぎるのだ。
レイナの方は体力的にはそれを着れないこともなかったのだが、騎士の鎧はデザイン的に好みではなかったようで、町で気に入ったものが見つかれば自分用に買っておくことにしたようだ。
三人は町で冒険者用の防具屋を見つけて、その店に入った。
冒険者というのは、報酬で魔物の討伐をしたり、商人の護衛をしたり、あるいは薬草の採取や雑用なども行う者たちだ。
最近は女性の冒険者も増えているらしく、女性用のデザイン性の高い防具も売られていた。
「これ、かっこいいわ」
と、ディアナ。
「いいんじゃないか」
レイナが応えた。
ディアナが気に入った革の防具のセットは動き易そうで、弓などを扱う女性が好んで着そうだった。
腰当ての部分は革と布の組み合わせだが、長めに出来ていて前が開いたスカートの様にも見える。
そして、他の革鎧が黒だったり革の地の色のままなのに対し、その防具は色が塗ってあっておしゃれなのもディアナが気に入った理由だ。
ディアナは色がエンジに近い茶色の女性用の革鎧を選んだ。
ちなみに、あまり派手すぎる色は魔物の注意をひいてしまうので、エンジに近い茶色は目立たないギリギリの線だろう。
一方レイナは革ではなく、胴や肩、籠手やブーツに金属が入っているもので、それ以外の部分は紺色の厚手の布になっている防具のセットだ。
さらにレイナとディアナは武器屋に寄ってナイフも購入する。
レイナはムチも買っていた。
「ムチ?」
ディアナが驚いて聞いた。
「ムチだと複数の敵を少し離れたところから攻撃できる」
「複数の敵を?」
「ムチに魔力を纏わせれば、自由自在に動かせるんだ」
「なるほどね」
「それに剣と違って、相手に重傷を負わせないでダメージを与える事も出来るからな」
「でも魔物が相手の場合は倒してしまった方がいいんでしょ?」
「相手がいつも魔物とは限らないさ」
「そうか。盗賊を相手にする事だってあるわね」
「今回はそういう事はなさそうだがな。それに相手が邪霊なら、ムチに聖属性魔法を付与して振り回せば、すばやく逃げ回る相手を討伐するのも容易になる」
――あっ、そうだわ。
今度ジェラルドに会ったら、ムチでシバクのもいいかもしれないわね。
「私もムチを買って練習しようかしら」
「慣れるまではちょっと時間がかかるかもな」
――すぐには無理かー。
それに私の場合ムチなんて使ったら、ますます悪役令嬢というか、悪女っぽくなってしまうかしら。
「そうね。今回はこのナイフだけにしておくわ」




